真夏なのに突然雪が降り始め、海が凍りつき、人々が次々と氷像のように固まっていく…そんな恐ろしい光景を想像できますか?
クトゥルフ神話に登場する邪神「ルリム・シャイコース」は、まさにそんな極寒の死をもたらす存在なんです。巨大な白い蛆虫のような姿で、氷山の要塞に乗って現れ、行く先々を永遠の冬に変えてしまう恐るべき旧支配者。
この記事では、クラーク・アシュトン・スミスが生み出した氷の邪神ルリム・シャイコースについて、その恐ろしい姿から最期まで、分かりやすく解説していきます。
概要

ルリム・シャイコース(Rlim Shaikorth)は、クトゥルフ神話に登場する極寒と死を司る邪神です。
1941年にクラーク・アシュトン・スミスの短編小説『白蛆の襲来』で初めて登場し、その圧倒的な存在感から、クトゥルフ神話ファンの間で「最も恐ろしい旧支配者の一柱」として知られています。
この邪神の最大の特徴は、巨大な氷山「イイーキルス」に乗って海を移動することなんです。そして行く先々で極寒の冷気をまき散らし、あらゆるものを永遠に溶けない氷に変えてしまうという、まさに「歩く氷河期」のような存在。
『エイボンの書』第9章にその存在が記されており、はるか昔から何度も地球に襲来していたとされています。世界の古さを越えた千古の存在で、北限を越えた向こうの空間、極地の深淵からやってきたと伝えられているんですね。
系譜
ルリム・シャイコースの起源や系譜については、いくつかの説があります。
独立した邪神説
スミスの原作では、ルリム・シャイコースは他の旧支配者とは異なる独立した存在として描かれています。実際、作中に登場する魔術師たちは元々「旧支配者」を崇拝していたのに、ルリム・シャイコースに強制的に改宗させられているんです。
これは、ルリム・シャイコースが既存の神々とは別系統の、より原初的な存在である可能性を示唆しています。
アフーム=ザーの従者説
後にリン・カーターが書いた続編『極地からの光』では、新しい設定が追加されました。
- アフーム=ザー(極地の主)の従者
- 炎の神クトゥグアと対をなす冷気の神の配下
- 「冷たきもの(イーリディーム)」たちの頭領
この設定では、ルリム・シャイコースは独立した邪神ではなく、より上位の存在に仕える強力な従者という位置づけになっています。
姿・見た目
ルリム・シャイコースの姿は、一言で言えば「悪夢のような巨大な白い蛆虫」です。
基本的な外見
『白蛆の襲来』での描写によると:
- 全体像:ゾウアザラシよりも巨大な、太った白い蛆虫
- 体勢:半ばとぐろを巻いている
- 色:全体的に青白く、病的な白さ
顔の特徴(最も恐ろしい部分)
頭部は特に異様で、こんな特徴があります:
- 円盤状の顔:肉厚な白い円盤のような形
- 口:顔の端から端まで裂けた巨大な口(舌も歯もない)
- 眼窩:左右に寄り合った眼窩があるが、眼球はない
- 赤い涙:眼窩から血のように赤い球体が次々と生まれ、滴り落ちる
この赤い球体は床に落ちて、赤紫色の石筍のように堆積していくという、なんとも不気味な光景を作り出すんです。
サイズ感
具体的な大きさは明記されていませんが、「ゾウアザラシよりも大きい」という表現から、最低でも体長4〜5メートル以上はあると推測されます。しかも、魔術師を食べるごとに太っていくという恐ろしい性質も…。
特徴

