経典一覧|世界の宗教の聖典を徹底紹介

神話・歴史・文化

「聖書」「コーラン」「仏典」——世界には様々な宗教があり、それぞれに信仰の基盤となる経典が存在します。
経典とは、宗教の教えや教義を記した書物のこと。
信者にとっては人生の指針であり、心の拠り所でもあります。

この記事では、世界の主要な宗教の経典を一覧でわかりやすく紹介します。
仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、ユダヤ教など、それぞれの宗教でどんな経典が大切にされているのか、その特徴とともに見ていきましょう。


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経典とは?

経典(きょうてん)とは、宗教の教えや教義を記した書物の総称です。
「聖典」「教典」「啓典」とも呼ばれ、各宗教によって呼び方が異なります。

経典の「経」という字は、サンスクリット語の「スートラ」を漢字に訳したもの。
もともとは「縦糸」を意味する言葉で、「不変の真理」を表すとされています。

興味深いのは、世界の主要な宗教の経典の多くが、最初は「口伝え」で伝承されていたという点です。
釈迦もムハンマドもイエスも、自ら経典を執筆したわけではありません。
彼らの死後、弟子や信者たちによって教えがまとめられ、現在の形になったのです。


仏教の経典

仏教の経典は「仏典」と呼ばれ、釈迦の教えをまとめたものです。
その数は膨大で、「八万四千の法門」という言葉があるほど。

仏典は大きく「経蔵」「律蔵」「論蔵」の三つに分類され、これを「三蔵」と呼びます。
西遊記で有名な「三蔵法師」の名前は、この三蔵に精通した僧侶という意味なんですね。

日本の主要な仏教経典

日本で読まれる仏教経典は、宗派によって異なります。
ここでは特に有名なものをピックアップして紹介します。

般若心経(はんにゃしんぎょう)

正式名称は「般若波羅蜜多心経」。
わずか262文字(漢字)に、大乗仏教の真髄である「空(くう)」の思想が凝縮されています。

「色即是空、空即是色」というフレーズを聞いたことがある人も多いでしょう。
これは「目に見えるものには実体がなく、実体がないからこそ目に見える」という深遠な教えです。

天台宗、真言宗、曹洞宗、臨済宗、浄土宗など、日本の多くの宗派で読まれていますが、日蓮宗と浄土真宗では読まれません。

法華経(ほけきょう)

正式名称は「妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)」。
「南無妙法蓮華経」という題目で知られ、日蓮宗と天台宗で特に重視されています。

法華経の特徴は「誰もが平等に成仏できる」と説いている点。
身分や性別に関係なく、すべての人に悟りへの道が開かれているというメッセージは、当時としては革新的なものでした。

阿弥陀経(あみだきょう)

浄土宗、浄土真宗で読まれる経典です。
極楽浄土の様子と、そこへ往生するための方法を説いています。

他の経典が弟子との対話形式になっているのに対し、阿弥陀経は釈迦が自ら進んで説いたという特徴があります。

華厳経(けごんきょう)

華厳宗の根本経典であり、大乗仏教の宇宙観を壮大に描いた経典です。
「すべての存在は互いに関係し合っている」という「法界縁起」の思想が説かれています。

「インドラの網」という有名な比喩があり、宇宙全体が宝珠でできた網のように相互につながり合っていると表現されています。


ヒンドゥー教の経典

ヒンドゥー教の経典は「シュルティ(天啓)」と「スムリティ(聖伝)」の二つに大別されます。
シュルティは神から直接啓示された聖典、スムリティは人間が伝承してきた聖典という違いがあります。

ヴェーダ

ヴェーダはヒンドゥー教で最も古く、最も権威のある聖典群です。
「ヴェーダ」は「知識」を意味し、紀元前1500年から紀元前500年頃にかけて編纂されたとされています。

ヴェーダは以下の4つから構成されています。

  • リグ・ヴェーダ:神々への讃歌集。最も古く、最重要視される
  • サーマ・ヴェーダ:詠歌集。インド古典音楽の源流
  • ヤジュル・ヴェーダ:祭祀の際の散文祭詞集
  • アタルヴァ・ヴェーダ:呪文集。他の三つより成立が新しい

2003年には「ヴェーダ詠唱の伝統」がユネスコの無形文化遺産に登録されています。

ウパニシャッド

ウパニシャッドはヴェーダの哲学的な部分であり、「ヴェーダの最後」という意味の「ヴェーダーンタ」とも呼ばれます。
紀元前800年から紀元前500年頃にかけて成立しました。

