中国の古典小説で「金瓶梅」という作品を知っていますか?
『水滸伝』『三国志演義』『西遊記』と並ぶ 中国四大奇書 の一つで、明代(16世紀後半)に書かれた長編小説です。
作者は「蘭陵笑笑生」という謎のペンネームで知られていますが、その正体は今も分かっていません。
「でも、名前は聞いたことあるけど、どんな話なの?」「登場人物が多すぎてよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、『金瓶梅』に登場する主要キャラクターを、役割や人物像とともに分かりやすくご紹介します。
『金瓶梅』ってどんな物語?

『水滸伝』から生まれたスピンオフ作品
『金瓶梅』は、『水滸伝』の武松(ぶしょう)のエピソードから分岐した物語です。
『水滸伝』では、武松が兄の仇として西門慶と潘金蓮を討ち取ります。
しかし『金瓶梅』では、西門慶は逃げ延び、潘金蓮を妻に迎えて物語が展開していくんです。
いわば、現代でいう「if系二次創作」のような作品といえるでしょう。
タイトルの由来
『金瓶梅』というタイトルには、深い意味が込められています。
物語の中心となる 3人の女性 の名前から、それぞれ一文字ずつ取っているんです。
| 文字 | 由来となった人物 | 名前の意味 |
|---|---|---|
| 金 | 潘金蓮(はんきんれん) | 金の蓮=纏足した小さな足 |
| 瓶 | 李瓶児(りへいじ) | 小さな花瓶 |
| 梅 | 龐春梅(ほうしゅんばい) | 春に咲く梅の花 |
また、別の解釈として「金(富)」「瓶(酒)」「梅(女性の美)」という人間の欲望を象徴しているともいわれています。
物語のテーマ
『金瓶梅』の主要なテーマは 因果応報 です。
富と権力を手に入れ、欲望の限りを尽くした西門慶とその一族が、やがて没落していく様子が描かれています。
全100回からなる長編で、当時の商人階級の生活や風俗が細かく描写されているのも特徴的ですね。
主人公──西門慶
西門慶(せいもんけい/さいもんけい)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職業 | 薬屋の主人(後に質屋・呉服屋なども経営) |
| 居住地 | 河北省・清河県 |
| 妻の数 | 正妻1人+側室5人の計6人 |
| 性格 | 好色、商才に長ける、権力欲が強い |
どんな人物?
清河県で薬屋を営む大富豪で、この物語の主人公です。
商売の才覚に優れており、薬屋から始めて質屋や呉服屋、塩の専売にまで事業を拡大。やがて役人の地位まで手に入れます。
一方で、とにかく女性関係にだらしない人物でもあります。
6人の妻を持ちながら、女中や使用人の妻、遊女など、多くの女性と関係を持ちました。
性格と特徴
普段は遊び人そのものですが、商売や悪事に関しては抜け目がありません。
お金のやりくりについては正妻の呉月娘にきちんと相談するなど、一家の主としての体裁は保っていました。
友人たちへのもてなしや、時に見せる妻への思いやりなど、単純な悪人とは言えない人間味のある人物として描かれています。
最期
潘金蓮が誤って大量の媚薬を飲ませたことが原因で、精力過多により死亡してしまいます。
皮肉なことに、その日はちょうど正妻の呉月娘が男児を出産した日でした。
タイトルになった三人の女性

潘金蓮(はんきんれん)──「金」の由来
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の第五夫人 |
| 元の身分 | 武大郎の妻 |
| 性格 | 美人で気が強い、嫉妬深い、策略家 |
| 特技 | 歌、楽器演奏、踊り |
どんな人物?
仕立て屋の娘として生まれ、その小さな足から「金蓮」(金の蓮=纏足した足)と名付けられました。
女中として働いていた家の主人との関係がばれ、罰として醜い武大郎に嫁がされます。
その後、西門慶と出会い、二人は深い仲に。邪魔になった武大郎を毒殺し、西門慶の第五夫人となりました。
性格と特徴
美人で芸事にも秀でていますが、とにかく気が強くて嫉妬深い性格です。
西門家では常にトラブルメーカーとして騒ぎを起こし、特に第六夫人の李瓶児とは激しく対立しました。
李瓶児が男児を産むと、嫉妬から嫌がらせを続け、最終的にはその子供を死なせてしまいます。
最期
西門慶の死後、不祥事が発覚して西門家を追い出されます。
流罪から戻った武松に偽の婚礼で誘い出され、兄の仇として殺されました。
李瓶児(りへいじ)──「瓶」の由来
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の第六夫人 |
| 元の身分 | 隣家の富豪・花子虚の妻 |
| 性格 | おとなしい、上品、優しい |
| 財産 | かなりの資産持ち |
どんな人物?