ルリム・シャイコースには、他の邪神にはない独特の能力と行動パターンがあります。
主要な能力
極寒の冷気
- 周囲の温度を瞬時に極低温まで下げる
- 冷光を放ち、浴びた者を即座に凍結させる
- 凍った者は永遠に溶けない氷になる
魔術の全能性
- あらゆる魔術において全知全能に近い力
- 熟練の魔術師でも全く抵抗できない
生物の変容
- 強力な魔術師を「イーリディーム(冷たきもの)」に変える
- 変容した者は極寒の環境でしか生きられなくなる
氷山要塞イイーキルス
ルリム・シャイコースが乗る巨大な氷山イイーキルスも、ただの乗り物ではありません:
- サイズ:港一つを越える規模の大氷山
- 移動能力:風や潮の流れに逆らって自在に航行
- 冷光照射:万物を瞬時に凍結させる死の光を放つ
- 射程距離:海上から内陸部まで届く長距離攻撃が可能
- 同化能力:凍結した船舶を取り込んで土台の一部にする
行動パターン
興味深いことに、ルリム・シャイコースには明確な行動サイクルがあるんです:
- 魔術師の選別:各地から強力な魔術師を集める
- 虚偽の約束:崇高な存在への昇華を約束する
- 新月の休眠:新月の間は完全に眠り込む
- 捕食:休眠前夜に魔術師を一人ずつ食べる
弱点
無敵に見えるルリム・シャイコースにも、実は致命的な弱点があります:
- 新月の間だけ無防備になる
- 脇腹が急所(剣で貫かれると致命傷)
- 傷つけると黒い腐食性の液体が噴出する
- この液体は煮えたぎり、イイーキルスを崩壊させる
伝承
『白蛆の襲来』での物語
ルリム・シャイコースの最も有名な伝承は、スミスの『白蛆の襲来』に記されています。
ハイパーボリア大陸への襲来
物語は、ムー・トゥラン半島で起きた異常気象から始まります。真夏なのに突然の寒波、凍りついた船員たち…これらはすべて、ルリム・シャイコースの接近を告げる前兆だったんです。
魔術師エヴァグの運命
主人公の魔術師エヴァグは、他の7人の魔術師と共にイイーキルスに連れ去られます。最初は「選ばれた者」として特別扱いされているように見えましたが、実は恐ろしい真実が…。
仲間が一人、また一人と消えていき、最後に残されたエヴァグは、新月の夜に恐ろしい事実を知ります。消えた仲間たちは、実はルリム・シャイコースに食べられていたんです!
英雄的な最期
真実を知ったエヴァグは、自分も必ず死ぬと知りながら、ルリム・シャイコースの脇腹に剣を突き立てます。傷口から噴き出した黒い液体がイイーキルスを崩壊させ、ルリム・シャイコースは滅びました。
エヴァグも巻き込まれて命を落としますが、彼の犠牲によってハイパーボリアは救われたんです。
その他の伝承
預言者リスの警告
古い預言には「極寒の地に住むものあり。何びとも息できぬ場所にて息するものあり」という不吉な言葉が残されています。これはルリム・シャイコースの到来を予言したものだと考えられています。
エイボンによる記録
後に魔術師エイボンが、エヴァグの亡霊を呼び出してこの物語を聞き取り、『エイボンの書』に記録しました。この書物が中世フランスに伝わり、現在まで伝承が残ることになったんですね。
出典
ルリム・シャイコースが登場する作品をご紹介します。
主要作品
『白蛆の襲来』(1941年)
- 作者:クラーク・アシュトン・スミス
- 初出誌:『スターリング・サイエンス・ストーリーズ』
- ルリム・シャイコース初登場作品
『極地からの光』(1980年)
- 作者:リン・カーター
- アフーム=ザーとの関係が明かされる続編
関連文献
- 『エイボンの書』:ルリム・シャイコースの記述がある架空の魔道書
- 『妖蛆の秘密』:邦訳名が『白蛆の襲来』から影響を受けた文献
まとめ
ルリム・シャイコースは、クトゥルフ神話の中でも特に恐ろしい存在として記憶される邪神です。
重要ポイント
- 巨大な白い蛆虫の姿をした氷の邪神
- 眼窩から赤い球体を垂れ流す不気味な顔
- 巨大氷山イイーキルスに乗って海を移動
- 永遠に溶けない氷で万物を凍結させる
- 魔術師を騙して食料として集める狡猾さ
- 新月の休眠中だけが唯一の弱点
- 英雄エヴァグの犠牲によって滅ぼされた
極寒の恐怖を具現化したようなルリム・シャイコース。その圧倒的な力と恐ろしい性質は、今もクトゥルフ神話ファンを魅了し続けています。
もし真夏に急な寒波を感じたら…それはもしかして、どこかでルリム・シャイコースが目覚めた証かもしれませんね。


コメント