北欧神話における「最初の神」や最初の存在について、わかりやすく解説します。
古代スカンジナビアの人々が信じていた、世界の始まりと神々の誕生の物語を見ていきましょう。
北欧神話とは?

北欧神話とは、主に現在のノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランドの地域で信じられていた神話体系です。
ヴァイキング時代(8〜11世紀)を中心に口承で伝えられ、後に『エッダ』などの文献にまとめられました。
北欧神話の特徴
他の神話との違い
- 神々が最終的に滅びる「ラグナロク」という終末思想
- 厳しい自然環境を反映した力強い物語
- 英雄的な死を重視する価値観
- 複雑な神族の関係性
主要な文献
- 『古エッダ』(詩的エッダ):古い詩歌集
- 『新エッダ』(スノッリのエッダ):スノッリ・ストゥルルソンによる散文
- 『ヘイムスクリングラ』:ノルウェー王の歴史
世界の始まり:ギンヌンガガプ

北欧神話において、世界の始まりはギンヌンガガプ(Ginnungagap)という巨大な空虚から始まります。
ギンヌンガガプの意味
言葉の由来
- 古ノルド語で「魔法に満ちた裂け目」を意味
- 「ギン」:魔法、幻惑
- 「ガプ」:裂け目、空間
最初の状況
世界が始まる前、そこには何もない巨大な空間だけが存在していました。
そこは完全な無ではなく、創造の可能性に満ちた「空虚」でした。
対極の世界の出現
ギンヌンガガプの両端に、対照的な二つの世界が現れました。
ニヴルヘイム(Niflheim)
- 北側に位置する氷と霧の世界
- 冷たい霧と氷河が支配する領域
- エリヴァーガル川群の源流の地
ムスペルヘイム(Muspelheim)
- 南側に位置する炎と火の世界
- 火の巨人スルトが支配する領域
- 激しい炎と溶岩が渦巻く場所
この氷と火の出会いから、最初の生命が誕生することになります。
最初の存在:ユミル(Ymir)

ユミルの誕生
ニヴルヘイムの氷とムスペルヘイムの炎が、ギンヌンガガプの中央で出会った時、その熱により氷が溶けて最初の生命が生まれました。
それがユミル(Ymir)です。
ユミルの特徴
- 北欧神話における最初の生命体
- 巨大な霜の巨人(ヨトゥン)
- 雌雄同体の存在
- 他の名前:アウルゲルミル(Aurgelmir)
ユミルの繁殖
ユミルは特殊な方法で子孫を生み出しました。
自己増殖の方法
- 汗から男女の巨人を生み出す
- 足と足が結合して六つ頭の息子を産む
- 一人で巨人族全体の祖先となる
この方法により、ユミルは霜の巨人(フロストヨトゥン)の祖となりました。
アウズンブラの役割
ユミルと同時に、氷からアウズンブラ(Auðhumla)という聖なる雌牛も生まれました。
アウズンブラの特徴
- 巨大な牛
- 乳からミルクの川が流れ出る
- ユミルの栄養源となる
- 塩の氷の石を舐めて生活
この牛が氷を舐めることで、次の重要な存在が生まれることになります。
最初の神:ブーリ(Búri)

ブーリの出現
オーズンブラが三日間にわたって氷の石を舐め続けた結果、そこからブーリ(Búri)が現れました。
ブーリの誕生過程
- 一日目:氷から髪が現れる
- 二日目:頭部全体が現れる
- 三日目:全身が氷から解放される
ブーリの特徴
- 北欧神話における最初の神
- 美しく力強い外見
- アース神族の始祖
ブーリからアース神族へ
ブーリの血統から、後に主要な神々が生まれることになります。
家系図
ブーリ(最初の神)
↓
ボル(息子)+ベストラ(巨人の娘)
↓
オーディン、ヴィリ、ヴェ(三兄弟)
ボル(Borr)の世代
- ブーリの息子
- 巨人の娘ベストラと結婚
- 神族と巨人族の血を引く存在
オーディン三兄弟の世代
- オーディン:後の主神、知恵と戦争の神
- ヴィリ(Vili):意志の神
- ヴェ(Vé):聖なる場所の神
世界の創造:ユミルの死

オーディン三兄弟による革命
成長したオーディン、ヴィリ、ヴェの三兄弟は、原始の世界に秩序をもたらすため、ユミルを討つことを決意しました。
それから激しい戦いの末、三兄弟はユミルを倒すことに成功しました。
ユミルの死に際して、その血が大洪水となって多くの巨人が溺死し、わずかな巨人だけが生き残りました。
ユミルの身体から世界を創造
オーディン三兄弟は、ユミルの巨大な身体を材料として世界を創造しました。
身体の各部と対応する世界の要素
ユミルの身体 | 創造された世界の要素 | 特徴 |
---|---|---|
肉 | 大地(ミッドガルド) | 人間が住む世界の土地 |
血 | 海と湖 | すべての水域 |
骨 | 山脈 | 大地の骨格となる山々 |
髪 | 森林と草原 | 地上の植生 |
頭蓋骨 | 天空 | 世界を覆う天の丸天井 |
脳 | 雲 | 空に浮かぶ雲 |
まつ毛 | ミッドガルドの城壁 | 人間界を守る防壁 |
九つの世界の完成
ユミルの身体から創造された世界は、最終的に九つの世界(ニブンヘイマル)として完成しました。
九つの世界一覧
- アースガルド(Asgard):アース神族の居住地
- ヴァナヘイム(Vanaheim):ヴァン神族の居住地
- アルヴヘイム(Alfheim):光のエルフの世界
- ミッドガルド(Midgard):人間の世界
- ヨトゥンヘイム(Jotunheim):巨人の世界
- スヴァルトアルヴヘイム(Svartalfheim):闇のエルフ・ドワーフの世界
- ヘルヘイム(Helheim):死者の世界
- ニヴルヘイム(Niflheim):霧と氷の世界
- ムスペルヘイム(Muspelheim):炎の世界
これらの世界は、巨大な世界樹ユグドラシルによってつながれています。
最初の人間の創造

世界を創造した後、オーディン三兄弟は最初の人間も創造しました。
アスクとエムブラ
人間創造の過程
- 海辺で二本の木を発見
- アッシュ(トネリコ)の木から男性「アスク」を創造
- エルム(ニレ)の木から女性「エムブラ」を創造
三兄弟が与えた賜物
- オーディン:息吹(生命)と魂
- ヴィリ:感情と知性
- ヴェ:感覚と言葉
名前の意味
- アスク(Ask):「トネリコ」を意味
- エムブラ(Embla):「ニレ」または「つる草」を意味
まとめ
北欧神話における最初の存在と神々の系譜をまとめると、以下のようになります。
項目 | 存在・神 | 特徴 | 重要性 |
---|---|---|---|
最初の存在 | ユミル | ギンヌンガガプから生まれた霜の巨人、雌雄同体 | 巨人族の祖、世界創造の素材 |
最初の神 | ブーリ | 氷から牛により生まれた初の神 | アース神族の始祖 |
世界の創造者 | オーディン三兄弟 | ユミルを倒し身体から世界を創造 | 現在の世界秩序の確立者 |
最初の人間 | アスクとエムブラ | 木から創造された最初の人間夫婦 | 人類の祖先 |
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