カリーンとは?イスラム世界の「もう一人の自分」がささやく存在

神話・歴史・文化

「あなたには、生まれた時から死ぬまでついてくる”もう一人の自分”がいる」

そんな話を聞いたら、ちょっとゾッとしませんか?
実はイスラム世界には、人間一人ひとりに「カリーン」と呼ばれる精霊が割り当てられているという信仰があるんです。

この記事では、カリーンとは何か、どんな存在なのかをわかりやすく解説していきます。


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カリーンの基本情報

カリーン(アラビア語: قرين, qarīn)は、「永遠の伴侶」「常に一緒にいる者」という意味を持つ言葉です。
イスラムの教えでは、すべての人間に生まれた時からジン(精霊)の一種であるカリーンが割り当てられ、その人が死ぬまでずっと付き添っているとされています。

面白いのは、カリーンの語源ですね。
アラビア語の動詞「カラナ(qarana)」には「結びつける」「つなぐ」という意味があり、人間とカリーンの切っても切れない関係を表しているんです。


カリーンの正体

ジンの一種?それとも別の存在?

カリーンはジン(精霊)に分類されることが多いのですが、厳密には少し違う存在です。

ジンは「煙のない炎」から作られた目に見えない生き物で、人間と天使の中間に位置する存在とされています。
カリーンはそんなジンの特性を持ちながらも、「人間のドッペルゲンガー(分身)」「もう一人の自分」という独特な性質を持っているんですね。

ペルシャ語では「ハムザード(همزاد)」と呼ばれ、これはまさに「ドッペルゲンガー」を意味します。

善か悪か?

カリーンの性質については、イスラムの学者たちの間でも意見が分かれています。

悪の存在という説
多くのイスラム学者は、カリーンは基本的にシャイターン(悪魔)の一種で、人間に悪い考え(ワスワース)をささやき、善行から遠ざけようとする存在だと考えています。

善悪両方という説
一方で、イブン・ハンバル(9世紀のイスラム学者)は「人間には悪魔からのカリーンと、天使からのカリーンの両方がいる」と述べています。
善いことを勧める天使と、悪いことをそそのかす悪魔が、常に人間の心の中で綱引きをしているというわけですね。


預言者ムハンマドとカリーン

イスラムの伝承(ハディース)には、興味深い記述があります。

ある時、預言者ムハンマドは弟子たちにこう言いました。

「あなたがたの中で、ジンからの伴侶(カリーン)を割り当てられていない者は一人もいない」

弟子たちは驚いて尋ねました。

「あなたもですか、アッラーの使徒よ?」

ムハンマドはこう答えました。

「私にもだ。しかしアッラーは私を助けてくださり、彼はイスラム教徒になった(あるいは、私は彼から安全である)。だから彼は私に善いことしか勧めない」

この伝承から、預言者のカリーンだけが改心してイスラム教徒になったとも解釈されています。
これはムハンマドが「完璧な人間(インサーン・カーミル)」に到達した証とも言われているんです。


カリーンの能力

カリーンには、いくつかの特殊な能力があるとされています。

人生のすべてを知っている

カリーンは人間が生まれた時から死ぬまでずっと一緒にいます。
そのため、その人の人生で起こったすべてのこと——幼少期の出来事、秘密の行動、心の中の考えまで——を知っているんです。

ささやきの力

カリーンは直接人間を操ることはできませんが、「ワスワース」と呼ばれるささやきを通じて、人間の心に影響を与えることができます。
欲望をかき立てたり、疑念を植え付けたり、不安を増幅させたり。
でも最終的に行動を決めるのは人間自身であり、カリーンはあくまで「そそのかす」だけなんですね。

変身能力

一部の伝承によると、カリーンは猫や犬の姿に変身できるとも言われています。
特にエジプトでは、コプト教徒もムスリムも同様に、カリーンが夜になると動物に姿を変えると信じているそうです。


占い師とカリーンの関係

カリーンに関する興味深い話の一つが、占い師との関係です。

イスラムの伝承によると、占い師が見知らぬ人の過去を詳しく言い当てられるのは、カリーンの情報を利用しているからだとされています。

占い師は自分のジンを、相談者のカリーンのもとへ送ります。
カリーンはその人の人生をすべて知っているので、ジンを通じて情報が占い師に伝わる——というわけです。

ただし、イスラム教では占いは禁じられた行為とされています。
ムハンマドは「占い師のもとへ行く者は、40日間の礼拝が受け入れられなくなる」と警告したと伝えられています。


