【すべての始まりは水だった】エジプト神話の原初神「ヌン」とは?創世の謎と神秘を徹底解説!

神話・歴史・伝承

世界が生まれる前、そこには何があったと思いますか?
古代エジプト人は、すべての始まりは巨大な水の塊だったと考えていました。

その水こそが、エジプト神話で「原初の水」と呼ばれる神「ヌン」なんです。
ビッグバン理論のように、すべての生命や物質の源となった存在として崇められていました。

この記事では、エジプト神話の根源的な存在である「ヌン」について、その神秘的な姿や特徴、興味深い創世神話を分かりやすくご紹介します。

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概要

ヌン(Nun)は、古代エジプト神話における原初の神であり、世界創造以前から存在していた神です。
「原初の水」「原初の深淵」とも呼ばれ、すべての神々と世界の根源となった存在なんです。

エジプトの主要な創世神話である「ヘリオポリス創世神話」では、ヌンの中から創造神アトゥムが誕生したとされています。また、「ヘルモポリス創世神話」では、原初の八柱神(オグドアド)の一柱として数えられているんですね。

面白いことに、ヌンは世界を創造したわけではありません。むしろ、ヌンの中から世界を創造する神が生まれたんです。まるで宇宙の素材となったビッグバン前の状態のような存在として考えられていました。

系譜

ヌンの系譜は、通常の神々とはちょっと違います。なぜなら、ヌン自身がすべての始まりだからです。

ヌンに関連する主要な神々

配偶者(女性的側面)

  • ナウネト(Naunet):ヌンの女性的側面、または妻とされる女神

ヌンから生まれた神々

  • アトゥム:自らの意志でヌンから誕生した創造神
  • ラー:太陽神(後にアトゥムと習合)
  • プタハ:メンフィスではヌンと習合した創造神

オグドアド(原初の八柱神)での位置づけ

ヘルモポリスの創世神話では、ヌンは八柱神の一員として登場します。

  • ヌンとナウネト(水)
  • アムンとアマウネト(隠れたもの)
  • ヘフとハウヘト(無限)
  • ケクとカウケト(闇)

これらの神々が協力して、原初の卵や蓮の花を生み出し、そこから太陽神が誕生したとされています。

3. 姿・見た目

ヌンの姿は、時代や地域によって異なる描かれ方をしています。

擬人化されたヌンの特徴

男性の姿として

  • ひげを生やした成人男性の姿
  • 青緑色の肌(水を表現)
  • 時にはカエルの頭部を持つ男性として描かれる

原初の水としての表現

  • 巨大な水の塊や深淵
  • 暗く、よどんだ水の空間
  • すべてを内包する球形の水

芸術作品での描写

古代エジプトの壁画や彫刻では、ヌンはよく太陽の船を持ち上げる姿で描かれています。両腕を高く上げて、新しく生まれた太陽を水の中から持ち上げているんですね。これは、毎朝太陽が東から昇る現象を神話的に表現したものです。

『死者の書』などの宗教文書では、ヌンはノッチのついたヤシの枝を持っている姿で描かれることもあります。これは時間の経過や永遠を象徴しているとされています。

特徴

ヌンには、他の神々とは異なる独特な特徴があります。

ヌンの本質的な特徴

原初の存在としての性質

  • 不活性(動かない):何も生み出さず、ただ存在している状態
  • 混沌:秩序が生まれる前の状態を表現
  • 無限性:始まりも終わりもない永遠の存在

ヌンの役割と力

世界創造における役割

  • 創造神が生まれる母体となった
  • 太陽の船を毎日持ち上げて支える
  • 世界の終末時には、すべてを再び飲み込むとされる

死後の世界での役割

  • 死者の魂が通過する場所
  • 死産した赤ちゃんや罪人の魂が住む場所
  • すべての生命が最終的に帰る場所

信仰の特殊性

興味深いことに、ヌンには専用の神殿がありませんでした
その代わりに、神聖な池や地下水脈がヌンの象徴とされていました。例えば、カルナック神殿やデンデラ神殿には「聖なる池」があり、これがヌンを表現していたんです。

