猫の命の数はいくつ?「猫に九生あり」の由来と世界の迷信を徹底解説

「猫は9つの命を持っている」という話を聞いたことはありませんか?
英語では「A cat has nine lives.」ということわざがあり、猫は何度死んでも生き返る不思議な生き物だと信じられてきました。
でも、なぜ「9」なのでしょうか?しかも、国によっては7つだったり6つだったりするんです。
この記事では、「猫に九生あり」ということわざの由来から、世界各国で異なる「猫の命の数」、そして科学的に見た猫の驚異的な生存能力まで、まるごと解説していきます。

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「猫に九生あり」とは?意味と使われ方

「猫に九生あり」は、英語の「A cat has nine lives.」を訳したことわざです。

「猫はたくさんの命を持っていて、9回も生まれ変わることができる」という迷信から生まれた表現で、そこから転じて「猫は執念深くてなかなか死なない」「しぶとい」といった意味で使われるようになりました。

実はこのことわざには、古い英語の格言として知られる続きがあります。

A cat has nine lives. For three he plays, for three he strays, and for the last three he stays.
(猫には9つの命がある。3つで遊び、3つでさまよい、残りの3つで静かに過ごす)

この格言がいつ、どこで生まれたのかは正確にはわかっていません(「古い英語の格言」として多くの文献に引用されていますが、具体的な出典文献は確認されていません)。
ただ、猫の一生を「遊び盛りの幼少期」「放浪する青年期」「落ち着いた老年期」の3段階に分けている点は、人間の人生にも通じるところがあって面白いですね。

また、「好奇心は猫をも殺す(Curiosity killed the cat)」ということわざも、猫の九つの命と深い関係があります。
このことわざの原型は16世紀の「care killed the cat(心配は猫をも殺す)」で、1598年のベン・ジョンソンの戯曲に初出します。9つも命がある猫でさえ心配(care)で命を使い果たすという意味でした。
19世紀に入って「care(心配)」が「curiosity(好奇心)」に変わり、現在の「過剰な好奇心は身を滅ぼす」という戒めの言葉になったんです。

なぜ「9」なのか?古代エジプトとキリスト教の神聖な数字

猫の命がなぜ「9つ」とされたのか、その正確な起源をたどることは簡単ではありません。
ただ、有力な説はいくつか存在します。

古代エジプトの九柱神(エネアド)

よく知られた説のひとつが、古代エジプトとの関連です。

古代エジプトでは、猫は非常に神聖な生き物でした。
猫の女神バステトは家庭や都市の守り神として崇拝され、太陽神ラーの娘とされています。
ラーは冥界を訪れる際に猫の姿をとったとも伝えられており、猫と神々の結びつきは非常に深いものがありました。

ここで重要になるのが「9」という数字です。

エジプト神話には「ヘリオポリス九柱神(エネアド)」と呼ばれる9柱の主要な神々が登場します。
創造神アトゥムを筆頭に、シュウ、テフヌト、ゲブ、ヌト、オシリスイシスセト、ネフティスの9柱です。

「アトゥム=ラーが猫の姿で冥界を訪れた」という神話があり、このアトゥムを起点としてシュウとテフヌトが生まれ、さらにその子孫として9柱の神々のグループが形成されました。こうした猫と九柱神の結びつきから、猫と「9つの命」が関連づけられたのではないかと考えられています。

古代エジプトの思想に触れた周辺の国々が、太陽と猫に神聖な数字「9」を重ね合わせ、「猫には9つの命がある」という概念が広まっていった可能性があるんですね。

エジプト神話の神々についてもっと詳しく知りたい方は、エジプト神話の神々大百科も参考にしてみてください。

キリスト教における「9」の神聖さ

キリスト教でも「9」は特別な数字です。

「父」「子(キリスト)」「聖霊」の三位一体を3回繰り返した数が「9」であり、これは最も神聖な数字のひとつとされてきました。
キリスト教の教えでは天使には9つの階級(天使の九位階)があるとされ、聖書において「9」は「完全」や「神の裁き」を象徴する数としてたびたび登場します。

