もしあなたが夜中に廃寺を歩いていて、ぺたぺたと音を立てながら肉の塊が近づいてきたら、どう思うでしょうか?
江戸時代の人々にとって、それは恐ろしい妖怪の姿でした。
それは目も鼻も耳もない不気味な肉塊「ぬっぺっぽう」という妖怪だったのです。
この記事では、江戸時代の妖怪絵巻に描かれた奇怪な妖怪「ぬっぺっぽう」について詳しくご紹介します。
基本情報

ぬっぺっぽう は、江戸時代の有名な妖怪絵師・鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に描かれた妖怪です。
別名「ぬっぺふほふ」とも呼ばれ、肉の塊のような非常に奇妙な姿をしています。
ぬっぺっぽうの基本情報
- 分類:肉塊系の妖怪
- 出典:『画図百鬼夜行』『百怪図巻』など
- 別名:ぬっぺふほふ、ぬっべっほう
- 関連妖怪:のっぺらぼう、つっぺらぼう
- 出現場所:廃寺、墓場、古い建物
ぬっぺっぽうは、日本の妖怪の中でも特に異形な存在として知られています。
のっぺらぼうの一種とされることが多く、顔の特徴がない妖怪の仲間なんです。
この不可思議な妖怪がどんな姿をしているのか、詳しく見ていきましょう。
姿・見た目
ぬっぺっぽうの姿は、他の妖怪とは全く違う独特なものです。
基本的な体型
肉の塊のような姿
- 一頭身:頭と体の区別がつかない
- 肉塊状:まるで大きな肉の塊
- シワだらけ:顔と体のシワの区別がつかない
- 琉球芋状:皺の多い芋に手足をつけたような形
顔の特徴
ぬっぺっぽうの最も特徴的な部分は、顔がほとんどないことです。
顔の状態
- 目:ほとんど見えない、またはまったくない
- 鼻:確認できない
- 耳:ついていない
- 口:ごくわずかに見える程度
一部の記録では「目鼻らしきものがやっとついている程度」と表現されています。
手足の様子
体に比べて手足は非常に小さく描かれます。
手足の特徴
- 短くて太い手足
- 指がない場合もある
- 肉厚でぽっちゃりとした形
- ぺたぺたと歩く音を立てる
この異様な姿こそが、ぬっぺっぽうの最大の特徴なんですね。
それでは、この奇怪な妖怪にはどのような行動パターンがあるのでしょうか。
特徴

ぬっぺっぽうには、その異形な姿に劣らず不気味な特徴があります。
出現場所と時間
ぬっぺっぽうは特定の場所と時間に現れます。
出現パターン
- 時間:真夜中
- 場所:廃寺、墓場、誰も住まない古い建物
恐ろしい臭い
ぬっぺっぽうの最も印象的な特徴の一つが、その臭いです。
臭いの特徴
- 屍骸のような匂い
- 腐肉のような臭い
- 通った跡にも臭いが残る
- かなり遠くからでも分かるほど強烈
この臭いで、ぬっぺっぽうが近づいてくることが分かるとされています。
不可思議な歌声
一部の伝承では、ぬっぺっぽうが歌を歌うことがあるとされています。
歌の恐ろしい効果
- ぬっぺっぽうが歌を歌う
- その歌を聞いた人は たちまち老人になってしまう
- 一瞬で年を取らせる恐ろしい力
- 若さを奪う呪いの歌
食事の習性
古い記録によると、ぬっぺっぽうには特殊な食べ物の好みがあります。
食べるもの
- 死人の脂を吸う
- 針のように細いものを食べる
- 普通の食べ物は食べない
- 人間の生命力を吸い取る可能性
これらの特徴から、ぬっぺっぽうがどれほど不気味な存在かが分かりますね。
それでは、具体的にどのような伝承が残されているのでしょうか。
伝承
ぬっぺっぽうにまつわる伝承は限られていますが、興味深い記録が残されています。
駿府城の肉人事件
最も有名なのが、慶長14年(1609年)に起きた駿府城での出来事です。
事件の経緯
- 徳川家康が住む駿府城の中庭に現れる
- 小児のような形だが肉塊状
- 手はあるが指がない「肉人」
- 警戒の厳しい城内に侵入
捕獲の試み
- 妖怪の類だと判断される
- 捕まえようとするが すばやく動いて捕まえられない
- 家康が城外への追放を命令
- 家来たちが山の方へ追い出す
薬学者の後悔
この事件には興味深い後日談があります。
「封(ほう)」という存在
- 後に薬学に詳しい者がこの話を聞く
- 中国の古書にある「封」という生き物だと判定
- 白沢図(はくたくず:中国の妖怪図鑑)にも記載
- この肉は多力を得る仙薬になった
- 逃がしてしまったことを非常に口惜しがる
のっぺらぼうとの関係
研究者によると、ぬっぺっぽうはのっぺらぼうの原型だったという説があります。
のっぺらぼうの変化
- 古くは顔と体の区別がつかない形態
- だんだん顔だけに変化していった
- 現在知られるのっぺらぼうは後の形
- ぬっぺっぽうが元々の姿
化ける能力
一部の記録では、ぬっぺっぽうが人間に化ける能力を持つとされています。
化け方のパターン
- まず人間に成りすまして近づく
- 親しげに会話をする
- 相手が油断したところで正体を現す
- 本来の肉塊の姿を見せて驚かせる
正体
いくつかの説では、ぬっぺっぽうの正体について興味深い解釈があります。
正体についての説
- 古いヒキガエルが化けたもの
- 狐狸の類が変化したもの
- 死んだ人の肉から生まれた妖怪
- 古木が化けて現れたもの
これらの伝承から、ぬっぺっぽうの多面的な性格が見えてきます。
まとめ
ぬっぺっぽうは、日本の妖怪の中でも特に異形で謎に満ちた存在です。
ぬっぺっぽうの重要ポイント
基本情報
- 江戸時代の『画図百鬼夜行』に描かれた肉塊妖怪
- のっぺらぼうの一種または原型とされる
- 目鼻耳がほとんどない一頭身の姿
特徴的な能力
- 屍骸のような強烈な臭いを放つ
- 歌を歌って聞いた者を老化させる
- 死人の脂を吸い、針のようなものを食べる
- 人間に化けて近づく能力
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