劫とは?仏教が説く「途方もない時間」の意味と由来をわかりやすく解説

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「未来永劫」「億劫(おっくう)」——こんな言葉を聞いたことはありませんか?
実はこれ、どちらも仏教の時間の単位「劫(こう)」が由来なんです。

では、この「劫」とは一体どれくらい長い時間なのでしょうか?
結論から言うと、想像を絶するほど長い時間です。

具体的には「100年に一度、天人が羽衣で巨大な岩をなでて、その岩がすり減ってなくなっても終わらない時間」とされています。
この記事では、仏教における最長の時間単位「劫」について、その意味や由来、私たちの日常に残る言葉まで詳しく解説していきます。


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劫の基本情報

「劫」は、サンスクリット語の「カルパ(kalpa)」を漢字で音写した「劫波(こうは)」を省略したものです。
仏教における最長の時間単位として知られています。

対照的に、仏教で最も短い時間の単位は「刹那(せつな)」。
「一瞬」を意味する言葉として、こちらも日常で使われていますね。

劫の長さは、私たちが普段使う「年」や「秒」では到底表せないほど膨大。
そのため、仏典では数字ではなく「たとえ話」で説明されています。


劫の長さを表す2つのたとえ

仏典には、劫の長さを説明するために2つの有名なたとえがあります。
『雑阿含経』や『大智度論』などに記されているものです。

磐石劫(ばんじゃくこう)

一辺が約7kmもある巨大な岩があるとします。
そこに天人が100年に一度だけ降りてきて、薄い羽衣でその岩をそっとなでます。

羽衣は柔らかい布なので、一度なでただけでは岩はびくともしません。
それでも気の遠くなるような時間をかけてなで続け、ついに岩がすり減ってなくなったとしても——
まだ一劫は終わらないというのです。

芥子劫(けしこう)

こちらは別のたとえです。

一辺が約7kmの巨大な城があり、その中に芥子粒(ケシのタネ)がぎっしり詰まっています。
長寿の人が100年に一度やってきて、芥子粒を1粒だけ取り出します。

すべての芥子粒がなくなるまで、いったいどれだけの時間がかかるでしょうか。
それでも一劫は終わらないとされています。

どちらのたとえも、人間の想像力の限界を超えた長さを表現しようとしているんですね。


劫にも種類がある

実は「劫」にはいくつかの種類があります。
宗派や経典によって解釈は異なりますが、代表的なものを紹介します。

仏教における劫の分類

仏教では、劫を以下のように分類することがあります。

  • 通常の劫:約1,600万年
  • 小劫:通常の劫の1,000倍(約160億年)
  • 中劫:小劫の20倍(約3,200億年)
  • 大劫:中劫の4倍(約1.28兆年)

ただし、お釈迦様は劫の正確な長さを年数では示しませんでした。
数字で表すことに意味がないほど長い、ということなのでしょう。

ヒンドゥー教における劫

ヒンドゥー教では、1劫は43億2,000万年と具体的に定められています。
これは創造神ブラフマーの「1日」に相当するとされています。

興味深いことに、この数字は地球の年齢(約46億年)にかなり近いですね。


宇宙の循環「四劫」とは?

仏教では、宇宙(世界)は永遠に存在するのではなく、生成と消滅を繰り返すと考えられています。
この循環を表すのが「四劫(しこう)」という概念です。

四劫の流れ

劫の名称読み方意味
成劫じょうこう宇宙が形成される期間
住劫じゅうこう宇宙が安定して存続する期間
壊劫えこう宇宙が破壊されていく期間
空劫くうこう何もない空虚な状態が続く期間

空劫が終わると、また成劫が始まります。
つまり、宇宙は「成→住→壊→空」のサイクルを永遠に繰り返すというわけです。

この四劫を一巡りする期間を「一大劫」と呼びます。
一大劫は80中劫(成・住・壊・空それぞれが20中劫ずつ)で構成されています。

現代の宇宙論で言う「ビッグバンから始まり、いずれ終焉を迎える」という考え方と、どこか通じるものがありますね。


日常に残る「劫」のつく言葉

「劫」は仏教用語ですが、実は私たちの日常会話にも溶け込んでいます。
普段何気なく使っている言葉の由来を見てみましょう。

億劫(おっくう)

