夜空に浮かぶ月を見上げたとき、そこに恐ろしい怪物が潜んでいるとしたら…あなたはどう思いますか?
H・P・ラヴクラフトが創造した幻想世界には、月の裏側に住む油ぎった白い怪物「ムーンビースト(月棲獣)」という恐ろしい存在がいます。
彼らは黒いガレー船に乗って地球にやってきては、人間たちと不気味な取引を行うという、まさに悪夢のような生物なんです。
この記事では、クトゥルフ神話の中でも特に異質で恐ろしい存在「ムーンビースト」について、その姿や特徴、伝承を詳しく解説していきます。
概要

ムーンビーストは、クトゥルフ神話に登場する異形の生物です。
「月棲獣(げっせいじゅう)」「月の怪物」とも呼ばれ、ラヴクラフトの代表作『未知なるカダスを夢に求めて』(1927年頃執筆)で初めて詳しく描かれました。
彼らが住んでいるのは「幻夢境(ドリームランド)」と呼ばれる、夢を通じてのみ行ける異世界の月なんです。幻夢境というのは、我々の住む現実世界(覚醒世界)とは別の次元にある夢の世界のこと。そこでは現実とは違う法則が働き、神話的な生物たちが実際に存在しています。
ムーンビーストは単なる怪物ではなく、独自の文明と階級社会を持った知的生物として描かれています。彼らは邪神ナイアーラトテップを崇拝し、その意志を地上に広める役割を担っているとされているんです。
系譜
ムーンビーストの立ち位置は、クトゥルフ神話の階層構造の中でも特殊です。
支配と被支配の関係
ムーンビーストには、明確な上下関係があります:
上位存在との関係
- ナイアーラトテップ(這い寄る混沌)を崇拝している
- 邪神の意志を実行する奉仕種族として活動
下位存在との関係
- レンの人間もどき(角と蹄を持つ亜人)を奴隷として支配
- レン高原の住民たちを兵士として使役
つまり、ムーンビーストは邪神と人間の間に立つ、中間管理職のような存在なんですね。彼らは上からの命令を実行しながら、下の者たちを支配するという、恐怖の支配構造の一部となっています。
姿・見た目
ムーンビーストの外見は、まさに悪夢そのものです。
ラヴクラフトの描写によると、その姿はこんな感じなんです:
身体的特徴
全体的な印象
- 灰色がかった白い、油ぎった肌
- まるで目のないヒキガエルのような姿
- 体の大きさは人間より少し大きい程度
特徴的な部位
- 顔:目がない、のっぺりとした表面
- 鼻の部分:ピンク色の短い触手が生えている
- 皮膚:伸縮自在で、形を変えることができる
想像してみてください。油でぬめぬめと光る白いヒキガエルが、人間サイズに巨大化して、顔には触手が生えている…そんな姿です。とても直視できないような、おぞましい外見なんですね。
だからこそ、彼らは人間と取引する際には、レンの人間もどきを代理人として立てるんです。その醜悪な姿を見られないようにするためですね。
特徴

ムーンビーストには、他の神話生物とは違う独特な特徴があります。
行動パターンと性格
残虐な快楽主義者
- 犠牲者を長い槍で惨殺することを楽しむ
- 戦争や争いの喧騒を好む
- 苦痛を与えることに喜びを感じる
高度な文明
- 黒いガレー船を操って宇宙を航行
- 幻夢境の各地と交易を行う
- 独自の都市を月の裏側に建設
特殊能力
ムーンビーストの恐ろしさは、その能力にもあります:
- 形態変化:皮膚が伸縮自在で、ある程度姿を変えられる
- 宇宙航行:黒いガレー船で月と地球を往復できる
- 精神支配:レンの人間もどきを完全に支配下に置く
社会構造
彼らは原始的な怪物ではなく、組織化された社会を持っています:
- 月の裏側に巨大な都市を建設
- 奴隷制度を確立(レンの人間もどきを使役)
- 地球との交易ルートを確立
- 軍事力として奴隷兵を組織化
伝承
ムーンビーストが最も詳しく描かれているのは、ラヴクラフトの『未知なるカダスを夢に求めて』です。
ランドルフ・カーターとの遭遇
この物語の主人公ランドルフ・カーターは、夢の中で幻夢境を旅する冒険者でした。
カーターがムーンビーストと遭遇した経緯:
- ダイラス=リーンでの取引
- カーターは幻夢境最大の都市で、レンの商人と出会う
- 実はこの商人たちの背後にムーンビーストがいた
- 黒いガレー船での誘拐
- ムーンビーストはカーターを誘拐
- 月へと連れ去ろうとする
- 月での恐怖
- 月の裏側にある彼らの都市の実態が明らかに
- そこは見たこともないような異形の建築物が並ぶ場所だった
交易と支配
ムーンビーストの活動は、単なる破壊や殺戮だけではありません:
経済活動
- 幻夢境の各都市と定期的な交易を行う
- レンの人間もどきを通じて商品を売買
- 特産品や奴隷の取引も行う
軍事活動
- レンの人間もどきを兵士として訓練
- 戦争や紛争に積極的に介入
- 混乱と破壊を楽しむ
信仰と崇拝
ムーンビーストの宗教的側面も重要です:
崇拝の連鎖
- ムーンビースト → ナイアーラトテップを崇拝
- レンの人間もどき → ムーンビーストを崇拝
この崇拝の連鎖によって、邪神の意志が下位の存在にまで伝わっていく仕組みになっているんです。まるで恐怖の宗教組織のような構造ですね。
出典

ムーンビーストは、H・P・ラヴクラフトの以下の作品に登場します:
主要登場作品
『未知なるカダスを夢に求めて』(The Dream-Quest of Unknown Kadath)
- 執筆:1926-1927年
- 発表:1943年(ラヴクラフトの死後)
- ムーンビーストが最も詳しく描かれる作品
関連する世界観
ムーンビーストは「ドリーム・サイクル」と呼ばれる作品群に属しています。これはクトゥルフ神話の中でも、幻夢境を舞台にした一連の物語です。
関連作品:
- 『セレファイス』
- 『銀の鍵』
- 『ウルタールの猫』
まとめ
ムーンビーストは、クトゥルフ神話の中でも特に不気味で恐ろしい存在です。
重要なポイント
- 幻夢境の月に住む油ぎった白い異形の生物
- 目のないヒキガエルのような姿で、ピンク色の触手を持つ
- 邪神ナイアーラトテップを崇拝する奉仕種族
- レンの人間もどきを奴隷として支配
- 黒いガレー船で地球と月を往来し、交易を行う
- 残虐な快楽主義者で、戦争や殺戮を楽しむ
- 月の裏側に独自の異形都市を建設
ムーンビーストは、宇宙的恐怖を描くクトゥルフ神話において、人間には理解不能な異質さと、組織的な悪意を併せ持つ存在として描かれています。彼らは単なる怪物ではなく、邪神に仕える知的な種族として、今も幻夢境の月から地球を見下ろしているのかもしれません。
もし夢の中で黒い船を見かけたら…それはムーンビーストの船かもしれませんね。


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