お寺で見かける「四天王」や「金剛力士」、七福神の「弁財天」や「毘沙門天」。
これらは実は同じグループに属する神々だと知っていましたか?
仏教には「如来」「菩薩」「明王」「天部」という4つのグループがあります。
天部は、もともとインドの神話に登場する神々が仏教に取り入れられたもの。
仏様を守護する役割を担い、私たち人間に最も身近な存在として信仰されてきました。
「名前は聞いたことあるけど、どんな神様なの?」「種類が多すぎてよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、仏教の天部に属する神々を、役割や由来とともに一覧形式で詳しくご紹介します。
天部とは?──仏教に取り入れられたインドの神々

天部の基本
天部(てんぶ)とは、古代インドのバラモン教やヒンドゥー教の神々が仏教に取り入れられて成立した神様のグループです。
サンスクリット語の「デーヴァ(Deva)」が中国で「天」と訳されました。
この「デーヴァ」という言葉は、ギリシャ神話のゼウスやラテン語のデウス(神)と同じ語源を持っています。
なぜインドの神々が仏教に取り入れられたの?
仏教が広まっていく過程で、インドの人々が古くから信仰していた神々を「仏法を守護する存在」として取り込んでいきました。
これにより、仏教はインドの人々に受け入れられやすくなったのです。
天部の神々は、お釈迦様や仏法を信じる人々を守る「護法善神(ごほうぜんじん)」としての役割を担っています。
仏像の階層における天部の位置づけ
仏像には階層があり、天部は以下のように位置づけられています。
- 如来(にょらい):悟りを開いた最高位の仏(釈迦如来、阿弥陀如来など)
- 菩薩(ぼさつ):悟りを目指して修行中の仏(観音菩薩、地蔵菩薩など)
- 明王(みょうおう):如来の化身で悪を払う(不動明王など)
- 天部(てんぶ):仏教を守護する神々(梵天、帝釈天、四天王など)
天部は仏像の中では最も下位に位置しますが、それは「格が低い」という意味ではありません。
私たち人間に最も近い存在として、現世利益をもたらす福徳の神として広く信仰されてきました。
天部の分類──貴顕天部と武装天部
天部の神々は、大きく2つのグループに分けることができます。
貴顕天部(きけんてんぶ)
貴族のような優美な姿をした天部です。
福徳をもたらす存在として信仰されています。
男神形の代表例
- 梵天
- 帝釈天
女神形の代表例
- 吉祥天
- 弁財天
- 伎芸天
武装天部(ぶそうてんぶ)
甲冑や武器を身につけた武将の姿をしている天部です。
仏教を守護するガードマンのような役割を担っています。
代表例
- 四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)
- 金剛力士(仁王)
- 十二神将
- 韋駄天
また、武装天部の中には特殊な姿をしたものもあります。
- 鳥獣形:鳥や動物の顔を持つ(迦楼羅など)
- 鬼神形:鬼の顔をした姿(風神・雷神など)
最高位の天部──梵天と帝釈天
天部の中で最も位が高いとされるのが、梵天と帝釈天です。
お釈迦様の脇を固める存在として、古くから重要視されてきました。
梵天(ぼんてん)
基本情報
- サンスクリット語名:ブラフマー(Brahmā)
- 役割:宇宙の創造神、仏法守護
- 象徴:四面四臂(4つの顔と4本の腕)
どんな神様?
インド神話における宇宙の創造神ブラフマーが、仏教に取り入れられた存在です。
お釈迦様が悟りを開いた後、その教えを人々に広めることを勧めたのが梵天でした。
これを「梵天勧請(ぼんてんかんじょう)」といいます。
この働きかけがなければ、仏教は広まらなかったかもしれません。
天部の中でも最上位に位置し、上品で穏やかな表情をしています。
帝釈天(たいしゃくてん)
基本情報
- サンスクリット語名:インドラ(Indra)、シャクラ(Śakra)
- 別名:釈提桓因(しゃくだいかんいん)
- 役割:雷神、戦神、仏法守護
- 象徴:金剛杵(こんごうしょ)、象に乗る姿
どんな神様?