西門家の隣に住んでいた富豪の妻でしたが、西門慶と不倫関係に。
夫の花子虚が病死した後、再婚を経て西門慶の第六夫人となります。
莫大な財産を持ち込んだこともあり、西門慶からは深く愛されました。
性格と特徴
おとなしくて上品な女性で、誰にでも優しく接します。
しかし、他人の心の機微に疎いところがあり、良かれと思った行動がかえって潘金蓮の反感を買うことも。
例えば、お金のない潘金蓮にプレゼントを贈ったところ、プライドの高い潘金蓮は逆に傷ついてしまいました。
最期
待望の男児を産みますが、潘金蓮の策略によってその子を失います。
悲しみのあまり病気になり、「自分の子供のように闇討ちにあってはならない」と呉月娘に言い残して亡くなりました。
龐春梅(ほうしゅんばい)──「梅」の由来
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 潘金蓮付きの侍女 |
| 性格 | 闘争心が強い、野心家 |
| 特徴 | 美人、西門慶の愛人でもある |
どんな人物?
もともとは正妻・呉月娘の女中でしたが、潘金蓮が嫁いできた際に彼女に譲られました。
美人で気が強く、潘金蓮とは主従関係を超えた信頼で結ばれています。
西門慶の愛人の一人でもあり、身分の低さを武器にのし上がろうとする野心家です。
性格と特徴
闘争心が非常に強い人物です。
呉月娘の女中時代には他の女中にいじめられていましたが、後に立場が変わると逆にいびり返しています。
潘金蓮とは死後も絆が続き、幽霊となった潘金蓮が夢に現れて自分の埋葬を頼んだほど。
最期
西門家を追い出された後、名家に嫁いで出世を果たします。
しかし、かつての不倫相手・陳経済との再会をきっかけに転落。
やがて生活は自堕落になり、最後は使用人と関係している最中に急死しました。
西門慶の六人の妻たち
西門慶には、正妻1人と側室5人の計6人の妻がいました。
それぞれの人物像を見ていきましょう。
正妻──呉月娘(ごげつじょう)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の正妻(継室) |
| 出身 | 軍人(千戸)の娘 |
| 性格 | しっかり者、信仰心が厚い、やや疑り深い |
どんな人物?
西門慶の最初の妻・陳氏が亡くなった後に後妻として迎えられた女性です。
一家の取りまとめ役として、しっかりと家を切り盛りしています。
仏教への信仰が厚く、それゆえに悪い尼僧や坊主に騙されることも。
性格と特徴
賢妻肌で、夫のだらしなさには日々心を痛めていました。
根は善人ですが、西門家の女性たちの狡猾さには常に注意を払っており、やや疑り深い一面も持ちます。
最期
西門慶の死後に男児・孝哥を出産し、邪魔者を次々と追い出して家を守りました。
裁判沙汰や金軍の南下など苦難もありましたが、長生きして人生を全うした数少ない幸せな人物です。
第二夫人──李嬌児(りきょうじ)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の第二夫人 |
| 元の身分 | 遊郭の歌い手 |
| 性格 | 節操がない、あっさりしている |
どんな人物?
もとは遊郭で歌を歌っていた女性です。
元遊女だけあって、男性関係についてはかなりドライな考え方を持っています。
「古いものは棄てて新しいものを迎える」と語るなど、再婚にも遠慮がありませんでした。
潘金蓮からは標的にされ、排斥されてしまいます。
第三夫人──卓丟児(たくちゅうじ)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の第三夫人 |
| 元の身分 | 私娼 |
| 備考 | 物語序盤で病死 |
どんな人物?
物語の第三回で存在が言及されますが、すでに重い病を患っており、間もなく亡くなります。
西門慶はその死をあっけらかんと語っており、あまり愛されていなかったことがうかがえます。
葬儀はきちんと行われましたが、本編での出番はほとんどありません。
第四夫人──孟玉楼(もうぎょくろう)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の第四夫人 |
| 元の身分 | 呉服商人の未亡人 |
| 性格 | 温和、世渡り上手、賢い |
| 財産 | かなりの資産持ち |
どんな人物?