「面倒くさい」「気乗りしない」という意味で使われる「億劫」。
もともとは「おっこう」と読み、一劫の1億倍の時間を指していました。

想像もできないほど長い時間がかかるから、やる気が出ない——
そんな意味が転じて、現在の「面倒くさい」という使い方になったんですね。

未来永劫(みらいえいごう)

「未来永劫変わらない」などと使われるこの言葉。
「永劫」とは、終わりのないほど長い時間を強調した表現です。

『無量寿経』には「兆載永劫」という言葉も登場し、ここから「未来永劫」や「永劫回帰」といった言葉が生まれました。

亀の甲より年の劫

年長者の経験や知恵を尊ぶことわざです。
「亀の甲」と「年の劫」で語呂を合わせた洒落になっています。

現在は「年の功」と書くことが多いですが、もともとは「年の劫」だったんです。
長い年月をかけて積み重ねた経験の尊さを、仏教の時間単位で表現しています。

万劫末代(まんごうまつだい)

「永遠の未来まで」という意味の四字熟語です。
「万劫」も「永劫」「億劫」と同じく、極めて長い年月を表しています。

劫初(ごうしょ)

宇宙が誕生した当初、つまり「成劫」の始まりを指します。
与謝野晶子の有名な歌「劫初よりつくりいとなむ殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ」にも登場する言葉です。


『塵劫記』——劫が名前になった数学書

江戸時代のベストセラー数学書『塵劫記(じんこうき)』をご存知でしょうか?
この書名も「劫」に由来しています。

『塵劫記』は1627年(寛永4年)に吉田光由が著した算術の入門書です。
九九やそろばんの使い方から、面積計算、利息計算まで、当時の生活に必要な算術を網羅していました。

書名の由来は『法華経』に登場する「塵点劫(じんてんごう)」という概念です。
宇宙をすべて粉々にして、その一粒を一劫と数えるほどの長大な時間を表す言葉で、「塵」と「劫」を組み合わせた名前になっています。

この本は明治時代まで400種類以上の版が出版されるほどの超ロングセラーに。
和算家・関孝和も若い頃にこの本で独学したと言われています。


「劫」のつく言葉一覧

言葉読み方意味
こう/ごう極めて長い時間の単位
億劫おっくう面倒くさい、気乗りしない
永劫えいごう終わりのないほど長い時間
万劫まんごう極めて長い年月
劫初ごうしょ宇宙が誕生した当初
劫火ごうか壊劫の末に世界を滅ぼす火
塵劫じんごう宇宙の塵の数ほどの劫
成劫じょうこう宇宙が形成される期間
住劫じゅうこう宇宙が存続する期間
壊劫えこう宇宙が破壊される期間
空劫くうこう何もない状態が続く期間
四劫しこう成・住・壊・空の4つの期間
大劫だいこう四劫を一巡りする期間
中劫ちゅうこう大劫を構成する単位
賢劫げんごう現在の宇宙の時代

まとめ

  • 「劫」はサンスクリット語「カルパ」の音写で、仏教における最長の時間単位
  • 100年に一度、羽衣で岩をなでてすり減らしてもまだ終わらないほどの長さ
  • ヒンドゥー教では1劫=43億2,000万年と定義されている
  • 宇宙は「成劫→住劫→壊劫→空劫」の四劫を永遠に繰り返す
  • 「億劫」「未来永劫」「亀の甲より年の劫」など、日常語にも残っている

人間の一生はせいぜい100年ほど。
劫という時間の単位から見れば、文字通り「一瞬」にも満たない長さです。

それでも、仏教はこの途方もない時間のスケールを説くことで、私たちに何かを伝えようとしているのかもしれません。
「億劫がらずに一歩踏み出そう」——そんなメッセージが聞こえてくるようですね。

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