インド神話における最強の戦神インドラが仏教に取り入れられた存在です。
雷や雨を司り、金剛杵という武器で悪竜を退治したとされます。
仏教では梵天と並んで、お釈迦様を脇から支える護法神として重要視されています。
須弥山(しゅみせん)の頂上にある宮殿「忉利天(とうりてん)」に住んでいます。
有名な作例
- 東寺講堂の帝釈天像(京都府):国宝、象に乗った姿
四天王──東西南北を守る守護神
四天王は、須弥山の中腹にある「四天王天」に住み、東西南北の四方を守護する天部です。
天部の中でも最も「守り神らしい」存在として親しまれています。
よろいを着て怒った顔をしており、邪鬼という小さな鬼を踏みつけているのが基本の姿。
本尊を祀る祭壇の四隅に立っていることが多いです。
持国天(じこくてん)
基本情報
- 守護する方角:東
- サンスクリット語名:ドゥリタラーシュトラ(Dhṛtarāṣṭra)
- 持物:刀
特徴
「国を持する者」という意味の名前を持ちます。
乾闘婆(けんだつば)と毘舎遮(びしゃしゃ)を配下に従えています。
増長天(ぞうちょうてん)
基本情報
- 守護する方角:南
- サンスクリット語名:ヴィルーダカ(Virūḍhaka)
- 持物:戟(げき)または剣
特徴
「成長を増す者」という意味の名前を持ちます。
鳩槃荼(くばんだ)と餓鬼を配下に従えています。
広目天(こうもくてん)
基本情報
- 守護する方角:西
- サンスクリット語名:ヴィルーパークシャ(Virūpākṣa)
- 持物:筆と巻物(人々の行いを記録)
特徴
「広く見渡す眼を持つ者」という意味の名前を持ちます。
龍と富単那(ふたんな)を配下に従えています。
筆と巻物を持ち、人々の行いを記録するとされます。
多聞天(たもんてん)/毘沙門天(びしゃもんてん)
基本情報
- 守護する方角:北
- サンスクリット語名:ヴァイシュラヴァナ(Vaiśravaṇa)
- 持物:宝塔、三叉戟(さんさげき)
特徴
四天王の中で最も人気があり、単独でも「毘沙門天」として広く信仰されています。
「多くを聞く者」という意味の名前を持ち、インド神話では財宝の神クーベラに由来します。
戦国武将の上杉謙信は、自らを毘沙門天の化身と称したほど。
七福神の一人としても知られています。
有名な作例
- 東寺の兜跋毘沙門天立像(京都府):国宝
- 鞍馬寺の毘沙門天三尊像(京都府)
女神形の天部──福徳をもたらす美しき女神たち

天部には、美しい女神の姿をした尊格も多く存在します。
福徳や芸能の神として、現代でも広く信仰されています。
吉祥天(きちじょうてん)
基本情報
- サンスクリット語名:ラクシュミー(Lakṣmī)
- 別名:功徳天
- 役割:幸福、美、富、繁栄
- 象徴:蓮華、宝珠
どんな女神?
インド神話における美と富の女神ラクシュミーが仏教に取り入れられた存在です。
ヴィシュヌ神の妻とされ、蓮の花に座った美しい女神として描かれます。
奈良時代には弁財天よりも人気があり、七福神に入っていた時期もありました。
毘沙門天の妻、または妹とされることもあります。
有名な作例
- 薬師寺の吉祥天像(奈良県):日本最古の吉祥天像
- 浄瑠璃寺の吉祥天像(京都府)
弁財天(弁才天)(べんざいてん)
基本情報
- サンスクリット語名:サラスヴァティー(Sarasvatī)
- 別名:妙音天、美音天
- 役割:音楽、芸術、学問、財運
- 象徴:琵琶、ヴィーナ(弦楽器)
どんな女神?
