美しい馬が水辺で待っていたら、あなたは背中に乗ってみたくなりませんか?
でも、もしそれがスコットランドのケルピーだったら、二度と陸に戻ることはできません。
人間をだまして水中に引きずり込む恐ろしい水の怪物、それがケルピーなんです。
この記事では、スコットランドに伝わる水馬の怪物ケルピーの正体と、人々を恐怖に陥れた伝説について詳しくご紹介します。
概要

ケルピー(Kelpie)は、スコットランドの水辺に住む怪物・精霊の一種です。
主に馬の姿をしていることから「水馬(ウォーター・ホース)」とも呼ばれ、川や湖に潜んで人間を襲うと伝えられています。
ケルピーという名前は、スコットランド・ゲール語で「若い牡牛」や「仔馬」を意味する言葉に由来するといわれているんです。
この怪物の恐ろしいところは、ただ人を驚かすだけじゃないこと。
人間を水中に引きずり込んで溺死させ、肝臓以外を食べてしまうという残酷な性質を持っています。
姿・見た目
ケルピーの姿は、場所や伝承によって少しずつ違いがあります。
基本的な外見
馬の姿の特徴
- 毛色:灰色または黒い馬(地域によって白馬の場合も)
- たてがみ:水草や藻が生えている
- 体:魚の鱗で覆われている場合もある
- 蹄:通常の馬とは逆向きについている
スペイ川のケルピーは白馬で、歌を歌って人を誘うといわれています。
一方、アバディーン地方では、たてがみが蛇のようになっているという報告もあるんです。
人間の姿に変身
ケルピーは変身能力を持っていて、人間の姿にもなれます。
人間に化けた時の特徴
- 美しい女性の姿になることが多い
- ハンサムな若い男性になることもある
- 髪の毛に水草や砂が混じっている(正体を見破るヒント!)
特に髪の毛の水草は重要な見分けポイントで、これに気づいた人は難を逃れることができたという話が多く残されています。
特徴

ケルピーには独特の行動パターンと恐ろしい能力があります。
人をだます手口
ケルピーの罠
- 道端で美しい馬の姿で待ち伏せ
- 歩き疲れた旅人を誘う
- 人が背中に乗ると体にくっついて離れなくなる
- そのまま川や湖に疾走
- 最も深い場所まで潜って溺死させる
「糊のようにくっつく」と表現されるほど、一度触れると離れることができません。ある伝承では、少年が指を切断してようやく逃げることができたといいます。
残酷な食性
ケルピーに水中に引きずり込まれた犠牲者は、肝臓(または心臓・肺)だけが水面に浮かび上がり、それ以外は食べられてしまうと伝わっています。
特に子供が犠牲になることが多く、7人や9人の子供が一度に連れ去られたという話も残されているんです。
意外な一面
実は、ケルピーを馬勒(ばろく)という特別な馬具で捕まえることができれば、使役することも可能でした。
石運びや橋の建設など重労働をさせることができましたが、解放したケルピーは呪いをかけて去っていくため、結局は災いをもたらすことが多かったようです。
伝承
スコットランドには、ほぼすべての湖や川にケルピーの伝説があります。
ネス湖のケルピー
最も有名なのはネス湖のケルピーです。
19世紀の伝承では、ジェームズ・マグレガーという男がネス湖のケルピーの馬勒を切り取って力を奪ったという話があります。ケルピーは馬勒の返還を求めましたが、マグレガーは家の窓から馬勒を投げ入れて難を逃れました。
現在のネス湖の怪物(ネッシー)の伝説も、このケルピー伝承が元になっているという説があるんです。
橋を架けさせられたケルピー
モーフィー城の男爵は、ケルピーを捕まえて城の建設に使役しました。
しかし解放されたケルピーは「モーフィーの領主は、ケルピーが生きている限り栄えることはない」という呪いをかけ、実際にその家系は途絶えてしまったといいます。
7人の女の子の悲劇
パース州のケルトニー渓谷では、7人の女の子がケルピーの背中に乗ってしまいました。
ケルピーの体は乗る人数に合わせて伸びることができ、全員を乗せたまま湖に飛び込みます。賢い男の子だけが乗らずに助かり、女の子たちの内臓だけが岸に打ち上げられたという悲しい話です。
起源
なぜケルピーという怪物が生まれたのでしょうか?
実用的な警告
ケルピー伝説の最も重要な役割は、子供を危険な水辺から遠ざけることでした。
「川に近づくとケルピーに連れて行かれる」という話は、水難事故を防ぐための知恵だったんです。また、若い女性に「見知らぬハンサムな男性に気をつけろ」という教訓も込められていました。
自然現象の説明
歴史家の中には、ケルピーの正体を自然現象で説明する人もいます。
考えられる起源
- スコットランドの湖で発生する竜巻(水上を動き回る姿が生き物のよう)
- 川の渦巻きや急流(人を引き込む力)
- 流砂(馬のように見える場所で人が沈む)
古代の馬信仰
古代スカンジナビアでは馬を生贄に捧げる習慣があり、これがケルピー伝説の起源という説もあります。
水の神に馬を捧げる儀式が、時代とともに「水に住む馬の妖怪」という形に変化したのかもしれません。
まとめ
ケルピーは、スコットランドの人々が水の危険性を伝えるために生み出した妖怪です。
重要なポイント
- スコットランドの川や湖に住む水馬の怪物
- 美しい馬や人間に変身して人をだます
- 背中に乗るとくっついて離れなくなる
- 水中に引きずり込んで肝臓以外を食べる
- 子供への警告として語り継がれた
- ネス湖の怪物の原型ともいわれる
美しい姿に隠された恐ろしい本性、それがケルピーの真の姿です。
スコットランドを訪れる機会があったら、水辺で出会う美しい馬には十分注意してくださいね。
もしかしたら、それはケルピーかもしれませんから。
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