虎の体に、人間の顔が九つ——。
そんな異様な姿で神々の山を守る存在がいるのを知っていますか?
中国神話に登場する開明獣(かいめいじゅう)は、仙人や神々が住むとされる崑崙山の門番です。
その威厳ある姿から「知恵の獣」とも呼ばれ、古代中国では畏怖と敬意を込めて語り継がれてきました。
この記事では、開明獣の姿や役割、そして似た神獣「陸吾」との関係について解説します。
開明獣の概要
開明獣は古代中国の地理書『山海経』の「海内西経」に登場する神獣です。
天帝が地上に置いた都「崑崙」には九つの門があり、その全てを開明獣が守っているとされています。
崑崙は神々や仙人が暮らす聖地で、不死の薬があるとも伝わる特別な場所。
そこへの侵入者を許さない門番として、開明獣は常に東を向いて崑崙の上に立っているのです。
開明獣の姿
開明獣の外見は、かなりインパクトがあります。
体は大きな虎のよう。
しかし首から上には、なんと九つの人間の顔がついています。
どの顔も厳かな表情をしており、崑崙の周囲を常に見張っているのだとか。
「九つの顔で全方位を監視している」という設定は、門番としてこれ以上ない適任ですよね。
気性は激しく勇猛で、不届き者が近づけば容赦なく排除する存在として描かれています。
名前の意味
「開明」という名前には「夜明け」「明らかにする」といった意味があります。
これは開明獣が「全てを見通す知恵を持つ」と考えられていたことに由来するとも言われています。
実際、一説では開明獣には万物の未来を見通す予知能力があったとされているんです。
常に東(太陽が昇る方角)を向いているという記述も、「開明=夜明け」のイメージと結びついているのかもしれません。
陸吾との関係
開明獣を調べると、必ず出てくるのが「陸吾(りくご)」という神獣です。
陸吾も同じく『山海経』に登場し、崑崙を司る存在として記されています。
ただし陸吾の記述があるのは「西山経」という別の章で、姿の描写も少し異なります。
| 神獣 | 出典 | 姿の特徴 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 開明獣 | 海内西経 | 虎の体+九つの人面 | 崑崙の九門を守る |
| 陸吾 | 西山経 | 虎の体+九つの尾+人面+虎の爪 | 崑崙を司り、天の九部と季節を管理 |
両者は「崑崙を守護する人面虎身の神獣」という点で共通しており、同一視されることも少なくありません。
中国神話の研究で知られる袁珂(えんか)も、著作の中で「開明獣は陸吾と同一である」と注釈しています。
一方で「別々の門番である」という解釈もあり、崑崙には複数の門があるためそれぞれが担当しているという説もあります。
西王母との関係
興味深いのは、開明獣が西王母(せいおうぼ)とも関わりがあるという伝承です。
『竹書紀年』という古い歴史書によると、開明獣は西王母の側に仕える霊獣だったとされています。
西王母と東王公が巡行する際には、開明獣が先導役として主人の車を引いたのだとか。
西王母は不老不死の薬を持つ女仙として有名ですから、その側近を務める開明獣もまた特別な存在だったのでしょう。
主人からの寵愛も厚かったと伝えられています。
崑崙山とは
開明獣が守る「崑崙山」についても簡単に触れておきましょう。
崑崙は中国神話における聖地で、天帝が地上に置いた都とされています。
高さは万仞(非常に高いという意味)、周囲は八百里。
山上には不死の薬を含む様々な宝物があり、西王母をはじめとする神々や仙人が暮らしていました。
山の周囲には「弱水」という羽すら浮かべない川や、燃え続ける火炎山があるとも言われ、普通の人間が近づくことは不可能。
そんな聖域の最後の防衛線として、開明獣は九つの門を守っているわけです。
創作作品への登場
開明獣は、現代の創作作品にも時折登場しています。
ライトノベル『風の聖痕』では、虎の姿に人間の頭を持つ妖魔として描かれました。
日本に封印されていたものが解き放たれ、主人公たちに襲いかかるという展開で登場しています。
また、中国神話をモチーフにしたゲームやイラストでも、崑崙山や西王母と共に描かれることがあります。
九つの顔という独特のビジュアルは、クリエイターの想像力を刺激するのかもしれませんね。
まとめ
開明獣のポイントをおさらいしましょう。
- 古代中国の地理書『山海経』に登場する神獣
- 崑崙山の九つの門を守る門番
- 虎の体に九つの人間の顔を持つ異形の姿
- 万物を見通す知恵と予知能力を持つとされる
- 「陸吾」と同一視されることも多い
- 西王母に仕える霊獣という伝承もある
神々の聖地を守るにふさわしい、威厳と神秘に満ちた存在。
それが開明獣という神獣なのです。


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