アーサー王伝説といえば、ランスロットやガウェインといった華やかな騎士たちが思い浮かびますよね。
でも、彼らよりもずっと前から王の傍にいた男がいるんです。
それがケイ卿。
アーサー王の義兄であり、あの「石に刺さった剣」のエピソードにも深く関わる人物です。
この記事では、円卓の騎士の中でも最古参として知られるケイ卿について、その超人的な能力から意外な一面まで詳しく解説していきます。
ケイ卿の概要

ケイ卿は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人です。
エクトル卿の息子で、アーサー王とは乳兄弟——つまり義理の兄にあたります。
彼の最大の特徴は、その古さ。
ベディヴィエール卿と並んで、アーサー王伝説の中でも最も古い時代から登場するキャラクターなんですね。
10世紀のウェールズ詩『パ・グール』にはすでに彼の武勇が歌われており、アーサー王物語の原型ともいえる『マビノギオン』でも重要な役割を果たしています。
ただし、その描かれ方は時代によって大きく変化しました。
初期の伝承では超人的な力を持つ英雄だったのに、後のロマンス文学では毒舌で意地悪なキャラクターに……。
なんとも不遇な変遷をたどった騎士なんです。
名前の表記と由来
ケイ卿の名前は、言語によってさまざまな表記があります。
| 言語 | 表記 |
|---|---|
| ウェールズ語 | カイ(Cai)、ケイ(Kei/Cei) |
| ラテン語 | カイウス(Caius) |
| フランス語 | クー(Keu) |
| 古フランス語 | ケス(Kès)、ケクス(Kex) |
| 英語 | ケイ(Kay) |
名前の由来には諸説あります。
ラテン語の「カイウス」から来ているという説が有名ですが、もっと興味深い説もあるんです。
ケルト語学者レイチェル・ブロムウィッチによると、「カイ」はゲール語で「道」を意味する言葉に由来するとか。
ケイの父親の名前「キニル(Cynyr)」も「道」を意味するので、文字通り「道の息子」という名前だったのかもしれません。
系譜と出自
ケイ卿の家系について、文献によって記述が異なります。
ウェールズ伝承での系譜
- 父:キニル・ケインヴァルヴォグ(Cynyr Ceinfarfog=美髭のキニル)
- 息子:ガランウィン
- 娘:ケレモン
- 愛馬:グウィネウ・グウドフ・ヒル(長い首のグウィネウ)
後世の伝説での系譜
- 父:エクトル卿
- 義弟:アーサー王
ウェールズ北部にあるケア・ガイ(Caer Gai)という地名は、ケイに由来すると言われています。
彼のあだ名は「カイ・ヒル(のっぽのケイ)」で、非常に背が高かったそうです。
実在のモデルがいたかどうかは不明ですが、地名として残っているところを見ると、何らかの歴史的人物が元になっている可能性はありますね。
超人的な能力——ウェールズ伝承での姿
現代のアーサー王物語を知っている人には驚きかもしれませんが、初期のウェールズ伝承では、ケイはとんでもない超人として描かれていました。
『マビノギオン』の「キルッフとオルウェン」には、彼の父キニルが語った「息子が持つであろう能力」が記されています。
ケイの超人的能力一覧
| 能力 | 説明 |
|---|---|
| 水中呼吸 | 9日9晩、水の中にいても息が続く |
| 不眠 | 9日9晩、眠らずに働き続けられる |
| 巨大化 | 機嫌がいいと、森で一番高い木ほど背が伸びる |
| 熱放射 | 手から熱を放射でき、雨に濡れない。洗濯物も乾かせる |
| 不治の傷 | 彼の剣で負わせた傷は絶対に治らない |
