ラ・ヨローナとは?メキシコが生んだ「泣く女」の伝説を徹底解説

神話・歴史・文化

「悪いことをすると、ラ・ヨローナが連れていくよ」

メキシコの子どもたちは、夜になるとこう言われて育ちます。
川沿いをすすり泣きながら彷徨う白い女——それがラ・ヨローナです。

この記事では、中南米で最も有名な怪談の主人公、ラ・ヨローナの伝説について詳しく解説していきます。


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ラ・ヨローナとは

ラ・ヨローナ(La Llorona)は、スペイン語で「泣く女」を意味します。
英語では「The Weeping Woman」や「The Wailing Woman」とも呼ばれています。

彼女は白いドレスを身にまとい、長い黒髪を振り乱しながら、夜な夜な川や湖のほとりを彷徨う亡霊です。
「アーイ、ミス・イホス!(ああ、私の子どもたち!)」という悲痛な叫び声を上げながら、自分が殺してしまった子どもたちを探し続けているとされています。

彼女の泣き声を聞いた者には不幸が訪れ、遭遇した子どもは連れ去られてしまうと言い伝えられています。


ラ・ヨローナの物語

ラ・ヨローナの物語には無数のバリエーションがありますが、最も広く知られているのは以下のようなストーリーです。

むかしむかし、メキシコの小さな村に、マリアという名の美しい女性が住んでいました。
ある日、村にやってきた裕福なスペイン人の男性と恋に落ち、2人は結婚して子どもにも恵まれます。

しかし、幸せは長くは続きませんでした。
夫は次第に妻への興味を失い、ついには別の若い女性と浮気を始めたのです。

これを知ったマリアは、嫉妬と怒りで正気を失いました。
夫が「世界で一番愛している」と言っていた子どもたちを、復讐のために川に投げ込んで溺死させてしまいます。

我に返ったマリアは、自分のしたことの恐ろしさに気づき、子どもたちを助けようとしましたが、すでに手遅れでした。
深い後悔と絶望に打ちひしがれた彼女は、自らも川に身を投げて命を絶ちます。

しかし、天国の門で彼女は問われました。
「あなたの子どもたちはどこにいるのですか?」

子殺しの罪を犯したマリアは、天国にも地獄にも行けず、子どもたちを見つけるまで永遠に地上を彷徨う罰を受けることになりました。

こうして彼女は「ラ・ヨローナ(泣く女)」となり、今も水辺を嘆き彷徨っているのです。


ラ・ヨローナの外見と特徴

ラ・ヨローナの姿は語り継がれる地域によって多少異なりますが、共通する特徴があります。

外見の特徴:

  • 白いドレス(またはベール)を身にまとっている
  • 長い黒髪が乱れている
  • 濡れた服を着ていることが多い
  • 顔は青白く、涙に濡れている
  • 時には顔がない、または馬の顔として描かれることも

行動の特徴:

  • 夜間にのみ出現する
  • 川、湖、運河など水辺に現れる
  • 「アーイ、ミス・イホス!」と泣き叫ぶ
  • 子どもを連れ去ろうとする
  • 彼女の泣き声を聞くと不幸が訪れる

興味深いのは、「泣き声が近くで聞こえるときは遠くにいて、遠くで聞こえるときは近くにいる」という言い伝えです。
これは、逃げようとしても逃げられないことを示唆しているのかもしれません。


ラ・ヨローナの起源

ラ・ヨローナの伝説は、いつ、どこで生まれたのでしょうか?
実はその起源には複数の説があり、今でも議論が続いています。

アステカ神話との関連

最も古い記録は、16世紀に編纂された『フィレンツェ絵文書(Florentine Codex)』に遡ります。
この文献には、スペイン人が到着する10年前(1509年頃)から、夜な夜な泣き叫ぶ女性の声がテノチティトラン(現在のメキシコシティ)で聞こえていたと記されています。

