神異経とは?山海経との違いや登場する神々をわかりやすく解説

神話・歴史・文化

中国の古典というと『山海経』を思い浮かべる方は多いでしょう。
でも、その「弟分」とも言える書物があるのをご存知ですか?

それが『神異経(しんいきょう)』です。

山海経に比べるとマイナーですが、実は中国神話を知るうえで欠かせない一冊なんです。
この記事では、神異経の基本情報から登場する神々・怪物、山海経との違いまでわかりやすく解説していきます。


スポンサーリンク

神異経の基本情報

神異経は、中国の古代神話や不思議な存在についてまとめた書物です。
全1巻、47条と比較的コンパクトな構成になっています。

正式名称は『神異経』で、「神と異(不思議なもの)についての経(書物)」という意味ですね。
英語圏では「Classic of Divine Marvels(神秘なる驚異の古典)」や「Book of Gods and Strange Things(神々と不思議なものの書)」と訳されることもあります。

内容は東西南北の辺境地域に住む神仙や怪物、異世界の風景などを方角別に記録したもの。
ファンタジー小説のような読み物としても楽しめる一冊です。


著者と成立年代

神異経の著者は、漢代の東方朔(とうほうさく)とされています。

東方朔は前漢時代に実在した人物で、武帝に仕えた学者であり、ユーモアあふれる「宮廷道化師」としても知られていました。
道教では仙人として崇められ、西王母の桃を盗んだという伝説でも有名です。

ただし、現代の研究では東方朔が本当に書いたかどうかは疑問視されています。

漢代の目録『七略』に神異経の名前がないことや、文章のスタイルが後世のものに近いことから、実際の成立は南北朝時代(5〜6世紀頃)ではないかという説が有力です。
当時は東方朔の名を借りて書物を出す「偽託」が珍しくなかったため、有名人の名前を使って権威付けを行った可能性があります。

現存する版本には、晋代の学者・張華(ちょうか、232〜300年)による注釈が付いています。


神異経の構成

神異経は9つの章で構成されており、それぞれ異なる方角の辺境地域について記しています。

章名読み方内容
東荒経とうこうきょう東方の辺境地域
東南荒経とうなんこうきょう東南の辺境地域
南荒経なんこうきょう南方の辺境地域
西南荒経せいなんこうきょう西南の辺境地域
西荒経せいこうきょう西方の辺境地域
西北荒経せいほくこうきょう西北の辺境地域
北荒経ほくこうきょう北方の辺境地域
東北荒経とうほくこうきょう東北の辺境地域
中荒経ちゅうこうきょう中央の辺境地域

「荒」は辺境や未開の地という意味です。
この構成は山海経の「海経」部分に似ていますが、神異経は地理情報よりも神仙や怪物の物語に重点を置いているのが特徴です。


神異経に登場する神々と怪物

神異経には、さまざまな神仙や怪物が登場します。
ここでは特に有名なものをいくつか紹介しましょう。

東王公(とうおうこう)

東方の大石室に住むとされる男性の神仙です。

身長は一丈(約3メートル)で、白髪の老人の姿をしているのですが、頭は鳥で尾は虎という異形の存在。
玉女たちと「投壺(とうこ)」という遊びを楽しんでいたと記されています。

投壺とは、壺に矢を投げ入れる宴会ゲームのこと。
東王公が矢を投げると、入ったときには天が嘆き、外れたときには天が笑ったと伝えられています。

西王母が女仙を統率するのに対し、東王公は男仙を統率する存在として対になっています。

窮奇(きゅうき)

西北に住む翼のある虎のような怪物で、四凶の一つに数えられています。

神異経によると、窮奇は人語を理解し、争いを耳にすると飛んでいって正しい方を食べてしまうという、なんとも理不尽な性質を持っています。
誠実な人を見つけるとその鼻をかじり取り、逆に悪人には獲物をプレゼントするという困った性格。

一見すると完全に悪い怪物に見えますが、別の伝承では厄払いの儀式で疫鬼を追い払う役目も担っていました。
善悪両面を持つ複雑な存在なんですね。

渾沌(こんとん)

四凶の一つで、善悪の区別がつかない怪物です。

神異経では犬のような姿で長い毛が生えており、脚は熊に似ているが爪がないと描かれています。
目があっても見えず、耳があっても聞こえず、いつも自分の尻尾を咥えてグルグル回っているという奇妙な存在。