インドのサラスヴァティー川を神格化した女神が仏教に取り入れられた存在です。
川の流れる音から、音楽や弁舌(知恵)の神として信仰されました。
日本では「弁才天」と「弁財天」の両方の表記があります。
本来は才能の「才」ですが、財をもたらす福神として「財」の字が使われるようになりました。
七福神の中で唯一の女神として知られています。
水辺に祀られることが多く、江島神社、竹生島、厳島神社などが有名です。
有名な作例
- 江島神社の弁財天像(神奈川県)
- 竹生島の弁財天像(滋賀県)
伎芸天(ぎげいてん)
基本情報
- 役割:技芸、芸能
- 象徴:天女の姿
どんな女神?
技芸の向上にご利益がある天女です。
容姿端麗で、芸能や技術に秀でた女神とされます。
有名な作例
- 秋篠寺の伎芸天像(奈良県):「東洋のミューズ」と呼ばれる美しい立像
訶梨帝母(鬼子母神)(かりていも/きしもじん)
基本情報
- サンスクリット語名:ハーリーティー(Hārītī)
- 役割:安産、子育て
- 象徴:子供を抱く姿、ざくろ
どんな女神?
もとは500人の子を持つ夜叉の母でありながら、他人の子供を食べる鬼女でした。
お釈迦様が彼女の末の子を隠して「子を失う親の悲しみ」を悟らせたことで改心。
以後、子供を守る善神となりました。
安産祈願や子供の守護神として、日蓮宗で特に重視されています。
十二天──方位を守護する神々
十二天は、八方(東西南北と四隅)に天地・日月を加えた十二の方位を守護する天部です。
密教において重要視され、曼荼羅(まんだら)にも描かれています。
| 方位 | 天の名前 | サンスクリット語名 |
|---|---|---|
| 東 | 帝釈天 | インドラ |
| 東南 | 火天 | アグニ |
| 南 | 焔摩天(閻魔天) | ヤマ |
| 西南 | 羅刹天 | ラークシャサ |
| 西 | 水天 | ヴァルナ |
| 西北 | 風天 | ヴァーユ |
| 北 | 毘沙門天 | ヴァイシュラヴァナ |
| 東北 | 伊舎那天 | イシャーナ |
| 天(上) | 梵天 | ブラフマー |
| 地(下) | 地天 | プリティヴィー |
| 日 | 日天 | スーリヤ |
| 月 | 月天 | チャンドラ |
主要な十二天の解説
火天(かてん)
インド神話の火の神アグニが仏教に取り入れられた存在。
四臂の老人の姿で表され、火を司ります。
不動明王の背後にある火炎も「アグニ」と呼ばれます。
焔摩天/閻魔天(えんまてん)
死者の世界である冥界の王。
亡くなった人の生前の行いを裁く裁判官の役割を担っています。
日本では「閻魔大王」として広く知られています。
水天(すいてん)
インド神話の天空と水の神ヴァルナが仏教に取り入れられた存在。
龍族の王とされ、過去・未来を司る神です。
風天(ふうてん)
風を神格化した神で、子孫繁栄・長命のご利益があるとされます。
伊舎那天(いしゃなてん)
ヒンドゥー教のシヴァ神の化身とされる神。
三つ目で忿怒の表情をし、牛に乗った姿で表されます。
地天(ちてん)
大地を神格化した女神。
お釈迦様が悟りを開いたとき、その証人として登場したとされています。
八部衆──釈迦如来を守る8つの眷属
八部衆(はちぶしゅう)は、仏法を守護する8種の異類からなるグループです。
「天龍八部衆」とも呼ばれ、十大弟子とともに釈迦如来の眷属を務めます。
もともとはインド神話に登場する半神半人や異形の存在でしたが、お釈迦様の説法を聞いて帰依し、仏教の守護者となりました。
八部衆の構成
| 名称 | 読み方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 天衆 | てんしゅう | 天界に住む神々の総称 |
| 龍衆 | りゅうしゅう | 蛇を神格化した龍神、雨をもたらす |
| 夜叉衆 | やしゃしゅう | 鬼神、毘沙門天の眷属 |
| 乾闘婆衆 | けんだつばしゅう | 音楽の神、香を食べて生きる |
| 阿修羅衆 | あしゅらしゅう | 戦闘神、帝釈天と戦った |