| 荷物隠し | どんな大きさの荷物を持っても、誰にも見えない |
| 冷たい心臓 | 心臓は常に冷たく、手には熱がない |
| 火と水への耐性 | 誰よりも火と水に強い |
……いや、これはもう人間じゃないですよね。
特に「機嫌がいいと背が伸びる」とか「手から熱を出せる」あたりは、ネット上で「ケイはトランスフォーマーでは?」とネタにされるほど。
映画『トランスフォーマー/最後の騎士王』がアーサー王伝説をモチーフにしていることもあって、妙に説得力があるジョークです。
主な伝承とエピソード
石に刺さった剣——アーサー王伝説の始まり
ケイ卿といえば、このエピソードは外せません。
トマス・マロリーの『アーサー王の死』によると、ある日の馬上槍試合でケイは剣を折ってしまいました(別の伝承では「剣を忘れた」とも)。
困ったケイは、従者として仕えていた義弟のアーサーに代わりの剣を取りに行かせます。
ところが、アーサーは家に剣を見つけられませんでした。
代わりに、大聖堂の前にある石に刺さっていた剣を引き抜いて持ってきたのです。
この剣こそ、ブリテンの正当な王だけが抜けるとされた選定の剣(カリバーン)でした。
興味深いのは、ケイの反応です。
一部の伝承では、ケイは「自分が剣を抜いた」と主張して王になろうとしたとか。
まあ、すぐに白状するんですけどね。
いずれにせよ、ケイの「剣を忘れる」といううっかりミスがなければ、アーサー王伝説は始まらなかったわけです。
ある意味、伝説のきっかけを作った男と言えるかもしれません。
巨人退治——英雄としての活躍
初期の伝承では、ケイは勇敢な戦士として数々の武勇伝を残しています。
モン・サン・ミシェルの巨人退治
アーサー王、ベディヴィエール卿と共に、子供たちを襲っていた凶悪な巨人を討伐しました。
ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』にも記されている有名なエピソードです。
巨人ウルナッハの討伐
『キルッフとオルウェン』に登場するエピソード。
ケイは巨人ウルナッハのもとに単身で乗り込み、「剣を研いでやろう」と嘘をついて剣を奪い、機知でもって討ち取りました。
力だけでなく頭脳プレーもできる騎士だったんですね。
9人の魔女退治
古い詩『パ・グール』では、イスタルヴィングン山頂で9人の魔女を倒したとも伝えられています。
パルグの猫との戦い
ウェールズ神話に登場する怪物「カス・パルグ(パルグの猫)」との戦いも有名です。
『パ・グール』では、ケイがこの怪物を倒したことが示唆されていますが、彼の盾は「ほとんど防御の役に立たなかった」とも……。
相当な激戦だったようです。
キャラクターの変遷——英雄から毒舌家へ
不思議なことに、ケイのキャラクターは時代が下るにつれてどんどん悪くなっていきました。
初期(ウェールズ伝承)
超人的な能力を持つ英雄。
アーサーの最も信頼する戦士の一人で、詩『パ・グール』では「一騎当千の勇者」「酒を飲めば4人分」「戦えば100人分」と称えられています。
中期(ジェフリー・オブ・モンマス)
アーサーの執政官であり、アンジュー公の称号を得る高貴な騎士。
まだ英雄的な描写が残っています。
後期(フランスのロマンス文学)
クレティアン・ド・トロワの作品あたりから、毒舌で傲慢なトラブルメーカーとして描かれるようになります。
- 『イヴァン』では、カログルナン卿の話を馬鹿にする嫌味な騎士
- 『ランスロット』では、騙し討ちでグィネヴィア救出を買って出るが、あっさり敗北
- 『ペルスヴァル』では、ペルスヴァルの将来性を見抜いた乙女を平手打ちし、後に復讐される
なぜこんな変化が起きたのでしょうか?
