もしあなたのお腹から、自分が話していないのに勝手に声が聞こえてきたら、どう思うでしょうか?
江戸時代の人々にとって、それは恐ろしい妖怪による奇病の症状でした。
それは人間の体に入り込んで病気を引き起こす「応声虫(おうせいちゅう)」という怪虫の仕業だったのです。
この記事では、人体に住み着く謎の妖怪「応声虫」について詳しくご紹介します。
基本情報
応声虫(おうせいちゅう) は、人間の体の中に入り込んで奇妙な病気を引き起こす怪虫です。
もともとは中国の古い説話集『朝野僉載(ちょうやせんさい)』や『文昌雑録(ぶんしょうざつろく)』に記録されていた存在で、日本にも伝わりました。
応声虫の基本情報
- 分類:怪虫・寄生する妖怪
- 出典:中国の古典『朝野僉載』『本草綱目』など
- 日本での記録:『新著聞集』『塩尻』『閑田次筆』など
- 別名:応声(おうせい)
- 引き起こす病気:応声虫病
応声虫は、単なる妖怪ではなく「病気を引き起こす怪虫」として語られています。
現代の研究者は、実際の寄生虫(回虫など)の症状を元にした説話だと考えているんです。
この不思議な虫がどんな姿をしているのか、詳しく見ていきましょう。
姿・見た目
応声虫の姿は、体内にいる時と体外に出てきた時で大きく異なります。
体内での様子
応声虫が人の体に入ると、お腹に不気味なできものを作ります。
できものの特徴
- 最初は普通のできもの
- だんだん 人間の顔のような形 になる
- 口のような部分 ができる
- その口で話したり食べたりする
このできものの口が、まるで生きているかのように動くのが最も恐ろしい特徴です。
体外に出てきた時の姿
治療によって体から出てきた応声虫は、想像以上に大きな生き物でした。
実際の記録による姿
- 長さ:一尺二寸(約33センチメートル)
- 形:トカゲのような姿
- 頭:角が1本または2本生えている
- 色:記録によって様々
江戸時代の『新著聞集』では、まるで小さな怪獣のような姿で描かれています。
出てきた瞬間は生きており、逃げ出そうとしたという記録もあるんです。
このような奇怪な姿の応声虫には、どんな特徴があるのでしょうか。
特徴
応声虫には、他の妖怪とは全く違う独特な特徴があります。
病気の進行パターン
応声虫による病気は、段階を追って症状が現れます。
症状の流れ
- 高熱期(約10日間)
- 突然の高熱に襲われる
- 原因不明の体調不良
- できもの発生期
- お腹に奇妙なできものができる
- だんだん大きくなっていく
- 活動期
- できものが人の顔のような形になる
- 口ができて話し始める
お腹の口の恐ろしい行動
できものの口は、まるで別の生き物のように振る舞います。
口の特徴的な行動
- 口まね:患者が話した言葉をそのまま繰り返す
- 食事要求:自分から食べ物をねだる
- 実際に食事:口から直接食べ物を食べる
- 罵声:食べ物を拒否されると大声で悪口を叫ぶ
治療への反応
応声虫は特定の薬を嫌がることが分かっています。
治療方法
- 様々な薬をできものの口に飲ませる
- 嫌がって飲まない薬を特定する
- その薬を調合して飲ませ続ける
- 虫が弱って肛門から出てくる
この治療法は、まるで虫の好き嫌いを調べる実験のようですね。
これらの特徴を持つ応声虫には、どんな伝承が残されているのでしょうか。
伝承
応声虫については、江戸時代の文献にいくつかの興味深い事例が記録されています。
元禄16年の京都事件
最も有名なのが、元禄16年(1703年)の京都で起きた事件です。
屏風屋七左衛門の息子・長三郎の事例
- 突然の高熱に襲われる
- お腹に人間の顔のようなできものが発生
- そのできものが話したり食べたりするようになる
- 食べ物を控えると大声で暴れる
治療と完治
- 名医が様々な薬を試す
- できものが嫌がる薬を調合
- 10日後、肛門から約33センチの怪虫が出現
- 角の生えたトカゲのような姿
- すぐに打ち殺され、4ヶ月後に患者は完全回復
元文3年の見世物騒動
『閑田次筆』には、応声虫が見世物になりそうになった珍しい話があります。
奥丹波の女性の事例
- 見世物業者が応声虫の噂を聞きつける
- 商談のため女性の家を訪問
- 確かにお腹から声が聞こえてくる
- 夫は「寺参りで恥をかいた」と見世物を断る
この話からは、当時の人々が応声虫をどれほど恥ずかしい病気だと考えていたかが分かります。
まとめ
応声虫は、日本の妖怪の中でも特に興味を引く存在です。
応声虫の重要ポイント
基本情報
- 中国由来の怪虫で、人体に寄生する妖怪
- 江戸時代の文献に詳しい記録が残る
- 応声虫病という特殊な病気を引き起こす
症状と特徴
- 高熱の後、お腹に人の顔のようなできものができる
- そのできものが話したり食べたりする
- 治療により体から排出される
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