【子供をさらう怪鳥】姑獲鳥(こかくちょう)とは?その恐ろしい姿・特徴・伝承を徹底解説!

神話・歴史・伝承

夜中に子供の泣き声のような鳴き声が聞こえてきたら、あなたはどうしますか?

中国では古くから、その声の正体は恐ろしい怪鳥「姑獲鳥(こかくちょう)」だと信じられてきました。

この鳥は人間の子供をさらい、自分の子として育ててしまうという恐ろしい習性を持っています。さらに驚くべきことに、羽毛を脱ぐと美しい女性の姿に変わるというんです。

この記事では、中国から日本へと伝わった謎多き妖怪「姑獲鳥」について、その不気味な姿や特徴、古くから語り継がれてきた伝承を分かりやすくご紹介します。


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概要

姑獲鳥(こかくちょう)は、中国の古い書物に登場する伝説上の怪鳥です。

西晋時代(3〜4世紀)に書かれた博物誌『玄中記(げんちゅうき)』に初めて記録されました。その後、明代の薬学書『本草綱目(ほんぞうこうもく)』や、日本の江戸時代の百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』にも記載されています。

鬼神の一種とされ、夜間に飛び回って人間の子供を害する存在として恐れられてきました。

中国の荊州(けいしゅう)、現在の湖北省や湖南省で特に多く目撃されたと伝えられています。

別名もたくさんあり、「鬼車(きしゃ)」「夜行遊女(やこうゆうじょ)」「天帝少女(てんていしょうじょ)」「乳母鳥(うばどり)」「無辜鳥(むこちょう)」などと呼ばれることも。

日本では「産女(うぶめ)」という妖怪と同一視され、「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と読むようになりました。水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』や京極夏彦の小説『姑獲鳥の夏』にも登場する、知る人ぞ知る妖怪なんです。


姿・見た目

姑獲鳥の姿は、とても不思議で奇妙なものとして描かれています。

『玄中記』によると、最大の特徴は羽毛を着脱することで姿が変わるという点です。

姑獲鳥の外見的特徴

  • 鳥の姿のとき: 羽毛をまとった怪鳥の姿
  • 人間の姿のとき: 羽毛を脱ぐと美しい女性に変身
  • 鳴き声: 幼児の泣き声のような声で鳴く
  • 胸部: 鳥の姿でも胸に乳房がある

この「羽毛を着れば鳥、脱げば女性」という設定は、日本でもおなじみの羽衣伝説を思い起こさせますよね。

江戸時代の『和漢三才図会』では、九州の人々の証言として「カモメに似た姿で、鳴き声もカモメに似ている」と記されています。小雨が降る暗い夜に突然現れ、その場所には燐火(りんか)という怪しい炎が見えるのだとか。

人間の女性に化けるときは、赤子を連れた姿で現れるとも伝えられています。


特徴

姑獲鳥には、他の妖怪にはない独特の習性があります。

姑獲鳥の主な習性

  • 夜行性: 夜に飛び回り、昼間は姿を隠している
  • 子供をさらう: 他人の子供を奪って自分の子として育てる
  • 衣服に血の印: 子供の衣服を見つけると血で目印をつける
  • 病気を引き起こす: 血をつけられた子供は病気になる
  • 雌のみ: 雄は存在せず、すべて雌である
  • 毒を持つ: 相当な毒を持っているとされる

特に恐れられていたのが、子供の衣服に血をつける習性です。

夜に子供の着物を外に干しておくと、姑獲鳥がやってきて血で目印をつけてしまう。その印をつけられた子供は「驚癇(きょうかん)」や「無辜疳(むこかん)」という病気にかかると信じられていました。

だから昔の中国では、夜に子供の衣服を外に干してはいけないという言い伝えがあったんです。

また、『本草綱目』を編纂した李時珍(りじちん)によると、姑獲鳥は旧暦の七月・八月に特に活発になり、人間に悪さをするとされています。


伝承

姑獲鳥にまつわる伝承は、中国と日本でそれぞれ語り継がれてきました。

『玄中記』に記された羽衣伝説

『玄中記』には、姑獲鳥に関する興味深い物語が残されています。

あらすじ:

