キキーモラとは?スラヴの家憑き妖精の伝承と特徴をわかりやすく解説

神話・歴史・文化

夜中に「カタカタ」と機を織る音が聞こえてきたら、それはキキーモラの仕業かもしれません。

キキーモラは、ロシアをはじめとするスラヴ地域に伝わる不思議な存在です。
働き者には優しく、怠け者には容赦ない——そんな二面性を持つ家の精霊なんですね。

この記事では、キキーモラの伝承や特徴、そして現代の創作作品への影響までわかりやすく紹介します。


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キキーモラの概要

キキーモラ(ロシア語:кикимора)は、スラヴ神話に登場する女性の家憑き妖精です。

人が住む家に棲みつき、暖炉のそばや屋根裏、床下などに身を隠して暮らしています。
人目を嫌う性格で、めったに姿を見せることはありません。

興味深いのは、その行動が家の住人次第で大きく変わること。
働き者の主婦がいる家では、夜中にこっそり家事を手伝ってくれます。
ところが怠け者の家では、皿を割ったり、夜中に大騒ぎしたり、悪夢を見せたりと大暴れ。

日本の座敷童子に似た存在といえるかもしれませんね。


キキーモラの姿

キキーモラの外見については、実はいくつもの説があります。

少女の姿

ロシアで最も一般的なのは、痩せた幼い少女の姿。
洗礼を受けずに亡くなった子供の霊がキキーモラになるという伝説があり、決して年を取らないとされています。

老婆の姿

別の伝承では、小柄で背の曲がった老婆として描かれます。
ボロボロの服を着て、くちばしのような鼻を持つ姿で語られることも。

獣の合成獣

20世紀初頭の画家イヴァン・ビリービンが描いた有名な絵では、かなり奇妙な姿をしています。
狼のような顔に白鳥のくちばし、熊のような胴体に鶏の足、そしてボルゾイ犬のような尾——まさにキメラのような存在なんですね。

どの姿が「正しい」というわけではなく、地域や時代によってイメージが変化してきたようです。


名前の意味

「キキーモラ」という名前は、「キキー」と「モーラ」の2つに分けられます。

キキーの意味については諸説あります。
有力なのは、機織り機が動く「キーキー」という擬音語から来たという説。
キキーモラは機織りが大好きで、夜中に大きな音を立てて機を織るといわれているんです。

もう一つ、フィンランド語の「kikke mörkö(かかし)」が由来という説もあります。

モーラは、スラヴ神話に登場する夢魔のこと。
眠っている人の胸の上に座り込み、息苦しくさせたり悪夢を見せたりする恐ろしい存在です。
英語の「nightmare(悪夢)」の「mare」も、このモーラと同じ語源だといわれています。

つまりキキーモラは、夢魔モーラの派生形として生まれた存在なんですね。


キキーモラの伝承

働き者の味方、怠け者の敵

キキーモラの最大の特徴は、住人の行いによって態度がガラッと変わること。

家を清潔に保ち、きちんと家事をこなす働き者の家では、夜中にこっそり手伝いをしてくれます。
特に機織りには強いこだわりがあるようで、糸を紡いだり機を織ったりするのが得意。

ところが、家が散らかっていたり、怠け者の住人がいたりすると態度が豹変。
機織り機をめちゃくちゃにする、子供を泣かせる、皿を投げて割る、夜中に騒音を立てて眠りを妨げる——やりたい放題です。
ひどい場合には、病気や火事をもたらすこともあるとか。

キキーモラを追い出すには?

一度棲みついたキキーモラを追い出すのは非常に困難。
鍵穴からでも入り込めるので、物理的に防ぐことはほぼ不可能なんです。

唯一の方法は、住人自身が行いを改めること。
家をきれいに保ち、働き者になれば、キキーモラは大人しくなるか、いなくなるといわれています。

大工の呪い

面白い迷信もあります。
新築の家を建てるとき、施主と揉めた大工が復讐としてキキーモラを家に呼び込む呪術をかけることがある——という話。
新居なのに最初から怪異に悩まされるなんて、たまったものではありませんね。


2種類のキキーモラ

実は、キキーモラには2つのタイプがあるとされています。

家のキキーモラ

こちらが一般的なキキーモラ。
家に棲みつき、暖炉のそばを好みます。
男性の家の精霊「ドモヴォーイ」の妻とされることも。

沼のキキーモラ(болотная)

