【麻糸を紡ぐ謎の鬼女】妖怪「苧うに(おうに)」とは?その姿・特徴・伝承をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

夜、女たちが集まって麻糸を紡いでいると、突然どこからともなく現れて「俺も手伝ってやる」と言い出す不思議な老婆…。

江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕が描いた妖怪画には、こんな不気味な存在が残されています。

全身が毛に覆われ、まるで麻糸の束のような髪をした「苧うに」という妖怪なんです。

この記事では、謎に包まれた妖怪「苧うに」について、その正体や山姥との関係を詳しくご紹介します。

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概要

苧うに(おうに)は、江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕が『画図百鬼夜行』で描いた妖怪です。

石燕は絵だけを残して何の解説も書かなかったため、どんな妖怪なのかはっきりしない謎多き存在なんですね。

絵に描かれているのは、口が耳まで裂けた鬼女のような顔をした老婆で、全身が長い毛に覆われています。

名前の由来

「苧うに」の「」(お)とは、カラムシという植物や、麻の茎の繊維から作った糸のことを指します。

昔の人々は、この麻の繊維を紡いで束ねたものを「苧」と呼んでいました。

石燕がこの名前をつけた理由は、妖怪の長い髪や体毛が、まるで麻糸を積み上げたように見えたからだと考えられています。

実は先輩妖怪がいた?

面白いことに、苧うにとそっくりな妖怪が、石燕より前の時代の絵巻にも登場しているんです。

先行する妖怪たち

  • 『百怪図巻』(1737年・佐脇嵩之作):「わうわう」という名前で描かれている
  • 『百鬼夜行絵巻』(1832年・尾田郷澄作):「うわんうわん」という名前で描かれている

これらの妖怪も絵だけで説明がないため、石燕はこれらを参考にして「苧うに」を描いたのではないかと考えられています。

伝承

苧うにの正体については、実ははっきりしたことは分かっていません。

でも、平成以降の研究者たちは、日本各地に伝わる「山姥が麻糸を紡ぐ昔話」と関連があるのではないかと考えているんです。

山姥と麻糸紡ぎの伝説

日本各地には、山姥が人間の手伝いをして麻糸を紡ぐという不思議な昔話が数多く残っています。

新潟県の伝説

新潟県西頸城郡小滝村(現在の糸魚川市)に伝わる話をご紹介しましょう。

山岸七兵衛という家で、女たちが集まって麻を績んで糸にする作業をしていました。

すると突然、山姥が現れてこう言ったんです。

「俺も績んでくれる」

山姥は驚くべき方法で作業を始めました:

  • 麻を口に噛む
  • 「ゲシャゲシャ」と音を立てながら引き出す
  • あっという間に一桶分もの麻糸を紡いでしまう

仕事を終えた山姥が家を出たかと思うと、もう影も形も見えなくなっていました。

今でも七兵衛家の裏にある石には、そのときの山姥の足跡が残っているといわれています。

長野県の伝説

長野県北安曇郡南小谷村千国区にも、似たような話があります。

ある女性が夜に麻糸を紡いでいると、山姥がやってきて一晩泊めてほしいと頼みました。

女性が居眠りしながら仕事をしているのを見た山姥は、「俺が績んでやるから、2、3把よこせ」と言って、麻を受け取ります。

すると山姥は:

  • 麻をすべて炉に焼べる(燃やしてしまう)
  • 炉の灰を舐めては口から引き出して糸にする
  • またたく間に一桶分の麻を紡いでしまう

苧うには山姥の一種?

こうした伝説から考えると、石燕が描いた「苧うに」も、麻を紡ぐ山姥の一種だったのかもしれません。

実際、平成以降に出版された妖怪図鑑や書籍の多くが、苧うにを山姥の一種として解説しています。

もう一つの解釈

ただし、山姥説が主流になる前は、別の解釈もありました。

石燕の絵では、苧うにが川の横の藪から現れているように見えます。

そのため、「山間の谷川で水を飲みに来た人を襲って食べる妖怪」と解説されていたこともあるんです。

これは絵の印象から想像された解釈で、確かな根拠があるわけではありません。

まとめ

苧うには、江戸時代の絵師が残した謎多き妖怪です。

重要なポイント

  • 鳥山石燕が『画図百鬼夜行』で描いた妖怪
  • 全身が毛に覆われた鬼女のような姿
  • 長い髪が麻糸の束のように見えることから命名
  • 石燕より前の絵巻では「わうわう」「うわんうわん」という名前
  • 日本各地に伝わる山姥の糸紡ぎ伝説との関連が指摘されている
  • 現在では山姥の一種と考えられることが多い
  • 具体的にどんな妖怪かは解説がなく不明

江戸時代の人々が、なぜこの不気味な姿を絵に残したのか。

もしかしたら、深い山で麻を紡ぐ謎の存在を目撃した人がいたのかもしれませんね。


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