「第六の前兆として、夜な夜な女性が泣きながら叫んでいるのが聞こえた。彼女は『ああ、私の子どもたちよ!私たちはもうすぐ滅びてしまう』と嘆いていた」

この「泣く女」は、アステカの女神シワコアトル(Cihuacoatl)と関連づけられています。
シワコアトルは「蛇の女」を意味し、出産と母性の女神でした。彼女は白い衣を着て夜に泣きながら彷徨い、子どもを連れ去るとされていました。

つまり、ラ・ヨローナの原型は、スペイン人の征服よりも前から存在していた可能性があるのです。

ラ・マリンチェとの関連

もう一つの有力な説は、ラ・ヨローナが実在の女性「ラ・マリンチェ」と結びついているというものです。

ラ・マリンチェ(マリンツィン)は、16世紀にスペインの征服者エルナン・コルテスの通訳を務めた先住民の女性です。
彼女はコルテスの愛人となり、息子を産みました。この息子は「最初のメスティーソ(混血)」として、現代メキシコ人の象徴とも言われています。

伝説では、コルテスが身分の高いスペイン人女性と結婚するためにラ・マリンチェを捨てたとき、彼女は怒りと絶望から子どもを殺したとされています。

ただし、歴史的にはラ・マリンチェが子どもを殺した証拠はありません。
これは後世に作られた物語であり、彼女がスペイン人に協力した「裏切り者」というイメージと、ラ・ヨローナの伝説が融合したものと考えられています。

ヨーロッパの伝承との類似

驚くべきことに、ラ・ヨローナに似た「泣く女」の伝説は世界各地に存在します。

ドイツには1486年から記録がある「白い女(Die Weiße Frau)」の伝説があり、子どもを殺した女性の亡霊が白い衣を着て彷徨うという内容は、ラ・ヨローナとほぼ同じです。

また、ギリシャ神話のラミア(ゼウスの愛人で、ヘラの嫉妬により子どもを失い、他人の子どもを殺すようになった半人半蛇の怪物)や、メデイア(夫イアソンの裏切りへの復讐として自分の子どもを殺した女性)との類似も指摘されています。

これらの類似から、ラ・ヨローナは先住民の神話とヨーロッパの伝承が融合して生まれた存在である可能性が高いと考えられています。


ラ・ヨローナが伝わる地域

ラ・ヨローナの伝説は、メキシコだけでなく中南米全域、そして米国南西部にまで広がっています。

地域特徴
メキシコ発祥の地。死者の日(Día de Muertos)の時期に特に話題になる
グアテマラ独自のバリエーションが存在し、映画化もされている
ベネズエラ類似の伝説が伝わる
コスタリカ同様の「泣く女」伝説がある
米国テキサス州最も有名な目撃地域の一つ
米国カリフォルニア州ヒスパニック系コミュニティで広く知られる
米国ニューメキシコ州「用水路の魔女(Ditch Witch)」とも呼ばれる
米国アリゾナ州川沿いでの目撃談が多い

ニューメキシコ州では、用水路で遊ぶ子どもたちへの警告として「用水路の魔女」という呼び名が使われることもあります。
地域によって細部は異なりますが、「白い服」「水辺」「夜の泣き声」という3つの要素は共通しています。


ラ・ヨローナと文化的影響

躾の道具として

ラ・ヨローナは何世紀にもわたって、親が子どもを躾けるための怪談として使われてきました。

「夜遅くまで外にいると、ラ・ヨローナに連れていかれるよ」
「川に近づくと、ラ・ヨローナが出るよ」

こうした警告は、子どもたちを危険から守るための実用的な役割も果たしていたのです。

メキシコのアイデンティティの象徴

ラ・ヨローナは単なる怪談ではなく、メキシコの複雑な歴史を象徴する存在でもあります。

スペインによる征服、先住民文化の破壊、そして混血民族の誕生——これらの歴史的トラウマが、ラ・ヨローナの物語には凝縮されています。
「私たちの国は、ラ・ヨローナの涙から生まれた」という言葉があるほどです。

近年のチカーナ(メキシコ系アメリカ人女性)のフェミニストたちは、ラ・ヨローナを「植民地支配に抵抗し、伝統的な女性の役割に挑戦したために罰せられた強い女性」として再解釈する動きも見られます。