| 迦楼羅衆 | かるらしゅう | 鳥頭人身、龍を食べる |
| 緊那羅衆 | きんならしゅう | 半人半獣の音楽神、頭に一角を持つ |
| 摩睺羅伽衆 | まごらがしゅう | 蛇を神格化した音楽神 |
阿修羅(あしゅら)
八部衆の中で最も有名な存在です。
起源
もとはゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーに由来するとされ、「アスラ」がアジアの語源になったという説もあります。
インド神話では帝釈天と激しく戦う戦闘神でしたが、お釈迦様の説法を聞いて改心し、仏教の守護者となりました。
特徴
三面六臂(3つの顔と6本の腕)の姿で表されます。
興福寺の阿修羅像は、華奢な少年のような姿と憂いを含んだ表情から「天平の美少年」と称されています。
有名な作例
- 興福寺の阿修羅像(奈良県):国宝、八部衆の中で最も有名
迦楼羅(かるら)
特徴
インド神話の神鳥ガルダが仏教に取り入れられた存在です。
鳥の頭と人間の体を持ち、龍(蛇)を食べるとされます。
日本では「カラス天狗」のような姿の仏像が多いですが、ネパールでは天使のような姿で描かれることもあります。
十二神将──薬師如来を守る12の夜叉大将
十二神将(じゅうにしんしょう)は、薬師如来とその信者を守護する12尊の天部です。
「十二薬叉大将」「十二神王」とも呼ばれます。
もともとは夜叉(鬼神)でしたが、仏の真理に帰依して善神となりました。
薬師如来の「十二の大願」に応じて、それぞれが十二の時刻、十二の月、十二の方角を守護するとされています。
中国や日本では十二支が配当され、頭上に干支の動物を戴く像も多く見られます。
十二神将の一覧
| 名称 | 読み方 | 十二支 | 本地仏 |
|---|---|---|---|
| 宮毘羅大将 | くびらたいしょう | 子(ね) | 弥勒菩薩 |
| 伐折羅大将 | ばさらたいしょう | 丑(うし) | 勢至菩薩 |
| 迷企羅大将 | めきらたいしょう | 寅(とら) | 阿弥陀如来 |
| 安底羅大将 | あんていらたいしょう | 卯(う) | 観音菩薩 |
| 頞儞羅大将 | あにらたいしょう | 辰(たつ) | 如意輪観音 |
| 珊底羅大将 | さんていらたいしょう | 巳(み) | 虚空蔵菩薩 |
| 因達羅大将 | いんだらたいしょう | 午(うま) | 地蔵菩薩 |
| 波夷羅大将 | はいらたいしょう | 未(ひつじ) | 文殊菩薩 |
| 摩虎羅大将 | まこらたいしょう | 申(さる) | 大威徳明王 |
| 真達羅大将 | しんだらたいしょう | 酉(とり) | 普賢菩薩 |
| 招杜羅大将 | しょうとらたいしょう | 戌(いぬ) | 大日如来 |
| 毘羯羅大将 | びからたいしょう | 亥(い) | 釈迦如来 |
有名な作例
- 新薬師寺の十二神将像(奈良県):国宝、奈良時代の最古の作例
- 興福寺東金堂の十二神将像(奈良県):国宝、鎌倉時代
新薬師寺の伐折羅大将像は、500円切手のデザインにもなった有名な像です。
二十八部衆──千手観音を守る28の神々
二十八部衆は、千手観音とその信者を守護する28尊の神々です。
八部衆のメンバーも含まれており、各神がそれぞれの分野で力を発揮するため、全方位の守護が可能な「無敵グループ」とも言えます。
二十八部衆の主な構成
- 梵天
- 帝釈天
- 四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)
- 阿修羅王
- 迦楼羅王
- 難陀龍王
- 大弁功徳天(弁財天)
- 摩醯首羅王(大自在天=シヴァ神)
- 金色孔雀王
- 婆藪仙人
- 金毘羅王
- 五部浄居天
- など
有名な作例
- 三十三間堂の二十八部衆像(京都府):風神・雷神像を加えた30体
- 清水寺の二十八部衆像(京都府)
その他の重要な天部
金剛力士(こんごうりきし)
基本情報
- 別名:仁王(におう)、執金剛神(しゅこんごうしん)
- 役割:寺院の守護、仏敵の撃退
- 象徴:金剛杵、筋骨隆々の姿
どんな神様?