沼地に棲むタイプのキキーモラ。
苔や草を纏った、みすぼらしい老婆の姿をしています。

こちらは森の精霊「レーシー」の妻とされ、人を道に迷わせたり、沼に引きずり込んだりする危険な存在。
家を歩くと湿った足跡を残すのが特徴で、それでどちらのキキーモラか見分けられるといいます。


ドモヴォーイとの関係

スラヴの家には、キキーモラの他にもう一人の精霊がいます。
それが「ドモヴォーイ」——男性の家の守護霊です。

ドモヴォーイは基本的に家族を守り、災いを予告してくれる善良な存在。
一方、キキーモラは善にも悪にもなりうる二面性を持っています。

この2人は夫婦として語られることもあれば、対立する存在として描かれることも。
スラヴの人々にとって、家の中には常に目に見えない存在がいる——そんな世界観があったんですね。


キキーモラの起源

キキーモラがいつ頃から信じられていたのか、正確にはわかっていません。
ただ、8〜13世紀頃、スラヴ地域がキリスト教化される過程で、古い土着信仰の精霊として語り継がれてきたと考えられています。

キリスト教が広まった後も、キキーモラへの信仰は消えませんでした。
むしろキリスト教の「悪魔」の概念と結びつき、現代まで語り継がれています。

キキーモラになるのは誰か

伝承では、キキーモラの「正体」についていくつかの説があります。

最も広く知られているのは、洗礼を受けずに亡くなった子供の霊という説。
死産した赤ん坊や、幼くして命を落とした子供がキキーモラになるといわれています。
だから「決して年を取らない少女」の姿で現れるんですね。

別の説では、母親の胎内にいるときに呪われた子供がキキーモラになるとも。
また、夫からひどい仕打ちを受け続けた主婦が変身するという話もあります。
夜中にブツブツと愚痴をこぼす姿が、キキーモラのイメージと重なったのかもしれません。

さらに恐ろしい説もあります。
火の蛇(悪魔的な存在)に誘惑された女性から生まれた子供がキキーモラになる——という伝承です。

いずれにしても、不幸な死や呪い、悲しみと深く結びついた存在なんですね。


現代の創作作品への影響

キキーモラは現代でも様々な作品に登場しています。

リャードフの交響詩『キキーモラ』

ロシアの作曲家アナトリー・リャードフは、1909年に交響詩『キキーモラ』(作品63)を発表しました。

この曲では、水晶の揺りかごで育てられるキキーモラの不気味な成長が描かれています。
「7年かけて成熟するが、頭は指ぬきほど、体は藁ほどの細さにしかならない」という独特の設定。
そして夜ごと糸を紡ぎ、世界に悪意を抱く——。
わずか8分ほどの短い曲ですが、ロシア民話の幻想的な世界観が見事に表現されています。

ゲーム『ウィッチャー』シリーズ

ポーランドの作家アンドレイ・サプコフスキの小説を原作とする『ウィッチャー』シリーズ。
ゲームやNetflixドラマでキキーモラが登場しますが、こちらは本来の伝承とは全く異なる蜘蛛のような怪物として描かれています。

伝承の小さな家の精霊と戦っても絵にならないので、大胆にアレンジされたようですね。

日本のゲーム『ぷよぷよ』シリーズ

コンパイル(現セガ)の『魔導物語』『ぷよぷよ』シリーズには、メイド服を着た少女キャラクターとしてキキーモラが登場。
「お掃除妖精」という設定で、伝承の「綺麗好き」という特徴がうまく活かされています。


まとめ

キキーモラについて、ポイントを整理しましょう。

  • スラヴ神話に登場する女性の家憑き妖精
  • 働き者の家では手伝いをし、怠け者の家では災いをもたらす
  • 名前は「キキー(擬音語)」+「モーラ(夢魔)」に由来
  • 外見は少女・老婆・合成獣など諸説あり
  • 機織りが得意で、夜中に音を立てて機を織る
  • 日本の座敷童子に似た存在
  • 現代でもゲームや音楽など様々な創作に影響を与えている

家を綺麗に保っていれば味方になってくれる——キキーモラの伝承は、掃除をサボりがちな人への戒めにもなりそうですね。

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