都市伝説 ポリビアス|プレイヤーを狂わせた幻のアーケードゲームの謎

神話・歴史・文化

「プレイすると記憶を失う」「黒服の男たちがデータを回収していた」「政府の洗脳実験だった」——。
そんな恐ろしい噂とともに語り継がれるアーケードゲームがあります。

その名は『ポリビアス(Polybius)』。
1981年にアメリカで突如現れ、わずか1ヶ月で姿を消したとされる伝説のゲームです。

果たしてこのゲームは本当に存在したのでしょうか?
この記事では、ゲーム史上最も有名な都市伝説「ポリビアス」の全貌に迫ります。


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ポリビアスとは?伝説の概要

ポリビアスは、1981年にアメリカ・オレゴン州ポートランドのゲームセンターに突如として現れたとされるアーケードゲームです。

伝説によると、このゲームは『テンペスト』に似たシューティングゲームで、幾何学模様とサイケデリックな映像が特徴でした。
しかし、ただのゲームではありませんでした。

プレイした人々は次々と異常な症状を訴えたといいます。

  • 記憶喪失
  • 激しい頭痛
  • 悪夢や夜驚症
  • 幻覚
  • ゲームへの異常な中毒
  • 自殺願望

それなのに、ゲームの前には長蛇の列ができ、順番を巡って喧嘩まで起きたとか。
まるで呪われたゲームのようですね。


黒服の男たちの存在

ポリビアス伝説を一層不気味にしているのが、「黒服の男たち(メン・イン・ブラック)」の存在です。

伝説では、定期的に黒いスーツを着た謎の男たちがゲームセンターを訪れていたとされています。
彼らはゲームの筐体からお金ではなく「データ」を回収していたというのです。

普通のゲーム会社の調査員とは明らかに様子が違う。
この目撃証言が、「政府の秘密実験」という陰謀論に火をつけました。


開発元「Sinneslöschen」の謎

ポリビアスの開発元は「Sinneslöschen(ジネスレーシェン)」という会社だとされています。

この名前、実はドイツ語で「感覚を消す」「感覚の削除」という意味になります。
ゲームで洗脳実験をしていたなら、ずいぶんと直球なネーミングですよね。

ただし、この会社が実在した記録は一切見つかっていません。
さらに、ドイツ語としても文法的に不自然で、ドイツ語を話さない人が辞書で単語を組み合わせて作ったような言葉だと指摘されています。


MKウルトラ計画との関連性

ポリビアスが政府の実験だったという説には、ある背景があります。

1950年代から1960年代にかけて、CIAは「MKウルトラ計画」という極秘プロジェクトを実施していました。
LSDなどの薬物、催眠術、電気ショックなどを使い、人間の心を操る方法を研究していたのです。

この計画では、大学や病院、刑務所で本人の同意なしに実験が行われたこともありました。
1973年に証拠文書の大半が破棄されましたが、1977年に一部が発見され、その恐ろしい実態が明らかになりました。

「ゲームを使った心理実験」という発想は、こうした時代背景があったからこそ生まれたのかもしれません。


伝説の起源はどこにある?

最初の記録

ポリビアスに関する最も古い記録は、2000年2月6日にアーケードゲームのデータベースサイト「coinop.org」に登録されたエントリーです。

そこには「1981年著作権」と書かれていましたが、アメリカ政府の記録にそのような著作権登録は存在しません。
投稿者はゲームのROMイメージを持っていると主張し、「1981 Sinneslöschen」というテキストを抽出したと述べています。

メディアでの言及

最初の活字媒体での言及は、2003年9月号のゲーム雑誌『GamePro』です。
「Secrets and Lies(秘密と嘘)」という特集記事で、ポリビアスの存在は「真偽不明」と結論づけられました。

注目すべきは、1980年代の当時のゲーム雑誌や新聞には、ポリビアスに関する記述が一切存在しないことです。


伝説が生まれた背景

実際に起きた事件

調査によると、ポリビアス伝説は1981年にポートランドで実際に起きたいくつかの出来事が混ざり合って生まれた可能性があります。

同じ日に起きた2つの事件

1981年、ポートランドのあるゲームセンターで同じ日に2人が体調を崩しました。
1人はアタリの『テンペスト』をプレイした後に激しい偏頭痛で倒れました。
もう1人は世界記録に挑戦するため『アステロイド』を28時間プレイし続け、胃痙攣で倒れたのです。

FBIの捜査

その10日後、FBIがポートランドのいくつかのゲームセンターを捜査しました。
オーナーたちがゲーム機を違法な賭博に使っていた疑いがあったためです。

捜査官たちは事前に筐体を監視し、ハイスコアを記録していたといいます。
これが「黒服の男がデータを収集していた」という噂の元になったのかもしれません。

類似ゲームとの混同

当時はいくつかの変わったゲームも存在していました。

『キューブ・クエスト(Cube Quest)』は1983年発売のレーザーディスクを使ったシューティングゲームで、シュールな映像が特徴でした。
レーザーディスクが頻繁に故障するため、技術者が定期的に筐体を訪れ、短期間で撤去されることもありました。

この『キューブ・クエスト』を「ポリビアス」と混同している可能性も指摘されています。


真相:ポリビアスは存在したのか?

