建国神話 一覧:世界各地の創設伝説を文化圏別に紹介

世界中の国々や都市には、その起源を神や英雄に求める建国神話が存在します。
この記事では、日本からローマ、アステカまで、世界各地に伝わる建国神話を詳しく紹介します。
それぞれの神話に込められた文化的背景や、共通するモチーフについても解説していきます。

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概要

建国神話とは、国や都市が神や神の血を引く英雄によって建てられたとする創設神話のことです。
世界には多様な建国神話が存在し、支配者の正統性を示す根拠として重要な役割を果たしてきました。
ただし、建国神話には誇張や脚色が含まれることも多く、必ずしも史実を反映しているわけではありません。

建国神話は、その国や民族のアイデンティティを形成する重要な要素です。

東アジアの建国神話

東アジアには、天上界から降臨した神々や英雄が国を建てるという類型の建国神話が多く見られます。

日本の建国神話

日本の建国神話は『古事記』と『日本書紀』に記されています。
イザナギ(Izanagi)とイザナミ(Izanami)の二神が高天原の神々に命じられ、日本の島々を創成したとされています。

その後、天照大御神(Amaterasu Omikami)の孫である瓊瓊杵尊(Ninigi-no-Mikoto)が高天原から日向(ひゅうが)の高千穂に天降りました。
これが「天孫降臨」と呼ばれる出来事です。

瓊瓊杵尊の曾孫にあたる神武天皇(Jinmu Tenno)が、日向から大和へ東征し、紀元前660年に橿原宮で即位したとされています。
この神武東征の物語が、日本の建国神話の核心部分です。

日本の建国神話は、少なくとも6世紀中頃には形成されていたことが『日本書紀』欽明紀の記述からうかがえます。

中国王朝の建国伝説

中国では、三皇五帝の時代から各王朝の建国にまつわる伝説が語り継がれてきました。
ただし、中国の場合は神話というより歴史書の形で記録されることが多く、建国神話としての性格は他の地域とやや異なります。

朝鮮半島の建国神話

朝鮮半島の建国神話は「卵生型」と呼ばれる特徴を持ち、始祖が卵から生まれるという要素が多く見られます。

高句麗(Goguryeo)の建国神話

高句麗の始祖・朱蒙(Jumong)は、河伯(川の神)の娘を母として、日光の感精によって生まれた神人です。
弓矢に優れていた朱蒙は、夫余国の王子たちに憎まれて追われることになりました。

川を渡ろうとした朱蒙を助けたのは、魚やスッポンでした。
これらが浮かび上がって橋となり、朱蒙は無事に渡ることができました。
やがて3人の賢人を得て沸流水のあたりに住居を定め、先住の国王・松譲と弓の射競べをして勝ち、高句麗を建設したとされています。

広開土王碑文にも、高句麗の始祖が卵から生じたことが記されています。

百済(Baekje)の建国神話

百済の建国神話には、沸流(Biryu)と温祚(Onjo)という兄弟が登場します。
二人は元は夫余の王子で、南の方に国を作れる場所を探しに来ました。

兄の沸流は今のソウルに近い海岸に都を築きましたが、水が塩水だったため失敗しました。
対して弟の温祚はソウル近くの内陸に都を築き、繁栄しました。
自分の失敗を知った兄の沸流は、先見の明がなかったとガッカリして死んでしまいます。
その後、弟の温祚が百済を築くことになりました。

この神話は、海の原理(兄)と陸の原理(弟)の対比を表していると解釈されています。

新羅(Silla)の建国神話

新羅の建国神話にも卵生型の要素があります。
村長たちが集まって神が降りることを願ったところ、神が降臨したとされています。

東南アジアの建国神話

ベトナムの建国神話

ベトナム最初の建国神話は『大越史記全書』外記巻一の鴻厖(こうぼう)記に記されています。

昔、炎帝神農氏の3世の孫・帝明がおり、帝宜を産みました。
のちに南方へ巡幸して五嶺(南嶺山脈)に至り、婺僊(ぶせん)の女と接して涇陽王を産みました。
帝明は聖知聡明な次男をよしとし、位を継がせようとしましたが、次男は固く辞退してその兄に譲りました。

