ゲームやアニメ、TRPGで「クトゥルフ」「ハスター」といった名前を聞いたことはありませんか?
これらはすべて、クトゥルフ神話に登場する旧支配者(グレート・オールド・ワン) と呼ばれる存在です。
「名前は知っているけど、どんな存在なの?」「外なる神との違いがわからない」という方も多いのではないでしょうか。
実は旧支配者の定義は作家によって異なり、かなり複雑になっています。
この記事では、クトゥルフ神話に登場する旧支配者たちを、わかりやすい一覧形式で詳しくご紹介します。
旧支配者とは何か?

クトゥルフ神話の基本
クトゥルフ神話は、アメリカの作家H.P.ラヴクラフト(1890-1937) の小説を起源とする架空の神話体系です。
ラヴクラフトの死後、友人であったオーガスト・ダーレスが世界観を体系化し、多くの作家たちが設定を共有しながら書き継いできました。
この神話の中心には、人類の理解を超えた古代の神格たちが存在しています。
旧支配者の定義
旧支配者(Great Old Ones) とは、人類史以前に地球を支配していたとされる強大な存在です。
英語では「グレート・オールド・ワン」と呼ばれ、日本語では「旧き神々」「古ぶるしきもの」とも訳されます。
主な特徴をまとめると以下のようになります。
- 太古の宇宙のどこかで誕生し、地球に飛来した
- 外なる神には及ばないものの、人間から見れば神のような力を持つ
- 肉体を持っている点が外なる神との大きな違い
- 現在は封印されているか、深い眠りについている
- 眷属や信者が主の復活を待ち望んでいる
なぜ「旧支配者」と呼ばれるの?
「旧支配者」という訳語は、ダーレスの設定を踏まえた意訳なんです。
ダーレス神話では「かつて宇宙を支配していたが失権した」とされているため、「旧い支配者」という名前がつきました。
ただし、これはラヴクラフト本来の意図とは異なる部分もあり、研究者の間では議論が続いています。
神格の階層構造
クトゥルフ神話の神格は、主に以下の3つに分類されます。
1. 外なる神(Outer Gods)
宇宙の根源的な力を体現する最上位の存在です。
代表的な神格として、以下が挙げられます。
- アザトース(万物の王)
- ヨグ=ソトース(門にして鍵)
- ナイアーラトテップ(這い寄る混沌)
- シュブ=ニグラス(千匹の仔を孕みし森の黒山羊)
外なる神は時空を超越した宇宙規模の存在であり、人間への関心はほとんどありません。
2. 旧支配者(Great Old Ones)
外なる神より限定的な力を持ちますが、人間にとっては十分すぎるほどの脅威となる存在です。
代表的な神格には以下があります。
- クトゥルフ(ルルイエに眠る大祭司)
- ハスター(名状しがたきもの)
- ツァトゥグァ(眠れるもの)
- ダゴン(深きものどもの父)
かつて地球や他の惑星を支配していましたが、現在は封印や眠りについている神格群となっています。
3. 旧神(Elder Gods)
ダーレスが導入した概念で、旧支配者に対抗する「善良な」神格とされています。
- ノーデンス(貝殻の戦車に乗る老人)
- バースト(猫の女神)
- クタニド(クトゥルフの双子の兄弟)
ただし、この善悪二元論的な解釈は、ラヴクラフト本来の「宇宙的無関心主義」とは相容れないため、ファンの間で賛否が分かれています。
四大元素による分類
オーガスト・ダーレスは、旧支配者を古典的な四元素に対応させようとしました。
| 元素 | 代表的な神格 |
|---|---|
| 水 | クトゥルフ、ダゴン、ハイドラ |
| 風 | ハスター、イタカ、ロイガー |
| 地 | ツァトゥグァ、シュブ=ニグラス |
| 火 | クトゥグァ |
この分類では、水と風、地と火が敵対するとされています。
しかし、この体系にはいくつかの矛盾があるんです。
例えば、クトゥルフは「水の精」とされていますが、海の水によって封印されているという設定と矛盾してしまいます。
そのため、この四大元素による分類は、人間の視点から見た「こじつけ」に過ぎないと解釈されることもあります。
主要な旧支配者一覧
クトゥルフ(Cthulhu)
クトゥルフ神話の名前の由来となった、最も有名な旧支配者です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 旧支配者の大司祭、ルルイエの主 |
| 初出 | 『クトゥルフの呼び声』(1928年) |
| 封印場所 | 南太平洋の海底都市ルルイエ |
| 属性 | 水 |
外見と特徴
クトゥルフの姿は、以下の要素を組み合わせた山のような巨体として描かれます。
- タコのような頭部
- 竜のような翼
- 人間に似た体
現在は海底都市ルルイエで「死せるがごとく夢見ながら」眠っており、星辰が正しい位置に来たとき目覚めると予言されています。
有名な呪文
「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガナグル・フタグン」
意味は「ルルイエの館にて死せるクトゥルフ夢見るままに待ちいたり」です。
世界中に存在する教団
