大晦日の夜、もし「〇〇はおるかー!」という大きな声が聞こえてきたら、どうしますか?
鹿児島県の下甑島では、この声の主はトシドンという鬼の顔をした神様なんです。
悪いことをした子供を叱りに来るけれど、最後には「年もち」という特別なお餅をくれる不思議な存在。
この記事では、日本版サンタクロースとも言われる来訪神「トシドン」について詳しくご紹介します。
トシドンってどんな存在なの?

トシドンは、毎年大晦日の夜にやってくる来訪神(年に一度、人間の世界を訪れる神様)です。
普段は天上界から子供たちの行動を見守っていて、年末になると首のない馬に乗って山から降りてきます。そして家々を回り、その年に悪さをした子供を叱り、良いことは褒めてくれるんです。最後に「年もち」という特別なお餅を渡して帰っていきます。
秋田県のナマハゲと似た存在で、鹿児島県薩摩川内市の下甑島に伝わるものが特に有名です。
起源
トシドンの正確な起源は分かっていませんが、江戸時代から続く伝統行事だといわれています。
「年殿」とも書き、もともとは年神様(新年を運んでくる神様)の一種と考えられています。
昔から子供の教育や農耕儀礼として大切にされてきました。
実は南九州には、トシドンのような仮面をかぶった来訪神がたくさんいるんです。
南九州の来訪神たち
- トイノカンサマ(屋久島)
- トシトイドン(種子島)
- メンドン(指宿市)
- 八朔メン(硫黄島)
これらの存在は、ポリネシアの島々の祭礼とも共通点があるといわれ、南方文化の影響を受けている可能性もあります。
姿・見た目
トシドンの姿は、まさに「鬼」そのものです。
子供たちが一目見て恐れるような、迫力満点の外見をしています。
トシドンの恐ろしい外見
- 顔:鬼のような恐ろしい顔(長い鼻が特徴)
- 口:耳元まで裂けている
- 顔色:真っ赤
- 服装:シュロの皮やソテツの葉で作った蓑(みの)
- 全身:黒いマントをまとうこともある
現在の行事では、色を塗った段ボールの面を使い、地元産の植物で飾られた衣装を着ます。この衣装作りは秘密にされていて、写真撮影も禁止。行事が終わると、すべて燃やしてしまうんです。
特徴
トシドンには、他の妖怪や神様にはない特別な特徴があります。
まず最大の特徴は、子供の行いをすべて知っていることです。「いつも天から見ているぞ」と言って、その年の悪いことを具体的に指摘します。実は事前に親が教えているんですけどね。
トシドンの行動パターン
- 戸口を叩いて子供の名前を呼ぶ
- 悪いことを叱る(約15分間)
- 良いことは褒める
- 歌を歌わせたり、片足跳びをさせる
- 年もちを与える
- 来年も良い子でいることを約束させて去る
そして何より重要なのが「年もち」です。これを食べると一つ歳をとることができるという不思議なお餅で、もらわないと年をとれないと信じられています。現在のお年玉の原型ともいわれているんです。
伝承
下甑島では、トシドンは今も生きた伝統として続いています。
現代のトシドン行事
大晦日の夜、地元の青年や年配の人がトシドン役になります。
3~8歳くらいの子供がいる家を訪問し、その子が年内にした悪いことを叱ります。子供は恐怖におののきながら反省し、「もうしません」と約束。でも、トシドンは叱るだけじゃありません。勉強を頑張ったことなど、良いことはちゃんと褒めてくれるんです。
年もちの儀式
最後にトシドンは年もちを渡します。
面白いのは、子供を四つん這いにさせて、その背中にお餅を乗せ、親のところまで運ばせること。これは子供の成長を願う儀式の一部なんです。
昔、米は貴重品で生命の源と考えられていました。だから年もちは、子供の魂を健康に成長させる大切なものとされています。
通過儀礼としての意味
島の子供たちにとって、トシドンは避けて通れない通過儀礼です。
適齢期になると5年間、毎年トシドンがやってきます。幼い子供をしっかりとした少年・少女に成長させたいという、大人たちの願いが込められた行事なんですね。
まとめ
トシドンは、鹿児島県下甑島に伝わる大晦日の来訪神です。
トシドンの重要ポイント
- 大晦日に首なし馬に乗ってやってくる
- 鬼の顔で子供を叱るが、最後は褒める
- 年もちをもらわないと歳をとれない
- お年玉の原型となった伝統
- 子供の成長を願う通過儀礼
西洋のサンタクロースが良い子にプレゼントをくれるのに対し、トシドンは悪い子を叱ってから年もちをくれます。厳しくも優しい、日本らしい神様といえるでしょう。もし下甑島を訪れる機会があれば、この不思議な伝統に触れてみるのも面白いかもしれませんね。
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