「長い白ひげに杖を持った賢い老人」——ファンタジー作品でおなじみの魔法使い像ですよね。
実はこのイメージ、たった一人の伝説的キャラクターから生まれたものなんです。
その人物こそ、アーサー王伝説に登場する大魔術師マーリン。
『指輪物語』のガンダルフも、『ハリー・ポッター』のダンブルドアも、元をたどればマーリンの影響を受けていると言われています。
この記事では、世界で最も有名な魔法使いマーリンの出自から能力、そして意外すぎる最期まで、わかりやすく解説していきます。
マーリンとは

マーリンは、中世ヨーロッパで生まれたアーサー王伝説に登場する魔術師です。
予言の力と変身能力を持ち、ブリテン島の歴代の王に仕えました。
アーサー王の誕生を手助けし、幼いアーサーを育て、彼が王になるための道筋をすべて整えた——まさに「影の立役者」と呼べる存在ですね。
文学上の登場人物としてはアーサー王に次いで有名で、中世ヨーロッパの物語の中で二番目に知名度が高いキャラクターとされています。
ちなみに「マーリン」という名前は、ウェールズ語の「ミルディン(Myrddin)」をラテン語化したもの。
本来なら「メルディヌス」になるはずでしたが、これだとラテン語の「merdus(糞)」を連想させるということで、「メルリヌス(Merlinus)」に変えられたそうです。
名前の由来からして、なんだかマーリンらしいエピソードですよね。
マーリンの出自——悪魔の子として生まれた魔術師
マーリンの出自は、かなりダークです。
伝承によると、マーリンの母親はウェールズの王女(あるいは尼僧)で、人間の女性でした。
ところが父親は夢魔(インキュバス)という魔物だったのです。
夢魔とは、眠っている人間の夢の中に現れて関係を持つとされる存在。
13世紀に書かれたロベール・ド・ボロンの作品では、さらに衝撃的な設定が加わります。
悪魔たちが「キリストに対抗する存在」として、人間界に送り込もうとした子供——それがマーリンだった、というのです。
しかし、生まれた直後に洗礼を受けたことで、マーリンは悪魔の支配から解放されました。
父親から受け継いだ超自然的な力は残ったまま、神に仕える存在となったわけですね。
この「悪魔の血を引きながらも善の側に立つ」という設定が、マーリンというキャラクターに独特の深みを与えています。
生まれながらにして言葉を話せたというエピソードも、この半人半魔という出自に由来しているんです。
マーリンの能力
マーリンが持つ能力の中で、最も有名なのが予言の力です。
ブリテンの未来、王たちの運命、そしてアーサー王の誕生から没落まで——マーリンはすべてを見通していました。
悲劇的なのは、自分自身の破滅さえ予見していたにもかかわらず、それを避けられなかったこと。
未来が見えても変えられないという、なんとも皮肉な設定ですよね。
もう一つの代表的な能力が変身術です。
老人、子供、動物、さらには別人の姿にまで自在に変身できたとされています。
この力を使って王宮に忍び込んだり、敵を欺いたり、時には冗談のために使ったりもしました。
その他にも、マーリンにはこんな能力があったとされています。
| 能力 | 内容 |
|---|---|
| 予言 | 過去・現在・未来を見通す力。父(夢魔)から受け継いだ |
| 変身 | 老人、子供、動物など自在に姿を変える |
| 幻術 | 他人の姿を変えたり、幻を見せたりする |
| 魔術全般 | 建築、物体の移動、呪いなど多岐にわたる |
| 知識 | 薬草や魔法に関する膨大な知識を持つ |
マーリンの偉業
ストーンヘンジを建てた?
