【地底に広がる謎の文明】クン・ヤンとは?クトゥルフ神話に登場する地下世界の全貌

神話・歴史・伝承

アメリカの大地の下に、もう一つの世界が広がっているとしたら、あなたは信じますか?

古い墳丘の入口から続く暗い階段を降りていくと、そこには青白い光に照らされた巨大な地底都市が存在するという伝説があります。その世界の名は「クン・ヤン」。外宇宙からやってきた種族が築いた、恐ろしくも魅惑的な文明なんです。

この記事では、クトゥルフ神話に登場する神秘の地底世界「クン・ヤン」について、その場所や住民の特徴、そして恐ろしい伝承を詳しくご紹介します。

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概要

クン・ヤンは、H.P.ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話に登場する、アメリカ中西部の地下深くに広がる巨大な地底世界です。

この世界が初めて登場したのは、1930年に執筆された小説『墳丘の怪』(原題:The Mound)。ラヴクラフトが作家ゼリア・ビショップの依頼で書いた作品なんですね。

クトゥルフ神話というのは、ラヴクラフトが創造した架空の神話体系のこと。宇宙的恐怖をテーマにした、数多くの作品群の総称です。

クン・ヤンの最大の特徴は、その住民が外宇宙から地球にやってきた種族だということ。彼らは「トゥルー」と呼ぶ存在(実は邪神クトゥルフのこと)に連れられて地球に到来し、高度な文明を築きました。地上世界が大きく変化した後、彼らは地下に移り住んだとされています。

地底世界への入口

クン・ヤンへの入口は、アメリカの数か所に存在すると言われています。

主な入口の場所

  • オクラホマ州ビンガー村の墳丘:最も有名な入口で、古代の墳丘の下に階段が隠されている
  • ヴァーモント州の山中:未開の丘陵地帯に存在する入口

オクラホマの墳丘から入った場合、地下の洞窟を約3日間歩き続ければ、クン・ヤンの都市に到着できるそうです。ただし、これらの入口は地元の人々やネイティブアメリカンからも恐れられ、近づく者はほとんどいません。

なぜなら、この墳丘には恐ろしい幽霊伝説があるからなんです。昼間には老人の幽霊が、夜には首のない女性の幽霊が現れ、調査に訪れた者は行方不明になったり、発狂して戻ってきたりするという話が伝わっています。

クン・ヤンの構造

地底世界クン・ヤンは、3つの層に分かれた複雑な構造になっています。

青く輝く都市ツァス

最上層はツァスと呼ばれる大都市。青白いオーロラのような光に照らされた美しい世界です。

この光は太陽とは全く違うもので、霧のような不思議な輝きなんだとか。驚くべきことに、この青い光のおかげで、地下なのに草木が生え、川も流れているんですね。

現在、クン・ヤンの住民のほとんどがこのツァスに集中して生活しています。

赤く輝く廃墟ヨス

ツァスの下層には、ヨスという赤く輝く世界が広がっています。

かつてヨスには別の種族が住んでいましたが、ツァスの住民に征服され、現在では廃墟となっています。先住種族は爬虫類人だったと伝えられ、後の神話作品では「蛇人間」と呼ばれるようになりました。

暗黒の世界ンカイ

さらにその下、最深部にはンカイという真っ暗な世界が存在します。

ンカイは最も恐ろしい場所。黒い不定形の粘性生物たちが住み、旧支配者ツァトゥグァ(クトゥルフ神話に登場する邪神の一柱)を崇拝しているんです。

かつてクン・ヤンの住民がンカイを探検したところ、あまりの恐ろしさに通路を封鎖し、ツァトゥグァの神殿も破壊したという記録が残っています。この出来事以来、ンカイへ続く入口を探すことは固く禁じられているそうです。

住民の特徴と能力

クン・ヤンの住民は、私たち人類とは全く異なる、驚異的な能力を持っています。

外見的特徴

  • 容姿はネイティブアメリカンに似ている
  • しかし、どの既知の部族にも属さない独特の風貌
  • 伝説では外宇宙から来た種族とされる

超能力

クン・ヤン人は、いくつもの超自然的な力を持っています。

テレパシー能力:言葉を使わず、心で直接会話できる。音声言語は使用しません。

物質化・非物質化:自分の体を霧のような状態に変えることで、壁や固形物を通り抜けられます。この能力により、地下通路を自由に移動できるんですね。

不老不死:クン・ヤン人は老いることがなく、死のうと思わない限り永遠に生き続けることができます。数千年を生きる者も珍しくないそうです。

高度な技術

クン・ヤンの文明は、科学技術でも非常に発達していました。

  • 死体を蘇らせる技術:死んだ者を「イム・ブヒ」という労働用ゾンビとして蘇らせ、奴隷として使役できる
  • 生物改造技術:征服した種族を獣と交配させ、家畜や騎獣として品種改良する
  • 特殊金属の加工:トゥルー(クトゥルフ)が外宇宙から持ち込んだという貴重な磁力を帯びた金属を扱える

