【荒ぶる神か英雄か?】スサノオ(須佐之男命)とは?その神話・系譜・伝承をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した勇者として、誰もが一度は耳にしたことがあるスサノオ。

しかし、この神様には意外な一面があるんです。

高天原(たかまがはら)では乱暴者として追放されたのに、出雲に降りると一転して英雄に。母を想って泣きわめく子供のような姿があるかと思えば、美しい和歌を詠む繊細さも持ち合わせています。

いったい、スサノオは善神なのでしょうか?それとも悪神なのでしょうか?

この記事では、日本神話屈指の人気を誇る神「スサノオ」について、その波乱万丈の神話や系譜、信仰までをわかりやすくご紹介します。


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概要

スサノオは、日本神話に登場する代表的な神様の一人です。

『古事記』では須佐之男命(すさのおのみこと)、『日本書紀』では素戔嗚尊(すさのおのみこと)と記されています。

太陽神・天照大御神(アマテラスオオミカミ)と月神・月読命(ツクヨミノミコト)の弟にあたり、この三柱は「三貴子(みはしらのうずのみこ)」と呼ばれる特別な神々なんです。

スサノオの最大の特徴は、その多面的な性格にあります。

  • 高天原では秩序を乱す乱暴者
  • 出雲では怪物を倒す英雄神
  • 日本初の和歌を詠んだ文化的な神
  • 疫病から人々を守る厄除けの神

一人の神様の中に、これほど異なる性格が同居しているのは珍しいことです。そのため「変化に富んだ謎の多い神」とも評されてきました。


系譜

誕生

スサノオの誕生は、とても神秘的な出来事でした。

父神・伊邪那岐命(イザナギノミコト)が黄泉の国(死者の世界)から逃げ帰ったあと、筑紫の日向(現在の宮崎県付近)で穢れを祓う禊(みそぎ)を行います。

このとき誕生したのが三貴子です。

誕生の経緯生まれた神
左目を洗ったとき天照大御神(太陽神)
右目を洗ったとき月読命(月神)
鼻を洗ったときスサノオ

イザナギは三貴子を得たことを大変喜び、それぞれに統治する領域を与えました。スサノオには海原を治めるよう命じられています。

妻と子孫

スサノオには複数の妻と、多くの子孫がいます。

主な妻

  • 櫛名田比売(クシナダヒメ):八岐大蛇から救った姫。正妻とされる
  • 神大市比売(カムオオイチヒメ):穀物に関わる神々の母

主な子孫

  • 八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ):クシナダヒメとの子
  • 大年神(オオトシノカミ):年神・穀物神
  • 宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ):稲荷神社に祀られる穀物神
  • 五十猛神(イソタケルノカミ):樹木の神

そして、スサノオの6代後の子孫が、あの有名な大国主神(オオクニヌシノカミ)です。出雲大社の主祭神として知られていますね。


姿・見た目

スサノオの外見について、古典文献にはどう書かれているのでしょうか?

『古事記』や『日本書紀』によると、スサノオは長いひげを生やし、それが胸まで垂れていたと描かれています。

また、成長してからも母を想って泣き続け、その泣き声で青々と茂る山を枯らし、川や海を干上がらせたとも記されているんです。

具体的な服装や体格についての詳しい記述はありませんが、後世の絵画や神楽では、勇ましい武将の姿で描かれることが多くなりました。

八岐大蛇退治の場面では、剣を手に持ち、雄々しく怪物に立ち向かう英雄として表現されています。


特徴

スサノオには、他の神様にはない独特の特徴があります。

多重人格的な性格

スサノオの最大の特徴は、場面によって性格がガラリと変わることです。

高天原時代

  • 母に会いたいと泣きわめく駄々っ子
  • 姉の田を壊し、神殿を汚す乱暴者
  • 機織り女を死なせてしまう粗暴な存在

出雲時代

  • 八岐大蛇を退治する英雄
  • 美しい和歌を詠む繊細な歌人
  • 国を築く統治者

この劇的な変化について、「多数の伝承をまとめて一つの話にしたため」という説もあります。

神としての能力

スサノオには、様々な神としての力が備わっています。

  • 創造の力:体毛を投げると樹木や草になった
  • 文化的な力:木の用途を定め、子に植林を命じた
  • 戦いの力:八岐大蛇を倒し、草薙剣を得た

神格(どんな神様か)

