夢の中で、雲よりも高い黒い山を見たことはありますか?
その頂には、この世のものとは思えない美しい城が建ち、そこには神々が住んでいる――。
クトゥルフ神話に登場する「カダス」は、まさにそんな幻想的で神秘的な場所なんです。しかし、そこへ辿り着くことは極めて困難で、多くの探索者が命を落としたとされています。
この記事では、クトゥルフ神話における最大の謎の一つ「未知なるカダス」について、その場所や特徴、伝承を詳しくご紹介します。
概要

カダスは、クトゥルフ神話の創始者H・P・ラヴクラフトが生み出した幻想の土地です。
正式には「凍てつく荒野の未知なるカダス」と呼ばれ、夢の国(ドリームランド)の北の果てにあるとされています。
この地の最大の特徴は、地球の神々(大地の神々)が住む縞瑪瑙の城が頂上に建つ黒い山があることです。縞瑪瑙(しまめのう)というのは、美しい色の層が重なった宝石のような鉱物のこと。その神秘的な輝きを持つ石で造られた巨大な城が、カダスのシンボルなんですね。
小説『未知なるカダスを夢に求めて』では、夢見人ランドルフ・カーターがこの伝説の地を探し求める冒険が描かれています。
場所・位置
カダスの所在地は、神話の中でも最大の謎とされているんです。
ドリームランドの北方
基本的には、夢の国(ドリームランド)の北の果て、レン高原の遥か北方にあるとされています。
レン高原というのは、クトゥルフ神話に登場する中央アジアにあるとされる高地で、現実世界とも夢の世界とも言えない不思議な場所なんですね。
位置の曖昧さ
面白いことに、カダスの位置は完全には確定していません。
位置についての説
- 中央アジアのレン高原にある(『死霊秘法』より)
- 宇宙のどこかの星の夢の国にある(伝承に通じる者の説)
- 現実と夢の境界にある
この曖昧さこそが、カダスを「未知なる」場所たらしめているんです。
姿・見た目
カダスの光景は、まさに神々しく、同時に恐ろしいものです。
黒い山
カダスには雲さえも飾りにしてしまうような黒々とした巨大な山があります。
この山は、ただの山ではありません。その威容は見る者を圧倒し、近づく者に畏怖の念を抱かせるほどなんです。
縞瑪瑙の城
山頂には、円蓋(ドーム)を持つ塔や巨大な城が建っています。
城の特徴
- 縞瑪瑙でできた城壁
- アーチ状の窓
- 金線状の渦巻装飾や唐草模様
- 冒涜的なまでに巨大
- 全体が暗闇に包まれている
縞瑪瑙は色とりどりの層が美しい結晶の集合体で、宝石や装飾品として使われる高級な石材です。その贅沢な素材で造られた城は、どこを見ても「この世の物ではない」とすぐに分かるほどの異様さを放っているんですね。
特徴

カダスには、他の土地にはない独特の特徴があります。
神々の居城
この城に住むのは地球の神々(大地の神々)です。
彼らの特徴
- 長く細い目
- 耳朶(じだ)の長い耳
- 薄い鼻
- 尖った顎
面白いことに、これらの神々は時々人間の姿に化けて人里に降り、人間の女性と結婚したという伝説もあるんです。
インクアノク
カダスの近くにはインクアノクという古びた都市があります。
この街の住民は神々の末裔、つまり神と人間の間に生まれた子孫たちです。彼らは先祖である神々の顔の特徴を受け継いでいるため、カダスを探す手がかりになるんですね。
インクアノクは全体が黒い縞瑪瑙で造られており、球根状のドームや風変わりな尖塔が並ぶ、素晴らしくも奇妙な眺めの街です。この街の周辺には採石場が数多くあり、そこから切り出された縞瑪瑙は他の都市と交易されています。
到達の困難さ
カダスへの道のりは極めて危険です。
主な障害
- レンガゾン(双頭の怪物山):三角形の冠を被った二つの頭を持つ巨大な怪物の姿をした山が、侵入者を待ち受けている
- 険しい山脈:インクアノク北部の彫像山脈を越える必要がある
- 凍てつく荒野:極寒の環境
そのため、ナイトゴーントという翼を持つ怪物の協力が不可欠だとされています。彼らは空高く飛べるうえに、強大な存在からも恐れられているからです。
伝承
カダスにまつわる最も有名な物語が、ランドルフ・カーターの探索です。
ランドルフ・カーターの冒険
夢見人として知られるランドルフ・カーターは、カダスを探し求めてドリームランドを旅しました。
彼の探索方法は論理的でした。「神々が人間の妻を娶った」という伝説から、カダスの近くには神々の血を引く人間が住む街があるはずだと考えたんです。
そして実際に、レン高原の近くの薄明の寒冷地でインクアノクを発見することに成功しました。
ナイアーラトテップの妨害
しかし、カダスの秘密には恐ろしい守護者がいました。
それがナイアーラトテップという邪神です。彼は魔王アザトースの使者として、地球の神々をカダスに閉じ込め、代わりに外宇宙の恐ろしい存在たちを地球に降ろそうと企んでいたんです。
カーターがカダスを探っていることを知ったナイアーラトテップは、彼を助けようとした屍食鬼(グール)や夜鬼(ナイトゴーント)を蹴散らし、カーターを強制的にカダスへ連れ去りました。
神々を見た者の運命
クトゥルフ神話では、神の姿を見た人間は正気を失うか、二度と戻れないという恐ろしいルールがあります。
他の物語の例
- 賢人バルザイ:神々の姿を見て行方不明になった(『蕃神』より)
- トマス・オルニー:神ノーデンスに魂を持ち去られ、生きた人形のようになった(『霧の高みの不思議な家』より)
カーターの場合、幸運にもナイアーラトテップに引き合わされただけで、実際に大地の神々の姿を見ることはなかったため、無事に戻ることができました。
カダスの意味
神話の中で、カダスは単なる場所以上の意味を持っています。
それは神々が人間から姿を隠す最後の秘境なんです。
神々の隠遁
古代、神々は人間と共に暮らしていました。しかし、人間が増え、世界中のあらゆる場所を探検するようになると、神々は次第に高い山に移り住むようになりました。
それでも人間は山を登り、神々の姿を見ようとします。ついに地球上のすべての場所が人間に踏破されたとき、神々は最後の隠れ家としてカダスを選んだのです。
禁忌の象徴
カダスは、人間が決して踏み込んではいけない領域を象徴しています。
知ってはいけない秘密、見てはいけない真実――そういった禁忌が、カダスという土地に凝縮されているんですね。
まとめ
カダスは、クトゥルフ神話における神秘と恐怖の象徴です。
重要なポイント
- 「凍てつく荒野の未知なるカダス」と呼ばれる伝説の地
- ドリームランドの北方、レン高原の遥か北にある
- 黒い山の頂上に縞瑪瑙の城が建つ
- 地球の神々が住む最後の秘境
- 近くの街インクアノクには神々の末裔が住む
- 双頭の怪物山など、到達は極めて困難
- ランドルフ・カーターが探索した
- 神の姿を見た者は正気を失うか戻れない
- 人間が踏み込んではいけない禁忌の象徴
カダスは、人間の好奇心と、それを超えた存在への畏怖を描いた場所といえるでしょう。もし夢の中でこの黒い山を見かけたら、決して近づいてはいけません。そこには、人間が知るべきではない秘密が眠っているのですから。


コメント