空を見ては笑い、善人を嫌って悪人に媚びるとされています。
「混沌」という言葉の由来にもなった怪物です。

崑崙山と天柱

崑崙山は中国神話における聖なる山で、神異経では「天柱(てんちゅう)」として描かれています。
天と地を結ぶ柱という壮大なイメージですね。

扶桑山の玉鶏

東方にあるとされる扶桑山には、玉鶏(ぎょくけい)という神秘的な鶏がいると記されています。
この鶏が鳴くと天下の鶏が一斉に鳴くという、いわば「鶏の王」のような存在です。


山海経との比較

神異経と山海経はよく比較される書物です。
両者の違いを整理してみましょう。

項目山海経神異経
成立時期戦国時代〜漢代(紀元前4世紀〜3世紀頃)南北朝時代(5〜6世紀頃)と推定
著者禹・伯益と伝承(実際は複数の著者)東方朔と伝承(実際は不明)
分量18巻1巻(47条)
構成山経(5篇)+海経(13篇)9篇(方角別)
主な内容地理、動植物、神話、鉱物など多岐にわたる神仙・怪物の物語が中心
特徴百科事典的で網羅的ファンタジー色が強い

山海経が「古代中国の百科事典」だとすれば、神異経は「ファンタジー短編集」といったところでしょうか。

山海経は地理書としての性格も持っており、各地の産物や山川の名前なども詳しく記録しています。
一方、神異経は地理情報は少なめで、神仙や怪物の不思議なエピソードに焦点を当てています。

両書に共通して登場する怪物もいますが、神異経の方がより物語性が強く、キャラクターの性格や行動が詳しく描かれている傾向があります。


神異経が収録されている叢書

神異経は単独で読まれることよりも、いくつかの叢書(シリーズ本)に収録された形で伝わっています。

主な収録叢書は以下の通りです。

  • 漢魏叢書
  • 格致叢書
  • 龍威秘書
  • 説郛
  • 五朝小説
  • 説庫
  • 四庫全書

1990年には上海古籍出版社から、『穆天子伝』『海内十洲記』『博物志』とセットになった注釈付きの現代版が出版されています。


神異経を読む意義

なぜ今、神異経を読む価値があるのでしょうか?

まず、中国神話の理解が深まります。
山海経だけでは見えてこない神話のバリエーションや、怪物たちの新たな一面を知ることができます。

また、道教的な世界観を理解するうえでも重要です。
東王公と西王母の関係や、崑崙山・扶桑山といった仙界の地理は、後の道教思想の発展に大きな影響を与えました。

さらに、現代のファンタジー作品の源流としても注目されています。
ゲームやアニメに登場する「四凶」(窮奇、渾沌、饕餮、檮杌)の原典でもあるので、好きな作品のルーツを探りたい方にもおすすめです。


まとめ

神異経のポイントをおさらいしましょう。

  • 神異経は中国の古代神話・怪異をまとめた書物
  • 全1巻47条、9章構成で方角別に辺境の神仙・怪物を記録
  • 著者は東方朔とされるが、実際の成立は南北朝時代(5〜6世紀頃)と推定
  • 山海経より短いが、ファンタジー色が強く物語として楽しめる
  • 東王公、窮奇、渾沌など、有名な神話上の存在が登場
  • 四凶をはじめ、現代のファンタジー作品にも影響を与えている

山海経と比べると知名度は低いですが、中国神話を深く知りたい方には必読の一冊です。
興味を持った方は、ぜひ現代語訳に挑戦してみてくださいね。


神異経 登場神仙・怪物一覧

名前読み方説明
東王公とうおうこう東方の石室に住む男仙の長。鳥の頭と虎の尾を持つ異形の姿
窮奇きゅうき四凶の一つ。翼のある虎の姿で、正しい人を食べる理不尽な怪物
渾沌こんとん四凶の一つ。犬のような姿で善悪の区別がつかない
玉鶏ぎょくけい扶桑山に住む神秘的な鶏。鳴くと天下の鶏が応える
山臊さんそう西方の山中に住む人のような姿の怪物。火を恐れる

コメント

タイトルとURLをコピーしました