子供たちが輪になって歌いながら踊っていたら、突然真ん中にいた子が意志とは無関係に踊り出す…そんな不思議な現象が、かつて日本全国で起きていたことをご存知ですか?
明治時代以前の日本では、「御釜踊り」と呼ばれる占い遊びが子供たちの間で広く行われていました。
それは単なる遊びではなく、神様が降りてくるという神秘的な儀式でもあったんです。
この記事では、明治以前に流行した不思議な神憑り遊び「御釜踊り」について、その方法や伝承、さらには西洋との意外な繋がりまで詳しくご紹介します。
概要
御釜踊り(おかまおどり)は、明治維新以前に日本各地の子供たちの間で行われていた占い遊戯なんです。
「占い遊戯」というのは、遊びの形式を取りながら、実は神様に何かを尋ねたり、神様を降ろしたりする儀式的な意味を持つものを指します。
この遊びの特徴は、参加した子供の一人に「御釜の神様」が憑依するという点にあります。
つまり、単なる遊びではなく、神様との交流を目的とした民間信仰の一種だったんですね。
御釜踊りの基本的な方法
御釜踊りの実施方法はこうです:
参加者の配置
- 4人~5人の子供が参加する
- 1人を中央に座らせる(または立たせる)
- 残りの子供たちが手をつないで輪を作る
唱え言葉と動作
- 輪になった子供たちが手を振りながら踊る
- 「青山葉山羽黒の権現ならびに豊川大明神あとさきいずずに御釜の神様」と唱える
- これを繰り返す
神憑りの判定
- 中央の子供が自分の意思とは無関係に踊り出す
- この現象が起きたら、その子に「御釜の神様」が憑いたことになる
呪文に出てくる「青山」「葉山」「羽黒の権現」は山岳信仰に関わる神様、「豊川大明神」は愛知県の豊川稲荷の神様のことを指しているんです。
伝承
井上円了による記録
この御釜踊りを学術的に記録したのが、明治時代の哲学者であり妖怪学者でもある井上円了という人物です。
井上円了は、妖怪や超常現象を科学的に研究しようとした先駆者で、著書『妖怪学講義』の中でこの御釜踊りを取り上げています。
西洋の「ダンシングマニア」との類似性
井上円了が注目したのは、御釜踊りとヨーロッパで見られた「ダンシングマニア」という現象の類似性でした。
ダンシングマニアとは
ダンシングマニアは中世ヨーロッパで実際に起きた集団ヒステリー現象です:
主な特徴
- 救世主や聖母マリアの降臨を幻視する
- 自我を喪失するまで何時間も踊り続ける
- 最終的には痙攣を起こす
- 口から泡を吹いて気絶してしまう
- いわゆる神憑り状態になる
これは単なる踊りではなく、宗教的な熱狂が引き起こす一種のトランス状態だったんですね。
起源についての推測
井上円了は、御釜踊りの起源について興味深い仮説を立てています。
彼は、この風習が西洋からキリスト教とともに日本に伝来したのではないかと推測しました。
ただし、井上円了自身も認めているように、これはあくまで仮説であって、確実な証拠があるわけではありません。
実際のところ、起源ははっきりとは分かっていないんです。
神憑りという文化
御釜踊りのような神憑り遊びは、日本の民間信仰の中で珍しいものではありませんでした。
日本の神憑り文化の特徴
- 子供は神様と人間の中間的な存在と考えられた
- 純粋な子供には神様が憑きやすいと信じられていた
- 神様の言葉を聞くための儀式が各地に存在した
- 占いや神託の手段として利用された
御釜踊りも、こうした日本の伝統的な神憑り文化の一つの形だったと言えるでしょう。
まとめ
御釜踊りは、明治以前の日本で子供たちが行った神秘的な占い遊びです。
重要なポイント
- 明治維新以前に日本各地で行われていた子供の占い遊戯
- 4〜5人で輪を作り、中央の子に神様を降ろす形式
- 「御釜の神様」が憑依することで占いを行う
- 井上円了が『妖怪学講義』で学術的に記録
- 西洋の「ダンシングマニア」と類似している
- 西洋からの伝来説もあるが起源は不明
- 日本の伝統的な神憑り文化の一例
現代の私たちからすると不思議な風習に思えますが、当時の人々にとっては真剣な儀式であり、神様との交流の手段だったんですね。
子供たちの遊びの中に、こうした深い民間信仰が息づいていたことは、日本の文化の奥深さを物語っています。


コメント