帝明は帝宜を後継とし北方を治めさせ、次男を封じて南方を治めさせ、「赤鬼国」と号させました。
さらに後、次男は洞庭君の娘である神竜を娶って貉龍君を産みます。
この貉龍君が帝来の女・嫗女を娶り、百男(俗に百卵という)を産みました。
これが百越の祖先となったとされています。

この建国神話は、中国周王朝の祖先の物語をもじったものとみられ、ベトナム人が祖先を北方中国人と兄弟とし、正当な継承者であるという自負心が読み取れます。

カンボジアの扶南(Funan)王国

7世紀の中国の史書『梁書』扶南伝に記されている伝承です。
昔、徼国という国の神人・混填(こんてん)が神から弓を授けられ、夢のお告げに従って航海を続け、扶南の町に至りました。
そして扶南の先住民族の女王・柳葉を降伏させて彼女と結婚し、国を治めました。
生まれた7人の子はそれぞれ七つの町を支配したとされています。

ヨーロッパの建国神話

ローマの建国神話

ローマの建国神話は特に有名で、多くの芸術作品の題材となってきました。

アエネイスの彷徨

ローマの建国神話は、国民的詩人ウェルギリウス(Vergilius)の叙事詩『アエネイス(Aeneid)』に物語られています。
ギリシャのトロイア戦争でトロイアが落城したとき、トロイアの勇者アエネイス(Aeneas)だけが脱出することができました。

トロイアの再建を念じながら新天地を求めて地中海各地を彷徨し、苦難のすえにようやくイタリアに上陸しました。
ラテン人の住む土地にやってきたアエネイスは、ラティウムの王の娘と結婚し、そこに新たなトロイアの都を建設してラウィニウム(Lavinium)と命名しました。

ロムルス(Romulus)とレムス(Remus)

アエネイスの子がアルバ・ロンガの王となり、200年の後、王位をめぐる争いが生じました。
兄ヌミトル(Numitor)の王位を狙った弟アムーリウス(Amulius)は、兄の孫のうち男は皆殺しにし、女子のレア・シルウィア(Rhea Silvia)をウェスタ(Vesta)神の巫女にしてしまいました。

レアは川辺で居眠りするうち、軍神マルス(Mars)の子を身籠もります。
彼女は双子の男の子を産みましたが、アムーリウスは怒って双子を籠に入れてテヴェレ川(Tiber River)に流してしまいました。

しかし双子を入れた籠はイチジクの木に引っかかって川岸に流れ着きました。
そこに一匹の雌狼がやってきて双子に乳を与えました。
その後、双子は王の羊飼いに発見されて育てられ、ロムルスとレムスと名づけられます。

やがて成長した二人はアムーリウスを討ち、祖父のヌミトルを復位させます。
そして自分たちが拾われた場所に新しい都を建てようと、それぞれ丘を選び、どちらが新都の支配者になるか鳥占いで決することにしました。

翌朝、ロムルスの選んだ丘には12羽、レムスの丘には6羽の鳥が飛来したので、ロムルスが選ばれたことになりました。
ロムルスは二頭の牛に引かせた犂(すき)で都の聖域を定めました。
しかし不満なレムスはそれを飛び越えてしまいます。

怒ったロムルスはレムスを殺し、聖域を侵す者は殺すと宣言し、絶大な支配者となりました。
その都はロムルスにちなんでローマ(Roma)と呼ばれるようになりました。
この出来事は紀元前753年4月21日のこととされ、今でもローマの祝祭日となっています。

現代でもローマの町の象徴は、狼の乳を飲む双子の像です。

ギリシャの建国神話

アテナイ(Athens)の建国

アテナイの建国神話には、女神アテナ(Athena)が深く関わっています。
アテナイの初代王ケクロプス(Cecrops)の時代、この土地の守護神を巡ってアテナとポセイドン(Poseidon)が争いました。