こうした宗教的な背景が、猫の命の数を「9」に定着させた要因のひとつかもしれません。

ギリシャ・北欧・中国での「9」の意味

「9」が特別な数字とされていたのはエジプトやキリスト教に限りません。

ギリシャ神話には「9人のムーサ(ミューズ)」がいますし、北欧神話では宇宙が「9つの世界」で構成されています。
主神オーディンが知恵を得るために世界樹に吊り下がった日数も9日間です。

中国では、「九(jiǔ)」の発音が「久(jiǔ=永遠)」と同じであることから、「9」は永遠や長寿を意味する縁起の良い数字とされています。
一桁の数字の中で最も大きい「9」は、「無限」や「無数」を連想させるという点でも、猫の不死身伝説にはぴったりだったのでしょう。

世界各国で違う「猫の命の数」

実は、「猫の命が9つ」というのは主に英語圏での話です。
世界に目を向けると、猫の命の数は国によって異なります。

猫の命の数主な国・地域
9つイギリス、アメリカ、オーストラリアなど英語圏
7つスペイン、イタリア、ギリシャ、ブラジルなどスペイン語圏・ヨーロッパの一部
6つトルコ、アラビア語圏

英語圏で「9」が定着した背景には、先述したエジプト神話やキリスト教の影響があると考えられています。
一方、スペイン語圏で「7」が好まれるのは、「7」がキリスト教において「完全な数」として重要視されてきたことと関係があるようです(七つの大罪、七つの秘蹟など)。
トルコやアラビア語圏で「6」とされる理由は明確にはわかっていませんが、イスラム文化圏における数秘術的な伝統が関係している可能性があります。

数字は違えど、「猫には複数の命がある」と信じられてきた点は世界共通です。
それだけ、人間にとって猫は不思議でしぶとい生き物に見えたということなんでしょう。

文学作品に残る「猫の九生」

「猫に九生あり」という迷信は、数々の文学作品にも影響を与えてきました。

ウィリアム・ボールドウィン『猫にご用心』(1561年)

確認できる最も古い文献のひとつが、イギリスの作家ウィリアム・ボールドウィンの『Beware the Cat(猫にご用心)』です。
作品の中に「魔女はその猫の体を九回使うことを許されるのだ(a witch may take on her a cats body nine times)」という一節があり、1550年代にはすでにイギリスで「猫に9つの命がある」という概念が存在していたことがわかります。

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(1597年)

シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』の第3幕第1場にも、この迷信が登場します。
マキューシオがティボルトに向かって「猫王どの、九つあるというおぬしの命のうち、たったひとつだけ所望したいが(Good King of Cats, nothing but one of your nine lives)」と挑発するシーンです。
16世紀末のイギリスでは、この迷信がごく一般的に知られていたことがうかがえます。

トマス・フラー『グノモロジア』(1732年)

イギリスの医師・著述家トマス・フラーは、格言集『Gnomologia』の中で「A cat has nine lives, and a woman has nine cats’ lives.(猫には9つの命があり、女には猫9匹分の命がある)」と記しています。
ユーモラスな表現ですが、18世紀に入っても「猫に九生あり」という概念が広く共有されていたことを示す資料です。

日本の文学にも

日本でも、猫の超自然的な生命力は古くから語られてきました。

曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』(19世紀)には「九ッの世をかゆるとも、つきぬ怨はのちつひに、その身に報ざるべきか」という表現があり、猫が何度も生まれ変わるという観念が当時の日本にも存在していたことがわかります。

現代では、佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』(1977年)が有名です。
9回どころか100万回も生まれ変わった猫の物語は、子どもから大人まで幅広い世代に愛され続けています。

猫が「不死身」と信じられた5つの理由

そもそも、なぜ猫は「何度でも生き返る」と思われたのでしょうか。
実は、猫の身体能力や習性を見ると、昔の人々がそう信じたのも無理はないんです。

1. 驚異的な着地能力(空中立ち直り反射)