イギリスにある世界遺産ストーンヘンジ。
実はアーサー王伝説では、これを作ったのはマーリンだとされているんです。
伝承によると、マーリンはアイルランドにあった「踊る巨人」と呼ばれる巨石群を、魔法でブリテン島まで運んできたとか。
もちろん実際のストーンヘンジは紀元前2000年以上前に作られたものなので、歴史的事実ではありません。
でも、それほどの大事業をやってのける魔術師として、マーリンが描かれていたということですね。
アーサー王の誕生を演出
マーリンの功績で最も有名なのは、アーサー王の誕生に関わったことでしょう。
ブリテン王ユーサー・ペンドラゴンは、敵であるコーンウォール公ゴルロイスの妻イグレインに恋をしてしまいます。
困り果てたユーサーはマーリンに助けを求めました。
マーリンは魔法の薬を使い、ユーサーをゴルロイスの姿に変身させます。
こうしてユーサーはティンタジェル城に忍び込み、イグレインと一夜を共にしました。
この時に宿ったのが、後のアーサー王です。
ただし、この手助けには条件がありました。
生まれてくる子供をマーリンに引き渡すこと——これがマーリンの要求だったのです。
「石に刺さった剣」の試練
アーサーが王位を継ぐきっかけとなった「石に刺さった剣」の試練。
これを仕掛けたのもマーリンでした。
「この剣を石から引き抜いた者こそ、真のブリテン王である」——多くの騎士が挑戦しましたが、誰も成功しません。
ところが、まだ少年だったアーサーがあっさりと剣を引き抜いてしまいます。
マーリンは最初からアーサーが王になることを知っていたんですね。
すべては計画通りだったわけです。
円卓の騎士と聖剣エクスカリバー
その後もマーリンはアーサー王の最も信頼される相談役として活躍しました。
円卓の設立を提案したのもマーリンですし、聖剣エクスカリバーを授かるために「湖の貴婦人」のもとへアーサーを導いたのもマーリンです。
まさにアーサー王伝説の「仕掛け人」と呼ぶにふさわしい存在でした。
マーリンの最期——恋に落ちた魔術師の末路
これほどの力を持ったマーリンですが、その最期はあまりにも意外なものでした。
マーリンは湖の乙女ニミュエ(ヴィヴィアンとも呼ばれる)という女性に恋をしてしまいます。
ニミュエはマーリンの魔術を学びたがり、マーリンも喜んで教えました。
しかしニミュエの側には別の思惑がありました。
彼女はマーリンが悪魔の子であることを恐れ、また、しつこく言い寄ってくるマーリンにうんざりしていたのです。
ある日、二人が旅をしている途中のこと。
大きな岩の下にある洞窟をマーリンがニミュエに見せました。
「まあ不思議、よく見せてください」と誘導され、マーリンが岩の下に入ると——ニミュエは魔法で彼を永遠に閉じ込めてしまったのです。
世界最強の魔術師が、自分で教えた魔法によって封印される。
しかも、自分の最期を予言できていたにもかかわらず、それを避けられなかった。
なんとも皮肉な結末ですよね。
伝承によっては、木の中や空気の牢獄に閉じ込められたとも言われています。
いずれにせよ、マーリンはこれ以降、アーサー王の物語には登場しなくなりました。
マーリンのモデルとなった人物
マーリンは架空のキャラクターですが、実在した人物がモデルになったと考えられています。
ミルディン・ウィルト
6世紀に実在したとされるウェールズの詩人・予言者です。
573年のアルデリズの戦いで主君が殺されたショックで発狂し、森に逃げ込んで「野人」として暮らしたと伝えられています。
この隠者生活の中で予言の力を得たとされ、マーリンの名前の由来にもなりました。
アンブロシウス・アウレリアヌス
5世紀頃に実在したローマ・ブリテンの将軍です。
サクソン人の侵略に対抗したブリテン人のリーダーで、一説にはアーサー王のモデルになったとも言われています。
マーリンの正式名称「アンブロシウス・メルリヌス」は、この人物に由来しています。
現代文化への影響
マーリンは、現代のファンタジー作品に計り知れない影響を与えています。
「長い白ひげ、杖を持った老人の魔法使い」というイメージは、19世紀のロマン主義時代に確立されました。
このマーリン像が、その後のあらゆる「賢者」「魔法使い」キャラクターの原型になったのです。
| 作品 | キャラクター | マーリンとの関連 |
|---|---|---|
| 『指輪物語』 | ガンダルフ | 白ひげの賢者、王を導く存在 |
| 『ハリー・ポッター』 | ダンブルドア | 魔法学校の長、若き主人公の師 |
| 『スター・ウォーズ』 | オビ=ワン・ケノービ | 若きヒーローを導く師匠 |
| 『ナルニア国物語』 | アスラン | 超自然的な導き手 |
「若い主人公を導く年老いた賢者」というキャラクター類型は、すべてマーリンから始まったと言っても過言ではありません。
また、マーリンを主役にした作品も数多く作られています。
- ディズニー映画『王様の剣』(1963年):少年アーサーを教育するおっちょこちょいな魔法使い
- 映画『エクスカリバー』(1981年):神秘的で謎めいた古代の魔術師
- BBCドラマ『魔術師マーリン』(2008〜2012年):魔法が禁じられたキャメロットで力を隠す若者
- ゲーム『Fate/Grand Order』:イケメン魔術師として人気キャラクターに
まとめ
マーリンについて、ポイントを整理しておきましょう。
- 12世紀にジェフリー・オブ・モンマスが『ブリタニア列王史』で創作した架空の魔術師
- 夢魔(インキュバス)と人間の女性の間に生まれた半人半魔
- 予言能力と変身術が最も有名な能力
- ストーンヘンジ建設、アーサー王の誕生、「石に刺さった剣」の試練など数々の偉業を達成
- 湖の乙女ニミュエに恋をして、自ら教えた魔法で永遠に封印された
- 現代の「魔法使い」イメージの原型となり、ガンダルフやダンブルドアに影響を与えた
世界最強の魔術師でありながら、恋に溺れて自滅するという人間くさい結末。
このギャップこそが、1000年近くもマーリンが愛され続けている理由なのかもしれませんね。


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