【一口で人を喰らう恐怖…】妖怪「鬼一口(おにひとくち)」とは?その伝承と意味をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

真夜中、雷雨の中で見つけた古い蔵に逃げ込んだら、朝になって愛する人が跡形もなく消えていた…そんな恐ろしい体験を想像できますか?

平安時代から語り継がれる「鬼一口(おにひとくち)」は、鬼が人間を一口で食い殺してしまうという、日本の説話に登場する恐ろしい出来事なんです。

この記事では、古典文学に描かれた「鬼一口」の伝承や、その背景にある意味について詳しくご紹介します。


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概要

鬼一口(おにひとくち)とは、日本の説話において鬼が一口にして人間を食い殺すことを指します。

特定の妖怪の名前というよりも、鬼が人を瞬時に喰らってしまうという恐ろしい現象そのものを表した言葉なんですね。

この言葉が広く知られるようになったのは、江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕(とりやませきえん) が妖怪画集『今昔百鬼拾遺(こんじゃくひゃっきしゅうい)』に描いたことがきっかけです。

石燕は平安時代の歌物語『伊勢物語』に登場するエピソードをもとに、鬼が人を一口で食ってしまう様子を絵にしました。

鬼一口の基本情報

  • 読み方:おにひとくち
  • 分類:日本の説話に登場する現象・出来事
  • 出典:『伊勢物語』『今昔物語集』『日本霊異記』など
  • 描いた人物:鳥山石燕(『今昔百鬼拾遺』)

伝承

『伊勢物語』芥川の段

鬼一口の代表的な話として挙げられるのが、平安時代初期の歌物語『伊勢物語』第6段「芥川の段」です。

物語のあらすじ

ある男が、何年も想いを寄せていた女のもとへ通い続けていました。しかし、身分の違いからなかなか結ばれることができません。

ついにある夜、男は意を決して女を盗み出し、二人で逃げることにしたのです。

ところが、逃走の途中で夜が更けた上に激しい雷雨に見舞われてしまいます。男は戸締りのない古い蔵を見つけると、女を中へ入れて休ませました。

自分は弓矢を手にして蔵の入り口で番をしながら、夜明けを待つことに。

やがて夜が明けて蔵の中を覗くと…女の姿はどこにも見当たりませんでした

実は、その蔵には鬼が住んでいたのです。女は鬼に一口で食い殺されてしまい、死に際に上げた悲鳴も雷鳴にかき消されてしまったのでした。

在原業平と藤原高子の話?

鳥山石燕は『今昔百鬼拾遺』の解説文で、この物語の男女を在原業平(ありわらのなりひら)藤原高子(ふじわらのたかいこ) だとしています。

在原業平は平安時代初期を代表する歌人で、藤原高子は後に清和天皇の后となった女性。二人の間には密かな恋があったとも言われているんですね。

ただし、実際には『伊勢物語』の原文には男女の名前は一切書かれていません。「ある男」と「ある女」としか記されていないのです。

これを在原業平らの物語と見なすのは俗解(一般に広まった解釈) であるとされており、学術的には正確ではないという点は覚えておきたいところです。

他の文献に見られる「鬼一口」

鬼が人を一口で食ってしまうという話は、『伊勢物語』だけではありません。

『日本霊異記』の話

平安初期の説話集『日本霊異記(にほんりょういき)』には、男女が一夜の契りを結ぶものの、実はその男が鬼で、女を食べてしまうという話が収録されています。

『今昔物語集』の話

平安末期の説話集『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』にも、夜道を歩いていた女たちの1人を男が突然連れ去り、その男が実は鬼で、女を一口で食べてしまうという話が登場します。

なぜ「鬼一口」の話が多いのか?

ここで気になるのは、なぜこれほど「鬼一口」の話が各地に伝わっているのかということ。

これには興味深い説があります。

当時の日本では、戦乱・災害・飢饉などによって、人が突然命を落としたり消息を絶ったりすることが珍しくありませんでした。

そうした不可解な出来事を、人々は「異界から現世に鬼が現れて人間を奪い去った」と解釈したのではないかと考えられているのです。

つまり、鬼一口の伝承は、理不尽に命を奪われた人々への説明や慰めとして生まれた物語だったのかもしれません。


まとめ

鬼一口は、平安時代から語り継がれる人間の儚さと恐怖を象徴する伝承です。

重要なポイント

  • 鬼が人間を一口で食い殺すことを指す言葉
  • 『伊勢物語』第6段「芥川の段」が代表的な話
  • 鳥山石燕が『今昔百鬼拾遺』で絵にして広まった
  • 在原業平と藤原高子の話とされるが、原典に名前の記載はない
  • 『日本霊異記』『今昔物語集』にも類似の話がある
  • 戦乱や災害で人が消えた現象を鬼の仕業と解釈した説がある

愛する人を守ろうとしたのに、雷の音にかき消されて悲鳴すら聞こえなかった…。

この物語が長く語り継がれてきたのは、そこに人間の無力さや運命の残酷さが描かれているからなのかもしれませんね。

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