沖縄では、毎年一番寒い時期に「ムーチー」という特別な餅を食べる習慣があります。
でも、なぜこの餅を「鬼餅(おにもち)」と呼ぶのでしょうか?
実はこの餅には、鬼になってしまった兄を妹が退治したという、悲しくも勇敢な物語が隠されているんです。
この記事では、沖縄に伝わる鬼餅伝説と、現在も続くムーチーの風習について詳しくご紹介します。
概要
鬼餅(ムーチー)は、沖縄県の伝統的な行事であり、そこで食べられる特別な餅のことです。
沖縄の方言で「餅」を意味する「ムーチー」は、月桃(げっとう)の葉で包むことから「カーサムーチー」とも呼ばれています。
毎年旧暦の12月8日(新暦では1月下旬から2月上旬)に、健康と長寿を願って食べる縁起物なんです。
この時期は沖縄で最も寒い季節で、「ムーチービーサ(鬼餅寒)」という特別な名前がついているほど。まさに鬼餅を食べるのにぴったりの寒さというわけですね。
鬼餅の由来となった伝説
なぜ「鬼餅」と呼ばれるようになったのか、その理由には悲しい兄妹の物語があります。
鬼になった兄と勇敢な妹
昔、首里から大里に移り住んだ一人の男がいました。
この男は、夜になると鬼に変身して、人や家畜を襲うようになってしまったんです。村人たちは恐怖に震え上がりました。
男の妹は、兄の変わり果てた姿を見て深く悲しみます。そして、村人たちを守るため、そして兄を救うため、ある決断をしたんです。
妹の作戦
妹は兄を退治するために、特別な餅を作りました。
妹が用意した餅の秘密
- 普通の餅に見せかけて鉄釘を仕込む(鉄の塊という説もある)
- 月桃の葉で包んで香りをつける
- 兄に食べさせる
鉄入りの餅を食べた兄は弱ってしまい、妹は兄を海に突き落として退治したのでした。
この伝説から、鬼を退治するのに使われた餅ということで「鬼餅」と呼ばれるようになったんです。
ムーチーの作り方と風習
現在のムーチーは、もちろん鉄釘なんて入っていません。美味しくて体に良い餅として親しまれています。
ムーチーの作り方
基本的な材料と手順
- もち粉にざらめ糖を混ぜる
- 水を加えて耳たぶくらいの硬さにこねる
- ぬれた布巾で包んで寝かせる
- 月桃の葉の裏側に生地をのせて包む
- 紐で結んで30分間蒸す
黒糖や紅芋、ウコンを混ぜて、カラフルに仕上げることもあります。月桃の葉の香りが餅に移って、とても良い香りがするんですよ。
厄除けの風習
鬼餅伝説にちなんで、ムーチーには厄除けの意味が込められています。
ムーチーの厄除け方法
- 蒸し汁を家の周りにまく
- 使った月桃の葉を十字形に結ぶ
- 入口や軒先に吊るして魔除けにする
こうすることで、悪いものが家に入ってこないと信じられているんです。
歴史と地域への広がり
鬼餅の歴史は意外と古く、300年以上前から記録が残っています。
首里から始まった鬼餅
最初に鬼餅が記録されたのは、1713年の『琉球国由来記』という書物です。
当時は庚(かのえ)の日という特別な日に行われていましたが、暦を読める知識が必要だったため、首里や那覇の士族層だけの行事でした。
1736年になって、王府が庚の日から8日に改定。月の満ち欠けで分かりやすくなったことで、一般家庭にも広まっていったんです。
地域による違い
現在、ムーチーは沖縄本島とその周辺離島で行われています(宮古島と八重山では行われていません)。
面白いことに、地域によって行う日が少し違うんです。
地域別のムーチーの日
- 一般的:8日(最も多い)
- 沖縄本島中部の一部:7日
- まれに:11月1日、12月1日、12月6日
西原町では「7日に作らないと、御茶多真五郎(ウチャタイマグラー)という亡霊に腐らされる」という言い伝えもあって、独特の文化が残っています。
まとめ
鬼餅(ムーチー)は、兄妹の悲しい伝説から生まれた沖縄の大切な文化です。
重要なポイント
- 鬼になった兄を妹が餅で退治した伝説が由来
- 旧暦12月8日の最も寒い時期に食べる
- 月桃の葉で包んだ餅で健康長寿を願う
- 蒸し汁や葉を使った厄除けの風習がある
- 300年以上の歴史を持つ沖縄独自の文化
鬼を退治するという勇敢な物語から始まったムーチーは、今では家族の健康と幸せを願う温かい行事として、沖縄の人々に愛され続けています。
寒い季節に月桃の香りとともに食べる温かい餅は、悪いものを追い払い、新しい年への希望を運んでくれるのでしょう。
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