三千年に一度だけ実る不思議な桃があることをご存知ですか?
その桃を一つ食べるだけで、なんと三千年も寿命が延びるという伝説の果実。
この奇跡の桃を管理しているのが、中国神話最高位の女神「西王母(せいおうぼ)」なんです。
皇帝たちが不老不死を求めて会いに行き、孫悟空が暴れ回った蟠桃会(ばんとうえ)の主催者でもある西王母は、今でも多くの人々に信仰される特別な存在です。
この記事では、中国神話の頂点に君臨する女神・西王母の正体から、その驚くべき変身の歴史、そして人々を魅了し続ける神話まで、分かりやすくご紹介します。
概要

西王母(せいおうぼ)は、中国神話における最高位の女神です。
道教では「王母娘娘(おうぼにゃんにゃん)」という親しみやすい名前でも呼ばれ、すべての女性の仙人を統括する存在とされています。
西王母の基本情報
- 住まい:西方の崑崙山(こんろんさん)にある瑶池(ようち)
- 主な役割:不老不死の仙桃の管理、女仙の統括
- 別名:王母娘娘、瑶池金母、金母元君など
西王母の最大の特徴は、三千年に一度実る「蟠桃(ばんとう)」という不老不死の桃を管理していることです。この桃を食べると、病気にならず、永遠に生きられるといわれています。
もともとは災いをもたらす恐ろしい神だったのに、時代とともに美しく優しい女神へと変化していったという、とても興味深い歴史を持つ神様なんですよ。
系譜
西王母の家系図は、実はちょっと複雑で面白いんです。
西王母の出自
道教の文献によると、西王母は元始天王(げんしてんおう)と太元聖母(たいげんせいぼ)の娘として生まれたとされています。
兄弟には、東の方角を司る東王父(とうおうふ)がいます。東王父は男性の仙人を統括し、西王母は女性の仙人を統括するという、まさに対になる存在なんですね。
家族関係の変遷
時代によって、西王母の家族関係は変化してきました:
- 古い時代:独立した女神として描かれる
- 道教の発展期:元始天王の娘、東王父の妹
- 後の民間伝承:玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)の妻として描かれることも
西王母の子どもたち
伝説によると、西王母には複数の娘がいるとされています:
- 華林(かりん)、媚蘭(びらん)、青娥(せいが)、瑤姬(ようき)、玉巵(ぎょくし)
特に有名なのが七仙女(しちせんにょ)で、『西遊記』にも登場する天界のお姫様たちです。
姿・見た目
西王母の姿は、時代によって劇的に変化してきました。
初期の恐ろしい姿(山海経の時代)
最古の記録である『山海経』では、こんな姿で描かれています:
初期の西王母の特徴
- 人の顔をしている
- 豹の尾を持つ
- 虎の牙がある
- 髪はぼさぼさ
- 頭に「勝」という飾りをつけている
- よく唸り声をあげる
まるでモンスターのような姿ですよね!これは、西王母が元々は天災や刑罰を司る恐ろしい神だったことを表しています。
美しい女神への変身(漢代以降)
漢の時代になると、西王母の姿は一変します:
変身後の西王母の特徴
- 年齢は30歳くらいに見える絶世の美女
- 黄金の衣装を身にまとう
- 美しい髪飾りをつける
- 優雅で気品がある
- 神々しいオーラを放つ
現在のイメージ
今では、西王母といえば:
- 豪華な衣装を着た貴婦人
- 鳳凰(ほうおう)の車に乗る
- 青い鳥を従える
- 手に仙桃を持つ
この変化は、人々が西王母を恐れる存在から、敬愛する母なる女神へと見方を変えていったことを示しているんです。
特徴・役割

西王母には、他の神様にはない特別な役割があります。
主な役割
1. 不老不死の管理者
- 崑崙山の蟠桃園を管理
- 三千年に一度実る仙桃の番人
- 不死の薬を持っている
2. 女仙の統括者
- すべての女性の仙人のリーダー
- 女性が仙人になるときは必ず西王母に挨拶する
- 天界の女性たちの名簿を管理
3. 宴会の主催者
- 「蟠桃会」という天界最大のパーティーを開催
- 神々を招待して仙桃でもてなす
- 旧暦3月3日が誕生日とされ、この日に開催
特別な能力
西王母が持つ特別な力:
- 長寿と不老不死を与える
- 病気を治す
- 幸福と富をもたらす
- 結婚と出産を守護する
性格の特徴
- 威厳がありながらも慈悲深い
- 正義感が強く、悪を許さない
- 人間界のことも気にかけている
- 時には厳しく、時には優しい
西王母は単なる神様ではなく、天界と人間界をつなぐ重要な存在として、今も多くの人に信仰されているんです。
神話