「梵我一如(ブラフマンとアートマンは一つである)」という、ヒンドゥー哲学の根本思想はここから生まれました。

バガヴァッド・ギーター

「神の歌」という意味を持つバガヴァッド・ギーターは、叙事詩『マハーバーラタ』の一部でありながら、独立した聖典として広く愛読されています。

戦士アルジュナと、神の化身であるクリシュナとの対話を通じて、義務(ダルマ)、行為(カルマ)、信愛(バクティ)の道が説かれています。

マハトマ・ガンディーもこの経典を愛読し、インド独立運動の精神的支柱としたことで知られています。


キリスト教の経典

キリスト教の経典は「聖書」です。
聖書は「旧約聖書」と「新約聖書」から構成されています。

「約」とは神との契約のこと。
旧約聖書はイエス・キリスト以前の契約、新約聖書はイエス以降の新しい契約を記したものです。

旧約聖書

旧約聖書は、もともとユダヤ教の聖典でした。
天地創造、アダムとイブ、ノアの方舟、モーセの十戒など、有名なエピソードが数多く含まれています。

主な構成は以下の通りです。

  • 律法(トーラー):モーセ五書とも呼ばれる。創世記、出エジプト記など
  • 歴史書:ヨシュア記、士師記、サムエル記など
  • 詩歌・知恵文学:詩篇、箴言、ヨブ記など
  • 預言書:イザヤ書、エレミヤ書、ダニエル書など

新約聖書

新約聖書は、イエス・キリストの生涯と教え、初期キリスト教会の様子を記したものです。
1世紀後半から2世紀にかけて成立しました。

  • 福音書:マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つ。イエスの生涯を記す
  • 使徒言行録:初期教会の歴史
  • 書簡:パウロの手紙など、使徒たちが各地の教会に送った手紙
  • ヨハネの黙示録:終末と新しい世界についての預言

聖書は世界で最も多くの言語に翻訳された書物であり、発行部数は50〜70億冊ともいわれています。


イスラム教の経典

イスラム教の経典は「クルアーン(コーラン)」です。
預言者ムハンマドが天使ジブリール(ガブリエル)を通じて神(アッラー)から受けた啓示をまとめたものです。

クルアーン(コーラン)

クルアーンは「読誦すべきもの」という意味。
全114章から構成され、神の言葉そのものとされています。

イスラム教では、クルアーンはアラビア語で啓示されたため、翻訳は「解釈」にすぎないと考えられています。
そのため、世界中のイスラム教徒がアラビア語でクルアーンを学び、朗誦します。

クルアーンの内容は大きく三つに分けられます。

  1. 信条:神、天地創造、終末、審判、天国と地獄など
  2. 倫理:孤児や貧者を助けること、親を敬うことなど
  3. 法的規範:礼拝、断食、巡礼、婚姻、相続など

ハディース

ハディースは、ムハンマドの言行録です。
クルアーンが「神の言葉」であるのに対し、ハディースは「ムハンマド自身の言葉と行動」をまとめたもの。

クルアーンには大まかな指針しか記されていないことも多いため、具体的な実践方法はハディースを参照します。
例えば、クルアーンには「礼拝せよ」とだけありますが、具体的な礼拝方法はハディースに記されています。

ハディースには様々な編纂書がありますが、9世紀のブハーリーによる『真正集』が最も権威あるものとされています。


ユダヤ教の経典

ユダヤ教の聖典は「タナハ」と呼ばれ、キリスト教でいう旧約聖書に相当します。
ただし、ユダヤ教では「旧約」という呼び方は使いません。

タナハ(ヘブライ語聖書)

タナハは「トーラー」「ネビイーム」「ケトゥビーム」の頭文字をとった呼び名です。

  • トーラー(律法):モーセ五書。創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記
  • ネビイーム(預言者):預言者たちの書
  • ケトゥビーム(諸書):詩篇、箴言、ヨブ記など

タルムード

タルムードは、ユダヤ教徒の生活において非常に重要な経典です。
「学習」を意味するヘブライ語で、トーラーの解釈・注釈をまとめたものです。

全20巻、1万2000ページ、250万語以上という膨大な分量。
4世紀末に成立したエルサレム・タルムードと、5世紀末に成立したバビロニア・タルムードの2種類があります。