反物商人の正妻でしたが、夫が亡くなり西門家に嫁いできました。
仲人から彼女の財産の話を聞いた西門慶が、縁談を了承したという経緯があります。
性格と特徴
温和で誰にでもにこにこと接する、非常に世渡りの上手い女性です。
トラブルの絶えない西門家の中で、彼女を怒らせる者はほとんどいませんでした。
常にもめごとを起こしている潘金蓮とも仲良くやっており、一緒に碁を打って遊ぶ仲。
表面上は呉月娘を立てながら、裏では潘金蓮と協力して立ち回るなど、実は相当なやり手です。
最期
西門慶の死後、自分の立場の不安定さを悟って再婚を決意。
物語の中で 最も円満な結末 を迎えた人物といえます。
第五夫人──潘金蓮
(※前述の「タイトルになった三人の女性」参照)
第六夫人──李瓶児
(※前述の「タイトルになった三人の女性」参照)
その他の重要人物

武松(ぶしょう)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 武大郎の弟 |
| 通称 | 行者武松、打虎英雄 |
| 特徴 | 武芸の達人、虎退治で有名 |
どんな人物?
『水滸伝』でも有名な虎退治の英雄で、武大郎の弟です。
兄思いの義侠心あふれる人物で、『水滸伝』では兄の仇として西門慶と潘金蓮を即座に討ち取ります。
『金瓶梅』での役割
『金瓶梅』では、西門慶を殺しに行った際に人違いで別人を殺害。
西門慶の働きかけもあって流罪になってしまいます。
物語の終盤で戻ってきた武松は、西門慶がすでに死んでいることを知り、代わりに潘金蓮を偽の婚礼で誘い出して殺害しました。
武大郎(ぶだいろう)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 潘金蓮の最初の夫、武松の兄 |
| 職業 | 蒸し餅売り |
| あだ名 | 三寸丁(背が低いことから) |
どんな人物?
背が低く容姿も良くない、気弱な蒸し餅売りの男です。
美人の潘金蓮とは不釣り合いな夫婦として、周囲から嘲笑されていました。
妻と西門慶の不倫を知りますが、武芸の心得がなく、逆に西門慶に蹴られて大けがを負います。
最終的には、潘金蓮と西門慶によって毒殺されてしまいました。
王婆(おうば)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 茶屋を営む老女 |
| 役割 | 仲人、密会の手引き |
| 性格 | 狡猾、金銭欲が強い |
どんな人物?
武大郎の隣家で茶屋を営む老女で、西門慶と潘金蓮の密会を手引きした張本人です。
西門慶の金目当てで二人を引き合わせ、武大郎の毒殺計画にも関与しました。
「一度目の嫁入りは親次第、二度目の嫁入りは自分次第」という名言(?)を残しています。
『水滸伝』では武松に殺されず、代わりに凌遅刑(処刑方法の一種)を受けました。
陳経済(ちんけいざい)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の娘婿 |
| 性格 | 軽薄、好色 |
| 関係 | 潘金蓮・春梅と不倫 |
どんな人物?
西門慶の亡き正妻・陳氏との間に生まれた娘・西門大姐の夫です。
西門慶の片腕として活躍する一方で、義父の妻である潘金蓮や春梅と不倫関係に。
西門慶の死後、潘金蓮との関係が発覚する原因の一つとなりました。
最終的には殺害されてしまいます。
応伯爵(おうはくしゃく)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 西門慶の友人、取り巻き |
| 性格 | お調子者、追従的 |
| 別名 | 応二哥 |
どんな人物?