スサノオは複数の神格を持っています。

  • 農業神・豊穣神:穀物の実りを司る
  • 疫神(防災除疫の神):疫病から人々を守る
  • 荒ぶる神の祖:激しい自然現象を象徴する

神話・伝承

スサノオにまつわる神話は、大きく3つの段階に分けられます。

第一段階:高天原での乱行

海原を治めるよう命じられたスサノオでしたが、全く従いませんでした。

亡くなった母・伊邪那美命(イザナミノミコト)に会いたいと泣きわめき続け、ついに父から追放されてしまいます。

根の国(死者の国)へ向かう前に、姉の天照大御神に挨拶しようと高天原に昇りますが、その足音で山が鳴り響き、天照大御神は「弟が攻めてきた」と警戒して武装しました。

スサノオは身の潔白を証明するため、姉と誓約(うけひ)を行い、互いの持ち物から子を生みます。このとき生まれた神々には、後に皇室の祖となる神も含まれていました。

しかし誓約に勝ったスサノオは調子に乗り、次々と乱暴を働きます。

  • 天照大御神の田の畔を壊し、溝を埋める
  • 神殿に糞を撒き散らす
  • 機織り小屋に皮を剥いだ馬を投げ込み、機織り女を死なせる

恐れた天照大御神は天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまい、世界から太陽の光が消えてしまいました。これが有名な「天岩戸事件」です。

八百万の神々の努力で天照大御神は岩戸から出てきましたが、スサノオは髭と手足の爪を切られ(穢れを祓う儀式)、多くの償いの品を払わされて高天原から追放されました。

第二段階:八岐大蛇退治

高天原を追われたスサノオは、出雲国の鳥髪山(現在の船通山)に降り立ちます。

ここで運命的な出会いが待っていました。

川上から箸が流れてきたのを見て、人が住んでいると気づいたスサノオ。上流へ向かうと、老夫婦が美しい娘を囲んで泣いていたのです。

事情を聞くと、こういうことでした。

  • 老夫婦の名は足名椎(アシナヅチ)手名椎(テナヅチ)
  • 娘は櫛名田比売(クシナダヒメ)
  • 8人いた娘のうち7人は、すでに八岐大蛇に食べられてしまった
  • 今年もまた大蛇がやってきて、最後の娘を奪っていく

八岐大蛇とは、8つの頭と8つの尾を持ち、体には苔や木が生え、8つの谷と8つの峰にまたがるほど巨大な怪物です。

スサノオは娘を嫁にもらう条件で、退治を引き受けました。

スサノオの作戦

  1. クシナダヒメを櫛に変えて髪に挿し、守る
  2. 8つの門を作り、それぞれに酒桶を置く
  3. 強い酒を何度も醸して用意する

やってきた八岐大蛇は、8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み、酔って眠ってしまいました。

この隙にスサノオは剣で大蛇を斬り殺します。すると尾から一振りの剣が現れました。これが草薙剣(くさなぎのつるぎ)で、後に天照大御神に献上され、三種の神器の一つとなりました。

第三段階:出雲での暮らしと和歌

怪物を倒したスサノオは、櫛に変えていたクシナダヒメを元の姿に戻し、妻として迎えます。

そして出雲の須賀(すが)の地に新しい宮殿を建てたとき、スサノオはこう詠みました。

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を

「雲が何重にも立ち上る出雲の地に、妻のために幾重もの垣を作ろう。その美しい垣を」という意味です。

この歌は日本最初の和歌とされ、スサノオが文学・学問の神としても信仰される理由になりました。「八雲」は出雲を象徴する言葉となり、「八雲立つ」は出雲にかかる枕詞として今も使われています。