クトゥルフには世界各地に信者がいます。
- ルイジアナ
- グリーンランド
- ニュージーランド
- 中国の山岳地帯
ハスター(Hastur)
「名状しがたきもの」として知られる、クトゥルフと対立する存在です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 名状しがたきもの、黄衣の王、言及してはならぬ者 |
| 初出 | アンブローズ・ビアスの作品から借用 |
| 属性 | 風 |
外見と特徴
ぼろぼろの黄色いローブを着た姿で描かれることが多いですが、真の姿は不明とされています。
ハスターは「その名を呼んではならない」存在として恐れられており、名前を口にするだけで災いを招くとも言われます。
関連する重要アイテム
- 黄の印:見る者を狂気に陥れる不吉な記号
- 黄衣の王:ハスターの化身、または狂気をもたらす戯曲のタイトル
- カルコサ:ハリ湖畔にある古代都市
ダゴン(Dagon)とハイドラ(Hydra)
深きものどもを統率する、海の神格です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 父なるダゴン、母なるハイドラ |
| 初出 | 『ダゴン』(1917年)、『インスマスの影』(1931年) |
| 属性 | 水 |
外見と特徴
ダゴンは小山ほど巨大で、以下の特徴を持ちます。
- 鱗のある体
- 水かきのついた手足
- 魚類のような顔
深きものどもが何百万年もかけて成長した姿とも、クトゥルフの化身ともされていますが、本当のところは謎に包まれています。
ダゴン秘密教団
マサチューセッツ州インスマスには、ダゴンとハイドラ、そしてクトゥルフを崇拝する「ダゴン秘密教団」 が存在しました。
この教団は表向きは慈善活動を行いながら、裏では邪神への信仰を広めていたとされています。
ツァトゥグァ(Tsathoggua)
比較的「おとなしい」とされる、珍しい旧支配者です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | ンカイの眠るもの、ゾタクア |
| 初出 | 『サタムプラ・ゼイロスの物語』(1931年) |
| 作者 | クラーク・アシュトン・スミス |
| 属性 | 地 |
外見と特徴
ツァトゥグァの姿はかなりユニークです。
- ヒキガエルのような頭部
- 巨大な腹部
- コウモリとナマケモノを合わせたような体
- 黒く毛に覆われた体表
土星(キタミール)から地球に飛来し、ヴーアミタドレス山の地下に住んでいるとされます。
他の旧支配者との違い
ツァトゥグァは「空腹でなければ人間を食べない」「自らの信者を手助けすることもある」とされ、邪悪な神格の中では比較的危険度が低いと言われています。
クトゥルフ神話TRPGでも「さほど悪意のない」存在として説明されているんです。
イタカ(Ithaqua)
極地の恐怖を体現する、風の旧支配者です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 風に乗りて歩むもの、ウェンディゴ |
| 初出 | 『風に乗りて歩むもの』(1941年) |
| 作者 | オーガスト・ダーレス |
| 属性 | 風 |
外見と特徴
- 赤く光る目を持つ巨大な人型
- 空中を歩くことができる
- 極地の嵐とともに現れる
北米先住民の伝承に登場する「ウェンディゴ」と結びつけられることが多い存在です。
クトゥグァ(Cthugha)
火の元素を体現する、ダーレスが創造した旧支配者です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 炎の神 |
| 初出 | 『暗黒に棲むもの』(1944年) |
| 作者 | オーガスト・ダーレス |
| 居住地 | フォーマルハウト星の近く |
| 属性 | 火 |
外見と特徴
巨大な火の玉として現れ、「火の吸血鬼」と呼ばれる眷属を従えています。
ダーレスが四大元素体系を完成させるために創造した神格であり、火の属性を持つ唯一の主要な旧支配者となっています。
アトラク=ナチャ(Atlach-Nacha)
夢の国と現実世界をつなぐ、蜘蛛の神格です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 蜘蛛神、暗闘の紡ぎ手 |
| 初出 | 『七つの呪い』(1934年) |
| 作者 | クラーク・アシュトン・スミス |
外見と特徴
- 人間の顔を持つ巨大な蜘蛛
- 真紅の目
- 黒檀色の毛で覆われた体
夢の国と現実世界の間に巨大な網を張っており、その網が完成するとき、世界に何かが起こると言われています。
その他の旧支配者
ガタノソア(Ghatanothoa)
クトゥルフの息子とされ、その姿を見た者は石化してしまうという恐ろしい能力を持ちます。
アイホート(Eihort)
地虫や蜘蛛に似た外見を持ち、人間の体内に雛を産みつける恐ろしい神格です。
グラーキ(Glaaki)
金属のような棘に覆われたナメクジのような姿で、信者を不死のアンデッドに変えます。
