もし図書館の奥深くに、人間の皮で装丁された本が眠っていたら、あなたはその本を開きますか?
その本には、深海に沈む古代都市の秘密や、恐ろしい神々を呼び出す呪文が記されているかもしれません。クトゥルフ神話に登場する「ルルイエ異本」は、まさにそんな禁断の魔導書なんです。
10万ドルという莫大な金額で取引され、読んだ者を狂気へと導くとされるこの書物は、アメリカの架空の大学図書館に厳重に保管されているといいます。
この記事では、クトゥルフ神話を代表する魔導書「ルルイエ異本」の恐ろしい内容と、それにまつわる数々のエピソードを詳しくご紹介します。
概要:ルルイエ異本ってどんな本なの?

ルルイエ異本(R’lyeh Text)は、クトゥルフ神話作品に登場する架空の魔導書です。
1939年に作家オーガスト・ダーレスが『ハスターの帰還』という小説で初めて登場させました。つまり、クトゥルフ神話の生みの親であるH.P.ラヴクラフトの死後に作られた文献なんですね。
この本の最大の特徴は、深海に沈む都市「ルルイエ」とその主である恐ろしい神「クトゥルフ」について詳しく記されているということです。
クトゥルフ神話には様々な魔導書が登場しますが、ルルイエ異本はクトゥルフ崇拝に特化した重要な文献として位置づけられています。禁断の知識と危険な呪文が詰まった、まさに「読んではいけない本」なんです。
来歴:10万ドルで取引された禁断の書
ルルイエ異本がどのようにしてアメリカに渡ったのか、その経緯はまるで冒険物語のようです。
アジアからアメリカへ
この本を入手したのは、エイモス・タトルというアーカムの老研究家でした。
彼はチベットの奥地からやって来た中国人から、なんと10万ドルという莫大な金額でこの写本を購入したんです。当時としては信じられないような大金ですよね。
購入された本は人間の皮で装丁されており、中国語で書かれていました。原本はさらに古く、人類以前の言語で粘土板に記されていたとされていますが、その実物は既に失われています。
ミスカトニック大学へ寄贈
エイモス・タトルの死後、相続人である甥のポール・タトルによって、この恐ろしい書物はミスカトニック大学附属図書館に寄贈されました。
寄贈されたのは1930年頃とされています。以来、この本は厳重に保管され、限られた研究者だけが閲覧を許される秘密の文献となったのです。
外観:人皮装丁の恐ろしい姿
ルルイエ異本の見た目は、まさに「禁断の書」という言葉がぴったりです。
装丁の特徴
- 装丁材料:人間の皮で作られている
- 記述言語:中国語(現存する写本)
- 原本の言語:人類以前の未知の言語
- 形式:写本(手書きで写された本)
人間の皮で装丁されているという設定は、この本がいかに禁忌的で危険なものかを象徴しています。実際に手に取ったら、ぞっとするような感触なのでしょうね。
別版の存在
ミスカトニック大学に所蔵されている中国語版以外にも、いくつかの異なるバージョンが存在するとされています。
- 巻物形式のもの
- 15世紀の魔術師フランソワ・プレラーティによるイタリア語版
- フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトが所持していたという噂の版
特にイタリア語版については、マルコ・ポーロが中国から持ち帰ったものを翻訳したという説もあり、ヨーロッパにも広まっていた可能性が示唆されています。
内容:記されている知識と呪文

