【あなたの体にも住んでいる?】道教の「三尸(さんし)」とは?庚申信仰との関係もやさしく解説!

神話・歴史・伝承

「腹の虫がおさまらない」「虫の居所が悪い」という言葉を聞いたことはありませんか?

実はこれらの表現、昔の人が本当に「体の中に虫がいる」と信じていたことに由来しているんです。

その虫こそが、道教で語り継がれてきた 「三尸(さんし)」 という存在。

なんとこの虫、人間の寿命を縮めようと企んでいるというから穏やかではありません。

この記事では、古代中国から日本にまで伝わった不思議な存在「三尸」について、その正体や特徴、そして庚申信仰との深い関わりを分かりやすく解説していきます。


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概要

三尸(さんし)は、道教に由来する 人間の体内に住んでいるとされる虫 のことです。

「三虫(さんちゅう)」「尸虫(しちゅう)」「尸鬼(しき)」など、さまざまな別名でも呼ばれてきました。

三尸は上尸・中尸・下尸の3種類が存在し、それぞれ頭・腹・足に宿っているとされています。この虫たちは人間に病気や欲望を引き起こすだけでなく、60日に一度めぐってくる 「庚申(こうしん)」の日 に体から抜け出し、天の神様にその人の悪事を報告してしまうという厄介な存在なんです。

そのため、日本では庚申の夜は眠らずに過ごす「庚申待(こうしんまち)」という風習が広まりました。


三尸の正体とは? ~頭・腹・足に住む3匹の虫~

三尸には3種類の虫がいて、それぞれ体の異なる場所に宿っています。

道教の経典『太上三尸中経』によると、大きさはどれも 約6cm(2寸) ほど。姿については文献によって異なりますが、小児や馬に似た形をしているとも言われています。

では、それぞれの虫について詳しく見ていきましょう。

上尸(じょうし)

  • 別名:彭踞(ほうきょ)、青姑(せいこ)など
  • :青または黒
  • 宿る場所:頭(脳)
  • 引き起こす害:頭痛など首から上の病気、大食いにさせる
  • 姿:道士(道教の修行者)の姿で描かれることがある

中尸(ちゅうし)

  • 別名:彭躓(ほうしつ)、白姑(はくこ)など
  • :白、青、または黄色
  • 宿る場所:腹部(内臓)
  • 引き起こす害:胃腸など内臓の病気、財宝への執着を強める
  • 姿:獣の姿、または牛頭の人間として描かれる

下尸(げし)

  • 別名:彭蹻(ほうきょう)、血姑(けつこ)など
  • :白または黒
  • 宿る場所:足(下半身)
  • 引き起こす害:腰から下の病気、色欲を強める
  • 姿:牛の頭に人の足を持つ姿で描かれる

このように、三尸はそれぞれ担当する体の部位があり、そこに関連した病気や欲望を引き起こすと考えられていました。


なぜ三尸は人間に害をなすのか?

「なぜ三尸は人間を苦しめるの?」と疑問に思いますよね。

実は、三尸には切実な理由があるんです。

道教の書物『抱朴子(ほうぼくし)』(4世紀頃)によると、三尸は 宿主である人間が死ぬと、ようやく自由になれる とされています。人間が生きている間は体内に閉じ込められているけれど、死ねば自由に動き回れる「鬼(き)」になれるというわけです。

だからこそ、三尸は人間の早死にを望んでいるんですね。

三尸が人間に害をなす方法は主に2つあります。

  1. 病気や欲望を引き起こす:体を弱らせたり、欲に溺れさせたりして寿命を縮める
  2. 天帝への告げ口:庚申の日に天に昇り、宿主の罪を報告して寿命を削らせる

特に2つ目の「告げ口」は、次に説明する庚申信仰と深く結びついています。


庚申信仰と庚申待 ~眠らずに過ごす夜~

庚申の日とは?

「庚申(こうしん)」とは、十干(じっかん)と十二支を組み合わせた暦の数え方で、 60日に一度めぐってくる特別な日 のことです。

この庚申の日の夜、眠ってしまうと三尸が体から抜け出し、天帝(てんてい=天の最高神)のもとへ行って宿主の悪事を報告してしまいます。報告を受けた天帝は、その人の寿命を縮めてしまうと信じられていました。

庚申待の誕生

「それなら、庚申の夜は眠らなければいいじゃないか!」

そう考えた人々は、庚申の夜を徹夜で過ごすようになりました。これが 「庚申待(こうしんまち)」 という風習です。

ただ、一人で夜通し起きているのは大変ですよね。そこで近所の人たちが集まって一緒に夜を明かす 「庚申講(こうしんこう)」 という集まりが生まれました。

日本への伝来

庚申信仰は中国から日本に伝わり、次のように広まっていきました。

  • 平安時代:貴族の間で庚申待が行われるようになる
  • 江戸時代:民間にも広まり、各地で庚申講が盛んに開催される
  • 現代:各地に「庚申塔」「庚申塚」などの石碑が残っている

ちなみに、庚申待の夜に現れるとされる妖怪 「しょうけら」 も、三尸と関係が深いとされています。
この妖怪は天窓から人を見張り、眠ってしまう人がいないか監視していたとも言われているんです。


三尸を退治する方法 ~仙人への道~

道教では、仙人になるためには三尸を体から追い出す必要があると考えられていました。

この三尸を駆除することを 「消遣(しょうけん)」 といいます。

辟穀(へきこく)という食事法

三尸を退治する代表的な方法が 「辟穀(へきこく)」 という食事療法です。

三尸は穀物から生まれ、穀物を栄養としていると考えられていたため、穀物を断つことで三尸を弱らせようとしたわけですね。

辟穀の具体的な方法は以下の通りです。

  • 穀物を断つ:米、麦、粟などの穀物を食べない
  • ニンニクを避ける:三尸はニンニクを好まないとされるが、仙人修行では断つ
  • 松の実や菊の花を食べる:これらは体を浄化すると考えられていた
  • 最終的には棗(なつめ)の実だけ:修行が進むと食事を極限まで減らす

この修行は数年にわたって続けられ、成功すれば三尸は体から消え去るとされていました。

「仙人は霞(かすみ)を食う」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは呼吸法で「気」を体内に取り込む様子を例えた表現なんです。


まとめ

三尸は、道教の教えに登場する人間の体内に宿る虫で、古代中国から日本まで広く信じられてきた存在です。

重要なポイント

  • 三尸とは:人間の頭・腹・足に住む3種類の虫(上尸・中尸・下尸)
  • 目的:宿主が死ぬと自由になれるため、人間の早死にを望んでいる
  • 害をなす方法:病気や欲望を引き起こし、庚申の日に天帝へ悪事を報告する
  • 庚申信仰:三尸の告げ口を防ぐため、庚申の夜は眠らずに過ごす風習が生まれた
  • 三尸の退治法:穀物を断つ「辟穀」によって体から追い出せるとされた

「虫の居所が悪い」という言葉が、こんな壮大な信仰から生まれていたなんて驚きですよね。

次に60日後の庚申の日がやってきたら、ちょっとだけ三尸のことを思い出してみてください。もしかしたら、あなたの体の中にも住んでいるかもしれませんよ。

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