根の国での物語

その後、スサノオは根の国(地下の世界)へ行き、そこの君主となりました。

後にやってきた大国主神(当時は「葦原色許男」という名前)に対し、スサノオは様々な試練を与えます。

  • 蛇がいる部屋に泊まらせる
  • ムカデと蜂がいる部屋に泊まらせる
  • 野原で火をつけて囲む

しかし大国主神は、スサノオの娘・須世理比売(スセリビメ)の助けを借りて、すべての試練を乗り越えました。

感心したスサノオは、大国主という名を贈り、娘を妻として認め、さらに宝物である生大刀・生弓矢・天詔琴を授けたのです。


出典・起源

文献での記載

スサノオが登場する主な古典文献は以下の通りです。

文献表記特徴
古事記須佐之男命、建速須佐之男命神話が詳細に記される
日本書紀素戔嗚尊、神素戔嗚尊複数の異伝を収録
出雲国風土記神須佐能袁命地名由来が中心、八岐大蛇退治の記載なし

興味深いことに、『出雲国風土記』では高天原での乱暴者というイメージはなく、素朴で平和的な農耕神として描かれています。

名前の由来

「スサノオ」という名前の由来には、複数の説があります。

  • 「荒れすさぶ」説:嵐や暴風雨を神格化したもの
  • 「進む」説:勢いのままに事を行う意味から
  • 「須佐郷」説:出雲の須佐郷(現在の島根県出雲市佐田町須佐)に由来
  • 「州砂(砂鉄)」説:たたら製鉄と関係する首長を神格化

どの説が正しいかは、現在も議論が続いています。

牛頭天王との習合

中世以降、スサノオは仏教の守護神である牛頭天王(ごずてんのう)と同一視されるようになりました。

牛頭天王はインドの祇園精舎の守護神とされ、疫病を司る神です。両者が結びついた理由として、「どちらも荒々しい神だから」という説が有力です。

この信仰は祇園信仰と呼ばれ、京都の祇園祭をはじめ、全国の夏祭りに受け継がれています。疫病が流行しやすい夏に祭りを行い、スサノオ(牛頭天王)の力で災いを祓うという考え方なんですね。

豊穣神としての側面

八岐大蛇退治の物語には、農業神としてのスサノオの姿も隠されています。

  • 八岐大蛇:水神・山神の象徴であり、洪水や氾濫を表す
  • 大蛇退治:水を制御して稲作を守りたいという願いの表れ
  • クシナダヒメ:名前は「奇稲田姫」とも書き、穀物の精霊を意味する

つまり八岐大蛇退治は、暴れる水を治めて稲作を成功させるという、農耕民族の願いを神話化したものとも解釈できるのです。


まとめ

スサノオは、日本神話の中でも特に複雑で魅力的な神様です。

重要なポイント

  • 三貴子の一柱として、イザナギの禊から誕生した
  • 高天原では乱暴者として追放されたが、出雲では英雄となった
  • 八岐大蛇を退治し、草薙剣を得てクシナダヒメを妻とした
  • 日本最初の和歌を詠んだ文化的な神でもある
  • 牛頭天王と習合し、祇園祭など全国の夏祭りで祀られている
  • 豊穣神・疫病除けの神として、現在も広く信仰されている

スサノオを祀る主な神社

  • 八坂神社(京都府):祇園信仰の総本社
  • 氷川神社(埼玉県):氷川信仰の総本社
  • 津島神社(愛知県):津島信仰の総本社
  • 熊野大社(島根県):出雲国一之宮
  • 須佐神社(島根県):スサノオ終焉の地とされる

善と悪、荒々しさと繊細さ、破壊と創造。相反する性格を併せ持つスサノオは、まさに人間の複雑さを映し出す鏡のような存在かもしれません。

だからこそ、古代から現代まで、多くの日本人に愛され続けているのでしょう。

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