お酒を飲んだだけで地獄に落ちる—そんなことがあると思いますか?
実は、仏教には「叫喚地獄」という、酒にまつわる罪で落ちる地獄が存在するんです。ただし、単にお酒を楽しんだだけでは落ちません。酒に毒を混ぜて人を殺したり、他人を酔わせて悪事を働かせたりした者が対象なんですね。
八大地獄の第四番目に位置するこの地獄では、罪人たちは熱湯の大釜で煮られ、溶けた銅を飲まされます。あまりの苦痛に泣き叫ぶ声が響き渡り、その刑期は人間界の時間で852兆年以上。想像もつかない長さです。
この記事では、叫喚地獄の恐ろしい実態と、そこに込められた仏教の教えを詳しく解説していきます。
概要

叫喚地獄は、仏教が説く「八大地獄(はちだいじごく)」の第四番目にあたる地獄です。
殺生・盗み・邪淫(じゃいん)に加えて、飲酒の罪を犯した者が落ちるとされています。ただし、単にお酒を飲んだだけでは落ちません。酒に毒を入れて人を殺したり、他人を酔わせて悪事を働かせたりした者が対象なんですね。
「叫喚」という名前の通り、あまりの苦しみに罪人たちが泣き叫ぶ声が響き渡る恐ろしい世界です。衆合地獄の10倍もの苦しみを受けるとされ、その責め苦は想像を絶するものがあります。
この記事では、叫喚地獄がどんな場所なのか、どんな罪で落ちるのか、そしてどんな責め苦が待っているのかを詳しく解説していきます。
叫喚地獄の位置と構造
地獄界での位置
叫喚地獄は、地下世界に階層状に存在する八大地獄の中で、上から4番目に位置しています。
八大地獄の順番
- 等活地獄(とうかつじごく)
- 黒縄地獄(こくじょうじごく)
- 衆合地獄(しゅうごうじごく)
- 叫喚地獄(きょうかんじごく)
- 大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)
- 焦熱地獄(しょうねつじごく)
- 大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)
- 阿鼻地獄(あびじごく)
地獄の広さ
叫喚地獄の広さは、縦横それぞれ1万由旬(ゆじゅん)とされています。1由旬は約7~14kmですから、とてつもない広さなんですね。
どんな罪で落ちるのか
主な罪状:飲酒に関わる悪事
叫喚地獄に落ちる主な条件は「飲酒」ですが、これは単純に酒を飲んだという意味ではありません。
叫喚地獄に落ちる具体的な罪
- 酒に毒を混ぜて人を殺した
- 他人を酔わせて財産を奪った
- 酒を使って人を堕落させた
- 修行者に酒を飲ませて戒律を破らせた
- 酒を売って不当な利益を得た
つまり、酒を悪用して他人に害を与えた者が落ちる地獄なんです。
なぜ飲酒が罪とされたのか
仏教では「五戒」という基本的な戒律があり、その中に「不飲酒戒」(酒を飲まない)が含まれています。これは、酒によって理性を失い、他の戒律を破る原因になるからです。
叫喚地獄の恐ろしい責め苦
熱湯地獄
叫喚地獄で最も有名な責め苦が、巨大な釜で煮られるというものです。
罪人たちは熱湯が煮えたぎる大釜や大鍋に投げ込まれ、ぐつぐつと煮られます。必死に這い上がろうとしても、獄卒(ごくそつ)に鉄の棒で叩き落とされ、永遠に煮られ続けるのです。
熱鉄の部屋
灼熱の鉄でできた部屋に閉じ込められることもあります。壁も床も天井も真っ赤に焼けた鉄でできており、触れるもの全てが罪人を焼き苦しめます。
強制飲酒の刑
最も皮肉な罰として、溶けた銅を飲まされるという責め苦があります。
獄卒が罪人の口を無理やり開けさせ、どろどろに溶けた熱い銅を注ぎ込みます。喉から胃、腸まで全ての内臓が焼かれる激痛に、罪人は泣き叫びます。生前に他人に酒を飲ませて苦しめた報いとして、今度は自分が熱い液体を飲まされるわけです。