西門慶と義兄弟の契りを結んだ友人の一人です。
放蕩の末に破産し、西門慶の屋敷に居候している遊び人。
お調子者で追従的な性格ですが、山田風太郎の『妖異金瓶梅』では探偵役として活躍しています。
登場人物の関係図
西門慶の家族構成
西門慶
├─ 陳氏(亡き最初の正妻)
│ └─ 西門大姐(娘)═ 陳経済(婿)
│
├─ 呉月娘(継室・正妻)
│ └─ 孝哥(遺腹の息子)
│
├─ 李嬌児(第二夫人)
├─ 卓丟児(第三夫人・病死)
├─ 孟玉楼(第四夫人)
├─ 潘金蓮(第五夫人)
│ └─ 龐春梅(侍女)
└─ 李瓶児(第六夫人)
└─ 官哥(息子・夭折)
主要な対立関係
| 対立する人物 | 対立の理由 |
|---|---|
| 潘金蓮 vs 李瓶児 | 西門慶の寵愛をめぐる嫉妬 |
| 潘金蓮 vs 孫雪娥(第四夫人説あり) | 日常的な諍い |
| 潘金蓮 vs 李嬌児 | 地位をめぐる争い |
| 武松 vs 西門慶・潘金蓮 | 兄・武大郎の仇 |
登場人物一覧表
西門家の主要人物
| 名前 | 読み方 | 立場 | 結末 |
|---|---|---|---|
| 西門慶 | せいもんけい | 主人公 | 媚薬の過剰摂取で死亡 |
| 呉月娘 | ごげつじょう | 正妻 | 長寿を全うする |
| 李嬌児 | りきょうじ | 第二夫人 | 排斥される |
| 卓丟児 | たくちゅうじ | 第三夫人 | 病死 |
| 孟玉楼 | もうぎょくろう | 第四夫人 | 再婚して幸せに暮らす |
| 潘金蓮 | はんきんれん | 第五夫人 | 武松に殺害される |
| 李瓶児 | りへいじ | 第六夫人 | 子供を失い病死 |
| 龐春梅 | ほうしゅんばい | 侍女 | 出世後に急死 |
| 陳経済 | ちんけいざい | 娘婿 | 殺害される |
| 孝哥 | こうか | 西門慶の遺児 | 仏門に入る |
西門家の女中・愛人たち
| 名前 | 読み方 | 関係 |
|---|---|---|
| 秀春 | しゅうしゅん | 李瓶児の侍女 |
| 蘭香 | らんこう | 孟玉楼の侍女 |
| 如意 | にょい | 乳母 |
| 宋恵蓮 | そうけいれん | 使用人・来旺の妻 |
| 王六児 | おうりくじ | 番頭・韓道国の妻 |
| 李桂姐 | りけいそ | 遊女(李嬌児の姪) |
| 呉銀児 | ごぎんじ | 遊女 |
| 張惜春 | ちょうせきしゅん | 旅芸人 |
外部の重要人物
| 名前 | 読み方 | 役割 |
|---|---|---|
| 武松 | ぶしょう | 武大郎の弟、復讐者 |
| 武大郎 | ぶだいろう | 潘金蓮の最初の夫 |
| 王婆 | おうば | 密会の仲介者 |
| 応伯爵 | おうはくしゃく | 西門慶の友人 |
| 花子虚 | かしきょ | 李瓶児の元夫 |
| 蒋竹山 | しょうちくざん | 李瓶児の再婚相手(医者) |
現代文化への影響
漫画・小説での展開
『金瓶梅』は現代でも様々な形でアレンジされています。
主な作品
- 『まんがグリム童話 金瓶梅』(竹崎真実):20年以上連載が続く人気漫画。原作より潘金蓮に人間味が加えられている
- 『妖異金瓶梅』(山田風太郎):応伯爵を探偵役にしたミステリー仕立ての短編集
- 『水滸伝 天導108星』(光栄):ゲーム版に李瓶児や龐春梅が登場
映画・ドラマ
1968年には日本で映画化され、原作には登場しない『水滸伝』の英雄たち(魯智深、楊志など)が武松の助太刀として登場するなど、独自のアレンジが加えられました。
中国や香港でも何度も映像化されており、そのたびに話題を呼んでいます。
まとめ
『金瓶梅』は、単なる好色文学ではありません。
富と権力を極めた一族の栄枯盛衰を通じて、因果応報 という普遍的なテーマを描いた作品です。
覚えておきたいポイント
- タイトルは潘金蓮・李瓶児・龐春梅の三人から一文字ずつ取っている
- 『水滸伝』から分岐したパラレルワールド的な物語
- 西門慶を中心に、個性豊かな女性たちの愛憎劇が展開
- 明代の商人階級の生活や風俗が詳細に描かれている
登場人物たちは善悪単純に分けられない、複雑な人間性を持っています。
西門慶の放蕩ぶりも、潘金蓮の悪女ぶりも、読めば読むほど人間味が感じられるから不思議ですね。
興味を持った方は、ぜひ原作や漫画版に触れてみてください。
きっと、古典文学の奥深さを感じられるはずです。



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