砂漠から吹いてくる熱い風に乗って、病気が広がったことはありませんか?
古代メソポタミアの人々は、この恐ろしい熱風の正体を知っていました。
それは4枚の翼を持つ恐ろしい悪魔「パズズ」の仕業だったのです。
病をまき散らす魔王として恐れられる一方で、なぜか他の悪魔を追い払う力も持っているという、不思議な存在でもありました。
この記事では、古代メソポタミアで最も恐れられた風と病の魔王「パズズ」について、その恐ろしい姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

パズズ(Pazuzu)は、古代メソポタミアやアッシリアの神話に登場する風と病の悪魔です。
紀元前1000年頃のアッカド・バビロニア時代から信仰されていた存在で、「西風の息子」とも呼ばれています。
メソポタミア地方では、南東のペルシア湾から吹いてくる熱風が病気を運んでくると信じられており、その風を支配するのがパズズだったんです。
面白いことに、パズズは恐ろしい悪魔でありながら、同時に崇拝の対象でもありました。
というのも、パズズより弱い悪魔や病魔を追い払う力があると信じられていたからなんです。
まさに「毒をもって毒を制す」という考え方ですね。
姿・見た目
パズズの姿は、まさに悪魔そのもの。複数の動物が合体したような恐ろしい姿をしています。
パズズの身体的特徴
- 頭部:ライオンのような顔、額に2本の角
- 翼:背中に2対(4枚)の鳥の翼
- 腕と手:ライオンの前足
- 足:ワシの鋭い鉤爪
- 尾:サソリの尾
- その他:蛇の頭のような男根を持つという説も
有名なパズズ像
ルーブル美術館に所蔵されている青銅製のパズズ像が最も有名です。この像は紀元前7世紀頃のもので、うろこのある人間の体にライオンの顔、そして恐ろしい形相をしています。
顔はいつもしかめっ面で、見る者を威嚇するような表情。この異様な姿は、当時の人々にとって病気や災いの恐怖を具現化したものだったのでしょう。
特徴

パズズには、風の悪魔ならではの恐ろしい力があります。
主な能力と性質
熱風を操る力
パズズは南東から吹く熱風を自在に操ります。メソポタミアでは、この風は砂漠から来る焼けつくような風で、すべてを焼き焦がすほどの威力があったんです。
病気をもたらす
熱風とともに疫病を運んでくるのがパズズの最も恐ろしい能力です。パズズの風に当たった人は、激しい頭痛や吐き気に苦しめられたといいます。特に恐れられたのは熱病で、なかなか治らない病気として人々を苦しめました。
神々にも屈しない強さ
普通の悪魔は最終的に神々に従うものですが、パズズは違いました。神々に対しても災いをもたらし、決して屈することがなかったという、まさに真の魔王だったんです。
弱い悪魔を追い払う
これが最も興味深い特徴です。パズズは他の病魔や悪魔よりも強力なため、逆にパズズに祈ることで、格下の悪魔を追い払えると信じられていました。
伝承
パズズにまつわる伝承で特に有名なのが、その二面性についての話です。
病をもたらす恐怖の存在
古代シュメール人たちは、パズズがもたらす災厄を本当に恐れていました。農作物を枯らし、家畜を殺し、人々に病気をもたらす存在として、様々な呪文や儀式でパズズから身を守ろうとしたんです。
特に恐れられたのは、パズズが引き起こすとされた「風しもの」という病気。これは寄生虫を伴い、足に激痛を与える恐ろしい病で、当時の医術では治すのが困難だったそうです。
ラマシュトゥとの関係
パズズには「ラマシュトゥ」という妻がいました。彼女もまた恐ろしい病魔で、人間の体にライオンの頭、ロバの歯を持つという異形の姿をしていたんです。
ラマシュトゥは特に妊婦や新生児に病をもたらし、子供をさらうと恐れられていました。パズズとラマシュトゥが力を合わせれば、人間などひとたまりもなかったでしょう。
守護神としての側面
一方で、パズズを味方につけようとする人々もいました。病封じの護符にパズズの姿を描いたり、パズズに供物を捧げたりすることで、他の悪魔から身を守ろうとしたんです。
実際、発掘された遺物の中には、パズズの姿が彫られた護符が数多く見つかっています。これらは病気から身を守るお守りとして使われていたと考えられています。
現代の創作での登場
1977年の映画『エクソシスト2』では、パズズはイナゴの悪魔として描かれました。風に乗って飛来し、すべてを食い尽くすイナゴの群れと、熱風をもたらすパズズのイメージが重ね合わされたんですね。
起源

パズズという悪魔が生まれた背景には、古代メソポタミアの自然環境が深く関わっています。
自然現象の擬人化
メソポタミア地方では、ペルシア湾から吹く南東の風は本当に恐ろしいものでした。この熱風は作物を枯らし、病気を運んでくると考えられていたんです。
古代の人々は、この説明のつかない自然の脅威を理解するために、それを悪魔の仕業として擬人化しました。それがパズズの始まりだったのかもしれません。
バッタの大群説
興味深い説として、パズズの正体は「蝗害(こうがい)」、つまり大量発生したバッタの群れだったという説があります。
バッタの大群は風に乗って移動し、農作物を食い尽くして去っていきます。その被害の凄まじさと、どこから来てどこへ行くか分からない不気味さが、翼を持つ悪魔パズズのイメージにつながったのかもしれません。
征服された民族の神説
また、パズズはもともとシュメール人に征服された古い民族が崇拝していた神だったという説もあります。征服者であるシュメール人にとって、敵の神は悪魔として描かれることが多かったんです。
しかし、その力があまりにも強大だったため、完全に否定することはできず、「恐ろしいが、時には役に立つ存在」として信仰が残ったのかもしれません。
まとめ
パズズは、古代メソポタミアで最も恐れられた風と病の魔王です。
重要なポイント
- 紀元前1000年頃から信仰された古代の悪魔
- ライオン、ワシ、サソリなど複数の動物が合体した恐ろしい姿
- 熱風を操り、疫病をまき散らす力を持つ
- 神々にも屈しない強大な魔王
- 弱い悪魔を追い払う守護神的な側面も持つ
- 自然災害への恐怖が生み出した存在
パズズは単なる悪魔ではなく、古代の人々が自然の脅威と向き合うために生み出した、複雑で興味深い存在だったんです。
恐怖の対象でありながら、時には頼りにもされる。
そんな二面性を持つパズズは、人間と自然との関係を象徴する存在なのかもしれませんね。
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