「昔のインターネットってどんな感じだったの?」「今のブラウザって、いつから使われ始めたの?」
現在、私たちは当たり前のようにGoogle ChromeやSafari、Microsoft Edgeなどのブラウザを使ってインターネットを楽しんでいます。でも、これらのブラウザにはすべて「ご先祖様」がいるんです。
それが、1993年に登場した「NCSA Mosaic(エヌシーエスエー・モザイク)」という伝説のウェブブラウザです。
この記事では、インターネット普及の立役者となったMosaicの歴史、革新的な機能、そしてそれがどのように現代のブラウザにつながっているのかを、わかりやすく解説していきます。
NCSA Mosaicとは?インターネット革命の始まり

NCSA Mosaicは、1993年にアメリカのイリノイ大学で開発されたウェブブラウザです。
「NCSA」は「National Center for Supercomputing Applications(米国立スーパーコンピュータ応用研究所)」の略称で、イリノイ大学にある研究機関のことです。
「Mosaic(モザイク)」という名前は、さまざまな要素が組み合わさって一つの絵を作り出すモザイクアートのように、テキストや画像、リンクなどが組み合わさってウェブページを構成する様子を表現しています。
誰が開発したのか
Mosaicを開発したのは、当時イリノイ大学の学生だったマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)と、同大学のスタッフだったエリック・ビナ(Eric Bina)です。
マーク・アンドリーセンは1971年生まれで、当時22歳の若き天才プログラマーでした。彼はNCSAでアルバイトをしながら、「もっと使いやすいウェブブラウザを作りたい」という思いでMosaicの開発に取り組んだんですね。
エリック・ビナは優れたプログラミング技術を持つエンジニアで、アンドリーセンとペアを組んで開発を進めました。
2人は3〜4日間ぶっ通しで作業し、1日休むという過酷なスケジュールでMosaicを完成させたと言われています。
いつリリースされたのか
Mosaicの開発は1992年末に始まり、最初のバージョン(アルファ版0.5)が1993年1月23日に公開されました。
そして正式版である「バージョン1.0」が1993年4月21日にリリースされました。
最初はUnix(ユニックス)というOSのXウィンドウシステム向けでしたが、その後すぐにWindows版とMacintosh版も開発され、1993年9月にリリースされます。
この「複数のプラットフォームで使える」という点が、Mosaicの爆発的な普及につながったんですね。
Mosaicが革命的だった理由
Mosaicは、世界で最初のウェブブラウザではありません。実は、それ以前にもいくつかのブラウザが存在していました。
例えば:
- WorldWideWeb:ウェブの発明者ティム・バーナーズ=リーが1990年に開発した最初のブラウザ
- ViolaWWW:1992年に登場したグラフィカルなブラウザ
- Erwise:フィンランドで開発された初期のブラウザ
では、なぜMosaicだけが爆発的に広まったのでしょうか?
画像とテキストが同じウィンドウに表示できた
Mosaicの最大の革新は、画像とテキストを同一のウィンドウ内に表示できることでした。
それまでのブラウザでは、画像はテキストとは別のウィンドウで開く必要がありました。つまり、ウェブページを見ていて画像を見たくなったら、別ウィンドウを開いて画像ファイルをダウンロードして表示する、という手間がかかったんです。
Mosaicでは、HTMLに新しく導入された「IMGタグ」を使って、画像をページ内に直接埋め込むことができました。
これにより、現代のウェブページと同じように、文章と画像が混在したリッチなコンテンツを表示できるようになったんですね。
直感的で使いやすいインターフェース
Mosaicは、当時としては画期的に使いやすいインターフェースを持っていました。
グラフィカルなボタン
「戻る」「進む」「ホーム」などのアイコンボタンが用意されており、マウスで簡単に操作できました。
クリック可能なハイパーリンク
それまでのブラウザでは、リンクに番号が振られていて、その番号を手動で入力する必要がありました。
Mosaicでは、リンクをクリックするだけで目的のページに移動できるようになったんです。
ブックマーク機能
お気に入りのページを保存して、後から簡単にアクセスできる機能も搭載されていました。
スクロール機能
長いページでも、スクロールバーを使ってスムーズに読み進めることができました。
これらの機能は、今では当たり前すぎて意識することもありませんが、当時は革命的だったんですね。
無料で配布された
Mosaicは、非商用利用に限り完全無料で配布されました。
インターネット経由で誰でも自由にダウンロードできたため、あっという間に世界中に広がりました。
1993年末の時点で、毎月5,000本以上がダウンロードされ、NCSAには週に数十万通もの問い合わせメールが届いたと言います。
複数のプロトコルに対応
Mosaicは、HTTP(ウェブ)だけでなく、以下のプロトコルにも対応していました。
- FTP(File Transfer Protocol):ファイル転送
- NNTP(Network News Transfer Protocol):ネットニュース
- Gopher(ゴーファー):当時人気だった情報検索システム
