斉天大聖とは?孫悟空が名乗った「天に等しい」称号の意味と由来を徹底解説

神話・歴史・伝承

「斉天大聖」という言葉を聞いたことはありますか?

ドラゴンボールの孫悟空やゲーム「黒神話:悟空」で有名なあの孫悟空。実は中国では「孫悟空」よりも「斉天大聖」という名前で呼ばれることのほうが多いんです。

日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、この称号には孫悟空の傲岸不遜な性格と、天界への反骨精神がギュッと詰まっています。しかも現代でも台湾や東南アジアでは、斉天大聖は実際に神様として祀られているんですよ。

この記事では、斉天大聖という称号の意味や由来、西遊記での活躍、そして現代まで続く信仰について詳しく解説していきます。


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斉天大聖とは何か

称号の意味

斉天大聖(せいてんたいせい)は、中国四大奇書のひとつ『西遊記』の主人公・孫悟空が名乗った称号です。

「斉天大聖」を分解すると

  • 斉天(せいてん):天に斉(ひと)しい、つまり「天と同格」
  • 大聖(たいせい):偉大なる聖者

つまり「天にも等しい偉大なる聖者」という意味になります。

これはもう、この上ない傲慢な称号ですよね。
天界の神々からすれば「地上の化け猿ごときが天と同格など不敬にもほどがある!」とブチ切れる案件だったわけです。

中国語での読み方

中国語では以下のように表記・発音されます。

表記読み方
繁体字齊天大聖
簡体字齐天大圣
ピンインQítiān dàshèng(チーティエン ダーション)

孫悟空の他の呼び名

孫悟空には斉天大聖以外にも、さまざまな呼び名があります。

呼び名意味・時期
美猴王(びこうおう)猿の王として花果山を治めていた頃の名前
孫行者(そんぎょうじゃ)三蔵法師の弟子となってからの通称
弼馬温(ひつばおん)天界で馬の世話係だった時の役職名(本人は黒歴史と思っている)
闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)取経の旅を終えた後、釈迦如来から授かった仏としての名前
心猿(しんえん)仏教的な解釈での別称

道教の神として信仰される際は「斉天大聖」、仏教的な文脈では「闘戦勝仏」と呼ばれることが多いです。


なぜ孫悟空は斉天大聖を名乗ったのか

天界での屈辱的な扱い

物語は、花果山で生まれた石猿・孫悟空が仙術を習得し、竜宮で如意棒を手に入れ、さらには冥界で自分と仲間の寿命を勝手に消してしまうところから始まります。

天界は危険視した孫悟空を懐柔しようと、彼を天界の官吏として召し抱えることにしました。ところが与えられた役職は「弼馬温」、つまり馬の世話係という最下級の端役だったんです。

半月ほど真面目に働いていた悟空でしたが、その身分の低さを知って激怒。
「こんな馬の世話係なんてやってられるか!」と天界を飛び出してしまいます。

斉天大聖の誕生

花果山に戻った悟空のもとに、独角鬼王という妖怪がやってきて臣下となります。この独角鬼王が悟空を煽てに煽てまくったんですね。

有頂天になった悟空は、ついに「斉天大聖」を自ら名乗るようになりました。
「俺は天にも等しい存在だ!」と宣言したわけです。

さらに悟空は、花果山の猿たちに命じて「斉天大聖」と大書した旗を作らせ、高々と掲げさせたといいます。

天界に認めさせた称号

これを聞いた天帝は当然激怒し、討伐軍を派遣します。しかし、悟空はこれを次々と撃退。托塔李天王を大将とする軍勢すら歯が立ちませんでした。

困り果てた天帝は、太白金星の進言を受けて再び懐柔策をとることに。今度は悟空の希望通り「斉天大聖」という称号を正式に認め、新たな官職として与えたのです。

つまりこの称号は、力ずくで天界から脅し取ったものといえます。

ただし、実質的には職務のない名目だけの地位でした。


西遊記における斉天大聖の活躍

大暴れの果てに

斉天大聖として天界に迎えられた悟空でしたが、暇を持て余していました。そこで天界は、彼に蟠桃園(仙桃の庭)の管理を任せます。

ところがある日、西王母の宴会に自分が招かれていないことを知った悟空は激怒。
宴会の酒や料理を食い荒らし、さらには太上老君が作った不老不死の仙丹まで全部食べてしまいます。

