猩猩とは?酒好きな赤い妖怪の伝説と正体をわかりやすく解説

神話・歴史・文化

お酒が大好きで、真っ赤な顔をした不思議な生き物——「猩猩(しょうじょう)」という名前を聞いたことはありますか?

実はこの猩猩、中国の古い書物から日本の能楽、さらには映画『もののけ姫』まで、さまざまな場所に登場する存在なんです。
しかも「オランウータン」の和名でもあるという、ちょっと不思議な二面性を持っています。

この記事では、猩猩の正体や伝説、そして日本文化にどのような影響を与えてきたのかをわかりやすく解説します。


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猩猩の基本情報

猩猩は、中国で生まれた想像上の動物です。
人間の言葉を理解し、お酒をこよなく愛するという、なんとも人間臭いキャラクターとして知られています。

日本に伝わってからは、能楽の演目として大人気になり、「全身真っ赤」というイメージが定着しました。
現在では福の神のような存在として祭りに登場したり、「猩猩緋」という伝統色の名前にもなっています。


名前の意味と由来

「猩猩」という字は、中国語では「xīng xīng(シンシン)」と発音します。
もともとは「狌狌(せいせい)」と書き、「生き生きとした」という意味を持つ字だったようです。

なぜこんな名前がついたのかというと、人のように歩いたり、言葉を理解したりと、まるで「生きている人間のような」不思議な存在だったから。
実際、古代中国の文献『礼記(らいき)』には「猩々は能く言して禽獣を離れず」という記述があります。
つまり「しゃべることはできるけど、結局は動物だよね」という、なかなか辛辣な評価です。

ちなみに現代では「猩猩」はオランウータンを指す言葉としても使われています。
赤みがかった毛並みと人間に似た仕草が、伝説の猩猩を思わせたのでしょう。


猩猩の姿と特徴

中国での描写

中国の古典では、猩猩の姿はあまり一定していません。
古代の地理書『山海経(せんがいきょう)』では「猿のような姿で白い耳を持ち、四つん這いで歩くが走るときは人のように立つ」とされています。

一方、別の文献では「豚に似ていて人の顔をしている」「体毛は黄色」など、バラバラな記述が見られます。
正直なところ、古代中国の人々も「なんだかよくわからない、とにかく不思議な生き物」として捉えていたようですね。

日本での描写

日本に伝わってからは、猩猩のイメージは大きく変わりました。

能楽の演目『猩猩』の影響で、全身が真っ赤な人型の生き物として定着したんです。
赤い顔、赤い髪、赤い装束——まさに「赤」のイメージが強烈です。

さらに日本独自の設定として「海の中に住んでいる」という特徴が加わりました。
中国では山に住む獣だったはずなのに、なぜ海に住むことになったのかは謎のままです。


猩猩の主な特徴

猩猩には、いくつかの際立った特徴があります。

酒好き
猩猩といえば、とにかくお酒が大好き。
いくら飲んでも顔色が変わらないという酒豪っぷりで、現代でも「大酒飲み」を「猩猩」と呼ぶことがあります。

人語を理解する
古代中国の文献から一貫して、猩猩は人間の言葉を理解するとされています。
ただし、知恵があるかというと微妙で「しゃべれてもオウムみたいなもの」という冷めた見方もありました。

人の名前を知る
不思議なことに、猩猩は人間の名前がわかるのだとか。
この能力が災いして、罠にかけられてしまうという伝承もあります。


中国に伝わる猩猩の伝承

山海経の記述

中国最古の地理書のひとつ『山海経』の「南山経」には、招揺山(しょうようざん)という山に住む「狌狌(せいせい)」という獣が登場します。

この獣を食べると足が速くなるとされていました。
また「海内経」では「青い獣で人の顔をしている」とも記されています。

面白いことに、同じ書物の中でも記述がバラバラなんですね。
古代中国の広大な地域で、それぞれ別々のイメージが語り継がれていたのかもしれません。

猩猩を捕まえる方法

古代中国には、猩猩を捕まえるための奇妙な方法が伝わっています。

まず、お酒と草履(わらじ)を山に置いておきます。
猩猩はそれを見つけると「これは罠だ!」と見抜きます。
さらに罠を仕掛けた人の先祖の名前を呼んで悪口を言い始めるのだとか。

ところが、お酒の誘惑には勝てません。
結局飲んでしまい、酔っ払ったところを捕まえられてしまう——という、なんとも人間味あふれるエピソードです。


日本に伝わる猩猩の伝承

能楽『猩猩』のあらすじ

室町時代以降、猩猩は能楽の演目として大人気になりました。

物語の舞台は中国。
高風(こうふう)という親孝行な男が、夢のお告げに従って酒屋を始めます。
商売は大繁盛しますが、不思議なことに毎日やってくる常連客がいました。
その客はいくら飲んでも顔色が変わりません。

不思議に思った高風が名前を聞くと、客は「海の中に住む猩猩だ」と正体を明かします。
そして高風の正直な心を褒め、「飲んでも飲んでも尽きることのない酒壺」を授けるのでした。

真っ赤な装束をまとった猩猩が、酒に浮かれて舞い謡う——この華やかな演出が人々を魅了し、猩猩のイメージを決定づけました。

白酒の伝説

日本には「白酒」にまつわる猩猩の昔話も伝わっています。

ある病気の老人が「最期に酒が飲みたい」と願いました。
息子が富士山のふもとで酒を探していると、浜辺で宴会をしている猩猩たちに出会います。

事情を話すと猩猩は酒を分けてくれ、老人は元気を取り戻しました。
しかし、それを聞いた欲深い隣人が同じように酒をもらおうとすると、逆に毒になってしまったのです。

猩猩は「心が清くないから、神聖な酒が毒に変わったのだ」と説明しました。
善人には福を、悪人には災いを——猩猩が「福の神」とされるようになった背景には、こうした伝承があるんですね。


猩猩が日本文化に与えた影響

猩猩緋という伝統色

「猩猩緋(しょうじょうひ)」という日本の伝統色をご存知でしょうか?