猫が「不死身」に見えた最大の理由は、高いところから落ちてもほぼ必ず足から着地するという能力です。

これは空中立ち直り反射(righting reflex)と呼ばれる猫に生まれつき備わった能力で、生後3〜4週で現れ始め、6〜9週で完成します。

仕組みはこうです。
まず、内耳にある前庭器官(バランスセンサー)が「今、どちらが上か」を瞬時に検知します。
次に、猫は体の前半分と後半分を別々の軸でひねり、頭→前脚→後脚の順番に体を回転させて足を下に向けます。
この一連の動作は、わずか0.5秒以内に完了し、約60cmの高さがあれば実行可能だとされています。

1894年、フランスの生理学者エティエンヌ=ジュール・マレーが、高速写真を使って落下中の猫の体の回転を連続撮影し、フランスの科学アカデミー紀要『Comptes Rendus』に発表しました(同年、科学誌『Nature』でもその要約が紹介されています)。
この写真は当時の物理学者たちに衝撃を与えました。
自由落下する物体が外部からの力なしに向きを変えるのは、角運動量保存の法則に矛盾するように見えたからです。

この「なぜ猫は落下中に向きを変えられるのか」という問題は「ネコひねり問題(Falling Cat Problem)」として知られ、マレーの発表以降、70年以上にわたって物理学者を悩ませてきた難問でした。
1935年にオランダの生理学者ラデマーカーとテル・ブラークが「曲げてひねるモデル(bend-and-twist model)」を提唱し、猫が体を曲げて前後を独立に回転させるという基本概念を示しました。この考えを数学的に厳密に証明したのは、1969年にスタンフォード大学のトーマス・R・ケインが発表した論文でした。

2. 驚くべき柔軟性

猫の脊椎は52〜53個の椎骨で構成されています(人間は33個)。
しかも、椎骨の間にあるクッション状の椎間板が伸縮するため、猫の背骨はバネのようにしなやかに動くんです。

さらに、猫の鎖骨は人間のように骨同士で固定されているのではなく、筋肉だけで体についています。
このおかげで、頭が通る幅さえあれば体全体をするりと通り抜けることができます。
上半身を180度ひねることも可能で、これは人間の約2倍の可動域です。

こうした柔軟性が、猫に「まるで液体のような」動きを可能にしているわけですね。

3. 高い身体能力

猫は体高の約6倍の高さまでジャンプできるとされています。
人間に当てはめると、立ったままの状態から約10メートルの高さに飛び上がる計算です。

走る速度も時速30〜48kmに達し、後ろ脚の強力な筋肉がこうした爆発的な動きを支えています。
こうした身体能力を目の当たりにした昔の人々が「猫は特別な生き物だ」と感じたのも、不思議ではありません。

4. プチ家出と「復活」

古代エジプトでも中世ヨーロッパでも、猫は基本的に放し飼いでした。
猫はふらっと家を出て、2〜3日帰ってこないことがよくあります。

「もう死んでしまったのかも…」と悲しんでいた飼い主のもとに、猫がひょっこり帰ってくる。
この「死んだと思ったら生きていた」という経験を何度も繰り返すうちに、「猫は何度でも蘇る」という印象が定着していったのかもしれません。

5. 魔女の使い魔という迷信

中世ヨーロッパでは、猫は魔女の使い魔(ファミリア)であると信じられていました。
猫を飼っているだけで魔女として疑われることもあったほどです。

中世ヨーロッパでは魔女は超自然的な力を持つとされ、1486-87年頃に出版された悪名高い魔女狩り指南書『魔女への鉄槌』は、魔女の実在性を主張し処罰の手続きを詳述しています。
魔女とその使い魔である猫に対する恐れが、「猫は簡単には死なない」という風説を後押ししたと考えられます。