特にグヤア・ヨトンという生物は有名です。これは人間と動物の混血生物で、額に角を持ち、クン・ヤン人の乗り物として使われているんです。

信仰と文化

クン・ヤンでは、複数の神々が崇拝されています。

主な信仰対象

大いなるトゥルー(クトゥルフ):最も重要な神。住民を外宇宙から地球に連れてきた存在とされる。崇拝者側の言い分では「宇宙の調和の霊」なんだとか。

蛇神イグ:トゥルーと並ぶ主要な信仰対象。生贄を伴う血なまぐさい儀式が行われる。

その他の神々:シュブ・ニグラス、ナグとイェブなど、複数の邪神が信仰されている。

興味深いのは、かつてツァトゥグァ信仰も存在していたこと。しかしンカイでの恐ろしい発見の後、この信仰は衰退してしまいました。

社会構造

クン・ヤンの社会は、厳格な階級制度で成り立っています。

  • 支配階級:高度な能力を持つ統治者たち。数千年を生きる長老も存在する
  • 奴隷階級:征服された種族の子孫たち。食肉としても利用される

長い歴史の中で、クン・ヤンの文明は技術的に完成しすぎてしまい、社会全体が倦怠状態に陥っているとも言われます。刺激を求めて、奴隷に対する残虐な娯楽や、身体改造などの退廃的な行為が行われているんですね。

また、クン・ヤン人は地上世界を恐れています。外部からの侵略を警戒し、地上から迷い込んだ者は二度と帰すことを許さないという厳格なルールを設けているんです。

『墳丘の怪』の物語

クン・ヤンの存在を世に知らしめたのが、小説『墳丘の怪』に記された恐ろしい物語です。

物語の始まり

1928年夏、ある考古学者がオクラホマ州の墳丘を調査していました。地元では幽霊が出ると恐れられている場所です。

調査中、彼は墳丘の中で400年前のスペイン人の手記を発見します。その手記を書いたのは、パンフィロ・デ・サマコナという16世紀のコンキスタドール(征服者)でした。

サマコナの冒険

手記によると、サマコナは黄金を求めて地下世界に入り込みました。そこで彼が見たものは、想像を絶する光景だったんです。

ネイティブアメリカンの案内で地下都市ツァスに到着したサマコナは、最初は歓迎されました。外の世界からの訪問者として、貴重な情報源だったからです。

しかし、彼は重大な事実を知らされます。二度と地上に帰ることは許されないという掟があったのです。

悲劇的な結末

地下で4年を過ごしたサマコナは、望郷の念に駆られて脱出を試みます。

1度目の脱出は失敗。その時、彼を助けてくれたクン・ヤン人の女性トゥラ・ユブは罰として首を切り落とされ、イム・ブヒ(ゾンビ奴隷)に堕とされて入口の番人にされてしまいました。

サマコナは物質化の技術を習得し、再度脱出を試みますが、ゾンビとなったトゥラ・ユブに捕まり失敗。彼自身も罰としてゾンビに堕とされたのです。

現代の発見

手記を読み終えた考古学者は、内容に圧倒されながらも「これは創作だろう」と考えます。

しかし、実際に墳丘を調べると、地下への階段を発見してしまいました。恐る恐る進んでいくと、そこには人工的な通路が続いていて、さらに半物質化した存在たちが巡回していたんです。

そして最後に彼が見たのは…完全に物質化した一人の「白人」の姿。胸にはスペイン語で「トゥラ・ユブの首なき体の中にクン・ヤンの意志により捕らえられた」というメッセージが刻まれていました。

それこそが、400年間ゾンビとして彷徨い続けたサマコナその人だったのです。考古学者は恐怖のあまり、命からがら地上へと逃げ帰りました。

墳丘に現れる二つの幽霊——昼の老人と夜の首なき女性——の正体は、ゾンビとなったサマコナとトゥラ・ユブだったんですね。

まとめ

クン・ヤンは、クトゥルフ神話における最も詳細に描かれた地底世界の一つです。

重要なポイント

  • H.P.ラヴクラフトが1930年に創造した地底世界
  • アメリカ中西部の地下深くに存在し、オクラホマやヴァーモントに入口がある
  • 青く輝くツァス、赤く輝くヨス、暗黒のンカイという3層構造
  • 外宇宙から来た種族が築いた高度な文明
  • テレパシーや物質化能力、不老不死など超自然的な力を持つ住民
  • クトゥルフやイグなどの邪神を崇拝する文化
  • 厳格な階級制度と退廃的な社会
  • 一度入ったら二度と出られない恐ろしい掟がある

『墳丘の怪』は発表が遅れ、ラヴクラフトの死後1940年になってようやく世に出た作品ですが、クトゥルフ神話における地底世界の概念を確立した重要な作品となりました。

もし地面の下から不思議な音が聞こえてきたら、それはクン・ヤンの住民が活動している証かもしれません。でも、決して墳丘の入口を探そうなどとは思わないでください。地底の世界は、私たち地上の人間が足を踏み入れるべき場所ではないのですから。


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