イエス・キリストの教えを世界に広めるために選ばれた12人の弟子たち、それが「十二使徒」です。
彼らはもともと漁師や徴税人といった普通の人々でしたが、イエスの復活後、命をかけて福音を伝え、キリスト教の基礎を築きました。
この記事では、新約聖書に記された十二使徒の名前と、それぞれの生涯について詳しく解説していきます。
「弟子」と「使徒」の違い
まず最初に、「弟子」と「使徒」という言葉の違いを理解しておきましょう。
「弟子」とは、イエスから学び、従う人という意味です。
一方、「使徒」は「遣わされた人」という意味で、イエスの復活後に福音を伝えるために送り出された人々を指します。
イエスが地上にいた間、12人は「弟子」と呼ばれていました。イエスの復活後、彼らは「使徒」として世界各地に派遣され、キリスト教を広める使命を担ったんです。
ただし、イエスが地上にいた時でも、この2つの言葉はある程度同じように使われていたようです。
「12」という数字の意味
十二使徒の「12」という数字には、特別な意味があります。
これは旧約聖書に登場するイスラエルの12部族に対応していると考えられています。
イエスが12人の使徒を選んだのは、新しい神の民としてのキリスト教会の基礎を築くという象徴的な意味があったんですね。
新約聖書に記された十二使徒の一覧
新約聖書には、十二使徒の名前が記載された箇所が複数あります。
具体的には、マタイによる福音書10章2-4節、マルコによる福音書3章16-19節、ルカによる福音書6章13-16節、使徒言行録1章13節の4箇所です。
ここでは、最も詳細に記されているマタイによる福音書の記述を引用します。
十二使徒の名は次のとおりである。まずペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、フィリポとバルトロマイ、トマスと徴税人のマタイ、アルファイの子ヤコブとタダイ、熱心党のシモン、それにイエスを裏切ったイスカリオテのユダである。
マタイによる福音書10章2-4節(新共同訳)
福音書によって名前の順序や表記に若干の違いがありますが、基本的には同じ12人を指しています。
特に、タダイについては「ヤコブの子ユダ」(ルカによる福音書)とも呼ばれており、表記に揺れがあります。
それでは、一人ひとりについて見ていきましょう。
1. ペトロ(シモン・ペトロ)
本名:シモン
別名:ケファ(アラム語で「岩」の意味)、ペトロ(ギリシャ語で「岩」の意味)
ペトロは十二使徒の中で最も重要な人物です。
もともとガリラヤ湖で弟のアンデレと漁師をしていましたが、イエスと出会い、最初の弟子になりました。
イエスは彼に「ケファ」(岩)というあだ名をつけ、そのギリシャ語訳である「ペトロス」が通称となりました。
ペトロはイエスの「変容」(高い山でイエスが光り輝く姿を現した出来事)を目撃した3人のうちの1人です。
ただし、イエスが逮捕された際には、恐怖のあまり3度「イエスを知らない」と否認してしまいます。
しかし、イエスの復活後、ペトロは初代教会のリーダーとして活躍しました。
ローマでの布教活動中、ローマ皇帝ネロの迫害を受け、紀元64-68年頃に殉教したとされています。
伝承によれば、ペトロは自分がイエスと同じ方法で死ぬことに値しないと考え、逆さ十字架での処刑を願い出たといいます。
カトリック教会では、ペトロを初代教皇と位置づけています。
2. アンデレ
関係:ペトロの兄弟
アンデレもペトロと同じく、ガリラヤ湖で漁師をしていました。
ヨハネによる福音書によれば、アンデレは兄のペトロをイエスに紹介した人物です。
新約聖書での登場回数は少ないものの、初期教会で重要な役割を果たしたとされています。
伝承によると、アンデレはギリシャやアジア地方で布教活動を行い、紀元60年頃にギリシャのパトラスでX字型の十字架にかけられて殉教したといいます。
このX字型の十字架は「聖アンデレ十字」として知られています。