つまり、Mosaicは単なるウェブブラウザではなく、インターネット上のさまざまなサービスにアクセスできる「総合クライアントソフト」だったんですね。
Mosaicがもたらした影響:インターネットの爆発的成長

Mosaicの登場は、インターネットの歴史を「Mosaic以前」と「Mosaic以後」に分けるほどの大きな影響を与えました。
ウェブトラフィックの爆増
Mosaicがリリースされた1993年、アメリカの国立科学財団ネットワーク(NSFnet)の商用利用が解禁されたこともあり、インターネットは爆発的に成長しました。
具体的な数字を見てみましょう:
ウェブトラフィックの増加
1993年の第1四半期から第3四半期の間に、ウェブトラフィックが414倍に増加しました。
ユーザー数の急増
1年間で200万人がMosaicを使うようになりました。
ウェブサイト数の増加
Mosaic登場前には約50のウェブサイトしかありませんでしたが、1年後には10,000サイトに増え、1995年には数万サイト、1998年には数百万サイトに達しました。
「Mosaicする」という言葉が生まれた
Mosaicは、あまりにも人気が出たため、「ウェブを見る」ことを「Mosaicする(モザイクする)」と表現する人が現れました。
日本でも、インターネット黎明期には似たような表現が使われていたそうです。
これは、現代で「ググる(Googleで検索する)」という表現が生まれたのと同じ現象ですね。
ビジネスチャンスの創出
Mosaicの成功により、インターネットがビジネスの場としても認識されるようになりました。
1993年12月、Mosaicは「ニューヨーク・タイムズ」紙のビジネス面の一面を飾りました。記事では、Mosaicが「まったく新しい産業を生み出す可能性のあるアプリケーション」と評されています。
企業や組織が次々とウェブサイトを開設し始め、インターネットは急速に商業化が進んでいったんです。
Mosaicの後継者たち:ブラウザ戦争の始まり
Mosaicの成功は、その後のブラウザ開発競争の火付け役となりました。
Netscape Navigator(ネットスケープ・ナビゲーター)
マーク・アンドリーセンは、1993年12月にイリノイ大学を卒業しました。
卒業後、NCSAから「大学に残らないか」と誘われますが、その条件として「今後Mosaicプロジェクトには関わらないこと」を求められます。NCSAは、Mosaicを商品化して利益を得ようとしていたんですね。
この条件に納得できなかったアンドリーセンは、NCSAを去り、カリフォルニアの小さな会社に就職します。
そこで、シリコングラフィックス社の創設者ジム・クラーク(Jim Clark)と出会います。クラークは、Mosaicの商業的可能性を見抜いており、アンドリーセンに「一緒に会社を作ろう」と提案しました。
こうして1994年4月、モザイク・コミュニケーションズ社(Mosaic Communications Corporation)が設立されます。
しかし、イリノイ大学から「Mosaic」という名称の使用について抗議を受けたため、社名をネットスケープ・コミュニケーションズ社(Netscape Communications Corporation)に変更しました。
そして同社が開発したのが、Netscape Navigator(ネットスケープ・ナビゲーター)です。
Netscape Navigatorは:
- Mosaicよりも高速で機能が豊富
- 連続ドキュメントストリーミング(ページをダウンロードしながら表示できる)
- 表(テーブル)、フレーム、JavaScriptなどの新機能
これらの優れた機能により、Netscape Navigatorは瞬く間にMosaicのシェアを奪い、1995年には80%以上の市場シェアを獲得しました。
Internet Explorer(インターネット・エクスプローラー)
一方、マイクロソフトもブラウザ市場に参入します。
マイクロソフトは、Mosaicのライセンスを持つスパイグラス社(Spyglass)から、Mosaicのソースコードを200万ドルで購入しました。
このMosaicのコードをベースに開発されたのが、Internet Explorer(インターネット・エクスプローラー、IE)です。
Internet Explorerは、1995年に発売されたWindows 95のアドオンパッケージ「Microsoft Plus!」に収録されて登場しました。
当初、IEはNetscape Navigatorに機能面で大きく劣っていましたが、マイクロソフトはWindows OSに無償でIEを組み込む戦略を取ります。
この戦略により、IEは徐々にシェアを拡大し、1999年には市場シェア99%に達しました。
この「ブラウザ戦争」は、マイクロソフトが独占禁止法違反で訴えられるなど、大きな社会問題にもなりました。
Mozilla Firefox(モジラ・ファイアフォックス)
ブラウザ戦争でマイクロソフトに敗れたネットスケープは、1998年に大胆な決断をします。
それは、ブラウザのソースコードをオープンソース化することでした。
この決定により、非営利組織「Mozilla Organization(後のMozilla Foundation)」が設立され、オープンソースのブラウザエンジン「Gecko(ゲッコー)」が開発されました。
そして2002年、このGeckoエンジンを搭載したMozilla Firefox(モジラ・ファイアフォックス)がリリースされます。
Firefoxは、IEの独占状態に風穴を開け、ブラウザの多様性を取り戻すことに貢献しました。
