真冬の吹雪の夜、空から巨大な影が見下ろしているとしたら、あなたはどう感じますか?
カナダの極寒の地では、そんな恐ろしい存在が昔から語り継がれています。
それは「イタクァ」と呼ばれる、風に乗って空を歩む邪神です。
クトゥルフ神話の中でも特に恐ろしい存在として知られ、人間を空高く連れ去り、宇宙の彼方まで引き回すという、想像を絶する恐怖の神なんです。
この記事では、極北の吹雪を支配する邪神イタクァについて、その恐るべき姿や特徴、背筋が凍るような伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

イタクァは、クトゥルフ神話に登場する旧支配者(きゅうしはいしゃ)の一体です。
旧支配者というのは、人類が生まれるはるか前から地球や宇宙に存在していた、強大な力を持つ神のような存在のことなんです。
イタクァは特に風と氷雪を司る神として知られています。主にカナダの北部やアラスカなどの極寒地帯に出現し、吹雪の夜に現れては人間を連れ去るという恐ろしい存在として恐れられてきました。
多くの異名を持つ神
イタクァには実にたくさんの呼び名があります。
- 風に乗りて歩むもの(かぜにのりてあるくもの)
- ウェンディゴ
- 歩む死(あゆむし)
- 大いなる白き沈黙の神
- トーテムに印とてなき神
これらの名前は、それぞれイタクァの恐ろしい特徴を表しているんですね。
系譜
イタクァの起源には、現実の伝承と創作の両方が関わっています。
現実の伝承:ウェンディゴ
まず、カナダの先住民オジブワ族に伝わる精霊「ウェンディゴ」が元になっています。
ウェンディゴは、人間に取り憑いて共食いをさせるという恐ろしい悪霊として語り継がれてきました。極寒の冬、食料が尽きた時に現れるとされ、飢餓の恐怖を象徴する存在だったんです。
文学作品での発展
1910年、イギリスの作家アルジャーノン・ブラックウッドが、このウェンディゴ伝説を基にした小説を発表しました。この作品では、ウェンディゴを風の精霊として描いています。
その後1933年、アメリカの作家オーガスト・ダーレスが、ブラックウッドの作品をさらに発展させて「イタクァ」という神格を創造しました。ダーレスは、イタクァをクトゥルフ神話の世界観に組み込み、より宇宙的で恐ろしい存在として描いたんです。
ハスターとの関係
イタクァは、別の邪神ハスター(黄衣の王とも呼ばれる)の眷属(けんぞく=従者)とされています。ハスターは風を司る上位の神で、イタクァはその配下として大気や風の力を操るんです。
姿・見た目
イタクァの姿は、まさに悪夢から出てきたような恐ろしいものです。
基本的な外見
- 巨大な人型:見上げるような途方もない巨体
- 人間を戯画化したような顔:恐ろしく歪んだ人間のような顔つき
- 燃えるような赤い目:鮮紅色に輝く2つの巨大な目
- 足には水かき:通常の人間とは異なる奇怪な足
目撃者によって証言は異なり、ある人は「紫の煙と緑の雲のような姿」と表現することもあります。つまり、はっきりとした形を持たない、霊的な存在でもあるんですね。
空に現れる恐怖
イタクァが現れる時、まず空に巨大な影が浮かび上がります。そして、星のように輝く2つの赤い光が、まるで巨大な目のように見下ろしてくるんです。その姿は、人間の理解を超えた恐ろしさを持っています。
特徴
イタクァには、他の神々とは違う独特の能力があります。
主な能力
風に乗って移動する能力
- 吹雪と共に現れ、風を自在に操る
- 地表から成層圏まで一瞬で移動できる
- 星々の間を吹く風に乗って、宇宙空間さえも移動する
人間を連れ去る恐ろしい力
- 気に入った人間を空高く巻き上げる
- 地球外の遠い場所まで連れ回す
- 犠牲者を数ヶ月間も生かしたまま引き回す
犠牲者の運命
イタクァに連れ去られた人の末路は悲惨です。
- 長期間の放浪:数ヶ月にわたって宇宙や異界を連れ回される
- 体質の変化:極寒の環境に体が慣れてしまい、地上の温度に耐えられなくなる
- 奇怪な死:最後は凍った死体となって雪の上に落下する
生き残った者も、暖かい場所では生きられない体になってしまうという、恐ろしい運命が待っているんです。
伝承
イタクァにまつわる物語は、どれも背筋が凍るようなものばかりです。
スティルウォーター村の悲劇
1930年代のカナダで起きたとされる事件があります。
ある村で、村人たちがイタクァに生贄を捧げる儀式を行っていました。しかし、選ばれた娘が逃げ出そうとしたため、怒ったイタクァは村人全員を空に連れ去ってしまったんです。村は一夜にして無人となり、1年後、3人だけが空から落ちてきましたが、全員が凍死してしまいました。
ミスカトニック大学探検隊の遭遇
アメリカの名門大学の探検隊が、カナダのビッグ・ウッド森林地帯でイタクァと遭遇したという記録があります。
隊長のネーデルマン教授は、吹雪の中で巨大な影を目撃。隊員の一人が空に巻き上げられ、その後奇怪な凍死体となって発見されたそうです。
インディアンの崇拝
カナダの先住民の間では、イタクァを恐れると同時に崇拝する部族もいました。
- フィティ・アイランド湖:毎年秋になるとイタクァが現れるとされる聖地
- 生贄の儀式:災いを避けるため、定期的に供物を捧げる
- 崇拝者への恩恵:信者は寒さを感じなくなる能力を得られる
ただし、これらの崇拝は恐怖から来るもので、本当の意味での信仰とは違うんです。
出典
イタクァが登場する主な作品をご紹介します。
原典作品
- 『ウェンディゴ』(1910年)- アルジャーノン・ブラックウッド
元となったウェンディゴ伝説を小説化した作品 - 『風に乗りて歩むもの』(1933年)- オーガスト・ダーレス
イタクァが初めて登場した記念すべき作品 - 『イタカ』(1941年)- オーガスト・ダーレス
イタクァの設定をより詳しく描いた作品
その後の展開
- タイタス・クロウ・サーガ(1970年代)- ブライアン・ラムレイ
イタクァが支配する氷の世界「ボレア」が登場 - クトゥルフの呼び声(TRPG)(1980年代~)
ゲームのボスキャラクターとして登場 - 第五人格(Identity V)(2023年)
ハンターキャラクターとして実装
まとめ
イタクァは、極北の吹雪を支配する恐るべき風の邪神です。
重要なポイント
- カナダ先住民のウェンディゴ伝説が元になっている
- 巨大な人型で、赤く輝く目を持つ
- 風に乗って移動し、人間を宇宙まで連れ去る
- 犠牲者は極寒に適応した体になり、地上では生きられなくなる
- オーガスト・ダーレスが1933年に創造したクトゥルフ神話の神
- ハスターの眷属として、大気と風を司る
イタクァは、人類の原始的な恐怖である「寒さ」「飢え」「孤独」を象徴する存在として、今でも多くの作品に登場し続けています。
もし真冬の吹雪の夜、空から不気味な視線を感じたら…それはイタクァがあなたを見下ろしているのかもしれませんね。


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