3. ヤコブ(ゼベダイの子ヤコブ、大ヤコブ)
父:ゼベダイ
兄弟:ヨハネ
大ヤコブと呼ばれるゼベダイの子ヤコブは、弟のヨハネとともにイエスの弟子となりました。
彼はペトロ、ヨハネとともに、イエスの変容を目撃した「内側の3人」の1人です。
イエスは彼と弟のヨハネに「ボアネルゲ」(雷の子)というあだ名をつけました。これは、彼らの情熱的な性格を表していると考えられています。
新約聖書の使徒言行録12章1-2節によれば、ヤコブは紀元44年頃、ユダヤのヘロデ・アグリッパ1世によって剣で処刑されました。
これは新約聖書に記録された唯一の使徒の殉教です。
伝承によれば、彼の遺体は現在スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂に安置されているとされています。
4. ヨハネ
父:ゼベダイ
兄弟:ヤコブ
別名:愛された弟子
ヨハネは十二使徒の中で最も若かったとされています。
ペトロ、ヤコブとともにイエスの「内側の3人」の1人で、イエスに最も愛された弟子と呼ばれています。
イエスが十字架にかけられた時、多くの男性使徒が逃げ去る中、ヨハネは聖母マリアやマグダラのマリアとともにイエスの最期を見守りました。
イエスはヨハネに母マリアを託したとされています。
伝承によれば、ヨハネは新約聖書の「ヨハネによる福音書」「ヨハネの黙示録」「ヨハネの手紙」の著者とされています。
ヨハネは十二使徒の中で唯一殉教せず、天寿を全うしたと考えられています。
ローマ皇帝ドミティアヌスの迫害により、紀元90年代半ばにパトモス島に流刑されましたが、そこで「ヨハネの黙示録」を記したといいます。
その後、エフェソスで高齢になってから亡くなったとされています。
5. フィリポ
出身:ベツサイダ(ペトロやアンデレと同じ町)
フィリポはバルトロマイ(ナタナエル)をイエスに紹介した人物です。
ヨハネによる福音書6章では、五千人の給食の奇跡の場面で、フィリポがイエスに「この群衆にどうやって食べ物を与えればよいでしょうか」と尋ねる様子が描かれています。
伝承によれば、フィリポは小アジア(現在のトルコ)のヒエラポリスで布教活動を行い、そこで殉教したとされています。
殉教の方法については諸説ありますが、逆さ十字架にかけられたという伝承が広く知られています。
6. バルトロマイ(ナタナエル)
別名:ナタナエル
バルトロマイとナタナエルは同一人物であるという説が有力です。
ヨハネによる福音書では「ナタナエル」として登場し、フィリポに導かれてイエスの弟子になりました。
イエスはナタナエルを「真のイスラエル人」と賞賛したといいます。
伝承によれば、バルトロマイはインドやアルメニアで布教活動を行いました。
殉教の方法については、生きたまま皮を剥がれる「皮剥ぎの刑」によって殉教したという伝承があります。
このため、バルトロマイを描いた絵画では、自身の剥がれた皮とナイフを持った姿が象徴的に描かれることがあります。
7. トマス
別名:疑心のトマス、ディディモ(双子の意味)
トマスは「疑心のトマス」として知られています。
これは、他の使徒たちからイエスの復活を聞いても、自分の目で見るまで信じなかったというエピソードに由来します。
ヨハネによる福音書20章では、復活したイエスがトマスの前に現れ、トマスに傷跡に触れさせる場面が描かれています。
この出来事により、トマスは「わが主、わが神よ」と信仰を告白しました。
伝承によれば、トマスはインドで布教活動を行い、そこで槍によって殉教したとされています。
南インドには、今でもトマスが創設したとされるキリスト教会(トマス派)が存在します。
8. マタイ
別名:レビ
職業:徴税人(税金を集める役人)
マタイはもともと徴税人でした。
当時、徴税人はローマ帝国のために働き、同胞のユダヤ人から税を取り立てる仕事をしていたため、裏切り者として嫌われていました。
イエスはそんなマタイを弟子として選び、マタイはすぐにイエスに従いました。