寺院の山門に安置され、仏敵の侵入を防ぐ守護神です。
二体一対で、口を開けた「阿形(あぎょう)」と口を閉じた「吽形(うんぎょう)」があります。
「阿吽の呼吸」という言葉の由来でもあります。
上半身裸で筋骨たくましい力士の姿をしています。
有名な作例
- 東大寺南大門の金剛力士像(奈良県):国宝、運慶・快慶作
韋駄天(いだてん)
基本情報
- サンスクリット語名:スカンダ(Skanda)
- 役割:仏法守護、伽藍守護
- 象徴:甲冑姿、両手を合わせた姿
どんな神様?
ヒンドゥー教のシヴァ神の次男で、不老の生命を持つとされます。
足が非常に速く、お釈迦様の遺骨を持ち去った鬼を追いかけて取り戻したという伝説があります。
「韋駄天走り」という言葉の由来です。
禅宗寺院では厨房の神としても祀られています。
歓喜天(聖天)(かんぎてん/しょうてん)
基本情報
- サンスクリット語名:ガネーシャ(Gaṇeśa)
- 役割:夫婦和合、子宝、商売繁盛
- 象徴:象頭人身
どんな神様?
ヒンドゥー教の象頭の神ガネーシャが仏教に取り入れられた存在です。
あらゆる障害を取り除いてくれる神として信仰されています。
男女の神が抱き合った「双身歓喜天」の姿で表されることもあり、秘仏として一般公開されることは少ないです。
大黒天(だいこくてん)
基本情報
- サンスクリット語名:マハーカーラ(Mahākāla)
- 役割:五穀豊穣、商売繁盛、財運
- 象徴:打ち出の小槌、大きな袋、米俵
どんな神様?
インド神話の破壊神シヴァの別名「マハーカーラ(大いなる暗黒)」が仏教に取り入れられた存在です。
本来は恐ろしい破壊神でしたが、中国を経て日本に伝わる過程で、福々しい姿に変化しました。
日本では「大黒」と「大国」の音が同じことから、出雲大社の大国主命と習合。
七福神の一人として広く親しまれています。
摩利支天(まりしてん)
基本情報
- サンスクリット語名:マーリーチー(Mārīcī)
- 役割:戦勝祈願、護身
- 象徴:三面六臂または八臂、猪に乗る姿
どんな女神?
陽炎を神格化した女神で、太陽神スーリヤと関係があるとされます。
姿を隠して敵を攻撃するとされ、戦国武将から戦勝祈願の神として信仰されました。
荼枳尼天(だきにてん)
基本情報
- 役割:現世利益、稲荷信仰
- 象徴:白狐に乗る天女の姿
どんな女神?
