ゲームやアニメで「リヴァイアサン」という名前を聞いたことはありませんか?
ファイナルファンタジーシリーズの召喚獣として登場したり、さまざまな創作作品で海の怪物として描かれているこの存在。実は、旧約聖書に登場する古代の海の怪物なんです。
しかも、中世以降は七つの大罪のひとつ「嫉妬」を司る悪魔としても知られるようになりました。
「どんな姿をしているの?」「なぜ悪魔になったの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、レヴィアタン(リヴァイアサン)の起源から聖書での描写、悪魔としての側面、そして現代文化への影響まで、わかりやすく解説します。
レヴィアタンの基本情報

名前の意味と由来
レヴィアタンという名前は、ヘブライ語の「לִוְיָתָן(Livyatan)」に由来しています。
この言葉の意味について見てみましょう。
- 「ねじれた」「渦を巻いた」 を意味する
- 「結合させる」「編み込む」を意味するヘブライ語 לוה(lwh)から派生
- 蛇のようにとぐろを巻く姿をイメージさせる
現代ヘブライ語では「クジラ」を意味する言葉としても使われています。
表記のバリエーション
日本では複数の表記が使われているので、整理しておきましょう。
| 表記 | 読み方 | 備考 |
|---|---|---|
| レヴィアタン | れゔぃあたん | ヘブライ語に近い発音 |
| リヴァイアサン | りゔぁいあさん | 英語読み、日本で最も一般的 |
| レビヤタン | れびやたん | 日本語聖書での表記 |
| リバイアサン | りばいあさん | 英語読みの簡略形 |
どの表記も同じ存在を指しているので、混乱しないようにしましょう。
旧約聖書に登場するレヴィアタン
聖書での登場箇所
レヴィアタンは旧約聖書の複数の書に登場しています。
主な登場箇所:
- 『ヨブ記』3章8節、41章1-34節(最も詳しい描写)
- 『詩篇』74章14節、104章26節
- 『イザヤ書』27章1節
特に『ヨブ記』41章では、神自身がレヴィアタンの姿と力強さを詳しく語っています。
ヨブ記に描かれた恐るべき姿
『ヨブ記』41章では、神がヨブに対して「人間の力では到底及ばない存在」としてレヴィアタンを紹介しています。
その描写を見てみましょう。
外見の特徴:
- 心臓は石のように硬い
- 腹は陶器の破片を並べたよう
- 背中には盾の列のような鱗が密に並ぶ
- 口には恐ろしい歯が生えている
超自然的な能力:
- くしゃみをすると光を放つ
- 両目は朝日のように輝く
- 口からは炎が噴き出す
- 鼻からは煙を吹く
- 息は炭に火を点ける
圧倒的な力:
- どんな武器も貫けない
- 海を鍋のように沸かす
- 地の上に並ぶものはない
- 恐れというものを知らない
- 見るだけで戦意を失うほど
「何者もレヴィアタンと戦いそれを屈服させることは出来ない」と聖書は語っています。
神とレヴィアタンの関係
聖書におけるレヴィアタンと神の関係は、箇所によって異なる解釈ができます。
被造物としてのレヴィアタン:
『詩篇』104章26節では、神が「戯れるために創った海中の生き物」と描写されています。どれほど強大でも、神にとっては遊び相手のような存在なんですね。
神に倒される存在:
『詩篇』74章13-14節では「神がレヴィアタンの頭を砕いた」と書かれ、『イザヤ書』27章1節では「審判の日に神がレヴィアタンを殺す」と予言されています。
つまり、レヴィアタンは最強の被造物でありながら、神の絶対的な力の前では無力であることを示しているんです。
古代オリエント神話との関係

レヴィアタンのルーツ
レヴィアタンの伝承は、旧約聖書よりも古い起源を持っています。
ウガリット神話(カナン神話)の影響:
古代シリアのウガリットで信仰されていたロタン(Lotan/Litan)という七つの頭を持つ海のドラゴンが、レヴィアタンの原型とされています。
