もし、夢の中で見た美しい街に、永遠に住み続けることができたらどうでしょうか?
時間が止まったように変わらない風景、老いることも死ぬこともない世界——そんな理想郷が、幻夢境(ドリームランド)には実在するんです。
H.P.ラヴクラフトが生み出したクトゥルフ神話の世界において、最も美しく神秘的な都市として知られる「セレファイス」。
この記事では、千の塔が建ち並ぶ光明の都セレファイスについて、その姿や特徴、そして創造主クラネス王の切ない物語までを詳しくご紹介します。
セレファイスってどんな都市?

セレファイスは、幻夢境(ドリームランド)に存在する壮麗な夢の都です。
H.P.ラヴクラフトが1920年に執筆した短編小説「セレファイス」で初めて登場し、後に『未知なるカダスを夢に求めて』などの作品にも登場する重要な舞台となっています。
別名を「死を知らぬ幻影の都」といい、その名の通り時間の概念が存在せず、住民は老いることも死ぬこともありません。
セレナリア海(セレネリア海)を臨むオオス=ナルガイの渓谷に築かれており、トゥーランの港からガレー船(ガリオン船)でまる二日かけて到着します。
この都市を創り出したのは、クラネスという名の夢見る人。彼は現実世界では落ちぶれた英国貴族でしたが、夢の中で王として永遠に君臨しているんです。
都市の姿・見た目
セレファイスの景観は、まさに「夢のように美しい」という表現がぴったりなんです。
外観の特徴
- 城壁と門:大理石の壁に囲まれ、青銅の大門によって守られている
- 千の塔:市内には百千もの塔が建ち並び、遠くからでも壮麗な姿が見える
- 道路:縞瑪瑙(しまめのう)という美しい石で舗装されている
- 神殿:薔薇色の水晶でできた七十の歓喜の神殿が建つ
- 花々:蘭の花が咲き誇り、甘い香りが町を包む
都市の近くにはアラン山という雪を頂いた山がそびえ、その斜面には銀杏の木が茂っています。
街並みは神秘に満ち、夢が満ちあふれた光景が広がっているんですね。
主要な建造物
ナス=ホルタースの神殿は、ターコイズブルーの美しい神殿として知られています。この神殿の神官たちによれば、オオス=ナルガイには時の流れが存在せず、ただ永遠の若さのみがあるのだそうです。
また、柱の通りと呼ばれる大通りもあり、船乗りや行商人が行き交う市場も賑わっています。
特徴

セレファイスには、他のどんな都市にもない特別な性質があります。
時間が存在しない世界
最大の特徴は、時間の概念がないということなんです。
セレファイスでは何年過ごしても、住民は老いることがありません。現実世界に戻ってきたとき、自分の姿が何も変わっていないことに気づくでしょう。
建物も風景も永遠に変わらず、朽ちることも衰えることもありません。まさに永遠の若さと美しさを保ち続ける都なんですね。
空中都市セラニアンとのつながり
セレファイスの上空には、空中都市セラニアンという雲の王国が浮かんでいます。
セレファイスの港から出航した船は、セレナリア海が空と出会う水平線まで進むと、そのまま空中へと昇っていくことができるんです。黄金の空飛ぶガレー船に乗れば、セラニアンの港まで行くことが可能です。
夢見る人への友好性
セレファイスは他の幻夢境の都市と比べて、夢見る人(現実世界から夢の世界を訪れる人間)に対して友好的な態度を取ります。
クラネス王自身が元は現実世界の人間だったため、訪問者を温かく迎え入れてくれるんですね。
創造主クラネス王の物語

セレファイスの物語は、その創造主であるクラネス王の切ない人生と深く結びついています。
現実世界での没落
クラネスという名は彼の夢の中での名前で、現実世界での本名は明かされていません。
彼は英国の名門貴族の生まれでしたが、先祖伝来の土地を手放すことになり、40代の頃にはロンドンでわびしい生活を送っていました。
貧困に苦しむ中、彼は子供の頃に夢見た美しい都セレファイスの記憶に救いを求めるようになります。荒涼とした現実から逃れるため、少しでも長く眠っていられるよう薬物に頼るようになってしまったんです。
永遠の王座へ
ついに住む場所さえ失ったクラネスが、ある夏の日にロンドンの街をさまよっていると、光り輝く鎧をまとった騎士の隊列が現れました。
騎士たちに護衛されて中世イングランドを旅し、かつての故郷を通り、そしてセレファイスに迎え入れられたクラネス。
彼はその地の王として、永遠に幸福に暮らすことになりました。一方、現実世界ではインスマスの海岸にクラネスの亡骸が打ち上げられていたのです——彼の先祖の塔のすぐそばで。
故郷への郷愁
『未知なるカダスを夢に求めて』では、史上最も偉大な夢見る人の一人として再登場するクラネス王。
空中都市セラニアンとセレファイスを統治し続けていますが、現実世界の故郷コーンウォールを懐かしむあまり、セレファイス東部の一隅にその景色を再現した村を作り、そこで暮らすようになったと語られています。
夢の世界で王になっても、故郷への想いは消えなかったんですね。
作品との関連
セレファイスは、ラヴクラフトの複数の作品に登場する重要な都市です。
短編小説「セレファイス」
1920年11月に執筆され、1922年5月の雑誌『レインボー』に掲載された作品。クラネスの人生と、セレファイスの創造の物語が描かれています。
この作品はラヴクラフト自身が見た「都市の上を飛ぶ夢」から着想を得たとされています。
『未知なるカダスを夢に求めて』
主人公ランドルフ・カーターが自身の夢の都市を探す旅の途中で、セレファイスを訪れクラネス王から助言を受ける場面があります。
クラネス王は「望むものを得られても、それが本当に幸せとは限らない」という重要なメッセージをカーターに伝えました。
創作上の影響
「セレファイス」の物語は、ロード・ダンセイニの「トーマス・シャップ氏の戴冠式」との類似性が指摘されています。
また、崖から飛び立つ騎士の場面は、アンブローズ・ビアスの「空飛ぶ騎手」から影響を受けたとされています。
まとめ
セレファイスは、クトゥルフ神話における最も美しく、そして切ない都市です。
重要なポイント
- H.P.ラヴクラフトが創造した幻夢境の壮麗な都市
- 別名「死を知らぬ幻影の都」で、時間が存在しない
- 大理石の壁と青銅の門、千の塔が特徴的
- クラネスという夢見る人が創り出し、永遠の王として君臨
- 現実では没落貴族だったクラネスの、夢の中での理想郷
- 空中都市セラニアンへの航路がある
- 夢見る人に友好的で、幻夢境の重要な拠点
- ラヴクラフトの複数作品に登場する重要な舞台
現実世界での苦しみから逃れ、夢の中で永遠の王となったクラネス。しかし、彼は故郷への郷愁を捨てきれませんでした。
セレファイスの物語は、美しさと悲しさが入り混じった、まさに「夢のような」伝説なのです。

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