博物館の奥深く、薄暗い展示室で石像のように佇む異形の存在…
もしそれが突然動き出して、全身の触手であなたの血を吸い始めたらどうしますか?
そんな恐ろしい存在が、クトゥルフ神話の世界には実在するんです。
その名は「ラーン=テゴス」。H.P.ラヴクラフトが創造した、最も奇怪で不気味な旧支配者の一つです。
この記事では、吸血の邪神ラーン=テゴスの恐るべき姿と特徴、そして興味深い伝承について詳しくご紹介します。
概要

ラーン=テゴスは、クトゥルフ神話に登場する旧支配者(オールド・ワン)と呼ばれる太古の邪神の一体です。
1932年にハワード・フィリップス・ラヴクラフトが執筆した『博物館の恐怖』という短編小説で初めて登場しました。この作品は、ラヴクラフトがヘイゼル・ヒールドという作家のために代作したものなんです。
ラーン=テゴスは「原初の敵」という異名を持ち、吸血という恐ろしい性質で知られています。300万年前にユゴス(冥王星)から地球にやってきて、北極圏に棲みついたとされる宇宙的存在です。
面白いことに、一部では「無窮にして無敵の存在」と呼ばれ、この神が死ねば他の旧支配者は復活できなくなるという伝承もあります。でも実際のところ、作中での扱いはちょっと残念で、「最弱の旧支配者」なんて呼ばれることもあるんですね。
系譜
ラーン=テゴスの起源と関係性について見ていきましょう。
宇宙からの来訪者
この邪神は、約300万年前にユゴス(今でいう冥王星)から地球に飛来したとされています。北極圏の石造都市で休眠状態になっていたところを、20世紀初頭にジョージ・ロジャーズという博物館長によってロンドンに運ばれました。
ノフ=ケーとの関係
後の作家たちの設定では、ラーン=テゴスはノフ=ケーという4本腕の毛むくじゃらな種族と関連付けられています。ノフ=ケーはラーン=テゴスを崇拝する種族で、地の精ツァトゥグアとその信奉者ヴーアミ族と激しく対立しているそうです。
大気の神としての側面
リン・カーターという作家の解釈では、ラーン=テゴスは単なる石像ではなく、実体を持たない大気の精という側面も持っているとされます。つまり、物理的な姿と霊的な姿の両方を持つ、二重の性質を持った存在なんですね。
姿・見た目
ラーン=テゴスの姿は、まさに「異形」という言葉がぴったりな、複雑怪奇な外見をしています。
基本的な身体構造
- 高さ:約3メートル(10フィート)
- 胴体:丸い形状
- 頭部:丸い頭に3つの魚のような目
- 鼻:約30センチ(1フィート)の長い鼻
- 触腕:蟹の鋏のような先端を持つ6本の触腕
- 全身の毛:実は触手で、先端に吸盤がついている
最も恐ろしい特徴
体中を覆っている毛のように見えるものは、実は無数の小さな吸血管なんです。この触手の一本一本に吸盤がついていて、そこから獲物の血を吸い取ります。
また、蠍のような肢を持っていて、これで獲物を押さえつけてから、ゆっくりと血を吸い尽くすという残酷な狩りをします。さらに、エラのような器官も持っているため、もしかしたら水中でも活動できるのかもしれません。
特徴

ラーン=テゴスには、他の旧支配者とは違う独特な能力と性質があります。
吸血能力
最大の特徴は、その恐ろしい吸引力です。
- 全身の吸血管から同時に血を吸える
- 犠牲者の血液を一滴も残さず吸い尽くす
- 吸われた者は完全に体液を失い、干からびたミイラになる
休眠能力
ラーン=テゴスは石像のような状態になることができます。この休眠状態では、貯蔵した血液だけで何百年も生き続けることができるんです。実際、北極の石造都市で長い間眠っていたのも、この能力のおかげですね。
知性と邪悪さ
単なる怪物ではなく、高い知性を持っているとされます。作中では狂信者を通じて計画を実行したり、策略を巡らせたりする描写があります。ただし、扉一つ壊すのに手こずったりと、物理的な力はそれほど強くないようです。
伝承
ラーン=テゴスにまつわる最も有名な物語が、『博物館の恐怖』での出来事です。
ロジャーズ博物館事件
ロンドンのサウスウォーク・ストリートにあったロジャーズ博物館で起きた恐怖の事件があります。
館長のジョージ・ロジャーズは、北極から持ち帰った「石像」を展示していました。彼はその像がラーン=テゴスという邪神で、自分はその神官だと主張していたんです。
ある夜、オカルトマニアのスティーブン・ジョーンズが博物館で一晩過ごすことになりました。ロジャーズはジョーンズを生贄にしようとしましたが、逆に反撃されて縛り上げられます。すると、石像だと思われていたラーン=テゴスが突然動き出し、ロジャーズを襲ったんです。
最終的に、ロジャーズの助手オラボーナによって、ロジャーズの死体は「ラーン=テゴスの生贄」という新しい蝋人形展示の一部にされてしまいました。
崇拝の呪文
信奉者たちがラーン=テゴスを崇める際に唱える呪文も残されています:
「ウザ=イェイ!ウザ=イェイ!イカア・ハア・ブホウ-イイ、ラーン=テゴス-クルウルウ・フタグン-エイ、エイ、エイ、エイ」
この呪文の正確な意味は不明ですが、古代の言語で邪神を讃え、その復活を願う内容だと考えられています。
「最弱」という不名誉な評価
実は、一部の読者からラーン=テゴスは「最弱の旧支配者」と呼ばれています。その理由は:
- 信奉者がたった一人しかいなかった
- ロンドンでの食事は野犬や野良猫だけ
- 普段は水槽の中に隠れていた
- 扉を壊すのに苦労した
- 最後は蝋人形として展示された
こんな情けない描写が多いからなんです。
出典

ラーン=テゴスが登場する主な作品を紹介します。
原典
- 『博物館の恐怖』(1932年)- H.P.ラヴクラフト&ヘイゼル・ヒールド
初登場作品。ロジャーズ博物館での恐怖の事件を描いた短編小説。
派生作品
- 『モーロックの巻物』 – リン・カーター
大気の精としての側面を強調した作品 - 『七人の魔道師』 – 栗本薫
日本のファンタジー小説「グイン・サーガ」の外伝。「ラン=テゴス」という名前で言及
TRPGでの扱い
『クトゥルフの呼び声』などのTRPGサプリメントでは、都市一つを壊滅させる力を持つ存在として設定されることもあります。
まとめ
ラーン=テゴスは、クトゥルフ神話の中でも特に奇怪で不気味な旧支配者です。
重要なポイント
- ユゴスから来た吸血の旧支配者
- 全身の触手から血を吸う恐ろしい能力
- 石像として休眠し、何百年も生き続ける
- 「無窮にして無敵」と呼ばれる一方で「最弱」とも評される
- ノフ=ケーという種族と関連がある
- 『博物館の恐怖』での不気味な事件で有名
ラヴクラフト自身が「嫌々書いた」という逸話もあり、だからこそ意図的に弱く描かれたのかもしれません。しかし、その異様な姿と吸血という恐ろしい性質は、今でも多くのホラーファンを魅了し続けています。
もし博物館で奇妙な石像を見かけたら、それが本当にただの石像なのか…ちょっと注意して見てみるといいかもしれませんね。


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