仏教に登場する夜叉の中でも、特に重要な存在が「衆徳夜叉(しゅうとくやしゃ)」です。
毘沙門天の配下として仏法を守る八大夜叉大将の一人なんですね。
もともとは恐ろしい鬼神だった夜叉たちが、どうして仏教の守護神になったのか?
そして衆徳夜叉にはどんな特徴があるのか?
この記事では、衆徳夜叉の名前の意味から、八大夜叉大将全体の話まで、わかりやすく解説していきます。
衆徳夜叉とは
衆徳夜叉は、仏教において毘沙門天の眷属(けんぞく)とされる夜叉鬼神です。
八大夜叉大将と呼ばれる8人のリーダー格の夜叉の一人なんですね。
サンスクリット語では「シャタギリ(Śatagiri)」といい、これを意味訳したのが「衆徳夜叉」という名前です。
「衆徳」という名前からも、多くの徳を持つ存在として尊ばれていたことがわかります。
毘沙門天は財宝の神として知られていますが、もともとはヒンドゥー教のクベーラという神様でした。
衆徳夜叉は、このクベーラに仕える夜叉として古くから知られていたんです。
名前の由来と別名
「シャタギリ(Śatagiri)」という名前を、仏教では様々な形で表現しています。
意味訳
意味を重視して訳したのが「衆徳夜叉」です。
「威神大将(いしんたいしょう)」という別名もあり、威厳ある神としての性格を表しています。
音写
サンスクリット語の音をそのまま漢字に当てはめたのが「娑多吉哩(しゃたきり)」や「娑多祁哩(しゃたきり)」です。
また、単に「衆徳(しゅうとく)」と呼ばれることもあります。
このように複数の呼び方があるのは、古い時代にインドから中国、そして日本へと仏教が伝わる過程で、それぞれの地域で異なる訳し方をしたためなんですね。
八大夜叉大将とは
衆徳夜叉が属する「八大夜叉大将(はちだいやしゃたいしょう)」について見ていきましょう。
八大夜叉大将は、毘沙門天の配下にいる約5000の夜叉の頂点に立つ8人のリーダーです。
常に毘沙門天の指示に従い、祈願する人々を守護するとされています。
そのため「守護八大夜叉神」とも呼ばれているんですね。
八大夜叉大将の役割
仏法を守護し、邪悪なものから信仰者を守ることが主な役割です。
毘沙門天とともに北方を守護するとされ、財宝や富をもたらす力も持つとされています。
経典によって名前や順番に若干の違いがありますが、基本的には8人で構成されています。
夜叉とは何か
そもそも「夜叉(やしゃ)」とは何なのでしょうか?
夜叉は古代インド神話に登場する鬼神のことです。
サンスクリット語では「yakṣa(ヤクシャ)」といい、「薬叉(やくしゃ)」とも表記されます。
もともとの性格
古代インドでは、夜叉は人を食らう恐ろしい悪鬼とされていました。
容貌が醜く、性質が荒々しい存在として恐れられていたんです。
仏教における変化
ところが、仏教に取り入れられてからは大きく性格が変わりました。
釈迦の教えを聞いて改心し、仏法を守る護法善神へと生まれ変わったとされています。
仏教では「八部衆」という8種類の守護神の一つに数えられるようになったんですね。
夜叉の種類
仏教では、夜叉を3つに分類しています。
天夜叉
空を飛ぶことができる夜叉です。
地夜叉
地上に住む夜叉で、飛行能力は持ちません。
虚空夜叉
空中を自由に飛び回る夜叉です。
このように、地夜叉以外は飛行能力を持つとされているんですね。
毘沙門天と夜叉の関係
衆徳夜叉を理解する上で、毘沙門天との関係は欠かせません。
毘沙門天は、もともとヒンドゥー教の「クベーラ(Kubera)」という財宝の神でした。
クベーラは暗黒界に住む夜叉鬼神の王とされていたんです。
仏教への帰依
クベーラが仏教に帰依して毘沙門天となったとき、その配下にいた夜叉たちも一緒に仏教に帰依しました。
それまで悪鬼だった夜叉たちは、善神として毘沙門天とともに祀られるようになったんですね。
5000の眷属
毘沙門天の配下には、約5000もの夜叉がいるとされています。
その頂点に立つのが八大夜叉大将というわけです。
北方の守護
毘沙門天は四天王の一人として北方を守護する役割を持っています。
夜叉たちも毘沙門天とともに、羅刹(らせつ)という別の鬼神と協力して北方を守っているとされています。
夜叉が活躍する仏教の世界