西王母にまつわる神話は数多くありますが、特に有名な三つをご紹介しましょう。
周の穆王(ぼくおう)との出会い
紀元前10世紀頃、周の穆王という王様が、八頭の名馬に引かれた車で西の果てまで旅をしました。
崑崙山で西王母に出会った穆王は、美しい絹織物を贈り物として差し出します。西王母は穆王を瑶池に招待し、盛大な宴を開きました。
別れ際、西王母は歌を詠みました:
「白い雲が空に浮かび、山々が連なる。道のりは遠いけれど、あなたが死なずに、また来てくれることを願っています」
この出会いは、人間と神が友好的に交流した最初の記録として有名です。
漢の武帝と仙桃
漢の武帝は、不老不死を強く願っていました。
ある七月七日の夜、西王母が突然宮殿に降臨!紫の雲に乗って、美しい侍女たちを連れてやってきたのです。
西王母は武帝に七つの仙桃を贈りました。武帝が「種を植えたい」と言うと、西王母は笑って答えました:
「この桃は三千年に一度しか実らないの。人間界の土では育たないわよ」
このとき、東方朔(とうほうさく)という家臣がこっそり覗いていて、西王母に見つかってしまいます。「この子はもう三回も私の桃を盗んだのよ!」と西王母が言ったという面白いエピソードも残っています。
孫悟空と蟠桃会の大騒動
『西遊記』では、西王母の蟠桃会が孫悟空によって大混乱に!
天界で「弼馬温(ひつばおん)」という馬の世話係をさせられて怒った孫悟空は、勝手に蟠桃園に入り込み、美味しそうな桃を片っ端から食べてしまいます。
さらに、蟠桃会の準備された御馳走も全部平らげ、お酒も飲み干してしまいました。
西王母は激怒し、玉皇大帝に報告。これが原因で孫悟空は五行山に500年も閉じ込められることになったのです。
嫦娥(じょうが)と不死の薬
昔、英雄の羿(げい)が西王母から不死の薬をもらいました。
しかし、羿の妻である嫦娥がこっそりその薬を全部飲んでしまい、体が軽くなって月まで飛んでいってしまったのです。
嫦娥は月で一人ぼっちになり、永遠に地上に戻れなくなってしまいました。これが中国の「月にはウサギと美女がいる」という伝説の始まりです。
これらの神話は、西王母が持つ不老不死の力の素晴らしさと危険性を同時に教えてくれています。
起源
西王母という神様は、どのようにして生まれたのでしょうか?
最古の記録
西王母の最も古い記録は、なんと3000年以上前にさかのぼります!
殷(いん)の時代の甲骨文字に「西母」という文字が見つかっており、これが西王母の原型だと考えられています。
恐怖の神から母なる神へ
初期(先秦時代)
- 災いをもたらす恐ろしい神
- 死を司る存在
- 人々に恐れられていた
中期(漢代)
- 不老不死の薬を持つ神へ変化
- まだ威厳のある怖い面も残る
- 民間信仰が広まり始める
後期(六朝時代以降)
- 美しく慈悲深い女神へ
- 天界の女王として君臨
- 人々に愛される存在に
変化の理由
なぜこんなに大きく変わったのでしょうか?
- 民間信仰の広がり:人々が「怖い神様より、優しい神様がいい」と願った
- 道教の発展:道教が西王母を重要な神として取り入れた
- 不老不死への憧れ:皇帝や貴族が永遠の命を求めた
- 女性の地位向上:女性の神様への需要が高まった
地域による違い
面白いことに、西王母は地域によって異なる側面を持っています:
- 西部地方:もともとの故郷、崑崙山の主として
- 中原地方:不老不死の女神として
- 沿岸地方:海の向こうの仙界の支配者として
西王母の起源を辿ると、人々の願いや恐れが、神様の姿を変えていくという興味深い事実が見えてきます。
まとめ
西王母の物語を通じて、中国の人々が何千年もの間、どんなことを大切にし、何を恐れ、何を願ってきたかが見えてきましたね。
西王母が教えてくれること
重要なポイント
- 恐ろしい姿から美しい女神への大変身は、人々の価値観の変化を表している
- 不老不死への憧れは、今も昔も変わらない人類共通の願い
- 女性の神様が最高位にいることの特別な意味
- 神話は時代とともに進化し続ける生きた物語
現代に生きる西王母
今でも西王母は愛され続けています:
- 中国や台湾の寺院では、王母娘娘として祀られている
- 旧暦3月3日は西王母の誕生日として祝われる
- アニメやゲームのキャラクターとしても人気
- 長寿や幸福を願う人々の心の支え


コメント