タルムードは、信仰から日常生活、法律、医学、天文学まで、あらゆる分野を網羅しています。
現代のユダヤ教徒にとっても、生活の指針として重要な役割を果たしています。


その他の宗教の経典

神道

神道には、キリスト教の聖書やイスラム教のコーランのような、明確な「聖典」は存在しません。
ただし、以下の書物が「神典」として重視されています。

  • 古事記:日本最古の歴史書。天地創造から神々の物語を記す
  • 日本書紀:日本の正史。古事記より詳細な記述
  • 古語拾遺:神道の儀式や祭祀について記す

道教

道教の経典は「道蔵」と呼ばれる大規模な経典集成にまとめられています。
1400以上のテキストが含まれ、5世紀から15世紀にかけて編纂されました。

最も重要な経典は老子の『道徳経(タオ・テ・チン)』です。
「道(タオ)」の思想を説き、「無為自然」という生き方を提唱しています。

ゾロアスター教

ゾロアスター教の聖典は『アヴェスター』です。
善と悪の二元論を説く、古代ペルシアの宗教の教えが記されています。

『アヴェスター』は祭儀書、除魔書、神々への讃歌などで構成されています。

シク教

シク教の聖典は『グル・グラント・サーヒブ』です。
1708年以降、シク教では人間の指導者(グル)ではなく、この経典自体が「永遠のグル」として崇拝されています。

儒教

儒教の経典は「経書」と呼ばれ、「四書五経」が特に重視されます。

四書:論語、孟子、大学、中庸
五経:易経、書経、詩経、礼記、春秋


世界の経典一覧表

宗教主要経典言語特徴
仏教般若心経サンスクリット語(原典)「空」の思想を262文字に凝縮
仏教法華経サンスクリット語(原典)誰もが平等に成仏できると説く
仏教阿弥陀経サンスクリット語(原典)極楽浄土への往生を説く
仏教華厳経サンスクリット語(原典)壮大な宇宙観を描く
仏教維摩経サンスクリット語(原典)在家信者の悟りを説く
ヒンドゥー教リグ・ヴェーダサンスクリット語最古のヴェーダ。神々への讃歌
ヒンドゥー教ウパニシャッドサンスクリット語梵我一如の哲学を説く
ヒンドゥー教バガヴァッド・ギーターサンスクリット語義務と信愛の道を説く
ヒンドゥー教マハーバーラタサンスクリット語世界最長の叙事詩
ヒンドゥー教ラーマーヤナサンスクリット語ラーマ王子の冒険譚
キリスト教旧約聖書ヘブライ語・アラム語天地創造から預言者の時代まで
キリスト教新約聖書ギリシア語イエスの生涯と初期教会の歴史
イスラム教クルアーン(コーラン)アラビア語神の言葉そのもの。全114章
イスラム教ハディースアラビア語ムハンマドの言行録
ユダヤ教タナハ(ヘブライ語聖書)ヘブライ語律法・預言者・諸書の総称
ユダヤ教タルムードヘブライ語・アラム語トーラーの解釈・注釈の集大成
神道古事記日本語日本最古の歴史書
神道日本書紀日本語日本の正史
道教道徳経中国語老子の教え。「道」の思想
道教道蔵中国語道教経典の集大成
ゾロアスター教アヴェスターアヴェスター語善悪二元論を説く
シク教グル・グラント・サーヒブパンジャーブ語永遠のグルとして崇拝される
儒教論語中国語孔子の言行録
儒教孟子中国語孟子の思想

まとめ

世界の宗教には、それぞれ固有の経典が存在します。

  • 仏教:般若心経、法華経、阿弥陀経など。釈迦の教えを弟子がまとめたもの
  • ヒンドゥー教:ヴェーダ、ウパニシャッド、バガヴァッド・ギーターなど。神から啓示された知識
  • キリスト教:旧約聖書と新約聖書。神との契約を記した書物
  • イスラム教:クルアーンとハディース。神の言葉とムハンマドの言行
  • ユダヤ教:タナハとタルムード。律法とその解釈

経典は単なる古い書物ではありません。
何千年もの間、人々の信仰を支え、生き方の指針となってきた「生きた文献」です。

それぞれの経典に触れることで、世界の文化や価値観をより深く理解できるようになるかもしれません。

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