また、パメノトの月(エジプト暦の7番目の月)の18日と19日には、ヌンを讃える祭礼が行われていたという記録も残っています。

伝承

ヌンにまつわる最も重要な伝承は、やはり創世神話です。

ヘリオポリス創世神話でのヌン

最初、世界はヌンという巨大な水の塊だけでした。
暗く、静かで、何も動くものがない空間。そこには、まだ生まれていないすべての可能性が溶け込んでいました。

ある時、ヌンの中から自らの意志と力で、創造神アトゥムが誕生します。
アトゥムは「ベンベン」と呼ばれる原初の丘の上に立ち、そこから世界の創造を始めたんです。

面白いのは、アトゥムが世界を創造した後も、ヌンは消えなかったことです。
ヌンは世界の下や周りに存在し続け、毎朝太陽が昇るのを助けているとされています。

ヘルモポリス創世神話でのヌン

こちらの神話では、ヌンは八柱神の一員として、他の七柱と協力して創造に関わります。

八柱神たちは原初の水の中で活動し、やがて原初の卵または蓮の花を生み出しました。
その中から太陽神が誕生し、光が世界にもたらされたというわけです。

太陽の航行を支える神話

毎日、太陽神ラーは天空を船で航行します。
夜になると、ラーの船は冥界を通り、ヌンの水の中を進むんです。
そして朝になると、ヌンが船を持ち上げて、太陽を東の空に送り出す。
この神話は、太陽の日々の運行を説明するものでした。

世界の終末についての伝承

エジプト神話では、いつか世界は終わりを迎え、すべてが再びヌンに戻るとされています。
創造されたものはすべて破壊され、世界は元の混沌とした水の状態に戻るというんです。
これは、ヌンが始まりであると同時に終わりでもあることを示しています。

出典・起源

歴史的な出典

ヌンに関する最古の記述は、古王国時代(紀元前2686-2181年)のピラミッド・テキストに見られます。
特に有名なのは以下の文献です:

主要な文献資料

  • ピラミッド・テキスト:最古の宗教文書
  • 棺文書:中王国時代の葬祭文書
  • 死者の書:新王国時代の代表的な宗教文書
  • アニのパピルス:呪文17章にヌンの詳細な記述

概念の起源と発展

地域的な起源
ヌンの概念は主にヘリオポリス(現在のカイロ近郊)で発展しました。
その後、ヘルモポリス(中部エジプト)でも独自の解釈が加えられ、オグドアドの一員として組み込まれたんです。

ナイル川との関連
ヌンの概念は、エジプト人の生活に欠かせないナイル川の氾濫と深く関係していると考えられています。
毎年起こる氾濫は、混沌から秩序が生まれる過程を象徴していました。

他の神々との習合

時代が下ると、ヌンは各地の創造神と習合していきます:

  • メンフィス:プタハ・ヌンとして崇拝
  • テーベ:アメン(アムン)と同一視
  • 後期王朝時代:外国勢力の侵入により、混沌の負の側面が強調される

言語学的な起源

「ヌン」という名前は、古代エジプト語で「nnw」と表記されます。
コプト語では「Ⲛⲟⲩⲛ(ヌーン)」となり、「深淵」「深い」という意味を持っています。

ヒエログリフでの表記は、水を表す記号を3つ重ねて、さらに「空」と「水」の決定詞を加えたものでした。これは、ヌンが単なる水ではなく、宇宙的な規模の水であることを示しているんですね。

まとめ

ヌンは、古代エジプト神話における最も根源的で神秘的な存在です。

重要なポイント

  • 原初の水として、すべての神々と世界の源となった
  • 創造神アトゥムやラーを生み出した母体
  • 青緑色の肌を持つひげの男性、またはカエルの頭を持つ姿で描かれる
  • 世界の始まりと終わりを司る永遠の存在
  • 毎日太陽の船を支え、世界の秩序を維持する役割
  • 神殿を持たず、聖なる池や地下水で象徴される特殊な信仰形態

古代エジプト人にとって、ヌンは単なる神話上の存在ではありませんでした。それは、世界の神秘と生命の循環を説明する、深遠な哲学的概念だったんです。現代の私たちが宇宙の始まりを考えるように、古代の人々もヌンを通じて、存在の根源について思いを巡らせていたのかもしれませんね。

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