「蜘蛛の姿をした神様」と聞いて、どんな存在を想像しますか?
ネイティブアメリカンのラコタ族には、イクトミという不思議な精霊が伝わっています。
いたずら好きで、ずる賢くて、でも人々に大切なことを教えてくれる——そんな矛盾だらけの存在なんです。
実はこのイクトミ、日本でも人気のあるゲーム「女神転生」シリーズに登場していたり、あの「ドリームキャッチャー」の起源にも深く関わっていたりします。
この記事では、イクトミの正体から伝説、現代での登場作品まで、わかりやすく紹介していきます。
イクトミってどんな存在?

イクトミ(Iktómi)は、北アメリカのラコタ族やダコタ族、ナコタ族に伝わる蜘蛛の精霊です。
スー族の神話では最も有名なキャラクターの一人で、「トリックスター」と「文化英雄」という2つの顔を持っています。
トリックスターというのは、神話に登場するいたずら者のこと。
北欧神話のロキや、ギリシャ神話のヘルメスなんかが有名ですね。
イクトミも例外ではなく、人を騙したり、自分の欲望のままに行動したりします。
でも面白いのは、そのいたずらが結果的に人々に教訓を与えたり、文化をもたらしたりするところ。
つまり、「困った奴だけど、いないと困る」という、なんとも複雑な立ち位置なんですね。
イクトミの姿と外見
蜘蛛の姿
イクトミの基本形態は蜘蛛です。
ラコタ語で「イクトミ」はそのまま「蜘蛛」を意味します。
丸い体に細長い手足を持ち、卵から成人の姿で生まれてきたとされています。
普通の人間と同じくらいの大きさだったとか。
人間の姿
イクトミはシェイプシフター(変身能力者)でもあるので、人間の姿にもなれます。
人間になったときの特徴がまた独特で、顔に赤・黄・白のペイントを施し、目の周りには黒いリングを描いているそうです。
服装はバックスキン(鹿の革)とアライグマの毛皮。
なんだか派手な見た目ですが、これがトリックスターらしさを表現しているんでしょうね。
頭は黒くツルツルで、日光を浴びると光るという描写もあります。
他の姿にも変身できる
蜘蛛と人間以外にも、鳥や矢など、様々なものに変身できるとされています。
ただし、どんな姿になっても「蜘蛛の巣」のモチーフが暗示されることが多いようです。
名前の意味と起源
「イクトミ」という名前
「イクトミ」はラコタ語で「蜘蛛」を意味します。
部族や言語によって呼び方が少し変わり、以下のような別名もあります。
| 別名 | 使用する部族・言語 |
|---|---|
| インクトミ(Inktomi) | ダコタ語 |
| ウンクトミ(Unktomi) | ダコタ語の別表記 |
| イクト(Ikto) | 短縮形 |
| イクティニケ(Ictinike) | オマハ族・ポンカ族 |
もともとは「知恵の神」だった
驚くことに、イクトミはもともとクサ(Ksa)という名前の知恵の神でした。
ラコタの創世神話によると、クサは原初の雷ワク・インヤン(Wak-Inyan)が産んだ「宇宙の卵」から生まれた存在。
岩の神インヤン(Inyan)の長男とも言われています。
クサは言語、物語、名前、ゲームを発明した偉大な神でした。
なぜトリックスターに堕ちたのか
ところがある日、クサはその知恵を悪用してしまいます。
女神を恥じ入らせ、別の神を悲しませたのです。
これを見た運動の神スカン(Skan)は激怒し、クサにこう宣告しました。
「お前はもう神々の宴に座ることは許されない。友もなく世界を彷徨い、その知恵は自らを罠にかける狡猾さへと変わるだろう」
そしてクサは「イクトミ」という名前を与えられ、トリックスターとして生きることになったのです。
イクトミの性格と能力