伝承によれば、マタイは新約聖書の最初の書である「マタイによる福音書」の著者とされています。
イエスの昇天後、マタイはユダヤで15年間留まった後、ペルシャやエチオピアで布教活動を行ったといいます。
殉教の方法については諸説あり、剣で殺されたという説や、斧で殺されたという説があります。
9. ヤコブ(アルファイの子ヤコブ、小ヤコブ)
父:アルファイ
別名:小ヤコブ、義人ヤコブ
ゼベダイの子ヤコブと区別するため、「小ヤコブ」と呼ばれています。
新約聖書での記述は少なく、謎の多い人物ですが、初代エルサレム教会で重要な役割を果たしたとされています。
一部の伝承では、小ヤコブはイエスの兄弟ヤコブ(義人ヤコブ)と同一人物だとされていますが、別人とする説もあります。
伝承によれば、紀元62年頃、エルサレムの神殿の頂上から突き落とされ、その後石打ちの刑に遭い、最後に洗濯棒で撲殺されたといいます。
10. タダイ(ユダ・タダイ、ヤコブの子ユダ)
別名:ユダ、レバイ
タダイは「ヤコブの子ユダ」とも呼ばれています。
裏切り者のイスカリオテのユダと区別するため、「タダイ」という名前が使われることが多いです。
新約聖書での記述はほとんどなく、ヨハネによる福音書14章22節で一度だけ質問する場面が登場します。
長い間カトリック教会から意識的に排除されていたため、「忘れられた聖人」という呼び名があります。
伝承によれば、タダイは熱心党のシモンとともにペルシャやアルメニアで布教活動を行い、そこで殉教したとされています。
殉教の方法については、のこぎりで切られたという説や、斧で殺されたという説があります。
11. シモン(熱心党のシモン)
別名:カナン人シモン、熱心党のシモン
シモンは「熱心党」(ゼロテ党)と呼ばれるユダヤの政治運動に属していました。
熱心党はローマ帝国の支配に反対し、武力による抵抗を主張する過激な集団でした。
同じ名前の「シモン・ペトロ」と区別するため、「熱心党のシモン」と呼ばれています。
新約聖書での記述はほとんどなく、彼の活動についてはあまり知られていません。
伝承によれば、シモンはタダイとともにペルシャで布教活動を行い、そこで殉教したとされています。
殉教の方法については、のこぎりで切られたという説や、十字架にかけられたという説があります。
12. イスカリオテのユダ
別名:裏切り者のユダ
イスカリオテのユダは、イエスを裏切った使徒として知られています。
ユダは十二使徒の会計係を務めていたとされています。
最後の晩餐の後、ユダはユダヤ教の祭司長たちにイエスの居場所を教え、銀貨30枚でイエスを売り渡しました。
ユダはイエスに口づけをして、これがイエスだという合図を兵士たちに送りました。
その後、イエスが処刑されることを知ったユダは激しく後悔し、銀貨を返そうとしましたが受け入れられず、首をつって自殺しました。
マタイによる福音書27章5節とルカによる福音書(使徒言行録1章18節)では、ユダの死について若干異なる描写がなされています。
補欠として選ばれたマティア
イスカリオテのユダの死後、残された11人の使徒たちは、12人という枠を維持するために新たな使徒を選ぶことを決めました。
使徒言行録1章によれば、候補者は以下の条件を満たす必要がありました。
- 洗礼者ヨハネの洗礼の時からイエスの昇天まで、イエスと行動を共にしていた者
- イエスの復活の証人となれる者
候補者として挙げられたのは、バルサバ(別名ユストス)とマティアの2人でした。
祈りの後、くじを引いてマティアが選ばれ、彼が12人目の使徒に加えられました。
伝承によれば、マティアはカッパドキアや黒海沿岸で布教活動を行い、斧で首を切られて殉教したといいます。
使徒パウロについて
十二使徒には含まれませんが、使徒パウロについても触れておきましょう。
パウロはもともとファリサイ派のユダヤ教徒で、初期のキリスト教徒を迫害していました。
しかし、ダマスコへの道中で復活したイエスに出会い、劇的な回心を遂げます。