同名の民謡

「ラ・ヨローナ」という有名なメキシコ民謡があります。
1940年代にアンドレス・エネストローサによって広められたこの曲は、メキシコ革命時代に生まれたとされています。

歌の内容は怪談とは直接関係がなく、愛する人との別れを嘆く哀愁漂うラブソングです。
伝説では、戦争に出征する夫が、泣いて見送る妻を「泣き女(ヨローナ)」と呼んだことが歌の由来とされています。

この曲は数多くのアーティストにカバーされており、特にチャベラ・バルガスの解釈が有名です。
2017年のディズニー・ピクサー映画『リメンバー・ミー(原題:Coco)』でも使用され、世界中の観客にこの曲を届けました。


映画に登場するラ・ヨローナ

ラ・ヨローナは1930年代から映画の題材として取り上げられてきました。

作品名特徴
1933年『La Llorona』メキシコ初のホラー映画とも呼ばれる
1961年『La Maldición de la Llorona(泣く女の呪い)』ゴシックホラーの傑作として評価が高い
1974年『La Venganza de la Llorona(泣く女の復讐)』古典的なホラー映画
2019年『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』ハリウッド製作、『死霊館』ユニバースの一作
2019年『ラ・ヨローナ〜彷徨う女〜』グアテマラ製作、内戦の歴史と絡めた社会派ホラー

2019年のハリウッド映画『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』は、『死霊館』シリーズのジェームズ・ワンがプロデュースし、ラ・ヨローナを初めてハリウッドのメジャー作品として世界に紹介しました。

同年公開のグアテマラ映画『ラ・ヨローナ〜彷徨う女〜』は、グアテマラ内戦時代の虐殺と伝説を結びつけた社会派作品として、ベネチア国際映画祭で受賞しています。

また、人気ドラマ『スーパーナチュラル』の記念すべき第1話にも、ラ・ヨローナをモデルにした「白い服の女(Woman in White)」が登場しています。


現代の目撃情報

驚くことに、ラ・ヨローナの目撃談は現代でも報告されています。

1990年代には、マイアミ、ニューオーリンズ、シカゴなどで、ホームレスの子どもたちが「黒い涙を流すラ・ヨローナ」を目撃したという噂が広まりました。

メキシコやアメリカ南西部の川沿いでは、今でも「夜に女性の泣き声を聞いた」という報告が後を絶ちません。
もちろん、これらは都市伝説として扱われていますが、伝説が現代でも生き続けていることを示しています。

YouTubeやTikTokでは、ラ・ヨローナの体験談動画が数多く投稿されており、若い世代にも人気の怪談として再び注目を集めています。


死者の日とラ・ヨローナ

メキシコでは毎年10月末から11月初めにかけて「死者の日(Día de Muertos)」が祝われます。
この時期になると、ラ・ヨローナの話題が特に盛り上がります。

メキシコシティのソチミルコ地区では、1993年から毎年死者の日に合わせて、運河を舞台にしたラ・ヨローナの水上劇が上演されています。
音楽、演劇、ダンスが融合したこのイベントは、メキシコの伝統文化を体験できる人気の観光スポットにもなっています。

また、ハロウィンの時期にはラ・ヨローナをテーマにしたパレードやイベントが各地で開催されます。
2013年には、フロリダ州オーランドのユニバーサル・スタジオが「ハロウィン・ホラー・ナイト」でラ・ヨローナのアトラクションを展開し、大きな話題となりました。


まとめ

ラ・ヨローナは、単なる怪談以上の存在です。

  • アステカ時代から続く古い神話的ルーツを持つ
  • スペイン征服という歴史的トラウマを反映している
  • 子どもへの躾や教訓として機能してきた
  • 母性、裏切り、後悔という普遍的なテーマを扱っている
  • 現代でも映画、音楽、文学で再解釈され続けている

白い服を着た泣く女の伝説は、500年以上の時を経て、今もなお人々の心を掴み続けています。
それは、この物語が語る悲しみと後悔が、時代や文化を超えて人間の心に響くからなのかもしれません。

もし夜、水辺で女性の泣き声が聞こえたら——それはきっと、まだ子どもを探し続けているラ・ヨローナかもしれません。

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