アテナはオリーブの木を、ポセイドンは塩水の泉を生み出しました。
市民はアテナの贈り物を選び、都市はアテナの名にちなんでアテナイと名づけられました。

この建国神話は、アテナイの都市国家としての正統性を示し、市の制度を神聖なものとして確立する役割を果たしました。
アテナイは知恵と民主主義の理想を掲げる都市として、後の西洋文明に大きな影響を与えました。

中東・西アジアの建国神話

イスラエルの建国伝説

『旧約聖書』には、ヘブライの民を率いてエジプトを脱出した預言者モーセ(Moses)が、神の助けにより王の追跡を撃退し、紅海を渡ったのちにシナイ山で神の教えを受け、カナンの地に国を建てたという伝承があります。

この出国(エクソダス)の物語は、イスラエル民族のアイデンティティの根幹をなすものです。
トーラ(律法)はイスラエルの憲章神話(charter myth)として機能し、神と選ばれた民との関係がシナイ山で確立されたという信仰が、ユダヤ教の根本原則となっています。

エジプトの建国神話

エジプトの建国にまつわる神話として、オシリス(Osiris)とイシス(Isis)の物語があります。
オシリスはエジプトに文明をもたらした王でしたが、弟セト(Set)に殺害されました。
妻イシスはオシリスを蘇らせ、息子ホルス(Horus)を産みました。

ホルスは後にセトを倒してオシリスの復讐を果たします。
この神話は死と再生、神聖な王権の象徴として、エジプトの文化的・宗教的アイデンティティを形成しました。
ナイル川の年間氾濫による肥沃化という自然現象とも結びついています。

アメリカ大陸の建国神話

アステカ(Aztec)のテノチティトラン(Tenochtitlan)建国

メキシコのアステカ人の建国伝説は非常に特徴的です。
彼らの祖先たちは太陽神ウィツィロポチトリ(Huitzilopochtli)の教示とその導きにより、テスココ湖の島にあったサボテンの上に1羽のオオワシが大蛇をくわえたまま翼を広げて止まっているのを発見しました。

神託によってこの地を都と定め、国を建設したとされています。
この場所は、ウィツィロポチトリの甥コピル(Copil)の心臓が投げ込まれた場所でした。
コピルは反乱を起こして殺され、その心臓がテスココ湖の中心に投げ込まれたのです。

アステカ人はこの地をテトル(tetl、岩を意味する)とノチトリ(nochtli、ウチワサボテンを意味する)から「テノチティトラン」と名づけました。
このオオワシとサボテンと蛇のイメージは、現在のメキシコ国旗の中心に描かれています。

その他の地域の建国神話

フィンランドの『カレワラ(Kalevala)』

フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』には、英雄たちによる国の建設と守護の物語が語られています。

アイルランドの建国伝説

アイルランドには、トゥアハ・デ・ダナーン(Tuatha De Danann、ダナ神族)がこの島にやってきて支配したという伝説があります。

その他の都市建国神話

中世のヨーロッパでは、北イタリアの中世都市国家が競ってローマ起源の建国神話を作り上げました。
13世紀のパドヴァ(Padua)は、トロイアのアンテノール(Antenor)を建国者とする伝説を創出しました。

建国神話の特徴

世界各地の建国神話には、いくつかの共通する要素やパターンが見られます。

天上界からの降臨

日本の天孫降臨や朝鮮半島の建国神話のように、天上界から神や英雄が降臨して国を建てるというパターンは東アジアに多く見られます。
これは王権の正統性を天に求める思想を反映しています。

捨て子モチーフ

ローマのロムルスとレムス、高句麗の朱蒙など、捨て子が後に建国者となるという物語は世界各地に存在します。
このモチーフはメソポタミアのサルゴン王の伝説など、古代オリエントにも見られます。

動物による養育

ローマの雌狼、高句麗の魚やスッポンなど、動物が建国者を助けるというモチーフも多く見られます。
これは自然との調和や神の加護を象徴していると考えられます。

兄弟の争い

ロムルスとレムス、百済の沸流と温祚など、兄弟が対立し、一方が勝利して国を建てるという物語も頻出します。
これは統治権の正統性や、王朝交代の正当化を表しているとされています。

神との婚姻

扶南王国の伝説のように、外来の英雄が土地の女王や女神と結婚して国を治めるというパターンも見られます。
これは征服や統合を平和的な形で正当化する機能を持っています。