ウガリット神話では、嵐の神バアルがロタンを倒す物語が語られていました。
バビロニア神話との類似:
バビロニアの創造神話『エヌマ・エリシュ』に登場する海の女神ティアマトも、レヴィアタンと似た特徴を持っています。
マルドゥク神がティアマトを倒し、その体から天と地を創造したという物語は、「神が混沌を打ち破る」というテーマで共通していますね。
カオスカンプフ(混沌との戦い)
古代近東神話には「カオスカンプフ」と呼ばれる共通のモチーフがあります。
これは、秩序をもたらす神が混沌を象徴する海の怪物を倒すという物語のパターンです。
| 神話体系 | 秩序の神 | 混沌の怪物 |
|---|---|---|
| ウガリット | バアル | ロタン |
| バビロニア | マルドゥク | ティアマト |
| ヘブライ | ヤハウェ(神) | レヴィアタン |
| エジプト | ラー | アペプ |
レヴィアタンも、このような古代の神話的伝統の中で理解されてきたんです。
ベヒモスとの関係──陸と海の怪物
対をなす二つの怪物
レヴィアタンは、旧約聖書に登場するもうひとつの怪物ベヒモスと対比されることが多いです。
| 項目 | レヴィアタン | ベヒモス |
|---|---|---|
| 領域 | 海 | 陸 |
| 姿 | 海蛇・竜 | 巨大な獣(カバや象に似る) |
| 聖書での記述 | ヨブ記41章 | ヨブ記40章 |
| 性別(エノク書) | 雌 | 雄 |
『エノク書』によれば、レヴィアタンとベヒモスは元々つがいの怪物で、あまりに巨大だったため海と陸に分けられたとされています。
終末の宴
ユダヤ教の伝承では、終末の日にレヴィアタンとベヒモスは死ぬまで戦い、その肉が義人たちの食料になるとされています。
「最後の審判」の後、生き残った善人たちがレヴィアタンの肉を食べるというこの伝承は、ユダヤ教の文献『タルムード』にも記されています。
悪魔としてのレヴィアタン

七つの大罪と悪魔
中世以降、レヴィアタンはキリスト教悪魔学の中で重要な位置を占めるようになりました。
1589年、ドイツの神学者ペーター・ビンスフェルトは、七つの大罪それぞれに対応する悪魔を定義しました。
七つの大罪と対応する悪魔:
| 大罪 | 悪魔 |
|---|---|
| 傲慢 | ルシファー |
| 強欲 | マモン |
| 色欲 | アスモデウス |
| 嫉妬 | レヴィアタン |
| 暴食 | ベルゼブブ |
| 憤怒 | サタン |
| 怠惰 | ベルフェゴール |
レヴィアタンは「嫉妬」を司る悪魔として位置づけられたんです。
なぜ嫉妬の悪魔なのか?
レヴィアタンが嫉妬と結びつけられた理由には、いくつかの解釈があります。
海との関連:
嫉妬は人を「飲み込む」感情であり、海の怪物が獲物を飲み込むイメージと重なりました。
隠れた本性:
海の深淵に潜むレヴィアタンのように、嫉妬も心の奥底に隠れて人を蝕む感情です。
破壊的な力:
レヴィアタンが海を荒らすように、嫉妬も人間関係や共同体を破壊する力を持っています。
地獄の海軍提督
悪魔学の文献では、レヴィアタンは地獄の海軍提督として描かれることもあります。
ルシファーの側近のひとりであり、嫉妬だけでなく詐欺や異端を司るともされています。
また、『アブラメリンの書』(14〜15世紀)では、ルシファー、サタン、ベリアルと並ぶ「地獄の四大君主」のひとりとして挙げられています。
トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』
近代政治哲学の古典
レヴィアタンという名前を有名にしたもうひとつの重要な存在が、イギリスの哲学者トマス・ホッブズ(1588-1679)の著書『リヴァイアサン』です。
1651年に発表されたこの政治哲学書は、社会契約説を論じた近代政治思想の古典として知られています。
なぜ「リヴァイアサン」なのか?