善でも悪でもない存在
イクトミを理解する上で最も重要なのは、彼が完全な善人でも悪人でもないということ。
いたずらで人を困らせることもあれば、危険から人々を守る方法を教えることもある。
欲望のままに行動することもあれば、深い知恵を授けることもある。
この二面性こそがトリックスターの特徴であり、イクトミの魅力でもあります。
主な能力
イクトミには以下のような能力があるとされています。
| 能力 | 説明 |
|---|---|
| 変身(シェイプシフト) | 蜘蛛、人間、鳥など様々な姿に変身できる |
| 糸による操作 | 人間を操り人形のように操ることができる |
| 魔法の薬 | 神を変えたり、人を支配したりする薬を作れる |
| 予知能力 | 未来を見通す力(ただし傲慢さで失敗することも) |
| 幻術 | 相手に幻を見せて騙す |
特に「糸で人間を操る」という能力は、蜘蛛らしくてインパクトがありますね。
コヨーテとの関係
イクトミの物語には、よくミカ(Mica)というコヨーテが登場します。
ラコタ語ではコヨーテを「シュンカマニトゥ」と呼び、精霊の犬として神聖視されています。
イクトミとコヨーテは共犯関係にあることが多いのですが、時にはコヨーテがイクトミを出し抜くこともあります。
どちらが上かは物語によってまちまちで、この予測不能さも面白いところです。
イクトミの有名な伝説
ドリームキャッチャーの起源
イクトミが登場する最も有名な伝説は、ドリームキャッチャーの起源譚でしょう。
昔々、ラコタの精霊的指導者が高い山で瞑想していました。
するとイクトミが蜘蛛の姿で現れ、聖なる言葉で語りかけてきたのです。
イクトミは指導者が持っていた柳の輪を取ると、その中に蜘蛛の巣のような網を編み始めました。
そして人生の循環について説きながら、こう言いました。
「見よ、この網は完璧な円だが、中央には穴がある。良い夢は網に捕らえられ、悪い夢は穴を通り抜けて消えていく。これを使って、お前の民が夢やビジョンを活かせるようにせよ」
こうしてドリームキャッチャーはラコタの人々に伝わり、今では世界中で知られるようになりました。
踊るカモたち
イクトミのトリックスターとしての一面がよく表れているのが、「踊るカモ」の話です。
ある日、イクトミは池で泳ぐカモたちを見つけ、食べたくなりました。
そこで彼は草を包んだブランケットを持って近づき、カモたちに言いました。
「最新の歌を作ったんだ。パウワウ(祭り)で歌うつもりさ。みんなこの歌に合わせて踊りたくなるぜ」
興味を持ったカモたちが「歌ってくれ」とせがむと、イクトミは条件を出しました。
「いいけど、踊る間は目を閉じていないとダメだぞ。開けたら目が真っ赤になっちまう」
カモたちが目を閉じて踊り始めると、イクトミは次々とカモの頭を殴って捕まえていきます。
しかし一羽のカモがこっそり目を開けてイクトミの行動を見てしまい、「逃げろ!」と叫んで全員飛び去ってしまいました。
このカモは今でも目が赤いのだとか。
教訓めいた話ですが、イクトミの狡猾さと間抜けさが同居しているのが面白いですね。
追いかけてくる大岩
こちらはイクトミが「やり返される」パターンの話。
ある暑い日、イクトミは大きな岩の陰で休憩することにしました。
日除けとして自分のブランケットを岩にかけてあげたのですが、雨雲が近づいてきたので「やっぱり返してもらおう」とブランケットを取り戻します。
すると岩が怒って、イクトミを追いかけ始めました。
丘に登っても、川に逃げても、岩は追いかけてきて、ついにイクトミの脚に乗り上げてしまいます。
バッファローやヘラジカ、熊まで助けに来ましたが、岩はびくともしません。
最終的にイクトミは嘘をついてコウモリたちを怒らせ、岩を粉々に砕いてもらうことで脱出しました。
現代の登場作品
イクトミは現代のポップカルチャーにも登場しています。
ゲーム
| 作品名 | 登場形態 |
|---|---|
| 真・女神転生IV | 「イクティニケ」として登場(幻魔) |
| 真・女神転生IV FINAL | 同上 |
| デビルサマナー(1995年) | シリーズ初登場 |
| デビルチルドレン | 炎の書・氷の書に登場 |
| デビルサバイバー2 | プレイアブル悪魔として登場 |
| Tharsis(2016年) | 宇宙船の名前として使用 |
女神転生シリーズでは「幻魔」というカテゴリに分類されています。
これは伝説的英雄に与えられる分類で、イクトミの文化英雄としての側面が反映されているようですね。
ドラマ・映画
| 作品名 | 登場形態 |
|---|---|
| アメリカン・ゴッズ(Starz) | シーズン2に登場。「コーン・パレス」という場所で神秘的な植物を提供 |
| スキンズ(2002年) | クリス・エア監督の映画に登場 |
| アンブレイカブル・キミー・シュミット(Netflix) | シーズン3で複数回言及 |
書籍
ラコタ族出身の作家ジトカラ・シャ(Zitkála-Šá)は、1901年に出版した『Old Indian Legends』でイクトミの物語を収録しています。
これは英語で書かれた最も古いイクトミ物語の記録の一つです。
まとめ
イクトミについて、重要なポイントをおさらいしましょう。
- ラコタ族に伝わる蜘蛛の精霊で、トリックスターであり文化英雄
- もともとはクサという知恵の神だったが、知恵を悪用したためイクトミに堕ちた
- 善悪の二面性を持ち、いたずらで人を困らせることも、教訓を与えることもある
- ドリームキャッチャーの起源に関わる伝説が有名
- 女神転生シリーズなど、現代のゲームやドラマにも登場している
イクトミの物語は、単なる「いたずら者の話」ではありません。
知恵と愚かさ、善と悪、破壊と創造——そうした相反するものが一つの存在に同居しているところに、人間の本質が映し出されているのかもしれませんね。


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