卵生神話

朝鮮半島の建国神話に特徴的な、始祖が卵から生まれるという要素です。
北方ユーラシアのアルタイ系諸民族の神話との共通点が指摘されています。

建国神話一覧表

世界各地の主要な建国神話を一覧表にまとめました。

国・地域原語表記建国者・主要人物主な特徴成立時期主な文献
日本日本神武天皇、イザナギ、イザナミ、天照大御神天孫降臨、国生み神話6世紀頃『古事記』『日本書紀』
ローマRomaロムルス、レムス、アエネイス捨て子、雌狼による養育、兄弟の争い紀元前3世紀頃ウェルギリウス『アエネイス』、リウィウス『ローマ建国史』
高句麗高句麗朱蒙卵生神話、日光感精、動物の援助紀元前後『三国史記』『三国遺事』、広開土王碑文
百済百済沸流、温祚兄弟王、海と陸の対比紀元前後『三国史記』『三国遺事』
新羅新羅赫居世居西干卵生神話、村長たちの願い紀元前後『三国史記』『三国遺事』
ベトナムViệt Nam貉龍君、嫗女百卵伝説、中国との兄弟関係『大越史記全書』
扶南Funan混填、柳葉外来者と土着女王の婚姻『梁書』扶南伝
アテナイἈθῆναιアテナ、ケクロプス神々の競争、オリーブの贈り物古代ギリシャギリシャ神話諸文献
イスラエルישראלモーセエクソダス、シナイ山での契約紀元前『旧約聖書』(トーラ)
アステカAztecウィツィロポチトリオオワシとサボテン、神託14世紀アステカ年代記
エジプトمصرオシリス、イシス、ホルス死と再生、神聖王権古代エジプトエジプト神話諸文献
フィンランドSuomiワイナモイネン他民族叙事詩19世紀編纂『カレワラ』
アイルランドÉireトゥアハ・デ・ダナーン神族の到来中世アイルランド神話諸文献
朝鮮(檀君)朝鮮檀君王倹天神と熊女の子高麗時代『三国遺事』
アレクサンドリアἈλεξάνδρειαアレクサンドロス大王夢のお告げ、ホメロスの幻影紀元前332年古代ギリシャ・ローマ文献
カルタゴCarthageディド(エリッサ)フェニキアからの移住紀元前9世紀頃ウェルギリウス『アエネイス』他

参考情報

この記事で参照した情報源

一次資料・古典文献

  • 『古事記』『日本書紀』 – 日本の建国神話
  • ウェルギリウス『アエネイス』 – ローマ建国神話
  • 『三国史記』『三国遺事』 – 朝鮮半島の建国神話
  • 『大越史記全書』 – ベトナムの建国神話
  • 『旧約聖書』(トーラ) – イスラエルの建国伝説
  • 『梁書』 – 扶南王国の伝承
  • リウィウス『ローマ建国史』 – ローマ建国の詳細

学術資料・研究書

  • 松田治『ローマ建国伝説 ロムルスとレムスの物語』講談社学術文庫、2007年
  • 本村凌二『ギリシアとローマ』世界の歴史2、中央公論新社、1997年
  • 田中俊明『『魏志』東夷伝訳註初稿(1)』国立歴史民俗博物館研究報告 151、2009年

参考になる外部サイト

まとめ

建国神話は、単なる伝説ではなく、その国や民族のアイデンティティを形成する重要な文化遺産です。

主なポイント:

  • 建国神話には天上界からの降臨、捨て子モチーフ、動物による養育、兄弟の争いなど、世界共通のパターンが見られる
  • 東アジアでは天孫降臨や卵生神話が特徴的
  • ヨーロッパではローマのロムルスとレムスの物語が最も有名
  • 建国神話は支配者の正統性を示し、国家や都市のアイデンティティを確立する役割を果たしてきた
  • 多くの建国神話には誇張や脚色が含まれ、必ずしも史実を反映していない

現代においても、建国神話は国家の象徴や文化的アイデンティティの源泉として重要な意味を持ち続けています。

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