雨の降る夜、山から片足でピョンピョン跳ねながら降りてくる不思議な存在を見たことはありませんか?
鹿児島県の徳之島では、古くから「イッシャ」という妖怪の存在が語り継がれてきました。破れた傘をかぶり、ボロボロの服を着た子供のような姿で現れるこの妖怪は、人を化かすこともあれば、漁を手伝ってくれることもある、なんとも不思議な存在なんです。
この記事では、徳之島に伝わる妖怪「イッシャ」について、その独特な姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
イッシャってどんな妖怪なの?

イッシャは、鹿児島県徳之島の母間(ぼま)集落あたりに伝わる妖怪です。
雨の降る夜になると、犬田布岳(いぬたぶだけ)という山から降りてくると信じられてきました。地元の人々にとっては、恐ろしい存在でありながら、うまく付き合えば助けてもらえる、複雑な関係の妖怪だったんですね。
イッシャの外見的特徴
イッシャの姿は、とにかく独特で印象的です。
基本的な見た目:
- 破れた傘(破傘)をかぶっている
- ボロボロの短い服(襤褸・らんる)を着ている
- 子供くらいの大きさ
- トウモロコシの実のような尻尾を持つ
最大の特徴は、片足でピョンピョン跳ねて移動することです。片足を痛めているからこんな歩き方になったという説もありますが、とにかくこの独特な動きがイッシャの目印となっています。
イッシャの行動パターン
イッシャには、人間に対していくつかの決まった行動があります。
出会った時の反応:
- 「お前は誰だ?」「お前は何奴だ?」と尋ねてくる
- 人を山中で迷わせる
- 海辺に連れて行って海水を飲ませる
でも、実はイッシャって結構単純な性格をしているんです。うまく対処すれば、味方にすることもできるという面白い一面があります。
伝承

イッシャとの上手な付き合い方
徳之島の人々は、イッシャと出会った時の対処法を代々伝えてきました。
イッシャを仲間だと思わせる方法:
イッシャに「お前は誰だ?」と聞かれたら、すぐにトウモロコシの茎を自分の股に挟んで、尻尾のように振ってみせるんです。そうすると、イッシャは「こいつは自分の仲間だ!」と勘違いして、悪さをしなくなるそうです。
もしこの対処をしなかったら、山道を迷わされて何日も山の中をさまようことになってしまうといいます。
漁師たちの不思議な助っ人
イッシャの面白いところは、お人好しで利用されやすい性格があることです。
漁でのイッシャの活躍:
うまくおだてて機嫌をとると、イッシャは漁の手伝いをしてくれます。漁師が自慢げに歌を歌うと、イッシャは「ワイド、ワイド」と声を上げながら、とても機嫌よく船を漕いでくれるんです。
その速さは矢のようで、イッシャが手伝ってくれると面白いように大漁になるといわれています。
ただし、ちょっと困った習性が…
イッシャには変わった食べ方の癖があります。獲れた魚の片目だけを食べてしまうんです。だから、イッシャが手伝った漁で獲れた魚は、すべて片目になっているという不思議な特徴があります。
でも、このイッシャが食べ残した魚の目玉を大切に祀(まつ)ると、次も大漁になるという言い伝えもあったそうです。つまり、イッシャは一部では豊漁をもたらす存在として、信仰の対象にもなっていたんですね。
他の地域の妖怪との共通点
実は、イッシャと似た特徴を持つ妖怪が、南西諸島の各地に存在します。
似ている妖怪たち:
- キジムナー(沖縄県):木の精霊で、漁を手伝い、魚の片目を食べる
- ケンムン(奄美大島):同じく漁を手伝い、魚の片目を食べる習性がある
特に「魚の片目だけを食べる」という特徴は、これらの妖怪に共通しています。もしかすると、イッシャ、キジムナー、ケンムンは、地域によって名前が違うだけで、実は同じような存在なのかもしれません。
南西諸島では昔から漁業が盛んだったので、豊漁への願いと、自然への畏れが混ざり合って、こうした妖怪の伝承が生まれたのでしょう。
まとめ

イッシャは、徳之島の人々と独特な関係を築いてきた妖怪です。
重要なポイント
- 犬田布岳から片足でピョンピョン降りてくる
- 破れた傘とボロボロの服を着た子供のような姿
- トウモロコシの茎を振れば仲間だと思わせられる
- うまく扱えば漁を手伝ってくれる心強い味方
- 獲れた魚の片目だけを食べる不思議な習性
- 沖縄のキジムナーや奄美のケンムンと共通点が多い
イッシャの伝承は、自然と共に生きる島の人々の知恵と、海の恵みへの感謝の気持ちが込められた貴重な文化遺産です。
もし徳之島を訪れることがあったら、雨の夜に耳を澄ませてみてください。もしかすると、犬田布岳から片足でピョンピョン跳ねる音が聞こえてくるかもしれませんよ。


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