  1. ある男が、田んぼで休んでいる数人の裸の女性を見つけた
  2. 男が近づくと、女性たちは着物を身につけて鳥になり飛び去った
  3. しかし、着物を隠された一人だけが取り残された
  4. 男はその女性を妻にして、三人の娘をもうけた
  5. 妻は娘たちに着物の隠し場所を聞き出させた
  6. 着物を見つけた妻は、それを着て飛び去ってしまった
  7. 後に娘たちも、母が持ってきた着物を着て去っていった

この娘たちが変じた鳥こそ、姑獲鳥の別名である「鬼車」だとされています。

妊婦が化けたという説

唐代の書物『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』には、別の起源も記されています。

それは、出産で亡くなった妊婦が姑獲鳥に化けたという説です。

子を産めずに死んだ無念から、他人の子供をさらって自分の子として育てようとする――そんな悲しい背景があるのかもしれません。

日本に伝わった姑獲鳥

日本でも、姑獲鳥の伝承はいくつかの地域に残っています。

茨城県の「ウバメトリ」:

夜に子供の着物を干すと、「ウバメトリ」という妖怪が自分の子の着物だと思い込む。そして、その着物に自分の乳を搾りかけるのだが、その乳には毒があるという。

九州地方の伝承:

カモメに似た鳥で、小雨降る闘夜に現れる。女性に化けて子供を連れ、人間に「この子を負ってくれ」と頼んでくる。怖がって逃げると祟られ、悪寒や高熱に襲われて死ぬこともある。しかし、勇敢に頼みを引き受ければ危害は加えられない。

三宅島の「オゴメ」:

伊豆諸島の三宅島では「オゴメ」という似た名前の妖怪が伝わっている。赤ん坊のような泣き声や高笑いを上げる存在とされる。


起源

姑獲鳥という妖怪は、いくつかの古い伝承が混ざり合って生まれたと考えられています。

羽衣伝説との関連

「羽毛を着れば鳥、脱げば女性」という特徴は、東晋時代(4世紀)の小説集『捜神記(そうしんき)』に登場する「羽衣女」の伝承と共通しています。

羽衣伝説には、ゲルマン系の「白鳥処女伝説」とインド系の「天人伝説」があり、姑獲鳥にはこの両方の影響が見られるんです。

『楚辞』の女岐との関連

中国戦国時代の詩集『楚辞(そじ)』には、「女岐(じょき)」という存在が登場します。

女岐は人の子供をさらって自分の子にしてしまう天人で、九つの頭を持つ鳥ともされる存在です。この「他人の子を奪う」という習性が、姑獲鳥に受け継がれたと考えられています。

日本への伝来

中国の姑獲鳥の伝承は、仏教僧などによって日本に持ち込まれました。

江戸時代初頭になると、日本古来の妖怪「産女(うぶめ)」と同一視されるようになります。どちらも妊婦や赤子にまつわる妖怪という共通点があったため、混同されたのでしょう。

ただし、本来の性質は異なります。

  • 姑獲鳥: 子供を「さらう」存在
  • 産女: 赤子を「渡そうとする」存在

このように基本的な行動は正反対なのですが、妊婦に関わる点や夜に現れる点などが似通っていたため、同じ漢字で表記されるようになったんですね。


まとめ

姑獲鳥は、中国から日本へと伝わった、子供をさらう恐ろしい怪鳥です。

重要なポイント

  • 正体: 中国の博物誌『玄中記』に記された鬼神の一種
  • 姿: 羽毛を着ると鳥、脱ぐと女性に変身する
  • 習性: 夜に飛び回り、他人の子供をさらって自分の子にする
  • 特徴: 子供の衣服に血で印をつけ、病気を引き起こす
  • 起源: 羽衣伝説や『楚辞』の女岐など、複数の伝承が融合して生まれた
  • 日本との関係: 産女(うぶめ)と同一視され、「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と読む

古代中国の人々にとって、夜に聞こえる不気味な鳴き声や、原因不明の子供の病気は大きな恐怖でした。姑獲鳥という妖怪は、そうした不安や恐れを形にした存在だったのかもしれません。

現代でも『ゲゲゲの鬼太郎』や『姑獲鳥の夏』などの作品を通じて、この不思議な怪鳥は私たちの想像力を刺激し続けています。


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