結論から言うと、ポリビアスが1980年代に実在した証拠は一切見つかっていません

  • 当時のゲーム雑誌に記載なし
  • 新聞報道なし
  • 著作権登録なし
  • ROMイメージ発見されず
  • 実機の筐体発見されず

ファクトチェックサイト「Snopes」は、この都市伝説を「1980年代の黒服の男の噂が現代に形を変えて復活したもの」と分析しています。

イギリスの映画制作者スチュアート・ブラウンは詳細な調査を行い、「ポリビアス伝説が2000年以前に存在した証拠は見つからなかった」と結論づけました。
彼は、この都市伝説がcoinop.orgの所有者によってサイトへの誘導目的で作られた可能性を指摘しています。


名前の由来

ゲームの名前「ポリビアス」は、古代ギリシャの歴史家ポリュビオス(紀元前200年頃)に由来するとされています。

興味深いことに、この歴史家には以下の特徴がありました。

  • 「アルカディア」地方の出身(ゲーム用語の「アーケード」を連想させる)
  • 暗号学やパズルの研究で知られる(「ポリュビオスの暗号表」の考案者)
  • 「証人への取材で確認できないことは報告すべきではない」という信条の持ち主

名前の選び方にもどこか皮肉が効いていますね。


ポップカルチャーへの影響

ポリビアスは実在しないにもかかわらず、その伝説は現代のポップカルチャーに大きな影響を与えています。

映画・テレビ

  • 『ザ・シンプソンズ』(2006年)のエピソード「Please Homer, Don’t Hammer ‘Em」では、アーケードの背景にポリビアスの筐体が登場。「U.S. GOVERNMENT PROPERTY(米国政府所有物)」と書かれています。
  • 『ロキ』(2021年)にも筐体が登場し、陰謀論をテーマにした作品らしい演出として話題になりました。
  • 『ゴールドバーグ家のニッポン!』(2013年〜)の複数のエピソードに登場。
  • 『Paper Girls』(2022年)では、1980年代SFの雰囲気を出すための小道具として使用されました。

小説

アーネスト・クラインの小説『アルマダ』では、ビデオゲームが政府の訓練ツールだったという設定が描かれ、ポリビアスも言及されています。

実際に制作されたゲーム

伝説に触発されて、実際にポリビアスを名乗るゲームがいくつか作られました。

2007年版
フリーウェア開発者Rogue Synapseが、都市伝説で語られる内容を再現したゲームを制作。トリップするような映像とサブリミナルメッセージを含んでいます。

2017年版(PS4/Steam)
ゲーム開発者ジェフ・ミンターが手がけたシューティングゲーム。PlayStation VR対応で、120fpsの高速映像とサイケデリックなビジュアルが特徴です。
ミンターは当初「イギリスのベイジングストークで本物のポリビアスをプレイしたことがある」と主張していましたが、後にこれ自体が都市伝説への「貢献」だったと認めました。


まとめ

ポリビアスについて、わかっていることを整理しましょう。

  • 1981年にオレゴン州ポートランドで現れたとされる伝説のアーケードゲーム
  • プレイヤーが記憶喪失や幻覚などの症状を訴えたと言われる
  • 黒服の男たちがデータを回収していたという噂がある
  • 開発元は「Sinneslöschen」(ドイツ語で「感覚の削除」の意)
  • 政府のマインドコントロール実験(MKウルトラ計画)との関連が疑われた
  • しかし、1980年代に実在した証拠は一切見つかっていない
  • 最初の言及は2000年のウェブサイト投稿
  • 複数の実際の事件が混ざり合って生まれた都市伝説の可能性が高い

ポリビアスは「存在しなかった最も危険なゲーム」として、ゲーム史に刻まれています。

ポートランドの歴史家ジョー・ストレッカートはこう表現しています。
「H.P.ラヴクラフトの『ネクロノミコン』が書物にとっての存在であるように、ポリビアスはビデオゲームにとっての存在だ」

存在しないからこそ、人々はその謎に惹かれ続ける。
それが都市伝説の魔力なのかもしれません。


参考情報

  • Wikipedia「Polybius (urban legend)」
  • Snopes「Polybius」
  • Skeptoid Podcast #285「Polybius: Video Killer」(Brian Dunning)
  • coinop.org「Polybius」エントリー
  • GamePro 2003年9月号「Secrets and Lies」
  • Portland Monthly「Polybius: The Most Dangerous Arcade Game in the World」(2017年)

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