もとは鬼女でしたが、大黒天に調伏されて善神となりました。
日本では稲荷・狐信仰と結びついて広まり、白狐に乗った天女の姿で描かれます。
豊川稲荷の本尊として知られています。
天部の関係性と系譜
天部の神々は、複雑な関係性で結ばれています。
主従関係
- 帝釈天 ← 四天王、乾闘婆、緊那羅が仕える
- 毘沙門天 ← 夜叉が仕える
- 梵天・帝釈天 → 釈迦如来を守護
家族関係
- 毘沙門天の妻または妹:吉祥天
- シヴァ神の息子:韋駄天、歓喜天
- 梵天の妻:弁財天(一説)
仏像における配置
天部の仏像は、本尊との関係によって配置が決まります。
- 釈迦如来の脇 → 梵天・帝釈天
- 薬師如来の周囲 → 十二神将
- 千手観音の周囲 → 二十八部衆
- 本尊を祀る祭壇の四隅 → 四天王
- 寺院の山門 → 金剛力士(仁王)
天部と現代文化
七福神
七福神のうち、以下の3柱が天部に属しています。
- 大黒天:インドのマハーカーラ(シヴァ神)
- 毘沙門天:インドのヴァイシュラヴァナ(四天王の多聞天)
- 弁財天:インドのサラスヴァティー
残りの4柱は以下の通りです。
- 恵比寿:日本の神
- 福禄寿・寿老人:中国の道教
- 布袋:中国の禅僧
ゲーム・アニメ・漫画への影響
天部の神々は、現代のエンターテイメントにも多く登場しています。
- ペルソナシリーズ:帝釈天、阿修羅、大黒天などがペルソナとして登場
- 女神転生シリーズ:多くの天部が仲魔として登場
- 聖闘士星矢:韋駄天、阿修羅などの名前が使用
- ドラゴンボール:阿修羅、閻魔大王などが登場
寺院参拝
天部を祀る有名な寺院は全国に数多くあります。
- 東寺(京都府):立体曼荼羅として天部像が多数安置
- 興福寺(奈良県):阿修羅像、八部衆像
- 新薬師寺(奈良県):十二神将像
- 三十三間堂(京都府):二十八部衆像、風神・雷神像
仏教の天部 完全一覧【50尊以上】
最高位の天部
| 名称 | 読み方 | サンスクリット語名 | 役割・特徴 |
|---|---|---|---|
| 梵天 | ぼんてん | ブラフマー | 宇宙の創造神、仏法守護 |
| 帝釈天 | たいしゃくてん | インドラ | 雷神・戦神、仏法守護 |
四天王
| 名称 | 読み方 | サンスクリット語名 | 守護方角 |
|---|---|---|---|
| 持国天 | じこくてん | ドゥリタラーシュトラ | 東 |
| 増長天 | ぞうちょうてん | ヴィルーダカ | 南 |
| 広目天 | こうもくてん | ヴィルーパークシャ | 西 |
| 多聞天(毘沙門天) | たもんてん | ヴァイシュラヴァナ | 北 |
十二天
| 名称 | 読み方 | サンスクリット語名 | 守護方位 |
|---|---|---|---|
| 帝釈天 | たいしゃくてん | インドラ | 東 |
| 火天 | かてん | アグニ | 東南 |
| 焔摩天(閻魔天) | えんまてん | ヤマ | 南 |
| 羅刹天 | らせつてん | ラークシャサ | 西南 |
| 水天 | すいてん | ヴァルナ | 西 |
| 風天 | ふうてん | ヴァーユ | 西北 |
| 毘沙門天 | びしゃもんてん | ヴァイシュラヴァナ | 北 |
| 伊舎那天 | いしゃなてん | イシャーナ | 東北 |
| 梵天 | ぼんてん | ブラフマー | 天(上) |
| 地天 | ちてん | プリティヴィー | 地(下) |
| 日天 | にってん | スーリヤ | 日 |
| 月天 | がってん | チャンドラ | 月 |
女神形の天部
| 名称 | 読み方 | サンスクリット語名 | 役割・特徴 |
|---|---|---|---|
| 吉祥天 | きちじょうてん | ラクシュミー | 幸福・美・富 |
