【禁断の暗黒の森】ンガイの森とは?ナイアーラトテップの住処となった呪われた土地

神話・歴史・伝承

深い森の奥から、不気味なフルートの音色が聞こえてきたら、あなたはどうしますか?

アメリカ・ウィスコンシン州の奥地には、古くから「決して立ち入ってはならない」と恐れられてきた森があります。

そこでは300年以上にわたり、消息不明者が相次ぎ、半人半獣の怪物が目撃され、まるで森そのものが生きているかのように人々を飲み込んできたのです。

この記事では、クトゥルフ神話に登場する恐怖の舞台「ンガイの森」について、その正体と数々の恐ろしい伝承をご紹介します。

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概要

ンガイの森(N’gai)は、アメリカ合衆国ウィスコンシン州北部のリック湖周辺に広がる深い森です。

クトゥルフ神話の作家オーガスト・ダーレスが1944年に発表した短編小説『闇に棲みつくもの』に登場し、邪神ナイアーラトテップの地上での住処として描かれました。

ダーレスの地元であるウィスコンシン州を舞台にしたこの作品では、森の中に潜む恐怖が生々しく描写されています。

幹線道路のすぐそばにありながら、この森は外界から完全に隔絶された異界のような場所。覆い立つ大木、潰れかけた掘っ立て小屋、そして昼間でも漂う不気味さが、訪れる者を恐怖で包み込むのです。

森の様子と特徴

ンガイの森には、他の森にはない独特の恐ろしさがあります。

森の光景

森に足を踏み入れると、まず目に入るのは以下のような光景です。

  • 天を覆う巨大な木々:日光を遮るほどの大木が密集している
  • 朽ちかけたロッジ:無人の建物を襲うように、木の根がうにょうにょと伸びている
  • 謎の平石:木々と苔に隠されるように存在し、顔のない生物の姿が刻まれている
  • 変化する足跡:人間の足跡が、歩くたびに巨大な怪物の足跡へと変わっていく

この平石こそが重要な手がかりで、ガードナー教授の研究により、刻まれているのがナイアーラトテップだと判明しました。

森に潜む存在

森には「想像を絶する何か」が棲息していると伝えられています。

目撃される怪物の特徴

  • 半人半獣の恐ろしい生物
  • 見る人によって姿が違って見える
  • 円錐形の顔のない頭部
  • 触手と手を備える流動性の肉体
  • 2匹の笛吹きを従える
  • 夜になると不気味な遠吠えを上げる

この生物こそが、ナイアーラトテップの化身「闇に棲みつくもの」または「夜に吠えるもの」と呼ばれる存在なんです。

邪神は変幻自在に姿を変える能力を持ち、人間の姿に化けることさえできます。

恐怖の伝承・歴史

ンガイの森では、300年以上にわたり不可解な事件が相次いでいます。

17世紀:最初の犠牲者

1600年代、この地を訪れた宣教師ビアガード神父が、祈祷書に奇妙な書きつけを残して失踪しました。

その内容は「巨大な生物の足跡を目撃した」というもの。この事件が、記録に残る最初の異変となりました。

18世紀:材木業者の悲劇

18世紀中頃、リック湖周辺の松の木に目をつけた材木業者ビッグ・ボブ・ヒーラーが、伐採作業のため作業員を森に送り込みます。

しかし、18人の作業員が全員姿を消すという事態が発生。あまりの恐ろしさに、材木業者はやむなく手を引くことになりました。

20世紀:次々と起こる怪事件

1930年代から1940年代にかけて、さらに奇怪な出来事が立て続けに起こります。

1940年の主な事件

  • パイロットが上空から湖で水浴びする巨大生物を目撃
  • 300年前の行方不明者の遺体がほぼ無傷で発見される
  • ウィスコンシン州立大学のアプトン・ガードナー教授が調査中に消息を絶つ