室町時代後期、南蛮貿易でポルトガルやスペインからやってきた鮮やかな赤い毛織物があまりにも美しく、人々は「これは猩猩の血で染めたに違いない!」と噂しました。

もちろん実際はコチニールという虫から取れる染料なのですが、この俗説がきっかけで「猩猩緋」という色名が生まれたのです。

戦国武将たちはこの色を大変気に入り、陣羽織に仕立てて戦場で意匠を競いました。
武田軍や真田軍の「赤備え」、井伊直政の軍勢が「井伊の赤鬼」と呼ばれたのも、この猩猩緋が関係しています。

名古屋周辺の祭り

名古屋市の南区や緑区では、今でも秋祭りに「猩猩」が登場します。

竹で編んだ骨組みに張りぼての頭部をつけた大人形で、大人が中に入ると身長2メートルを超えます。
赤い顔にニヤリとした表情は、子どもたちにはちょっと怖いかもしれません。

祭りでは行列の先頭を歩いたり、子どもたちを追いかけてお尻を叩いたりします。
猩猩に叩かれると一年間病気にならないという言い伝えがあり、大人も追いかけられるのを楽しんでいるそうです。

江戸時代の文献『鳴海祭礼図』にも猩猩が描かれており、少なくとも250年以上の歴史があることがわかっています。

オランウータンとの関係

「猩猩」は現代ではオランウータンの和名としても使われています。

東南アジアに生息するオランウータンは、赤みがかった毛並みと人間に似た仕草から、中国で「猩猩」と呼ばれるようになりました。
ただし、中国本土にはオランウータンは生息していないため、交易を通じて伝わった情報が想像上の猩猩と結びついたのでしょう。

日本でも江戸時代には両者が同一視されるようになり、現在に至っています。

猩猩にちなむ名前

猩猩の鮮やかな赤いイメージは、さまざまな動植物の名前にも使われています。

植物
猩猩木(しょうじょうぼく)——クリスマスでおなじみのポインセチアです。赤い苞葉が猩猩の毛を思わせます。
猩猩野舞(しょうじょうのまい)——赤く色づく日本のカエデの品種です。

昆虫
猩猩蜻蛉(しょうじょうとんぼ)——鮮やかなオレンジ色の羽を持つトンボです。
猩猩蝿(しょうじょうばえ)——酒やお酢に集まる小さなハエ。酒好きの猩猩に由来しています。


映画『もののけ姫』の猩猩

1997年公開のスタジオジブリ作品『もののけ姫』にも猩猩が登場します。

ただし、伝統的な「陽気な酒好き」のイメージとはかなり違います。
映画の猩猩は森に住むゴリラのような姿の生き物で、「森の賢者」と呼ばれています。

彼らは人間に森を奪われたことへの怒りに満ちており、「人間を食べれば人間の力が手に入る」と信じて主人公アシタカを食べようとします。
サンに「人間を食べても力は手に入らない。血が穢れるだけだ」と諭されますが、聞く耳を持ちません。

宮崎駿監督は、自然破壊によって追い詰められた存在として猩猩を描きました。
かつては森の賢者だった彼らが、怒りと絶望によって変わり果ててしまった——そんなメッセージが込められているのかもしれません。


まとめ

  • 猩猩は中国生まれの想像上の動物で、人の言葉を理解し、酒を愛する存在として語り継がれてきた
  • 日本では能楽『猩猩』の影響で「全身真っ赤」のイメージが定着し、福の神として親しまれるようになった
  • 「猩猩緋」という伝統色は、戦国武将たちに愛された赤い毛織物の色名
  • 名古屋周辺の祭りでは今も猩猩の大人形が登場し、子どもたちの無病息災を願っている
  • オランウータンの和名としても使われており、伝説と実在の動物が不思議な形で結びついている
  • 『もののけ姫』では森の賢者として登場し、自然と人間の対立を象徴するキャラクターとなっている

お酒好きで陽気、でも時には人間への怒りも見せる——猩猩は、人間の欲望や感情を映し出す鏡のような存在なのかもしれませんね。


猩猩の情報一覧

項目内容
名前猩猩(しょうじょう)/猩々
別名狌狌(せいせい)、xīng xīng(中国語)
起源中国の古典文献(山海経、礼記など)
主な特徴酒好き、人語を理解する、赤い外見(日本での描写)
日本での初出室町時代の能楽『猩猩』
関連する伝統色猩猩緋(しょうじょうひ)
現代での意味オランウータンの和名、大酒飲みの俗称
登場作品能楽『猩猩』、映画『もののけ姫』など

主な出典・参考文献

文献名成立時期内容
山海経(せんがいきょう)戦国時代〜漢代猩猩の姿や習性についての最古の記述を含む
礼記(らいき)戦国時代「猩々は能く言して禽獣を離れず」の記述
本草綱目(ほんぞうこうもく)1596年(明代)猩猩を交趾郡(ベトナム)産の野獣として記述
和漢三才図会1712年(江戸時代)日本での猩猩の姿を図入りで紹介

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