ルルイエ異本には、どんな恐ろしい知識が記されているのでしょうか。
クトゥルフとその眷属
本書の中心となるのは、大いなるクトゥルフについての記述です。
クトゥルフは深海に沈む古代都市ルルイエで眠る巨大な神的存在で、いつか目覚めて世界を支配すると信じられています。
本には以下のような内容が含まれています:
- クトゥルフの出身星「ゾス」についての情報
- クトゥルフの子供たち「父なるダゴン」「母なるハイドラ」の詳細
- クトゥルフを崇拝する「深きものども」の生態
- ムー大陸とルルイエの沈没についての記述
8つの活動拠点
ミスカトニック大学の哲学教授ラバン・シュルズベリィ博士は、この本を詳しく研究し、クトゥルフ教団の活動拠点が世界に8ヶ所あることを突き止めました。
クトゥルフ教団の8つの拠点
- 南太平洋カロリン諸島のポナペを中心とする海域
- マサチューセッツ州インスマスの沖合いを中心とする海域
- ペルーのマチュ・ピチュ要塞を中心とする地底の湖
- 北アフリカおよび地中海沿岸帯
- カナダ北部およびアラスカ
- 大西洋上アゾレス諸島を中心とする海域
- メキシコ湾内の某所を中心とするアメリカ南部一帯
- アラビア南西部、クウェートの砂漠地帯
これらの場所では「深きものども」が活動し、クトゥルフの復活を待ち望んでいるとされているんです。
危険な呪文の数々
ルルイエ異本には、様々な呪文が記されています。
特に有名なのが、『クトゥルフの呼び声』に登場する詠唱文です:
「ふんぐるい むぐるうなふ くとゥるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
この呪文は文章として記録されており、少しでも詠唱すれば直ちに効力を発揮してしまうとされています。詠唱者に何かしらの影響を与え、時には狂気へと導くこともあるそうです。
他にも以下のような呪文が含まれています:
- ヨグ=ソトースを召喚する方法
- 白痴の神アザトースへの呼びかけ
- 異界のものを呼び出す秘術
- クトゥルフの覚醒時に生き延びるための変容の呪文
伝承:研究者たちと危険な書物
ルルイエ異本を巡っては、様々な研究者たちのエピソードが残されています。
ラバン・シュルズベリィ博士の研究
最も有名な研究者が、ラバン・シュルズベリィ博士です。
彼はミスカトニック大学で教鞭を執る哲学教授でしたが、ルルイエ異本を詳細に研究し、「ルルイエ異本を基にした後期原始人の神話の型の研究」という論文を著しました。
この論文によって、クトゥルフ教団の8つの拠点が明らかになったわけですが、博士がその後どうなったかは定かではありません。禁断の知識に触れすぎた代償があったのかもしれませんね。
限られた閲覧者たち
ミスカトニック大学では、この危険な書物の閲覧を厳しく制限していました。
閲覧を許された主な人物
- アサフ・ギルマン教授(抜粋を作成)
- ウィンフィールド・フィリップス(1924年閲覧)
- エイモス・バイパー(1930年~1933年閲覧)
- ハロルド・ハドリー・コープランド教授(太平洋考古学の権威)
興味深いのは、完全版を読むことは許されず、多くの場合は抜粋版が作成されていたことです。全文を読むには危険すぎると判断されていたんですね。
死後寄贈された本
エイモス・タトルのミスカトニック大学所蔵版以外にも、いくつかのルルイエ異本が存在していました。
- ヘンリー・W・エイクリイ(1928年死後寄贈)
- ウィルバー・エイクリイ(1924年死後寄贈)
彼らが生前、どのようにこの本と関わり、どんな運命を辿ったのかは謎に包まれています。
派生作品での活躍
ルルイエ異本は、様々な派生作品にも登場しています。
『Fate/Zero』での描写
日本の小説『Fate/Zero』(2006-2007年、著者:虚淵玄)では、フランスの元帥ジル・ド・レェがフランソワ・プレラーティのイタリア語版ルルイエ異本を所持しているという設定が登場します。
作中では、この本はおぞましさのあまり書物自体が異形の魔物と化しているという恐ろしい描写がなされており、発狂したジル元帥がこの本を使って異界の海魔を召喚する場面があります。
さらに、作中未登場の「螺湮城本伝」(中国語の原典)は、この「螺湮城教本」よりもずっとおぞましいものだという言及もあるんです。
『シャドウハーツ』での設定
ゲーム『シャドウハーツ』(2001年)では、ルルイエ異本に超古代遺跡「ネアム」を浮上させ、宇宙の彼方から外なる神を呼び寄せる方法が記されているという設定になっています。
この神は宇宙生物で、その力は人類を容易く滅ぼし、地球すら破壊しかねないほど強大だとされました。ルルイエ異本自体も「世界の黄金率を歪めかねない危険な書物」として描かれ、元々はバチカンで厳重に封印されていたという設定です。
『ラプラスの魔』での別世界線
山本弘著『ラプラスの魔』(1988年)では、ナポレオンが所持していたという噂のイタリア語版が実際に登場します。
この本と邪神ハスターの影響を受けて、ナポレオンがロシア遠征に勝利し、ラプラスが仏皇帝として三世紀半にわたり君臨するという別の世界線が生まれるという、興味深い展開が描かれています。
まとめ
ルルイエ異本は、クトゥルフ神話を代表する恐ろしい魔導書です。
重要なポイント
- 1939年にオーガスト・ダーレスが創造した架空の魔導書
- 10万ドルで取引され、人間の皮で装丁されている
- 深海の神クトゥルフとその眷属について詳しく記されている
- 世界8ヶ所のクトゥルフ教団の拠点が明記されている
- 詠唱するだけで効力を発揮する危険な呪文が多数含まれている
- ミスカトニック大学に厳重に保管されている
- イタリア語版やナポレオン所持版など複数のバージョンが存在
- 様々な派生作品で重要なアイテムとして登場
もしあなたが古書店で人間の皮で装丁された本を見つけても、決して開いてはいけません。それはもしかしたら、あなたを狂気の深淵へと導くルルイエ異本かもしれないのですから。


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