これらの事件は地元の新聞でも取り上げられ、スコットランドのネス湖の怪物と比較されて話題になりました。

ガードナー教授の調査と最期

最も劇的な事件が、ガードナー教授の調査です。

調査の開始

1940年7月、ウィスコンシン州立大学で考古学を教えていたガードナー教授は、リック湖の伝説に強い関心を抱き、湖近くのロッジに単身で滞在を始めました。

最初の3ヶ月間、調査は順調に進んでいました。教授は森の中央部で顔のない生物が刻まれた古い平石を発見し、これがナイアーラトテップに関連すると突き止めたのです。

突然の失踪

しかし、ある日を境に教授の消息は完全に途絶えます。

教授の身を案じた助手のレアード・ドーガンと友人のジャックが捜索に向かうと、ロッジには教授の残した研究資料とレコード盤が残されていました。

レコードには不気味なフルートの音、忌まわしい呪文、そして教授の伝言が録音されていたのです。

フォマルハウトの下で、クトゥグアを召喚し、ナイアーラトテップを駆逐しろ!

衝撃の真実

やがて現れた教授は、「土地の自然現象が幻覚を見せるだけ」と説明しますが、その様子は明らかに異常でした。

  • 照明を避けるように振る舞う
  • 手を滑らせて録音盤を壊す
  • 眠った形跡がなく、朝には姿を消している

ジャックとレアードが脱出する際、恐ろしい光景を目にします。

教授が森へ向かう足跡が、一歩ごとに人間のものから巨大な怪物の足跡へと変化していく痕跡——。

教授はナイアーラトテップに捕らえられ、時空を超えて連れ回される旅の中で人間の姿を失っていったのです。

森の破壊

物語の最後、レアードとジャックは教授の伝言に従い、炎の精クトゥグアを召喚します。

クトゥグアとは

  • 四大霊の火の精として設定された存在
  • ナイアーラトテップと対立する火の属性を持つ
  • 無数の炎の小球を伴って現れる
  • フランシス・レイニーが設定を作り、ダーレスが作品で初めて登場させた

召喚されたクトゥグアにより、ンガイの森は完全に焼き払われ、ナイアーラトテップは空へと逃げ去りました。

こうして、300年以上にわたり人々を恐怖に陥れた暗黒の森は、炎によって滅びたのです。

作品における意義

『闇に棲みつくもの』は、クトゥルフ神話の中でも特別な位置を占めています。

ナイアーラトテップ像への貢献

この作品は、邪神ナイアーラトテップの代表的な化身「夜に吠えるもの」を生み出しました。

この姿は後のクトゥルフ神話関連書籍で頻繁にイラスト化され、ナイアーラトテップの「千の姿」の中でも最も有名なものの一つとなっています。

四大霊の完成

また、この作品でクトゥグアが初めて作品に登場したことで、ダーレスの「四大霊」の設定が完成しました。

  • :クトゥグア
  • :クトゥルフ
  • :ハスター
  • :ナイアーラトテップ

ホラー描写の巧みさ

評論家の東雅夫は、人間の足跡が徐々に怪物の足跡へと変化していく描写を高く評価しています。

言葉で直接説明せず、足跡の変化だけで恐ろしい真相を暗示する——この手法は、アルジャーノン・ブラックウッドの名作『ウェンディゴ』からの影響を受けているとされています。

まとめ

ンガイの森は、クトゥルフ神話における恐怖の象徴的な舞台です。

重要なポイント

  • ウィスコンシン州北部のリック湖周辺に位置する禁断の森
  • ナイアーラトテップの地上の住処として設定された
  • 17世紀から300年以上にわたり消息不明者が続出
  • 半人半獣の怪物「闇に棲みつくもの」が棲息
  • オーガスト・ダーレスの短編小説『闘に棲みつくもの』(1944年)に登場
  • 炎の精クトゥグアによって最終的に焼き払われた
  • ナイアーラトテップの代表的な化身を生み出した重要な作品
  • 四大霊の設定を完成させた記念碑的作品

もし深い森の奥から不気味なフルートの音色が聞こえてきたら、それはナイアーラトテップの使者が近づいている合図かもしれません。決して音のする方へは近づかないでくださいね。

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