| 弁財天 | べんざいてん | サラスヴァティー | 音楽・芸術・財運 |
| 伎芸天 | ぎげいてん | ー | 技芸上達 |
| 訶梨帝母 | かりていも | ハーリーティー | 安産・子育て |
| 摩利支天 | まりしてん | マーリーチー | 戦勝・護身 |
| 荼枳尼天 | だきにてん | ダーキニー | 現世利益 |
八部衆
| 名称 | 読み方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 天衆 | てんしゅう | 天界の神々 |
| 龍衆 | りゅうしゅう | 龍神 |
| 夜叉衆 | やしゃしゅう | 鬼神 |
| 乾闘婆衆 | けんだつばしゅう | 音楽神 |
| 阿修羅衆 | あしゅらしゅう | 戦闘神 |
| 迦楼羅衆 | かるらしゅう | 鳥頭人身 |
| 緊那羅衆 | きんならしゅう | 半人半獣の音楽神 |
| 摩睺羅伽衆 | まごらがしゅう | 蛇の音楽神 |
十二神将
| 名称 | 読み方 | 十二支 |
|---|---|---|
| 宮毘羅大将 | くびらたいしょう | 子 |
| 伐折羅大将 | ばさらたいしょう | 丑 |
| 迷企羅大将 | めきらたいしょう | 寅 |
| 安底羅大将 | あんていらたいしょう | 卯 |
| 頞儞羅大将 | あにらたいしょう | 辰 |
| 珊底羅大将 | さんていらたいしょう | 巳 |
| 因達羅大将 | いんだらたいしょう | 午 |
| 波夷羅大将 | はいらたいしょう | 未 |
| 摩虎羅大将 | まこらたいしょう | 申 |
| 真達羅大将 | しんだらたいしょう | 酉 |
| 招杜羅大将 | しょうとらたいしょう | 戌 |
| 毘羯羅大将 | びからたいしょう | 亥 |
その他の重要な天部
| 名称 | 読み方 | サンスクリット語名 | 役割・特徴 |
|---|---|---|---|
| 金剛力士(仁王) | こんごうりきし | ヴァジュラパーニ | 寺院守護 |
| 韋駄天 | いだてん | スカンダ | 仏法守護、俊足 |
| 歓喜天(聖天) | かんぎてん | ガネーシャ | 夫婦和合、除障 |
| 大黒天 | だいこくてん | マハーカーラ | 財福、五穀豊穣 |
| 大自在天 | だいじざいてん | シヴァ | 破壊と再生 |
| 深沙大将 | じんじゃたいしょう | ー | 玄奘三蔵の守護 |
| 風神 | ふうじん | ー | 風を司る |
| 雷神 | らいじん | ー | 雷を司る |
| 八大龍王 | はちだいりゅうおう | ー | 八大龍王の総称 |
まとめ
仏教の天部は、古代インドの神々が仏教に取り入れられて成立した神様のグループです。
天部の特徴
- 如来、菩薩、明王に次ぐ第4の仏像グループ
- もとはインドのバラモン教やヒンドゥー教の神々
- 仏法と仏教徒を守護する「護法善神」
- 人間に最も身近な存在として現世利益をもたらす
主要な天部のまとめ
- 梵天・帝釈天:天部の最高位、お釈迦様を守護
- 四天王:東西南北を守る武装天部
- 十二天:方位を守護する12尊
- 八部衆:釈迦如来の眷属である8種の異類
- 十二神将:薬師如来を守護する12尊
- 二十八部衆:千手観音を守護する28尊
- 女神形の天部:吉祥天、弁財天など福徳の女神
天部の神々は、もともとインドで信仰されていた神々が、仏教の伝播とともに中国、日本へと伝わり、それぞれの土地で独自の発展を遂げてきました。
興味を持った天部がいたら、ぜひその仏像を祀るお寺を訪れてみてください。
神話の世界に思いを馳せながら参拝すると、また違った発見があるかもしれません。

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