一説には、宮廷の運営を担う執事役というポジションが関係しているとか。
実務を担当する人間は、どうしても嫌われ役になりやすいですからね。
王への批判を避けるためのスケープゴートだった可能性もあります。
ただ、どんなに性格が悪く描かれても、アーサーへの忠誠だけは揺るがないのがケイ卿の特徴です。
口は悪いけど、最後まで王の傍にいた男——そんな不器用な忠臣像が浮かび上がってきます。
ケイ卿の最期
ケイ卿の死についても諸説あります。
| 説 | 内容 |
|---|---|
| ローマ遠征説 | ソワソンの戦いでリビア王セルトリウスに討たれる |
| カムランの戦い説 | モルドレッドの反乱で戦死 |
| グウヴィザグ説 | アーサーの部下グウヴィザグに殺される(アーサーが仇を討つ) |
| ガリア説 | 470年頃のデオル(現フランス)の戦いで死亡 |
ウェールズの伝承では、ケイの死は「不当なもの」とされ、アーサー王自身が仇を討ったとも伝えられています。
埋葬地はカーン(フランス)またはシノンとされています。
現代作品でのケイ卿
アーサー王伝説の人気キャラクターとして、ケイ卿は現代でもさまざまな作品に登場しています。
映像作品
- 『エクスカリバー』(1981年):ナイル・オブライエンが演じる忠実な兄として登場
- 『キャメロット』(2011年TVシリーズ):ピーター・ムーニー演じる理想主義的な兄
- 『ブリトンのアーサー』(1970年代TVシリーズ):サクソン人の孤児としてアーサーと共に育つ設定
小説
- 『永遠の王』『王様の剣』(T.H.ホワイト):少し間抜けな大男として描かれる
- 『アヴァロンの霧』(マリオン・ジマー・ブラッドリー):顔に傷、足に障害を持つがアーサーを守って負傷した忠臣
- 『女王たちの黄昏』(フィリス・アン・カー):ケイが主人公の推理小説
ゲーム
- 『Fate/Grand Order』:未だ正式に登場していないが、アルトリア(アーサー王)の義兄として言及されている。毒舌だが妹思いの兄として人気が高く、ファンの間では実装が待望されている
特にFateシリーズでは、原典の超人的能力が「変態的な泳ぎ」「手から火を出せる」などとして言及されており、ネット上では「ブリテンのマリオ」とネタにされることも。
アニメ
- 『燃えろアーサー 白馬の王子』:原典とは異なり、生真面目で優しいお兄さんキャラとして登場
ケイ卿の基本情報一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | ケイ卿(Sir Kay) |
| 別名 | カイ、カイウス、クー、ケス |
| ウェールズ語名 | カイ(Cai/Cei) |
| 出典 | アーサー王伝説、マビノギオン他 |
| 父 | エクトル卿(後世)、キニル(ウェールズ伝承) |
| 続柄 | アーサー王の義兄(乳兄弟) |
| 役職 | 司厨長(セネシャル)、執政官 |
| 所属 | 円卓の騎士 |
| 性格(初期) | 勇敢、超人的な戦士 |
| 性格(後期) | 毒舌、傲慢、だが忠実 |
| 特殊能力 | 水中呼吸、不眠、巨大化、熱放射、不治の傷など |
| 主な活躍 | モン・サン・ミシェル巨人退治、ウルナッハ討伐 |
| 最期 | 諸説あり(ローマ遠征、カムランの戦いなど) |
| 埋葬地 | カーンまたはシノン(フランス) |
まとめ
ケイ卿についてまとめると、以下のようになります。
- アーサー王の義兄で、円卓の騎士の中でも最古参の一人
- 初期のウェールズ伝承では超人的な能力を持つ英雄だった
- 9日9晩水中で息ができる、背が伸びる、手から熱を出せるなど規格外の能力
- 「石に刺さった剣」のエピソードに間接的に関与し、アーサー王伝説の始まりに貢献
- 時代が下るにつれて毒舌で傲慢なキャラクターに変化
- それでも王への忠誠は最後まで変わらなかった
- 現代でもFateシリーズなど多くの作品で人気のキャラクター
華やかな円卓の騎士たちの中では地味な存在かもしれません。
でも、アーサーが王になる前から傍にいて、最後まで寄り添った男。
そんな不器用な忠臣の姿に、惹かれる人も多いのではないでしょうか。


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