その後、パウロは「異邦人への使徒」として、ユダヤ人以外の人々にキリスト教を広める役割を担いました。
パウロは新約聖書の多くの書簡(手紙)を書き、キリスト教の教義の発展に大きく貢献しました。
伝承によれば、パウロは紀元64-68年頃、ローマでペトロとほぼ同時期に殉教したとされています。
ローマ市民であったパウロは、十字架刑ではなく、斬首によって処刑されたといいます。
十二使徒の殉教について
伝承によれば、ヨハネを除く十二使徒(マティアを含む)は全員が殉教したとされています。
しかし、新約聖書に殉教が明確に記録されているのは、ゼベダイの子ヤコブのみです。
他の使徒たちの殉教については、初期キリスト教の伝承や教会史家の記録に基づいていますが、歴史的証拠が乏しいものも多く、学術的には慎重な見方がなされています。
それでも、使徒たちが迫害や苦難の中でも信仰を貫き、福音を伝え続けたことは、新約聖書の記述からも明らかです。
使徒言行録や使徒パウロの手紙には、投獄、鞭打ち、石打ち、脅迫などの迫害を受けながらも、「見たこと、聞いたことを語らずにはいられない」(使徒言行録4章20節)と宣言する使徒たちの姿が描かれています。
彼らの命をかけた活動がなければ、キリスト教が世界中に広まることはなかったでしょう。
まとめ
十二使徒は、イエス・キリストが選んだ12人の弟子たちで、キリスト教の基礎を築いた重要な人物たちです。
彼らは漁師、徴税人、政治活動家など、さまざまな背景を持つ普通の人々でしたが、イエスの教えに従い、命をかけて福音を世界に広めました。
新約聖書には4箇所に十二使徒の名前が記されており、各福音書で若干の表記の違いはあるものの、基本的に同じ12人を指しています。
イエスの復活後、使徒たちはローマ帝国の迫害の中で布教活動を行い、ヨハネを除く全員が殉教したと伝えられています(ただし、歴史的証拠が確実なのは一部のみです)。
彼らの献身的な活動により、キリスト教は世界中に広まり、今日まで続く一大宗教となったのです。
参考情報
この記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました。
新約聖書(原典)
- マタイによる福音書10章2-4節 – 十二使徒の名前の記載
- マルコによる福音書3章16-19節 – 十二使徒の選出
- ルカによる福音書6章13-16節 – 十二使徒の名前の記載
- 使徒言行録1章13節 – イエス昇天後の使徒たち
- 使徒言行録12章1-2節 – ヤコブの殉教
日本語資料
- Wikipedia「使徒」 – 十二使徒の概要と定義
- イエスの12弟子・12使徒 | Let’s Bible – 各使徒の詳細な解説
- イエス・キリストの12弟子・使徒はどういう人たちでしたか? | GotQuestions.org – 弟子と使徒の違いの説明
- 【完全版】イエスの12使徒とは? | キートンの”キリスト教講座” – 各使徒の特徴と殉教
英語資料
- Apostles in the New Testament – Wikipedia – 使徒の定義と歴史的背景
- List of the Twelve Apostles: Names & Facts | Britannica – ブリタニカ百科事典による解説
- How Did the Apostles Die? | OverviewBible – 使徒たちの死についての歴史的検証
殉教に関する資料
- How Did All the Apostles Die? | From The Desk – 各使徒の殉教方法の検証
- Did the Apostles Really Die as Martyrs? | Biola Magazine – 殉教の歴史的信憑性の学術的考察


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