猫の忍者──2008年ネット発祥の都市伝説を徹底解説

神話・歴史・伝承

「猫の忍者に狙われている」

もしあなたがこんな相談を受けたら、どう思いますか?冗談だと笑い飛ばすか、それとも相手の精神状態を心配するでしょうか。

2008年の春、インターネット掲示板2ちゃんねるに、まさにそんな奇妙な体験談が投稿されました。二本足で走り回り、ギザギザの刃物を持った猫たち。黒い忍者装束を身にまとい、夜な夜な一人の男性を追いかける──。

荒唐無稽に聞こえるこの話は、ネット住民たちの間で瞬く間に広がり、実際に現地調査に赴く者まで現れる「祭り」状態に発展しました。

この記事では、日本のネットロア(インターネット発祥の都市伝説)として語り継がれる「猫の忍者」について、その発祥から顛末、そして日本における猫と忍者の文化的つながりまで詳しく解説していきます。


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「猫の忍者」とは何か

概要

「猫の忍者」は、2008年3月に2ちゃんねるオカルト板に投稿された体験談から生まれたネットロア(インターネット発祥の都市伝説)です。

投稿者は「1週間ほど前から猫の忍者に狙われている」と主張し、その後も続々と状況を実況形式で報告しました。この独特な語り口と異様な内容が注目を集め、専用スレッドが立てられるほどの騒動に発展したのです。

ネットロアとは、インターネット上で自然発生的に広まる都市伝説のこと。「八尺様」「くねくね」「きさらぎ駅」などと並び、「猫の忍者」も2000年代を代表するネット怪談の一つとして知られています。

発祥の経緯

すべての始まりは、2008年3月21日のことでした。

2ちゃんねるオカルト板の「身のまわりで変なことが起こったら実況するスレ151」に、一人の投稿者が現れます。投稿の冒頭はこうでした。

「1週間前から変なことが起こってる ちょっと聞いてくれ。最初に言っておくが俺は妄想癖でも統合失調症でも病気でもなんでもない。笑わないでくれよ。ガチだ。最近猫の忍者に狙われてる」

この唐突で真剣な語り出しに、スレッド住民たちは困惑しつつも興味を惹かれていきました。


投稿者が語った体験

最初の遭遇

投稿者によると、最初の遭遇は日課にしていた運動の後、公園で休憩していた時のことだったといいます。

カサカサという音がして振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていました。猫が二本足で走っているのです。しかも、何かを手に持っている。

パニックになりながらも観察した投稿者は、その猫が刃物のようなものを持って自分に向かってきていることに気づきます。必死で逃げ帰り、その日はなんとか事なきを得たものの、それ以降、猫たちは彼のもとに繰り返し現れるようになったというのです。

目撃された「猫の忍者」の姿

投稿者が語った猫の忍者の特徴は、以下のようなものでした。

外見的な特徴

  • 普通の猫のサイズだが、二本足で直立・走行する
  • ぼろぼろの黒い装束を着ている(忍者のような格好)
  • マントやフードのようなものを身につけている個体もいる
  • ギザギザの刃がついた刀のような武器を持っている
  • 片手で武器を保持している(どうやって持っているかは不明)

確認された2匹の特徴

特徴1匹目2匹目
毛色ロシアンブルーのような灰色
服装ボロボロの黒装束フード付きマントのようなもの
武器ギザギザの刃の刀鎌状の刃が四方に突き出た武器

2匹目の武器については、投稿者自身が「まるで中央アフリカの投げナイフだ」と表現していました。

鳴き声と行動

興味深いことに、投稿者は猫の忍者の鳴き声を一度も聞いていないと述べています。ただし、猫同士が向かい合って何かを話しているように見えることがあったとか。

彼らは投稿者を執拗に追いかけ、時には自宅の窓を叩くこともあったといいます。なぜ自分が狙われているのか、その理由は最後まで不明のままでした。


ネット上での「祭り」

騒動の拡大

投稿者のリアルタイム報告は、スレッド住民たちの関心を一気に集めました。

猫の忍者が窓を叩いているという実況や、その姿を撮影したとされる写真・動画がアップロードされ(現在は掲載サイトのサービス終了により視聴不可)、専用スレッド「猫忍・二ノ巻」まで立てられる事態に発展します。

当時アップロードされた画像には「目のようなものが写っている」という報告があったものの、その真偽は確認できません。

現地調査と終息

騒動がピークに達した頃、スレッド住民の中から実際に現地調査へ赴く者が現れました。投稿内容から、埼玉県のある市(最寄り駅は杉戸高野台駅付近と推測された)が舞台ではないかと考えられたためです。

しかし、現地を訪れた調査隊が猫の忍者を発見することはありませんでした。

その後、体験者の偽物が現れたり、「釣り」(作り話)ではないかという疑惑が浮上したりして、騒動は急速に収束。2008年4月16日、専用スレッドは651番目の書き込みを最後に終息していきました。

およそ1ヶ月間の出来事でした。


なぜ「猫」と「忍者」なのか

日本における猫の妖怪伝承

「猫の忍者」という組み合わせは、荒唐無稽に見えて実は日本の文化的土壌と深く結びついています。

日本では古来より、猫は神秘的な力を持つ生き物として恐れられてきました。代表的な猫の妖怪には以下のようなものがあります。

猫又(ねこまた)