カリーンと似た概念

カリーンの概念は、実はイスラム以前から中東地域に存在していました。
古代の信仰とのつながりを見てみましょう。

古代エジプトの「カー」

エジプトでは特にカリーン信仰が盛んですが、これは古代エジプトの「カー(ka)」の概念に影響を受けている可能性があります。
カーは人間の「霊的な本質」や「生命力」を意味し、死後も存在し続けると信じられていました。

ギリシャの「ダイモーン」

古代ギリシャには「ダイモーン」という概念がありました。
これは人間に付き添い、運命を導く精霊的な存在です。
哲学者ソクラテスは、自分にはダイモーンがいて、間違った行動を取ろうとすると警告してくれると語っていたそうです。

キリスト教の「守護天使」

キリスト教の守護天使の概念とも類似点があります。
ただし、守護天使が基本的に善の存在であるのに対し、カリーンは悪の傾向が強いとされる点が大きな違いですね。


カリーンから身を守る方法

イスラム教では、カリーンの悪影響から身を守る方法がいくつか教えられています。

コーランの朗唱
特に「アーヤト・アル=クルスィー(玉座の節)」やクルアーンの最後の2つのスーラ(章)を唱えることが効果的とされています。

アッラーに庇護を求める祈り
「私はアッラーに悪魔のささやきから庇護を求めます」という祈りが推奨されています。

善行を心がける
日々の善行と信仰を深めることで、カリーンの悪影響を最小限に抑えられると言われています。


カリーンにまつわる民間信仰

学術的なイスラム神学とは別に、各地域には独自のカリーン信仰があります。

エジプトの習慣

エジプトでは、妊婦が出産の3ヶ月前にシェイハ(女性の宗教指導者)を訪ね、自分のカリーナ(女性形)が赤ちゃんに害を与えないよう、護符や儀式について相談することがありました。
こうした儀式には「7」という数字がよく使われたそうです。

詩人とカリーン

イスラム以前のアラビアでは、カリーンは詩人にインスピレーションを与える存在として捉えられていました。
優れた詩を詠む詩人は、カリーンから霊感を受けていると考えられていたんですね。


ポップカルチャーでのカリーン

現代のエンターテインメントでも、カリーンは時々登場します。

アメリカのドラマ「スーパーナチュラル」では、カリーンが人間の最も深い欲望の姿に変身し、誘惑して殺す怪物として描かれました。
伝承とはかなり異なる解釈ですが、「人間の欲望に関わる存在」という点は原典を反映しているとも言えますね。


まとめ

カリーンについて、ポイントをまとめると以下のようになります。

  • カリーンは「永遠の伴侶」を意味し、すべての人間に生まれた時から割り当てられているジンの一種
  • 基本的には人間を悪に誘う存在だが、天使のカリーンもいるという説もある
  • 預言者ムハンマドのカリーンだけがイスラム教徒になったとされる
  • 占い師はカリーンの知識を利用して情報を得ると言われている
  • 古代エジプトの「カー」やギリシャの「ダイモーン」と類似した概念
  • コーランの朗唱や祈りで悪影響から身を守れるとされている

「もう一人の自分」が常にそばにいて、心の中でささやいている——
そう考えると、自分の中の「悪い考え」の正体が見えてくるような気もしますね。

イスラム世界では、そんなカリーンのささやきに負けず、善い行いを選び続けることが、人間としての試練なのかもしれません。


カリーン関連用語一覧

用語読み方説明
カリーンقرين (qarīn)人間に割り当てられた伴侶のジン。「永遠の伴侶」の意
ハムザードهمزادペルシャ語でカリーンを指す。「ドッペルゲンガー」の意
ワスワースوسواسカリーンが人間にささやく「悪い考え」
ジンجن (jinn)煙のない炎から作られた精霊の総称
シャイターンشيطان悪魔。悪のジンを指すこともある
カリーナقرينةカリーンの女性形。女性のカリーンを指す
イブリースإبليسジンたちの長。アダムに跪くことを拒否して天界から追放された
マジュヌーンمجنونジンに取り憑かれた人。転じて「狂人」の意味も
カーka古代エジプトの「霊的本質」の概念。カリーン信仰に影響を与えた可能性がある
ダイモーンδαίμων古代ギリシャの守護精霊。カリーンと類似した概念

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