天界を敵に回した悟空は、十万の天兵を相手に大立ち回りを演じました。最強の武神・顕聖二郎真君との死闘の末、ようやく捕らえられます。

釈迦如来との賭け

処刑しようにも、不死身になった悟空の体には刃も炎も雷も効きません。困った天界は釈迦如来に助けを求めました。

そこで如来は悟空に賭けを持ちかけます。「私の手のひらから逃げられたら、天帝の座を譲ろう」と。

自信満々の悟空は觔斗雲(きんとうん)で宇宙の果てまで飛び、そこにあった五本の柱に「斉天大聖到此一游(斉天大聖ここに遊ぶ)」とサインして戻ってきました。

ところが如来の手を見ると、その指に「斉天大聖到此一游」と書かれているではありませんか。悟空が宇宙の果てだと思っていた場所は、如来の手のひらの中だったのです。

五行山での500年

敗北した悟空は、如来によって五行山という山の下に封印されてしまいます。その封印は500年にも及びました。

この間、土地神が悟空の世話をしていたといいます。飢えそうなら鉄の丸を食べさせ、喉が渇いたら溶けた銅の汁を飲ませるという、なんとも過酷な待遇でした。

三蔵法師との出会いと取経の旅

500年後、天竺へ経典を取りに向かう三蔵法師が五行山を通りかかります。彼に助け出された悟空は、観音菩薩から授けられた金の輪(緊箍児)を頭にはめられ、三蔵法師の弟子となりました。

以後、悟空は猪八戒、沙悟浄とともに西へ向かい、数々の妖怪を退治しながら天竺を目指します。この旅で悟空は成長し、傲慢な化け猿から悟りを開いた存在へと変わっていくのです。

取経の旅を終えた悟空は、その功績を認められて釈迦如来から「闘戦勝仏」の称号を授かり、仏の位に昇りました。


西遊記以前の斉天大聖

元々は別の存在だった?

興味深いことに、「斉天大聖」という神への信仰は、『西遊記』が広まる以前から存在していたという説があります。

宋代の『詩話』にはすでに花果山や猴王などの名前が見え、斉天大聖の名は福建地方の妖猿伝説に由来するとされています。たとえば「陳巡検梅嶺失妻記」という話には、美女をさらう猿の妖怪として斉天大聖が登場するんです。

元代の雑劇での描写

元代の雑劇『西遊記雑劇』(楊景賢作)では、現在の『西遊記』とは異なる設定が見られます。

この作品では、孫行者(孫悟空)には5人の兄弟姉妹がいるとされています。

続柄名前
長姉驪山老母(りざんろうぼ)
次妹巫枝祗聖母(ふしぎせいぼ)
長兄斉天大聖
本人通天大聖
三弟耍耍三郎(ささぶろう)

なんと元代の作品では、「斉天大聖」は孫悟空の兄であり、孫悟空自身は「通天大聖」を名乗っていたのです。小説版『西遊記』では石猿に兄弟がいてはおかしいということで、義兄弟という設定に変更されました。

西遊記による上書き

現在、斉天大聖といえば孫悟空のことを指しますが、これは小説『西遊記』の影響があまりにも大きすぎて、それ以前の斉天大聖がどのような神で、どのような信仰が行われていたかは事実上わからなくなっているためです。


斉天大聖の義兄弟たち──七大聖

小説『西遊記』では、孫悟空が斉天大聖を名乗っていた頃、他の大妖怪たちと義兄弟の契りを結んでいます。この7人を「七大聖」と呼びます。

順位名前称号
長兄牛魔王(ぎゅうまおう)平天大聖(へいてんたいせい)
次兄蛟魔王(こうまおう)覆海大聖(ふくかいたいせい)
三兄鵬魔王(ほうまおう)混天大聖(こんてんたいせい)
四兄獅駝王(しだおう)移山大聖(いざんたいせい)
五兄猕猴王(びこうおう)通風大聖(つうふうたいせい)
六兄禺狨王(ぐしゅうおう)駆神大聖(くしんたいせい)
七弟美猴王(孫悟空)斉天大聖