ちなみに、悪魔と猫の結びつきについて興味がある方は、悪魔バエルと猫の記事もおすすめです。

科学が証明する猫の「生存力」

「猫に九生あり」は迷信ですが、猫が驚異的な生存能力を持っていること自体は科学的に裏付けられています。

終末速度(ターミナル・ベロシティ)の違い

自由落下する物体は、空気抵抗と重力が釣り合った時点で一定の速度に達します。これを「終末速度」と呼びます。

手足を広げた猫の終末速度は約97km/hで、人間の約190km/hの約半分です。
猫は体が小さくて軽い上に、落下中に手足を広げて体を平たくし、パラシュートのように空気抵抗を最大化します。
さらに厚い毛皮も空気抵抗を増やす効果があります。

高層ビルからの生還例

1987年にアメリカ獣医学会誌(JAVMA)に発表された研究では、ニューヨークの高層ビルから落下してアニマル・メディカル・センターに搬送された132匹の猫を調査しています。
驚くべきことに、病院に搬送されて治療を受けた猫のうち約90%が生存していました。
中には32階から落下して比較的軽傷で済んだ猫もいたと報告されています。

研究チームは、5階以上の高さから落ちた猫は終末速度に達した後にリラックスして体を広げるため、衝撃が分散されるのではないかと推測しています。
ただし、この研究には「即死した猫は病院に運ばれないため、データに含まれていない」という生存者バイアスの問題も指摘されています。

2004年の別の研究(119匹の猫を対象)では、7階以上からの落下はより重篤な傷害、特に胸部外傷の頻度が高くなることが報告されました。

猫の着地能力は驚異的ですが、決して無敵ではありません。
高いところからの落下は骨折や内臓損傷を引き起こす可能性があり、「猫だから大丈夫」とは言えないのです。

まとめ

  • 「猫に九生あり(A cat has nine lives.)」は、英語圏で広く知られることわざで、「猫は執念深くなかなか死なない」という意味で使われる
  • 「9」という数字は、古代エジプトのヘリオポリス九柱神やキリスト教の三位一体(3×3=9)など、複数の文化で神聖な数字とされてきた
  • 猫の命の数は国によって異なり、英語圏では9つ、スペイン語圏では7つ、トルコやアラビア語圏では6つとされている
  • 1561年のウィリアム・ボールドウィン『猫にご用心』や、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(1597年)にもこの迷信が登場する
  • 猫の空中立ち直り反射、柔軟な脊椎、低い終末速度などが「不死身」の印象を生み出したが、猫の命はもちろん1つだけ

「猫に九生あり」は迷信ですが、猫の持つ驚異的な身体能力は紛れもない事実です。
とはいえ、9つどころか猫の命はたった1つ。大切な猫のその1つきりの命を、飼い主としてしっかり守っていきたいですね。

参考情報

関連記事

この記事で参照した情報源

一次資料・学術資料

  • William Baldwin『Beware the Cat』(1553年執筆、1561年出版) – 「猫の9つの命」に言及した最も古い文献のひとつ
  • William Shakespeare『Romeo and Juliet』(1597年)第3幕第1場 – 「九つの命」への言及
  • Thomas Fuller『Gnomologia』(1732年) – 英語圏での格言の記録
  • Étienne-Jules Marey(1894年)『Comptes Rendus』誌および『Nature』誌 – 落下する猫の連続写真による空中立ち直り反射の初の科学的記録
  • Whitney, W.O. and Mehlhaff, C.J.(1987年)”High-Rise Syndrome in Cats” Journal of the American Veterinary Medical Association – 132匹の猫の高層落下に関する研究
  • Kane, T.R. and Scher, M.P.(1969年)”A dynamical explanation of the falling cat phenomenon” International Journal of Solids and Structures – ネコひねり問題の数学的解決
  • Vnuk, D. et al.(2004年)”Feline high-rise syndrome: 119 cases (1998-2001)” J Feline Med Surg 6(5):305-12 – 高層落下症候群に関する研究

参考になる外部サイト

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