夜叉は八大夜叉大将だけでなく、仏教の様々な場面で重要な役割を果たしています。
十二神将
薬師如来の眷属として知られる十二神将も、実は夜叉なんです。
12体の夜叉が薬師如来を守護し、人々を苦悩から救うとされています。
日本各地のお寺で、国宝や重要文化財として十二神将像が保存されています。
十六善神
般若経を守護する十六善神も夜叉の仲間です。
般若十六善神とも呼ばれ、経典の教えを守る重要な役割を担っています。
各地での信仰
タイでは「ヤック(ยักษ์)」と呼ばれ、緑色と赤色の巨大な像が寺院の門に置かれています。
バンコクの王宮内の寺院や、タイ国際空港でも見ることができるんですね。
スリランカでは「ヤカ(Yaka)」として知られ、病魔として恐れられる一方で信仰の対象にもなっています。
八大夜叉大将一覧
衆徳夜叉を含む八大夜叉大将のメンバーを一覧でご紹介します。
※経典によって名称や順番に若干の違いがあります。
| 日本語名 | 読み方 | サンスクリット名 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 宝賢夜叉 | ほうけんやしゃ | マニバドラ(Maṇibhadra) | 夜叉王クベーラに次ぐ地位を持つ |
| 満賢夜叉 | まんけんやしゃ | プールナバドラ(Pūrṇabhadra) | ヒンドゥー教でクベーラに仕える |
| 散支夜叉 | さんしやしゃ | パーンチカ(Pāñcika) | 鬼子母神(ハーリーティー)の夫 |
| 衆徳夜叉 | しゅうとくやしゃ | シャタギリ(Śatagiri) | クベーラに仕える、威神大将とも呼ばれる |
| 応念夜叉 | おうねんやしゃ | ヘーマヴァタ(Haimavata) | クベーラに仕える |
| 大満夜叉 | だいまんやしゃ | ヴィシャーカー(Viśākhā) | クベーラに仕える |
| 無比力夜叉 | むひりきやしゃ | アータヴァカ(Āṭavaka) | 大元帥明王と同体とされる |
| 密厳夜叉 | みつごんやしゃ | パンチャラ(Pañcala) | クベーラに仕える |
散支夜叉の特徴
散支夜叉は鬼子母神の夫として特に有名です。
鬼子母神は、もともと子供をさらって食べる恐ろしい鬼女でしたが、釈迦の教えによって改心し、子供を守る神となりました。
夫である散支夜叉も、鬼子母神とともに数百人(一説では500人)の子供を持つとされています。
無比力夜叉の特徴
無比力夜叉は「大元帥明王」と同体とされる特別な存在です。
大元帥明王は明王の中でも最高位の存在で、国家を守護する強大な力を持つとされています。
もともとは「荒野鬼神大将」と呼ばれる恐ろしい鬼神でしたが、仏教に帰依して善神へと変じました。
参考情報
この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました:
- Wikipedia「八大夜叉大将」
- Wikipedia「夜叉」
- 神魔精妖名辞典「衆徳夜叉」
- やすらか庵「八大夜叉大将とは」
- 大谷大学「生活の中の仏教用語 夜叉」
- Wikipedia “Yaksha”(英語版)
- Wisdom Library “Satagiri”
さらに詳しく知りたい方へ:
- 仏教寺院での毘沙門天像や夜叉像の拝観
- 信貴山朝護孫子寺の毘沙門天二十八使者像(有名)
- 興福寺国宝館の八部衆像(国宝)
まとめ
衆徳夜叉について、重要なポイントをまとめます。
- 衆徳夜叉は八大夜叉大将の一人で、毘沙門天の眷属
- サンスクリット名は「シャタギリ」、威神大将とも呼ばれる
- 夜叉はもともと人を食う悪鬼だったが、仏教に帰依して善神となった
- 毘沙門天の配下には約5000の夜叉がおり、八大夜叉大将はその頂点
- 夜叉は十二神将や十六善神としても仏教で重要な役割を果たす
恐ろしい鬼神から守護神へと生まれ変わった夜叉の物語は、仏教の慈悲深さを象徴しているともいえますね。
衆徳夜叉は、その中でもリーダー格として今も仏法を守り続けているのです。


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