追い回される恐怖
金色の髪を持ち、目から火を噴く巨大な鬼たちが、罪人を永遠に追い回します。
これらの鬼は風のように速く走れるため、どんなに逃げても必ず捕まってしまいます。捕まると弓矢で射られたり、鉄の棒で打ち砕かれたりします。
内側からの苦しみ
罪人の体内から無数のうじ虫が湧き出てきて、内側から肉を食い荒らすという恐ろしい罰もあります。外側は熱で焼かれ、内側は虫に食われるという二重の苦しみです。
叫喚地獄での刑期
気の遠くなる時間
叫喚地獄での寿命は4000歳とされていますが、これは地獄の時間での話です。
時間の計算
- 人間界の400年 = 兜率天(とそつてん)の1日
- 兜率天の4000年 = 叫喚地獄の1日
- 叫喚地獄での寿命 = 4000歳
これを人間界の時間に換算すると、なんと852兆6400億年という、想像もつかない長さになります。
十六小地獄
叫喚地獄に付属する小地獄
叫喚地獄の四方には門があり、それぞれの門の外に4つずつ、合計16の小地獄が存在します。
代表的な小地獄
大吼処(だいくしょ)
- 斎戒中の人に酒を飲ませた者が落ちる
- 溶けた白蝋を無理やり飲まされる
雨炎火処(うえんかしょ)
- 象に酒を飲ませて暴れさせた者が落ちる
- 燃える石の雨が降り注ぐ
殺殺処(せつせつしょ)
- 女性を酔わせて乱暴した者が落ちる
- 獄卒に局部を引き抜かれる
剣林処(けんりんしょ)
- 旅人を酔わせて金品を奪った者が落ちる
- 剣の葉を持つ林で切り刻まれる
叫喚地獄の起源と文献
仏教経典での記述
叫喚地獄は、様々な仏教経典に登場します。
主な出典
- 『長阿含経』(じょうあごんきょう)
- 『正法念処経』(しょうぼうねんしょきょう)
- 『往生要集』(おうじょうようしゅう)
特に平安時代の僧侶・源信(げんしん)が書いた『往生要集』では、地獄の様子が詳細に描写されており、日本の地獄観に大きな影響を与えました。
なぜ「叫喚」なのか
この地獄で罪人たちが上げる叫び声は、あまりに大きく悲痛で、地獄全体に響き渡るといいます。
苦痛のあまり許しを請い、助けを求めて泣き叫ぶ声。しかし獄卒たちは、その声を聞くとかえって怒りを増し、さらに激しい責め苦を与えるのです。まさに「叫喚」の名にふさわしい、絶望の世界なんですね。
現代に伝わる教訓
酒の危険性への警告
叫喚地獄の伝承は、酒がもたらす害悪を戒める教えとして機能してきました。
酒そのものが悪いのではなく、酒によって理性を失い、他人を傷つけることへの警告です。現代でも飲酒運転や酔った上での暴力など、酒にまつわる問題は後を絶ちません。
地獄絵図の影響
日本各地の寺院に残る地獄絵図には、叫喚地獄の様子が生々しく描かれています。
これらの絵は、民衆に因果応報の教えを視覚的に伝える役割を果たしてきました。特に、大釜で煮られる罪人の姿は、多くの人々の記憶に強く刻まれています。
まとめ
叫喚地獄は、酒を悪用して他人を害した者が落ちる、八大地獄の第四番目の地獄です。
重要なポイント
- 殺生・盗み・邪淫に加えて飲酒の罪で落ちる
- 衆合地獄の10倍の苦しみを受ける
- 熱湯の釜で煮られ、溶けた銅を飲まされる
- 巨大な鬼に追い回され、内側から虫に食われる
- 人間界の時間で852兆年以上の刑期
- 酒の害を戒める仏教の教えを体現
叫喚地獄の伝承は、単なる恐怖物語ではありません。酒によって人を傷つけることの恐ろしさ、そして自分の行いが必ず自分に返ってくるという因果応報の教えを、私たちに伝えているのです。


コメント