イゴーロナク(Y’golonac)
頭のない膨らんだ白い体を持ち、手のひらに赤い口があるという異形の存在です。
旧支配者と外なる神の違い
初心者にとって最も混乱しやすいのが、旧支配者と外なる神の違いではないでしょうか。
| 比較項目 | 旧支配者 | 外なる神 |
|---|---|---|
| 力の規模 | 惑星〜銀河単位 | 宇宙全体 |
| 肉体 | 持っている | 持たない(概念的存在) |
| 人間への関心 | 干渉することがある | ほとんど無関心 |
| 現状 | 封印や眠りについている | 活動中(ただし別次元) |
| 代表例 | クトゥルフ、ハスター | アザトース、ヨグ=ソトース |
ただし、この区分は厳密なものではありません。
ニャルラトホテップは外なる神とされていますが、人間界に積極的に介入するため、旧支配者的な側面も持っています。
また、クトゥルフ神話TRPGと小説作品では分類が異なることも多く、作品ごとに確認が必要です。
神格間の関係性と系譜

アザトースを起点とする系譜
クトゥルフ神話の神格たちには、複雑な家族関係があります。
アザトース(万物の創造主)
│
├── 無名の霧 → ヨグ=ソトース
│
├── 闇 → シュブ=ニグラス
│
└── ナイアーラトテップ(直接の子)
ヨグ=ソトースの子孫
ヨグ=ソトース + シュブ=ニグラス
│
└── ナグとイェブ(双子)
│
├── ナグ → クトゥルフ
│
└── イェブ → ツァトゥグァ
主従関係
旧支配者たちの間には、以下のような主従関係が存在します。
- クトゥルフ ← ダゴン、ハイドラ、深きものが仕える
- ハスター ← ビヤーキーが仕える
- ノーデンス ← ナイトゴーントが仕える
クトゥルフ神話TRPGにおける扱い
神話の体系化への貢献
1981年に発売された『Call of Cthulhu(クトゥルフの呼び声)』は、クトゥルフ神話の体系化に大きく貢献しました。
TRPGならではの特徴として以下が挙げられます。
- 三層構造の確立:外なる神、旧支配者、旧神という分類の定着
- 正気度(SAN値)システム:神格との遭遇による精神的影響の数値化
- 詳細な系譜図:神格間の関係性の明確化
- 新たな神格の追加:ゲームバランスのための存在の創造
日本での人気
日本では『クトゥルフ神話TRPG』がD&Dを超える人気を獲得しており、独自の文化を形成しています。
- リプレイ文化:ゲームセッションを物語化した作品が人気
- 擬人化作品:『這いよれ!ニャル子さん』などのアニメ作品
- 女性プレイヤーの多さ:日本のプレイヤーの約3分の2が17-35歳の女性
旧支配者完全一覧表
最後に、主要な旧支配者を一覧表にまとめました。
ラヴクラフト作の旧支配者
| 名前 | 読み方 | 別名・特徴 |
|---|---|---|
| クトゥルフ | Cthulhu | ルルイエに眠る大祭司 |
| ダゴン | Dagon | 深きものどもの父 |
| ハイドラ | Hydra | 深きものどもの母 |
| ガタノソア | Ghatanothoa | 見る者を石化させる |
クラーク・アシュトン・スミス作の旧支配者
| 名前 | 読み方 | 別名・特徴 |
|---|---|---|
| ツァトゥグァ | Tsathoggua | 眠れるヒキガエル神 |
| アトラク=ナチャ | Atlach-Nacha | 蜘蛛神 |
| アブホース | Abhoth | 不浄の源 |
| ウボ=サスラ | Ubbo-Sathla | 生まれざりし源 |
オーガスト・ダーレス作の旧支配者
| 名前 | 読み方 | 別名・特徴 |
|---|---|---|
| ハスター | Hastur | 名状しがたきもの |
| クトゥグァ | Cthugha | 炎の神 |
| イタカ | Ithaqua | 風に乗りて歩むもの |
その他の作家による旧支配者
| 名前 | 読み方 | 作者 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アイホート | Eihort | R.キャンベル | 雛を産みつける地虫神 |
| イゴーロナク | Y’golonac | R.キャンベル | 手のひらに口を持つ |
| グラーキ | Glaaki | R.キャンベル | 棘に覆われたナメクジ神 |
| シュデ・メル | Shudde M’ell | B.ラムレイ | 地底を掘り進むもの |
まとめ
クトゥルフ神話の旧支配者たちは、単なるモンスターではありません。
人間の理解を超えた宇宙の真理を象徴する存在として、90年以上にわたって人々を魅了し続けています。
ラヴクラフトが創造した基本的な枠組みは、ダーレス、スミス、そして現代の作家たちによって拡張され、今や世界的な共有神話となりました。
覚えておいてほしいことがあります。
これらの存在について知れば知るほど、正気を保つことが困難になるかもしれません。
それでも私たちは知ることをやめられない。
まさにそれこそが、クトゥルフ神話の永遠の魅力なのです。






コメント