ホッブズは、人々が自分の権利を譲渡して作り上げた国家を、聖書の海の怪物リヴァイアサンになぞらえました。
ホッブズの主張:
- 国家なき状態は「万人の万人に対する闘争」
- 人々は平和のために自然権を国家に譲渡する
- 国家は国民を守る強大な力を持つべき
つまり、リヴァイアサンのような「圧倒的で誰も逆らえない力」が国家には必要だと考えたんです。
有名な表紙の絵
『リヴァイアサン』初版の表紙には、王冠を被った巨人が描かれています。
よく見ると、この巨人の体は無数の人間で構成されているんです。
これは「国家は国民一人ひとりで構成されている」というホッブズの思想を視覚的に表現したものでした。
右手に剣(世俗権力)、左手に牧杖(宗教権力)を持つこの巨人は、国家が聖俗両方の権力を統合すべきだというホッブズの主張を象徴しています。
現代文化におけるレヴィアタン
ゲームでの登場
レヴィアタン(リヴァイアサン)は、現代のゲームでも人気のあるモチーフです。
主な登場作品:
- ファイナルファンタジーシリーズ:水属性の召喚獣として登場。巨大な海の竜として描かれ、「大海嘯」などの強力な水属性攻撃を使う
- グランブルーファンタジー:星晶獣として登場
- Fate/Grand Order:メルトリリスの水着バージョンの宝具名として
- メギド72:キャラクターとして登場
- ペルソナシリーズ:ペルソナとして召喚可能
アニメ・漫画・小説
創作作品でも幅広く登場しています。
- 七つの大罪:伝説の生物として言及
- Helluva Boss:嫉妬の大罪を司る存在として
- Obey Me!:七つの大罪をモチーフにした作品で「レヴィアタン」というキャラクターが登場
- ロックマンゼロ:「妖将レヴィアタン」として登場
艦船・潜水艦の名前
レヴィアタンという名前は、実際の艦船にも使われてきました。
イギリス海軍には「HMSリヴァイアサン」という名の艦船が複数存在し、海の支配者というイメージから名付けられています。
小説や映画でも、巨大な戦艦や潜水艦の名前としてよく使われますね。
レヴィアタンが象徴するもの
混沌と秩序の対立
レヴィアタンは、古代から現代まで混沌(カオス)を象徴する存在として解釈されてきました。
神がレヴィアタンを打ち破る物語は、秩序が混沌に勝利するというメッセージを伝えています。
人間の限界
『ヨブ記』でレヴィアタンが登場するのは、神がヨブに人間の無力さを示す場面です。
「お前はレヴィアタンを釣り針で捕らえられるか?」という神の問いかけは、人間が自然の力や宇宙の神秘を完全には支配できないことを思い起こさせます。
国家権力の比喩
ホッブズ以降、レヴィアタンは強大な国家権力の比喩としても使われるようになりました。
現代でも、巨大で圧倒的な力を持つ組織や存在を「リヴァイアサン」と呼ぶことがあります。
まとめ
レヴィアタン(リヴァイアサン)は、旧約聖書に登場する海の怪物から始まり、悪魔、政治哲学の概念、そして現代のポップカルチャーまで、幅広い分野に影響を与えてきた存在です。
レヴィアタンの多面的な姿:
- 聖書における最強の被造物
- 古代オリエント神話の混沌の象徴
- 中世悪魔学における嫉妬の悪魔
- ホッブズの政治哲学における国家権力の比喩
- 現代文化における人気のモチーフ
興味を持った方は、『ヨブ記』41章を実際に読んでみてください。
何千年も前に書かれた文章が、現代のファンタジー作品にも通じる迫力で海の怪物を描写していることに驚くはずです。
レヴィアタンという存在は、人間が抱く「圧倒的な力への畏怖」という普遍的な感情を映し出す鏡なのかもしれません。


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