2010年までに、FirefoxをはじめとするIE以外のブラウザのシェアが拡大し、IEの市場占有率は50%まで減少します。
現代のブラウザへ
その後、2008年にGoogle Chromeが登場し、現在に至るまでブラウザの競争は続いています。
Mosaicの遺産は、以下のように現代のすべてのブラウザに受け継がれています:
- 画像とテキストの統合表示
- クリック可能なハイパーリンク
- ブックマーク機能
- 戻る・進むボタン
- 直感的なグラフィカルユーザーインターフェース
私たちが今、当たり前のように使っているこれらの機能は、すべてMosaicから始まったんですね。
日本でのMosaic:「インフォモザイク」

日本でも、Mosaicは大きな注目を集めました。
富士通は、Mosaicを日本語化し、独自に機能を追加した「インフォモザイク(InfoMosaic)」を開発しました。
イリノイ大学とライセンス契約を結び、1994年6月7日に発売。価格は破格の5,000円でした。
当初、マスコミの反応は今ひとつでしたが、予想を上回る売り上げを記録します。
しかし、わずか3ヶ月後の1994年10月、無料のNetscape Navigator(ベータ版)が公開され、インフォモザイクの優位性は失われてしまいました。
Mosaicの終焉
Mosaicの人気は、Netscape Navigatorの登場により急速に衰えました。
1995年になると、ほとんどのユーザーがNetscape NavigatorやInternet Explorerに移行し、Mosaicのユーザーベースは急激に縮小しました。
NCSAは1997年1月7日にMosaicの開発を正式に終了しました。
現在でもMosaicのファイルはダウンロード可能ですが、最新のOSやウェブ技術には対応していないため、実用的なブラウザとしては使用できません。
Mosaicにまつわるトリビア
Mosaicに関する興味深いエピソードをいくつか紹介します。
青いハイパーリンクの誕生
現在、ほとんどのウェブサイトでリンクは青色で表示され、訪問済みリンクは紫色で表示されますよね。
実は、この色の選択を決めたのがマーク・アンドリーセンなんです。
彼は1993年頃にMosaicを開発する際、「青が好きだったから」という理由でリンクを青色にしたと語っています。
また、当時のブラウザの背景がグレーだったため、青が目立つという実用的な理由もあったそうです。
この何気ない選択が、ウェブデザインの標準となり、30年以上経った今でも使われ続けているんですね。
「Mozilla」の由来
Netscape Navigatorのコードネームは「Mozilla(モジラ)」でした。
この名前は、「Mosaic + Gozilla(ゴジラ)」を組み合わせたものです。
つまり、「Mosaicを倒す怪獣」という意味が込められていたんですね。
現在でも、ほとんどすべてのブラウザのユーザーエージェント文字列(ブラウザがサーバーに送る識別情報)の先頭には「Mozilla」という文字が含まれています。
これは、Mosaicの遺産が現代のブラウザにも引き継がれている証なんです。
ティム・バーナーズ=リーの賞賛
ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーは、自著「Weaving the Web(ウェブの創成)」の中で、Mosaicについてこう述べています。
「マーク(アンドリーセン)は、ニュースグループでウェブについて議論する人々の声に常に耳を傾け、人々が求める機能や使いやすさの改善点を聞き出していた。
そして、それらを生まれたばかりのブラウザに組み込み、新しいリリースを続けた…
マークは単にプログラムを動かすことだけでなく、できるだけ多くの人にブラウザを使ってもらうことに関心があった。
これこそが、ウェブに必要なものだった」
ウェブの生みの親からこのように評価されるMosaicは、まさに歴史的な偉業だったんですね。
まとめ
NCSA Mosaicについて、その歴史と影響を振り返ってきました。
重要なポイントをまとめましょう。
- NCSA Mosaicは1993年にマーク・アンドリーセンとエリック・ビナが開発した革新的なウェブブラウザです
- 画像とテキストを同一ウィンドウに表示できるという画期的な機能により、インターネットの爆発的普及につながりました
- 使いやすいグラフィカルインターフェースと無料配布により、わずか1年で200万人が使用するようになりました
- Mosaicの成功は、Netscape NavigatorやInternet Explorerの開発を促し、激しいブラウザ戦争を引き起こしました
- 現代のすべてのブラウザは、Mosaicが確立した基本的な機能とデザインを受け継いでいます
- 1997年に開発は終了しましたが、その遺産は現代まで続いているんです
Mosaicは、わずか4年ほどの短い期間しか主流として使われませんでした。
しかし、インターネットを「研究者や技術者の道具」から「世界中の誰もが使える情報インフラ」へと変えた功績は、いくら強調してもしすぎることはありません。
私たちが今、当たり前のようにウェブを閲覧できるのは、30年以上前に22歳の学生が作ったMosaicというブラウザがあったからなんです。
次回、ブラウザを開くときには、ぜひこの歴史を思い出してみてくださいね!


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