もしあなたの隣で寝ている人が、夜中に雷のような大いびきをかきながら部屋いっぱいに膨らんだら、どう思うでしょうか?
江戸時代の東北地方の人々にとって、それは恐ろしい妖怪の仕業でした。
それは怠け者の女性に取り憑いて巨大化させる「寝肥(ねぶとり)」という妖怪の姿だったのです。
この記事では、江戸時代の奇談集に記録された珍しい妖怪「寝肥」について詳しくご紹介します。
概要

寝肥(ねぶとり) は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記録された女性に関わる妖怪です。
別名「寝惚堕(ねぶとり)」とも呼ばれ、妖怪というよりも「病気」や「戒め」の意味が強い存在なんです。
寝肥の基本情報
- 分類:女性の病気・怠け者への戒めの妖怪
- 出典:『絵本百物語』(江戸時代の奇談集)
- 別名:寝惚堕(ねぶとり)
- 主な発生地域:奥州(現・青森県・岩手県)
- 対象:寝てばかりいる女性
寝肥は、日本の妖怪の中でも非常に珍しい存在です。
他の古典作品や民間伝承にはほとんど記録が残されておらず、『絵本百物語』以外ではあまり見ることができません。
この特殊な妖怪がどんな姿をしているのか、詳しく見ていきましょう。
姿・見た目
寝肥の最も特徴的な点は、昼と夜で全く違う姿になることです。
昼間の姿
昼間の寝肥は、普通の女性と変わりません。
昼間の特徴
- 見た目は 普通の女性
- 特に変わったところはない
- 気さくな性格に見える
- 外見からは妖怪だと分からない
夜になると起こる変化
しかし、夜にふとんに入ると恐ろしい変化が始まります。
夜の変化
- 体が 部屋いっぱいになるほど巨大化
- まるで牛のような大きさになる
- 相撲取りのような巨体に膨らむ
- 普通の布団では全く足りない
音の特徴
寝肥の姿と同じくらい恐ろしいのが、その音です。
いびきの特徴
- 雷鳴のような大音響
- 車が轟くほどの大きさ
- 耳が聞こえなくなりそうな音量
- 近所迷惑レベルの騒音
この巨大化と大いびきが、寝肥の最も印象的な見た目と描写の特徴なんです。
それでは、寝肥にはどのような行動パターンがあるのでしょうか。
特徴
寝肥には、他の妖怪とは全く違うユニークな特徴があります。
生活パターンの変化
寝肥に取り憑かれた女性は、特定の生活リズムに陥ります。
典型的な行動
- 食べては寝るの繰り返し
- だらしない生活習慣
- 昼間でも寝てばかり
- 家事をサボりがち
布団の使用量
寝肥の特徴を表す有名なエピソードがあります。
奥州の夫婦の事例
- 布団が全部で10枚ある家庭
- 寝肥の女性:7枚使用
- 夫:3枚使用
- 圧倒的に女性の方が多く使う
この話からは、寝肥がどれほど大きくなるかが分かりますね。
周囲への影響
寝肥は本人だけでなく、周りの人にも大きな影響を与えます。
家族への影響
- 色気がまったくない
- 何をするにも騒々しい
- 夫や家族の愛想が尽きる
- 最終的には見放される
地域での呼び方
東北地方では、寝肥に関する独特な表現があります。
地方での用法
- 寝相の悪い女性を「ねぶとり」と呼ぶ
- 怠け者の妻への批判として使用
- 地域の戒めの言葉として定着
これらの特徴は、単なる妖怪の話というより、社会的な教訓の意味が強いですね。
それでは、寝肥にまつわる具体的な伝承を見ていきましょう。
伝承
寝肥について残されている伝承は限られていますが、興味深い内容が含まれています。
『絵本百物語』の記録
最も詳しい記録が残されているのが、江戸時代の『絵本百物語』です。
主な記述内容
- 女性の病気の一つとして説明
- 寝坊を戒めるための言葉
- 奥州地方での実例紹介
狸憑き説
一部の研究者は、寝肥の正体について興味深い説を提唱しています。
狸憑きとの関連
- 眠っている女性の体に 狸が忍び込む
- 狸の悪さで巨大化や大食いが起こる
- 江戸時代の『視聴草』『兎園小説拾遺』に類似事例
この説によると、老女の体に狸が入り込んで大量の食べ物を平らげるようになった事例があるそうです。
まとめ
寝肥は、日本の妖怪の中でも特に教訓的な意味を持つ存在です。
寝肥の重要ポイント
基本情報
- 江戸時代の『絵本百物語』に記録された女性の妖怪
- 奥州(東北地方)での伝承が中心
- 他の文献にはほとんど記録がない貴重な妖怪
特徴的な現象
- 夜になると部屋いっぱいに巨大化する
- 雷のような大いびきをかく
- 食べては寝るの繰り返し生活
- 布団を大量に使用する
社会的意味
- 怠け者の女性への戒めの物語
- 家庭生活の教訓として機能
- 地域の価値観を反映した妖怪
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