牛魔王は孫悟空の最も親しい義兄で、後に取経の旅の途中で再会することになります。ただしその時は敵として対峙することになるのですが……。


現代に続く斉天大聖信仰

道教の神として

驚くべきことに、斉天大聖=孫悟空は現在も実際に神として信仰されています。

「小説のキャラクターを信仰するなんて……」と思うかもしれません。でも考えてみれば、玉皇大帝も西王母も創作された神様です。日本の天照大御神やスサノオも、明確なモデルがいるわけではありません。信仰において、出自はあまり問題にならないのです。

福建省を中心とした信仰

斉天大聖信仰の中心地は、中国南部の福建省です。

福建省順昌県の宝山では、2005年に「齊天大聖」「通天大聖」と刻まれた元末~明初期の石碑が発見されました。これは小説『西遊記』が書かれる以前のものです。

学者たちは、閩越(福建省と浙江省)地域には古くから猿を神として祀る信仰があり、この猿猴信仰と小説の孫悟空が習合した結果、現在の斉天大聖信仰が形成されたと考えています。

福州や莆田(ほでん)には多くの斉天大聖廟があり、特に福州の「屏山紫竹林洞天府齊天大聖祖殿」は発祥の地のひとつとして知られています。

台湾での信仰

福建からの移民が多い台湾でも、斉天大聖廟は各地に存在します。

台湾では斉天大聖は「大聖爺」「猴仔公」などとも呼ばれ、道教の武闘派の神として篤い信仰を集めています。基隆市には聖済宮と斉天大聖廟があり、台北の聖徳宮、台南の和順齊天大聖廟なども有名です。

台北の聖徳宮には興味深い言い伝えがあります。淡水河に猿に似た形の木が流れてきたのを人々が拾い、それを彫って斉天大聖の神像を作ったというのです。

東南アジアへの広がり

福建移民とともに、斉天大聖信仰はシンガポール、マレーシア、タイなど東南アジア各地にも伝わりました。

香港にも九龍大聖寶廟など、孫悟空を祀る道教の廟が存在します。

五聖としての信仰

斉天大聖は単独で祀られることもありますが、他の猿神たちと合わせて「五聖」として祀られることもあります。

呼び名仏としての異名
齊天大聖闘戦勝仏
通天大聖(黑大聖)伏魔陀仏
耍耍三郎(白大聖)曪理沙仏
赤霞大聖(赤大聖)横河沙仏
丹霞大聖監河聖仏

「斉天府」「斉天大聖府」と呼ばれる道教寺院では、これらの五聖が揃って祀られる傾向にあります。

経典の存在

斉天大聖信仰には、専用の経典も存在します。

  • 『斉天大聖仏祖真経』
  • 『斉天大聖醒人覚世真経』
  • 『南無齊天大聖新降真經』

これらの経典には呪文も記されており、「齊天大聖小法咒」には「本是如來一點血、花果山上化現身(もともと如来の血の一滴が花果山の頂で今の姿となったものである)」という句があります。


聊斎志異に見る斉天大聖信仰

清代の短編志怪小説集『聊斎志異』には、斉天大聖信仰についての興味深いエピソードが収録されています。

あらすじ

山東省出身の商人・許盛は、福建で商売をしていたとき、地元の人々が斉天大聖に祈っているのを見て呆れました。

「孫悟空なんて小説のでたらめじゃないか。そんな神がいるなら、俺に祟りを与えてみろ!」

すると突然、許盛は体中が痛くなる不思議な病に襲われます。兄から謝るよう勧められても頑なに拒否する許盛。やがて痛みは治まりましたが、今度は兄が病気になって亡くなってしまいました。

死ぬ間際の兄に「お前への祟りがこちらに向かったのだ」と言われた許盛は、大聖の廟に乗り込んで「神だというなら兄貴を生き返らせてみろ!それができたら弟子になってやる!」と啖呵を切ります。