年を経た猫が妖怪化したもので、尻尾が二股に分かれているのが特徴です。鎌倉時代の『明月記』には、南都(現在の奈良県)で猫又が一晩で数人を食い殺したという記述が残っています。

化け猫(ばけねこ)

10年以上飼われた猫が変化したとされる妖怪で、人間に化けたり、死者を操ったりする力を持つといわれています。佐賀藩の「鍋島化け猫騒動」は特に有名な伝説です。

猫と忍者の共通点

考えてみれば、猫と忍者には多くの共通点があります。

  • 音を立てずに移動する:肉球を持つ猫は、まさに忍び足の達人
  • 夜行性:闇に紛れて活動する姿は忍者そのもの
  • 俊敏な動き:高い場所への跳躍や素早い身のこなし
  • 神出鬼没:いつの間にか現れ、いつの間にか消える
  • 鋭い爪:武器として機能する身体的特徴

江戸時代の書物『宿直草』や『諸国百物語』にも、猫が人間を化かす話が多く残されています。夜の闇を往く猫のしなやかさや得体の知れなさは、忍者のイメージと重なる部分があったのかもしれません。


「猫の忍者」が与えた影響

創作作品への登場

「猫の忍者」は、その独特の世界観から複数の創作作品に影響を与えています。

『裏世界ピクニック』

宮澤伊織による小説シリーズで、2021年にはアニメ化もされました。原作のファイル7(アニメ第8話)「猫の忍者に襲われる」では、このネットロアが元ネタとして登場。主人公たちが実際に猫の忍者と対峙する展開が描かれています。

アニメ版の放送日が2月22日だったのは、「ニャンニャンニャン」で猫の日、「ニンニンニン」で忍者の日という偶然(あるいは意図的な)の一致でした。

『本当に怖いネット掲示板百物語』

都市伝説を題材にしたコミック怪談集で、「猫の忍者」のエピソードも収録されています。

ネットロア研究の対象として

「猫の忍者」は、都市伝説がどのようにインターネット上で生まれ、拡散し、終息していくかを示す好例としても注目されています。

従来の都市伝説が口伝えで広まったのに対し、ネットロアはリアルタイムで記録が残り、読者がその場で参加できるという特徴があります。「猫の忍者」騒動では、読者が現地調査に赴くなど、「読むだけ」の物語を超えた「行動」へとつながった点が興味深いところです。


真相は結局何だったのか

創作説と実体験説

「猫の忍者」の真相については、現在も結論は出ていません。

創作説を支持する根拠

  • 荒唐無稽すぎる内容
  • 物証(写真・動画)が現存しない
  • 現地調査で何も発見されなかった
  • 偽の体験者が現れたこと

実体験説を支持する根拠

  • 投稿者の語り口が切迫していた
  • 具体的な描写の一貫性
  • 当時は写真・動画が実際にアップロードされていた

多くのネットロアがそうであるように、真相は藪の中です。ただ、創作であれ実体験であれ、これほど多くの人々を巻き込んだ「物語」には、何らかの力があったことは確かでしょう。

心理学的な解釈

一説には、人間は普段見慣れたものが異常な振る舞いをすると、強い恐怖を感じるといわれています。「歩く猫」「武器を持つ猫」という設定は、まさにその心理を突いたものといえるかもしれません。

また、2008年当時はスマートフォンが普及する前夜であり、「写真を撮ったが画質が悪い」「動画があったがサイトが終了した」という状況が自然に受け入れられる時代でした。現代ならば、すぐに高画質の証拠を求められていたでしょう。


他の「ネット怪談」との比較

「猫の忍者」は、2000年代に2ちゃんねるオカルト板で生まれた数多くのネットロアの一つです。同時代の有名なネット怪談と比較してみましょう。

名称発生年特徴
くねくね2003年頃田んぼに現れる白い揺れる存在、見ると狂う
きさらぎ駅2004年存在しない駅に迷い込んだ女性のリアルタイム報告
八尺様2008年身長2m以上の女性の姿をした怪異
猫の忍者2008年武装した猫に追われる男性のリアルタイム報告
コトリバコ2005年呪いの箱をめぐる連作怪談

「猫の忍者」の特徴は、他のネット怪談と比べてホラーというよりシュールな点にあります。恐怖よりも困惑や笑いを誘う要素が強く、それゆえに「祭り」として盛り上がったとも考えられます。


まとめ

「猫の忍者」は、2008年に2ちゃんねるオカルト板で生まれた日本のネットロアです。

重要なポイント

  • 2008年3月21日、「身のまわりで変なことが起こったら実況するスレ」に最初の投稿
  • 二本足で走り、黒装束を着て、ギザギザの刃物を持った猫たちに追われるという内容
  • 埼玉県杉戸高野台駅付近が舞台と推測された
  • 現地調査が行われたが、猫の忍者は発見されず
  • 約1ヶ月で騒動は収束
  • 『裏世界ピクニック』など複数の創作作品に影響を与えた
  • 日本古来の猫の妖怪伝承と忍者のイメージが融合した独特の都市伝説

真相は今も謎のままですが、この奇妙な物語が多くの人の心を捉えた事実は変わりません。

夜、公園を歩いていて物音がしたら、少しだけ振り返ってみてください。もしかすると、そこには黒装束をまとった猫がいるかもしれません。

──もちろん、そんなことはありえないのですが、もしいたとしても……逃げ切れる自信はありますか?

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