すると本当に兄は生き返り、その後許盛は斉天大聖に出会って様々な神力を見せつけられ、熱烈な信徒となったのでした。

この話が意味するもの

この話は、北方(山東省)と南方(福建省)で斉天大聖への認識が大きく異なっていたことを示しています。

福建では古くから実際の神として祀られていた一方、山東など北方では「小説のキャラクターを拝むなんて馬鹿げている」という見方もあったようです。

作者の蒲松齢は、架空の存在への信仰を批判しつつも、「神の力は実在するかどうかではなく、人々の信仰の強さに依存する」という深いメッセージを込めていると解釈されています。


義和団の乱と斉天大聖

1900年頃、山東省で起こった義和団の乱では、斉天大聖を信仰する武術集団も参戦していたことが知られています。

義和団には様々なグループがあり、諸葛亮や趙雲といった軍事関係の人物を神として崇める集団もいれば、斉天大聖を信仰して拳法を修行する集団もいたのです。

これは斉天大聖が「武闘派の神」として認識されていたことの証といえるでしょう。


現代文化における斉天大聖

ゲームでの登場

2024年に発売された『黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)』は、世界的な大ヒットを記録しました。発売から4日で売上1000万本を突破したこのゲームは、『西遊記』の後日談を描いています。

ゲームの冒頭では、斉天大聖として天界で大暴れする孫悟空と、武神・顕聖二郎真君との壮絶な戦いが描かれます。その迫力ある映像は、多くのプレイヤーの心を掴みました。

「斉天大聖」の名を借りた技──シャングリラ・フロンティア

人気ライトノベル・漫画・アニメ『シャングリラ・フロンティア』では、「斉天大聖」の読みを活かしたネーミングが登場します。

作中のボス・墓守のウェザエモンが使う最終奥義の名前は「晴天大征(セイテンタイセイ)」。
「斉天大聖」と同じ読みながら、晴天流という剣術を使うキャラクターに合わせた当て字になっているんです。

この技は第三段階で発動する発狂モードで、30秒間にわたって即死級の攻撃を連続で放ってくる恐ろしい技。
最後に放たれる「天晴」は回避不可・即死効果という、まさに天に等しい威力を持っています。

また、ウェザエモンが纏う鎧の名前も「規格外特殊強化装甲【斉天】」。
こちらも斉天大聖からの引用と考えられます。

アニメ・漫画での描写

日本では『ドラゴンボール』の孫悟空が最も有名ですが、これは名前とモチーフを借りた別キャラクターです。

より原作に近い描写としては、以下のような作品があります。

  • 手塚治虫『ぼくの孫悟空』とアニメ『悟空の大冒険』
  • 峰倉かずや『最遊記』シリーズ
  • 無双OROCHIシリーズ(コーエーテクモ)
  • ペルソナシリーズ(アトラス)

ゲームでの能力

女神転生シリーズやペルソナシリーズでは、斉天大聖は道士風の姿でデザインされ、筋斗雲に乗り如意棒を持った姿で登場します。物理攻撃やハマ系、ザン系の呪文を得意とする武闘派の悪魔・ペルソナとして設定されています。


まとめ

斉天大聖は、単なる小説のキャラクターにとどまらない、生きた信仰の対象です。

斉天大聖が象徴するもの

  • 反骨精神:権威に屈しない不屈の魂
  • 自由への渇望:束縛を嫌い、自らの道を行く姿勢
  • 成長と贖罪:傲慢から悟りへと至る精神的成長
  • 庶民の味方:神仏相手にも物怖じしない痛快さ

「天にも等しい」という傲慢な称号は、やがて仏の悟りを開くことで真の意味を獲得しました。暴れ猿から闘戦勝仏へ──その成長の物語は、今なお世界中の人々を魅了し続けています。

福建から台湾、東南アジアへと広がった斉天大聖信仰。『黒神話:悟空』の大ヒットをきっかけに、日本でも斉天大聖という名前がより広く知られるようになるかもしれませんね。

西遊記を読んだことがある方は、改めて孫悟空が「斉天大聖」を名乗るシーンに注目してみてください。そこには、天界に物怖じせずに立ち向かった石猿の、傲岸不遜でありながらもどこか愛おしい姿が描かれているはずです。

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